Q: 認知症の大多数90%以上を占める「アルツハイマー型認知症」は、「脳の働き自体」が廃用性の機能低下により衰えてきた結果として、その「機能レベル」が「症状」として直接発現してくる(「脳の機能レベル」(原因)と「症状」(結果)との間に直接の因果関係がある)ものという考え方が提案されています。この説は、脳の「働き具合」が、或る一定のレベル以下の段階になってくると、「その働き具合そのものが、アルツハイマー型認知症の症状として出てくる」という考え方を提起しているのです。東日本大震災の被災地の高齢者が大量に「アルツハイマー型認知症」を発病したり、症状が急激に進行していること等から、この説が最近注目されるようになってきていると聞きます。「脳の衰え方の特徴とそのメカニズム」について、私達素人にもわかるように、概要を説明して欲しいのですが。
衰えると知りつつも、惰眠をむさぼる今日の我が身かな
趣味なく交遊なく、生き甲斐も目標もなし
A: (撰 「蚊仙連歌集」より) 認知症の大多数、90%以上を占める「アルツハイマー型認知症」は、日常の生活で何かの「テーマ」を実行しようとするとき、脳がちゃんと働かない(正常レベルで機能しない)ことがそのまま、認知症の「症状」として出てくるのです。脳の働き具合(脳の機能レベル)のアウトプットそれ自体が、認知症の「症状」となって発現しているので、三段階に区分される「脳の機能レベル」の衰えの進行に付随して、その機能レベルの衰えに合致した三段階に区分される「症状」が発現してくるのです。(ここを「クリック」してください)
ここで、最初に理解して欲しいのは、私たちが意識的に何かの「テーマ」を実行するときの、「脳の働き方」の仕組みです。脳の働き方の仕組みは、「脳が壊れた人」をたくさん調べると、その概要が分かります。脳は場所によって働きが異なり、「機能の分担をしている」ことが分かるのです。
「運動の脳」の左の部分が壊れると、右半身麻痺になり、右の部分が壊れると、左半身麻痺になります。「運動の脳」が、身体を動かしているのです。
「左脳」が壊れると、言葉が出てこなくなり、計算が出来なくなり、論理を操れなくなります。「左脳」は言葉の脳とも言われ、言葉や計算や論理や場合分け等、(デジタル情報の処理)を担当しているのです。
「右脳」が壊れると、色や形や音や空間や感情等の認知が難しくなります。「右脳」は感性の脳とも言われ、色や形や音や空間の認知や感情等(アナログ情報の処理)を担当しているのです。
額のところにある「前頭葉」(前頭前野のことを言うものとする。以下、同じ)は、脳の最高次の機能です。運動の脳、左脳、右脳を統括し、「脳全体の司令塔の役割」をしています。
「左脳」が「デジタルな情報の処理」を実行するときも、「右脳」が「アナログな情報の処理」を実行するときも、「運動の脳」が「身体を動かす」ときも、三頭立ての馬車(左脳、右脳、運動の脳の三頭の馬)の御者の役割をしている「前頭葉」の指示なしには、勝手には働かない仕組みになっているのです。三頭の馬のどれかが働くときには、必ず「前頭葉」からの指示があるのです。言い換えると、「前頭葉」自体(三頭の馬を主導しつつ、同時に協働して)働くというのが、「意識的な行為」下で人間の脳が働くときのメカニズムなのです。
ところで、脳の司令塔の役割を担う「前頭葉」にはいろいろな機能があります。その「諸機能」とは、発想、創意、企画、構成、計画、観察、分析、理解、把握、考察、洞察、推理、予見、シミュレーション、抑制、忍耐、工夫、修正、整理、機転、興味、創造、感動、判断及び決断等の認知機能(A)、色々な認知機能を発揮する上での「機能発揮度」の基礎となる「三本柱」の「意欲」、「注意集中」及び「注意分配」の機能(B)並びに最終的な実行内容を選択し決定する上で不可欠な機能である「評価の物差し」としての評価の機能(C)などです。
