井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室
井上ひさしほか 著
文学の蔵 編
新潮文庫
「文章読本」というタイトルのついた本はたくさんあります。たぶん世の中に今よりもっと上手に文章を書きたいという人たちがたくさんあるという証拠でしょう。
私たちは職業柄、生徒の文にアドバイスをする機会がたくさんあります。生徒は半分泣きながら助けを求めにやってくるわけですが、そういう私たちだって満足できる文を書けないという実感をもっています。少なくとも自分の文に自信をもてる人はそうざらにはいない、はずです。
「いちばん大事なことは、自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書くということ。」井上が岩手県一関市で141人の受講生(大人)を対象に三日間おこなった作文教室の冒頭でこういいます。なんとあっさりした明確な指摘。そして「『読み手』のことを考えることが、実は『だれにでもわかるように書く』ことなんですね」「書いたから終わったわけではない。読み手の胸に届いたときに、自分の書いた文章は目的を達成し、そこで文章は終わるわけです。」と続けます。目からウロコの有難い作文指南書です。
井上の講義と参加者作品の添削、質疑応答で構成されており、井上の作文教室もまた井上「にしか語れない」ことを「だれにでもわかる」言葉で話しています。これを読んだらきっとあなたも作文を書きたくなるはず。
もちろん「作文を上手になりたい」という気持ちを抜きにして、言葉に関する読み物としても十分に楽しめる一冊です。
2004年3月
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