【研究概要】
東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授の研究グループは、がん細胞に高発現するムチン型糖蛋白質ポドプラニンに対するがん特異的抗体(CasMab;キャスマブ)を作製することに成功しました。一般的に、がん細胞に高発現する膜蛋白質は正常細胞にも高発現していることが多く、がん細胞だけを攻撃する抗体医薬品を戦略的に作製することが困難な原因となっていました。本研究により、がん細胞と正常細胞の両方に発現している膜蛋白質に対しても、がん細胞だけに反応し、副作用のない抗体医薬品を開発することが可能となりました。
本研究結果は、8月1日午前10時(日本時間同日午後6時)英科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)に掲載されます。
【研究内容】
ムチン型糖蛋白質のポドプラニン(Podoplanin)(注1)は、肺がん、食道がん、悪性中皮腫、悪性脳腫瘍、卵巣がんなどの複数の難治性がんに高発現しているため、抗体医薬(注2)の格好の標的となります。しかし、ポドプラニンはリンパ管内皮細胞、肺胞上皮細胞、皮膚基底細胞、腎上皮細胞などにも高発現しているため、これまでは正常細胞を攻撃することによる副作用が懸念され、ポドプラニンを標的とした抗体医薬品の開発は断念されていました。その結果、ポドプラニンのようながん細胞高発現蛋白質は数多くあるにも関わらず、候補分子から外れるという状態が続いていました。
そこで加藤教授らは、がん細胞と正常細胞に同じ糖蛋白質が発現している場合、蛋白質に付加された糖鎖(注3)の種類の違いや糖鎖の付加位置の違いに着目し、その差を見分ける抗体を戦略的に樹立する方法を立ち上げ、CasMab(キャスマブ)法(注4)と命名しました(図1)。
CasMabは、ペプチドと糖鎖の両方を同時に認識する、全く新しい概念の抗体です。ポドプラニンに対してCasMabを作製したところ、ポドプラニンを発現するがん細胞に強い反応性を示しましたが、ポドプラニンを発現する正常細胞には全く反応しませんでした(図2)。このことから、ポドプラニンに対するCasMabは、副作用を心配することなく抗体医薬として開発を進めることができると考えられます。このCasMab法を用いることにより、これまで開発が断念されていた複数の糖蛋白質に対して、副作用のない抗体医薬を開発することが期待されます。
本研究の一部は、文部科学省創薬等支援技術基盤プラットフォーム、文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラム、文部科学省科学研究費補助金によってサポートされました。
【用語説明】
注1.ポドプラニン:
別名Aggrus(アグラス)とも呼ばれ、血小板凝集因子として同定された。あらゆるがん細胞に発現しており、がんの悪性化に関わっている。一方で、肺、腎、リンパ管、皮膚などの正常組織にも多く発現していることが知られている。
注2.抗体医薬:
抗体とは、リンパ球のうち、B細胞が産生する蛋白質で、特定の分子(抗原)を認識して結合する。血液中や体液中に存在し、細菌やウイルスなどの微生物に結合すると、白血球による貪食が起こる。またがん細胞に結合しがん細胞を殺す働きもあり、多くの抗体医薬品が臨床で使用されている。
注3.糖鎖:
様々な糖がグリコシド結合によってつながりあった一群の化合物のこと。特に細胞膜に発現している蛋白質のほとんどには、特定の糖鎖が付加されており、細胞接着やウイルス感染など、細胞のコミュニケーションに重要な役割を果たしている。
注4.CasMab(キャスマブ):
Cancer-specificmonoclonal antibody(がん特異的抗体)の略。
詳細(プレスリリース本文)
東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授の研究グループは、がん細胞に高発現するムチン型糖蛋白質ポドプラニンに対するがん特異的抗体(CasMab;キャスマブ)を作製することに成功しました。一般的に、がん細胞に高発現する膜蛋白質は正常細胞にも高発現していることが多く、がん細胞だけを攻撃する抗体医薬品を戦略的に作製することが困難な原因となっていました。本研究により、がん細胞と正常細胞の両方に発現している膜蛋白質に対しても、がん細胞だけに反応し、副作用のない抗体医薬品を開発することが可能となりました。
本研究結果は、8月1日午前10時(日本時間同日午後6時)英科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)に掲載されます。
【研究内容】
ムチン型糖蛋白質のポドプラニン(Podoplanin)(注1)は、肺がん、食道がん、悪性中皮腫、悪性脳腫瘍、卵巣がんなどの複数の難治性がんに高発現しているため、抗体医薬(注2)の格好の標的となります。しかし、ポドプラニンはリンパ管内皮細胞、肺胞上皮細胞、皮膚基底細胞、腎上皮細胞などにも高発現しているため、これまでは正常細胞を攻撃することによる副作用が懸念され、ポドプラニンを標的とした抗体医薬品の開発は断念されていました。その結果、ポドプラニンのようながん細胞高発現蛋白質は数多くあるにも関わらず、候補分子から外れるという状態が続いていました。
そこで加藤教授らは、がん細胞と正常細胞に同じ糖蛋白質が発現している場合、蛋白質に付加された糖鎖(注3)の種類の違いや糖鎖の付加位置の違いに着目し、その差を見分ける抗体を戦略的に樹立する方法を立ち上げ、CasMab(キャスマブ)法(注4)と命名しました(図1)。
CasMabは、ペプチドと糖鎖の両方を同時に認識する、全く新しい概念の抗体です。ポドプラニンに対してCasMabを作製したところ、ポドプラニンを発現するがん細胞に強い反応性を示しましたが、ポドプラニンを発現する正常細胞には全く反応しませんでした(図2)。このことから、ポドプラニンに対するCasMabは、副作用を心配することなく抗体医薬として開発を進めることができると考えられます。このCasMab法を用いることにより、これまで開発が断念されていた複数の糖蛋白質に対して、副作用のない抗体医薬を開発することが期待されます。
本研究の一部は、文部科学省創薬等支援技術基盤プラットフォーム、文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラム、文部科学省科学研究費補助金によってサポートされました。
【用語説明】
注1.ポドプラニン:
別名Aggrus(アグラス)とも呼ばれ、血小板凝集因子として同定された。あらゆるがん細胞に発現しており、がんの悪性化に関わっている。一方で、肺、腎、リンパ管、皮膚などの正常組織にも多く発現していることが知られている。
注2.抗体医薬:
抗体とは、リンパ球のうち、B細胞が産生する蛋白質で、特定の分子(抗原)を認識して結合する。血液中や体液中に存在し、細菌やウイルスなどの微生物に結合すると、白血球による貪食が起こる。またがん細胞に結合しがん細胞を殺す働きもあり、多くの抗体医薬品が臨床で使用されている。
注3.糖鎖:
様々な糖がグリコシド結合によってつながりあった一群の化合物のこと。特に細胞膜に発現している蛋白質のほとんどには、特定の糖鎖が付加されており、細胞接着やウイルス感染など、細胞のコミュニケーションに重要な役割を果たしている。
注4.CasMab(キャスマブ):
Cancer-specificmonoclonal antibody(がん特異的抗体)の略。
詳細(プレスリリース本文)