兎は草食動物で多産系。家兎と異なり耳は小さめで色は薄い茶色をしている。
音には敏感で気配は全て耳から吸収しているように見える。兎は鮎のように縄張
りを持っており大体、一山か二山位の広さの中に1羽いる。縄張り内の兎を捕ると
すぐに新しい住民がその縄張りにしてしまう。縄張りに隣接する二羽の兎を捕っ
てしまうとその時点で縄張りの範囲が変わり過去のデ—タは役に立たなくなってし
まう。兎は夜行性で夜に餌を食べたり遊んだりするがその範囲は自分の縄張りの
中に限られる。例外として発情期になると雄兎は雌を求めて自分の縄張りから出
て行く。その兎に当たると犬に追われた兎は自分の縄張りに戻ってから逃げ回る
ので、とんでもない遠くでワンワンとやり出す。
発情期以外の兎はその縄張りの中から出ないので犬に追われるとその中を回る
ので『回す』と言うのは犬が縄張りの中で兎を追いかけること。また、昼間は寝て
いるがその場所を寝屋と呼び犬が寝屋を見つけ兎を起こすことを単に"起こす"と
いう。これは猟全般で使われイノシシ猟でもこの言葉を使う。
猟期前には訓練で色々な所に行き、兎がどういうコースを逃げるのか予め知って
おくとよく捕れる。いつも同じコースを回れば兎は全滅してしまう。寝屋は一定し
ていないし、犬がどういう角度から寝屋に近づくかで逃げるコースも自ずから変わ
ってくる。今日の猟も以前に訓練した所で凡そ察しはつくが上手くいくかどうか。
パピーは毎週の猟で少々バテ気味だが 一丁頑張ってもらうか。
パピーは顔にそんな素振りが見えても山に行けるならと、私以上にやる気満々だ。
杉林の中には椎茸のホダ木が交互に立てかけられ、幾つかは小さな芽を出して
いる。下刈りもちゃんとしてある手入れの行き届いた山である。砂利混じりの急な
斜面にスイッチバックのような道がついている。
山の中腹を越した辺りがよく寝ている所だ。低い木が茂り割と日当たりのいい場所
で周りはどちらの方向へも逃げることができそうだ。椎茸のホダ木が途切れ草やら
低木が見え、食み跡がある。新しいものだから、ここの兎も健在と見える。
私はこの場所で兎を待つことにした。パピーは上に上に臭いを取りながら上がっ
て行く。相当、強い臭いに当たったのだろう。普段は寝屋でいきなり吠え出すのに
ワンと吠えた。それは目前に兎の寝屋があることを意味していた。
ワン、ワンと追跡が始まった。兎の足は速いのでパピーがいくら頑張っても追い着
くことはないだろうが臭いさえ確実に追えばスタミナのある方が勝つ。兎は逃げて
は休み、逃げては休むが犬はずーっと追いっ放しになる。