「脳を使う」ということは、私たちが意識的に何かの「テーマ」を実行することを意味します。意識的に何かの「テーマ」を実行する際の「脳の機能レベル」(働き具合)を考えるには、「前頭葉」の(A)、(B)及び(C)の機能が常に協同し、「左脳」、「右脳」及び「運動の脳」をコントロールしながら、働いていることに注意を向ける必要があります。脳の機能レベルが「症状」として発現してくる程度或いは態様は、(Bに下支えられたA及びCの働き具合)としての「前頭葉」の各認知機能と「高次機能」の各々との協働による「相乗効果」としての機能レベルに起因しているものだからです。「脳の機能レベル」が正常であれば、そのアウトプットは適切或いは的確な「言動」となり、「脳の機能レベル」が異常であれば、そのアウトプットは不適切或いは異常な「言動」(すなわち、症状)となるのです。
「前頭葉」の三本柱である意欲、注意の集中と注意の分配の機能(B)と前頭葉の各認知機能(A)との関わり方について、ここで分かりやすい例を挙げて説明しましょう。自分が好きで興味が湧くとか、自分が重要だと考えるような「テーマ」であれば、(B)の機能の発揮度が高くなり、結果として(A)の機能の発揮度が高くなるという関係にあるのです。
[ケース1] 18歳になる勉強嫌いの「ヒロシ」は、国語と数学が大の苦手です。ところが、オートバイにのりたくてしょうがないので、食事のことも時間の経つのも忘れて必死で勉強して、免許を取ったのです。食事のことも時間の経つのも忘れて必死で勉強していた時間を、脳の機能面から分析すると、前頭葉の「三本柱」のうちの「意欲」と「注意の集中力」と「注意の分配力」とが最大限に働いて、テキストに書いてある内容の「理解」と「整理」と「記憶」の能力を最大限に発揮させていたと言うことなのです。「前頭葉」の機能である(A)及び(C)の各々の機能を発揮する上で、その発揮度(発揮される機能レベル)自体が、そもそも「三本柱」の機能(B)の機能レベル(働き具合)に左右される関係にある(下支えられるという二重構造「層構造」のメカニズムになっている)ということなのです。
[ケース2] 例えば、大事なお友達を家にお呼びして、手料理でもてなす場合(テーマの発想)を考えてみてください。もてなす内容やもてなし方をあれこれ考えるとき(食事内容の計画)に、少しでも喜んでもらえるようなものにしよう(工夫)と「意欲」が湧いてくるでしょう。食事や食後の飲み物等どのようなものにするかを考えるとき(シミュレーション)にも、「注意の集中力」が注がれるでしょう。もてなしている最中にも、話の流れや相手の表情や態度などに気配り(観察、理解、機転)して、「注意の分配力」がよく働くと思いませんか。
「三本柱」の機能が正常レベルであれば上述したような行動がとれるし、逆に、機能が異常なレベルであれば何も対応できなくなるのです。そうした「前頭葉」を含む脳の機能が、正常レベルで働かなくなって、「社会生活」や「家庭生活」や「セルフケア」に段階的に支障が出てくるようになるのが「アルツハイマー型認知症」なのです。
上記の流れが理解されたところで、私たちがもう1つの問題を提起するのは、(A)及び(C)の機能レベル(「認知機能の発揮度」、言い換えると「認知度」)を左右する「意欲」、「注意集中力」及び「注意分配力」の三本柱の機能には、加齢とともに働きが衰えていくという性質があるということなのです。正常な老化の場合でも、高齢者と呼ばれる年代の65歳頃になると誰でも、その働き具合が20歳の頃に比べて半分程度にまで衰えていくのです(加齢による三本柱の「正常老化」)。そして、加齢による前頭葉の三本柱の「正常老化」のカーブは、下図に示す通り、70歳代、80歳代、90歳代と年をとるにつれて、直線的ではあるが緩やかに「低空飛行」の状態に入っていくのが特徴なのです。
