猪は獲物としては大きく、捕るにはチームワークによるところが大きく独りでも捕れ
る兎.鳥とは別の喜びがある。うまくすれば一人でも捕れるが余程の熟練者か、偶
然に近い幸運が重ならない限りたやすくはいかない。猪猟は足跡を見つけ、寝屋
山を特定する見切りを行い射手の配置、勢子が犬を連れて行き寝屋の近くで放す。
犬が猪を起こし前後から襲いかかり足止めを食わせることを『止める』と言い、勢子
の近くで止めがあったら勢子が撃ち、止めることはできず逃げ出したら、待ち伏せ
をしている処に来るのを待つ。
待ちの配置は獣道で、猪の場合は姿が見え難い暗いような所が多く杉林や、谷で
あれば一番狭くなっているような場所、急傾斜の崖も軽々と下ってしまうから、猪を
捜索している時に、待ち場所の情報も得ておく必要がある。人数は多ければ多い
ほど待ちに掛かる確率は高くなる。後で分かったことだが、ヘッドに熟練者、気心
しれた人同士で物事を誇張しない確実性のある人(見切り段階で確実性のない情
報ばかり集まってくると本当のことが分からず、猪不在なのに在宅として度々、空山
で猟をすることになる。仲間が4~5人いれば十分な猟は可能になる。猪の大きさは貫
で表現され15貫あればマアマアで20貫位から大物の部類になる。身長は 1メータ
位。体毛は薄く首から背にかけては7〜8センチの長い毛があり、二又、三又の枝
毛になっているので、これを財布に入れておくと二方、三方から金が入り貯まると
言われる。私も沢山の猪の毛を財布に入れてみたら、沢山ではなかったが小金が
貯まったから本当のようだ。色は茶系統の黒で歳を取ると白髮混じりになってくる。
爪はブタと同じでハイヒールを履いたような形をしており足跡を見れば、先端に2
つの爪痕があるので猪だとすぐ分かる。猪猟を始めて間もない頃、村内で猪猟に
参加することになった。その時のメンバーはグループとしては纏まりがなく、まともな
グループになるには淘汰を要する状態だった。捕れない理由を当り触りのない私
たち愚痴交じりで溢す人やら、他人の犬をけなしたり、猟方の批判ばかりしていた。
それで自分は前向きにやっているのではなく、捕れたイノシシの肉が欲しいだ
けで猟をしているように見えた。これでは捕れるはずはないし纏まりを欠く一方で
悪循環は捕れないことに拍車をかけた。
朝から足跡を探し見切りを済ませ、待ちの配置につくことになった。猪猟を始めた
ばかりで何も知らない私に『この道を降りると猪の足跡がある。そこで待て』と愚痴
の主が言った。雪が残っており素人同然の私でもその場所は直ぐ判った。
小さい谷で雑木が多い茂り、いかにも猪が通りそうな場所だった。大きな杉の木
があり、この陰に隠れていれば周りはよく見えるが、もし間違って猪が反撃をして
来たら逃げ場所がない・・・迷いに迷った挙句10mほど上の獣道で待つことにし
た。茂みの中で見難いが、猪がこの道を上がってくれば、銃をこう構えてあの場
所で引金を引けば、確実に獲れそうだと頭の中でシミレーションしていた。