3つ目のトンネル、長尾山第一トンネルの入り口には、「事故の責任はもたない」とJR西の立て看板。
おいおい、脅しに近いよねと思いながら暗闇に入っていきます。振り返るとすれ違った夫婦がトンネルを出たところで靴の紐の結びなおしています。
このトンネルを出ると武庫川を橋で渡って、すぐ次のトンネルに入ることになります。トンネルの出口に枕木で作ったベンチが見えます。トンネル内に作るのは雨除けのためでしょう。突然の雨に降られたら、このベンチはとても役立つ。こういう細やかな整備をしてくださる方々があって、私たちは快適に歩けるのでしょう。トンネルを出たらまだ新しいフェンスが作ってあって、線路跡から出られないようにしてある。細やかです。
この辺りは、川の岩も魅力的で、下りてみたくなりそうですもん。また保線夫が歩くための橋が撤去されずにあります。これを渡りたがる人がきっといますもんね。その橋、第二武庫川橋梁、その少し錆びたかと思われるような色合いのトラスと新緑とのコントラストが美しい。そのころから武庫川の岩が大きくなってきて、タモリさんが出てきそうな(「ブラタモリ」ですよ)、川の景色になります。ナントカ岩というのでしょうが、そのナントカが私にはわかりません。しばらく気分だけブラタモリで歩きます。
廃線跡を囲む山の新緑が美しい。そしてところどころに山桜と思えるピンクが見える。また、岩肌が見えるところもあって、奇岩というんでしょうね。退屈しません。ウグイスが鳴いています。橋の次はまたトンネル、溝滝尾トンネル。
桜が散った後のこの時期は虫に気をつけましょう。毛虫や尺取り虫が苦手という人はこの時期は避けるほうがいいと思います。溝滝尾トンネルを出たところで、5人程で歩くグループの一人の男性の背中から真っ黒の毛虫を取ってあげました。「命の恩人です」とお礼を言われて少し照れました。この場所には、なぜか枕木がたくさん積んであります。35年以上前から積んであったとも考えにくく、レールすらない廃線跡に枕木をわざわざ持ってくる必要もないでしょう。それに、レールもない遊歩道。クルマも入れないのにどうやって運んでくる?と不思議に思っていたら、どなたかのブログで、2004年の水害で長尾山第一トンネル内の枕木がすべて流されたと書かれていました。列車が走っていた頃の線路際の柵もあり、流されたとはいえ廃線跡から流出しなかった枕木を積んだのかなと思いました。枕木には苔が生え、その上に椿の花が落ちています。
続いて、北山第二トンネルに入ります。このトンネルは本当に暗い。これまでのトンネルは出口の光が見えていたり、暗い中にもたどる方向が分かったりしたものですが、このトンネルは本当の闇でした。長さ413mだそうで6つのトンネルの中で一番長い。前も後ろも真っ暗。トンネルの中で慌てて懐中電灯を取り出し使うことになりました。よほど、同行者が多ければ別ですが、ここだけは懐中電灯必須です。各トンネルの入り口には「トンネル内照明なし」と案内板を付けてくれているのですが、北山第二トンネルだけは決して嘘ではありません。出口には蔦のようなものが下がっていて、見上げると躑躅が咲いていました。
線路跡は片方が山、片方が川ですから、ほぼすべてに現役時代の柵が作られています。柵のないところは、後からフェンスが作られていて、考えてみると線路跡から抜け出せるところはほぼありません。入ったら、最後まで歩くしかない。手摺も列車通行時の避難用の場所も残されたまま。しかも、トイレも自販機もない。これって酷なハイキングコースです。そんなとき目に入ったのが「危険・転落注意」の看板。文字は剥げかかり、余計に恐怖を感じます。「R300 60」の標識。半径300mのコーナー、制限速度60kmということでしょう。列車が走らなくなって40年近くたってもまだ朽ちずにある標識。
ダンジ!脇にスカンポが見えます。私の田舎ではダンジと呼んでいました。今は食べたいとも思わないけれど、子どもの頃はダンジを採って川をむき、砂糖をつけて食べていたことを思い出しました。頂の岩山と若葉が美しい。
(つづく)
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