「三本柱」の機能(B)が加齢により衰えていくことは、とりもなおさず、前頭葉の(A)や(C)の機能の発揮度自体も加齢と共に低下していくということを意味することになるのです。前頭葉の(A)や(C)の機能の発揮度は、「三本柱」の機能に下支えされる「二重構造/層構造」のメカニズムになっているからです。「アルツハイマー型認知症」発病のメカニズムを理解するには、まず、この問題を理解しておくことが不可欠となるのです。世間では、アルツハイマー型認知症発病の原因は未だに分からないとされています。高齢者と呼ばれる年代の60代になってからアルツハイマー型認知症を発病するお年寄りが現れるようになり、70代80代90代と年をとるにつれて、このタイプの認知症を発病するお年寄りの割合が大幅に増えていく理由がここに示されているのです(「第一の要件」)。
参考までに、「三本柱の機能」が、加齢とともに老化していくデータを下図に示しておきます。
○ 前頭葉の「三本柱」の「正常老化」による老化のカーブ
私達が意識的に何らかの「テーマ」を実行しようとするとき、最高次機能の「前頭葉」は、「左脳」、「右脳」、「運動の脳」の各部と協働し、且つそれらを主導しながら:
○自分のおかれている状況を判断し(「状況の判断」);
○目的となるテーマとその内容を構想、企画し(「テーマと内容の構想」);
○テーマ内容を実行する手順を計画し(「実行手順の計画」);
○実行結果をシミュレーションし(「実行結果の予測」);
○結果の予測に基づく必要な修正を施し(「テーマとその内容の修正」);
○構想から実行に至る全体の構成を保持し(「構成の保持」);
○結果に向けた実行を決断し(「決断」);
○脳の各部に、実行の指令を出す(「指令」);
という一連の作業を「同時並行」して、且つ「重層的」に行います。
意識的に何かの「テーマ」を実行するときの「前頭葉の機能レベル」は、「三本柱の機能(B)、前頭葉の各認知機能(A)及び評価の物差しとしての「評価機能」(C)のそれぞれが、加齢に伴う「正常老化による機能低下」と使われる機会が極端に少ないことに伴う「廃用性の機能低下」との相乗効果による、総合体としての或る一定の「機能レベル」を構成し、「三段階」に区分されるのです。その「機能レベル」の直接のアウトプットが「アルツハイマー型認知症」の「症状」として、発現してきているのです。
「正常な老化」の過程とはいえ、「加齢」による老化により「前頭葉」の機能が低空飛行状態に入ってきている60歳を超えた高齢者と呼ばれる年代の「お年寄り」(「第一の要件」の充足)が、何かを「キッカケ」にして、生き甲斐や目標もなく、趣味や遊びや人付きあいもなく、運動もしない、ナイナイ尽くしの「単調な生活」を日々続けていると(「第二の要件」の充足)、出番が少ないために使われることが極端に減った「前頭葉」が廃用性の機能低下(使われる機会が極端に少ないことにより、機能が衰えて行くこと)を起こしてきて、第一の要件と第二の要件とが重なり合うことの相乗効果により、「前頭葉」の機能の老化が加速されていくのです。老化が加速されて衰えた機能のアウトプットが、「症状」となって発現してくるということなのです。つまり、「前頭葉」の働きが加速度的に衰えていくその先に、「アルツハイマー型認知症」(晩発型アルツハイマー病)の発病が待っているということなのです。(注)第一の要件と第二の要件との相乗効果により廃用性の機能低下が進むときは、下図に示す通り、直線的ではなくて放物線を描いて「加速度的」に脳の機能が衰えていくのが、「アルツハイマー型認知症」の特徴なのです。
その場合に、最高次機能の「前頭葉」が最初に異常なレベルに衰えていき、次いで、高次機能の左脳や右脳が異常なレベルに衰えていきます。ここで、(N-16) (N-18) (N-20)をクリックして読み返してみてください。更には、「アルツハイマー型認知症」の場合には、「左脳および右脳」の機能の衰え方にも規則性がある(「衰えていく順番がある」)ことが重要な特徴です。前頭葉と左脳および右脳の機能のそれぞれの衰え方が、他の種類の認知症あるいは認知症と紛らわしい病気(側頭葉性健忘症、感覚性失語症、一過性全健忘、老年期うつ病、緩徐進行性失行など)との鑑別の上で、極めて重要且つ客観的な指標としての役割を果たしてくれるのです。
