兎,鳥猟専門から後述する猪猟への回数が増えるに従ってパピーの出番が減っ
ていく。鉄砲を持った姿を見ると連れて行ってもらえると思い大騒ぎするので人目
を避けるように出かけることが増える。犬との信頼関係はこうして崩れていくのか、
別の理由があるのか。パピーは段々と兎を追わなくなってきていた。鳥猟ばかりに
行っていたのでもない。三年間に限れば私にとっては優秀な犬であり満足させて
くれた。それが今は何一つとして満足させては呉れなくなってしまった。叩くことな
どなかったが『行け』と怒鳴ったことは何度もある。でもパピーは山が好きそうに見
えた。
夏バテや病気持ちの犬は残暑厳しい時期が赤信号だ。パピーには病気らしい兆
候は何一つなく、ただ気がかりは兎を起こさない、追わないことに尽きた。
九月の末に突然、他界した。娘が気付いた時はハーハーと苦しそうに息をして口
から泡みたいなヨダレを出す。それを拭いてやることと水を含ませてやることが唯
一の看病になった。すぐに舌を出し妻が病院に電話したが成す術のない状態で
あることを知らされただけだった。そして短い生涯の幕を引いた。家に帰るとタオ
ルをかけてもらい静かに寝ていた。子供たちが手向けた野花が添えられ、線香の
煙が揺れていた。子供も妻も涙を流しパピーの死を悲しんだ。Yさんの犬、ジャッ
クが眠る近くに埋葬してやった。暗がりで電池の明かりを頼りに穴を掘りながら無
性に涙が流れた。堪えても堪えてもどうすることもできず子供の前では、勿論のこ
と妻さえもこの涙を見せたくなかった。だから必死に堪えるのに、押さえることが出
来ずスコップの上にポタリと落ちる。
身体はタオルで包んでやり二度とつけることのない首輪を外して上に置く。好物
だった牛乳や卵、有り合わせのものを一緒に添えた。今、掘ったばかりの土を少し
ずつかけていく。子供たちの嗚咽が始まる。俺は男だ。涙は流さないぞ、と強がり
を言う。でもパピーよ、天国で自由奔放に暮らしておくれ。沢山の猟と思い出、
ありがとう。さらば、パピー。
私の本心は誰にも判らなかっただろう。今こうして初めてその心を語るのだから。
休みの度にいつも一緒に山に行き昼飯を分ち合い、兎の獲物に喜び合ったことは
数え切れない。疲れ果てた二人がトボトボと雪の中、枯葉の中で家路を急いだこと、
山の清水に辿り着き顔をくっつけるようにして先を争い飲んだ水。
その夜は二人で過ごした山の思い出が走馬灯のように駆けめぐりそれが、暗がりの
中、独りで思い切り涙を流した。
多分、このような突然死はパルボではないかと思う。普通、パルボは下痢が伴うが別
名、コロリ病とも言われ空気感染し、その威力は半径、数キ口の犬を全滅させてしま
う。何の前ぶれもなく死ぬのはその強烈さからしてパルボに違いない。パピーにはフ
ィラリアの予防は万全にしてあった。