今日は2月9日、午前10時。このホームページを立ち上げて、今日までで、こんな嬉しい日はない。
たった今、発信者の登録名のない電話が携帯にかかってきた。第一声は、「お陰様で支援が出来ました。」何のことか、誰からの電話なのか、この頃反応の鈍い私の脳細胞は、理解するのに時間がかかった。
要約するとこうだ。私のホームページの彼のインタビュー内容を、関係者が聞いて、新支援法の該当者になるのではないかと再調査をしてくれて、支援金を受け取れるようになったという喜びの報告であった。
思いもよらぬ報告で、こんな形で役に立てたことが本当に嬉しい。実はこれまで、たくさんの方にインタビューしてきて、1番気になっていたことが、新支援法が出来ても、そこから漏れている帰国者の事だった。
すぐに思い出す二人の事例を紹介しよう。
その方は、ご本人に新支援法の受給の有無を聞いても、「何のこと?」といった反応であった。彼は1972年の日中国交回復直前に親戚の援助で帰って来ている。新支援法の(資産)調査を受けたかどうか尋ねると、嫌そうな顔をして、「生活保護は受けない。国民年金でなんとか暮らしていける。」と、頑なだった。生活保護と支援金は違うという事の説明はしたが、帰国当初に生活保護でよほど嫌な思いをしたのか、「家もあるし、夫婦二人の葬式費用も貯金している。今のままで何とかなる。」という返事だった。しかし、彼が受給している年金の額は、生活保護世帯の基準額よりかなり少ない。
またある方は、夫婦二人で暮らしていたが、親思いの息子のひとりが心配して、中古の家を買い、一緒に住むようになった。そのため、新支援法が出来ても、何の恩恵も受けていない。「近所に住む同じ帰国者は医療費が無料なのに、私たちは夫婦合わせてもわずかな年金で、医療費も高く、結局、息子の世話になりながら、暮らしている。息子だって、結婚して家庭を作らなければならないのに、私たちが足かせになっている。」というような話でした。インタビューの中で、世帯分離の事を話しましたが、その後どうなったか、ずっと気にかかっている。
地元の人々が長い年月をかけて帰国者を支援してきて、その中で築かれた信頼関係はとても貴重なものです。私の不用意な言動で、それを壊すようなことがあってはならないと常々思っている。だから、めったに介入するようなことはしないと決めている。支援者の協力があって、私は取材が出来るのだ。だが、この件に関しては、世帯分離の方法を考えていただいてもいいのではないかと、インタビューの後で、支援者の方にメールを出した記憶がある。心からの支援に携わっていらっしゃる方々なので、きっといい方向に動いたのではないかと、想像している。
新支援法では、「子と同居している中国残留邦人については、子と同居していることを理由に給付金の支給が受けられないことがないようにする。」とありますが、多くの担当者は、「生活保護を準用」という原則に則って、世帯分離を法の網目の「逃げ道」のように誤解している節がある。東京都では常識でも、まだまだ地方では、担当者にさえ周知されていないことが多い。このようなケースでは、堂々と世帯分離を推し進めていただきたいと思っている。
また、資産調査も多くの方々の支援金受給を立ち止まらせている。生活保護受給時のトラウマが今も根強く残っているのだ。それはケースワーカーから浴びせられた言葉よりも、親戚から浴びせられた言葉によってである方が多いように思う。昔は、親戚が帰国者を援助できない理由書を、福祉事務所に提出しなくてはならなかった。「生活保護は受けないという約束で、身元引受人になってやったのに」などと、言われたようだ。
彼らのこれまでのライフヒストリーを聞いていただければわかる通り、満洲で孤児となって取り残され、日本に帰る手段などなく、中国の大地に育てられて成人したのだ。ほとんどの方が、日中国交回復まで日本に帰れなかったのだ。(そしてほとんどの方が、日本に帰国するまで、白米を食べる事が出来なかった。コーリャンやヒエ、粟が主食で、正月にだけ、肉の入った餃子が食べられたという人が多い。食いしん坊の私は、この事をほとんど全員に聞いている。白米を毎日食べられた人はほんの僅かしかいない。)
それは彼らの意志ではない。この事実だけを考えても、孤児全員に何の制約もつけず、支援金を支給すべきではないかと思う。
大雑把に考えても、おふたりのように、現在支援金を受けていない方(世帯収入超過、預貯金超過、新築のローン資産算定、生活保護のトラウマ等)は、全国で50人にも満たないのではないかと思う。これは、なんの根拠もなく、ただ、直接取材した人の中に5人いたということから、まったくの私の勘によるもので、もっと本音を言えば全国に30人にも満たないのではないかとさえ思っている。国にとっては大した金額でなくても、財政引き締めを図っている地方自治体にとっては、大きな金額であるかもしれない。そのために、支援金支給抑制が働くことがあってはならない。だからこそ、いろいろな制約を取っ払って、持ち家のローンが(資産として)あろうと預貯金が500万円以上あろうと、世帯収入が386万円を超えていようと、帰国者全員に支援金を支給できるように支援法を改正すべきではないかと思っている。