Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

アーサー・クラーク『幼年期の終り』

2008-12-22 00:57:41 | 文学
ぼくはSFは苦手で読まないのですが、今年亡くなったアーサー・クラークは評判が高いですし、新海誠も学生時代に彼の本を愛読していたという話ですし、SFの代表的なものくらい読んでおいた方がいいだろうと思って、手に取りました。『幼年期の終り』は作者の最高傑作との呼び声も高く、SF史上屈指の名作ということなので、これが一番いいだろうと思ったんですね。ちなみにぼくの読んだのは新訳ではなく、ハヤカワ文庫版です。

で、感想なのですが、う~ん、世界観は壮大で、後半には様々な奇観が登場し、プロットも巧みでそれなりに楽しめたのですが、傑作かと聞かれれば、答えを渋ってしまいます。ぼくはSFの知識は皆無で、他のSFと比べられないので、この作品の世界観が奇抜であるのか凡庸であるのかの判断すらつかないのですが、何か突破力に欠けるような印象が残りました。突破力というのはだいぶ抽象的な表現ですが、爆発的な何か、突き抜けるような快楽が不足していたような、そんな気がします。

人類の目的、存在意義といったものが問われるこの作品では、テーマが深淵でSFの枠組みを超越している、といったような評価があるようですが、でも深遠なテーマだったら他の文学ジャンルには腐るほどあるわけで、この小説を称揚する理由にはなりません。その描き方が他よりも長けている、ということは言えるかもしれませんが。突如宇宙から飛来したオーバーロードたちが人類を統治する真の目的が最後まで秘匿され、それが小説の牽引力になっているのは確かで、しかもその目的が人類の存在そのものに関わってくる展開は、お見事です。更に言えば、人類とオーバーロードとを対比させ、進化する可能性のない一方に悲哀を、次の世代にラディカルな進化を託し自らは最後の世代となる一方に終末を用意する手練も、この作品がポエティックと呼ばれる由縁でしょう。

しかし、これらの長所がありながら、どうもぼくはそんなに楽しめなかったです。ペンで書かれた風景描写からSF的な風景を表象することがぼくにはできなかったのか、その風景描写がたとえ図像を結んだとしても、実際にこの目で見るような感銘を受けなったのか、はっきりとは言えませんが、そういうところにも問題があるのかもしれません。SF的な景色は嫌いではないのです。アニメなどで見る分には差し支えないので。ただ、文章で読むと、どういうわけか嘘臭く感じてしまうのです。色々と科学的な説明で裏付けられた未来装置には特に違和感があります。

『幼年期の終り』は、SFが苦手なぼくにとっても楽しめる箇所が幾つもあり、また全体を通して抵抗感も少なかったのですが、どうもその、単純に言えばそれほど好みではないですね…。存在の悲哀とか、遼遠な世界観とか、分かるのですが、いまいち胸に迫ってこなかったというのが本当のところです。なかなか優れた小説であることは認めますが、ぼくにとっては傑作ではないかな。

それと、昔から思っていたのですが、SFが好きな人というのは、たぶん好奇心旺盛で想像力の豊かな人なんだろうな。