(kinukototadaoからの説明) 生き甲斐や目標もなく、趣味や遊びや人付きあいもなく、運動もしない、ナイナイ尽くしの「単調な生活」を送っていると言うことは、脳の機能面から言うと、前頭葉の機能の中でも最も基本的で不可欠な機能であり、「認知度」を左右する働きをしている「三本柱」の出番が極端に減る生活を送っているということになるのです。言い換えると、もともと加齢により機能が衰えていく性質を持っている三本柱の働きが、ナイナイ尽くしの「単調な生活」を送っている中で、脚の筋肉と同じように、「廃用性の加速度的な機能低下」を起こしてくるのです。
(注)前頭葉の機能だけが異常レベルであって、左脳も右脳も機能が未だ正常レベルである「小ボケ」(指示待ち人)の段階で発現してくる「小ボケ」の症状は、この三本柱の機能低下のアウト・プットそのものなのです。「アルツハイマー型認知症」の初期症状である「小ボケ」の症状は、ここ(N-17)をクリックして読み返してみてください。
「小ボケ」の症状から例示して説明してみましょう。「意欲」が異常なレベルに衰えてきた結果としての症状が、(何事をするにも億劫で面倒がり、何かをやってみようという意欲が見られない)であり;「注意の集中力」が異常なレベルに衰えてきた結果としての症状が、(根気が続かず、中途半端なことを繰り返し、やりかけの家事が目立つ)であり;「注意の分配力」が異常なレベルに衰えてきた結果としての症状が(複数のことに注意が分配できなくて、3つの用事が同時にさばけない)なのです。
世間で全ての専門家たちから原因不明と言われている「アルツハイマー型認知症」は、上述したように、「加齢とともに脳の老化が進む」という(「第一の要件」)と「ナイナイ尽くしの単調な生活の継続」という(「第二の要件」)の二つの条件ガ充足される時その「相乗効果」によって、廃用性の加速度的な機能低下(脳の老化が更に「加速」されること)により、発病してくるというのが私たちの見解です。その根拠となるデータについては、(N-34)で詳しく報告してあります。
このメカニズムのもとでは、「第一の要件」は誰しも共通であって、「第二の要件」こそが「アルツハイマー型認知症」を発病するかしないかを決定づける条件となります。言い換えると、認知症の大多数90%以上を占める「アルツハイマー型認知症」は、ナイナイ尽くしの「単調な生活」の継続という、第二の人生での「生活習慣」(日々の脳の使い方)と不可分の関係がある病気なのです。「原因も分からないし治せない病気」と言われて放置されたままになっている「アルツハイマー型認知症」という病気は、廃用症候群に属する「生活習慣病」であるというのが私たちの見解です。
(注)ナイナイ尽くしの単調な生活とは、目標や喜びや生き甲斐もない生活、趣味や遊びや人付き合いもなく運動もしない生活のこと。
(注)キッカケの発生により、喜びや生きがいが得られる源になっていた生活を継続していけなくなります。その結果、ナイナイ尽くしの「単調な生活」が始まるのです。単調な生活に変化すると、いろんなことを発想して計画を立てたり、やりかたを工夫してみたり、結果を見通して修正したりするのに不可欠の前頭葉の「三本柱」が次第に機能しなくなっていくのです。「前頭葉」の機能が異常なレベルに衰えて行くにつれて、喜びを感じたり、なにかに感動することもなくなっていくのです。毎日の脳の使い方(生活習慣)が大きく変化して、脳の司令塔としての「前頭葉」の出番が極端に少なくなり、機能が加速度的に衰えて行くのです。
注)本著作物(このブログA-63に記載され表現された内容)に係る著作権は、(有)エイジングライフ研究所に帰属しています。
エイジングライフ研究所のHP(ここをクリックしてください)
http://blog.goo.ne.jp/kuru0214/e/95c2a476097fda6da8f4056b0d03e5ad
脳機能からみた認知症の初期の見わけ方(IEでないとうまく表示されません)