猟期の間には天候条件が悪く猟にならない日が何日かある。家でじっとしていても
つまらない。そうした時の為に、ネタを見つけておく。マミ(穴熊)掘りがその一つだ。
狩猟法規上の解釈からすれば問題はあるかも知れないが、時効と言うことにして頂
き他言無用のお話をしよう。
私は散弾銃の狩猟だから乙種になる。だから穴を掘り、最終的にそれを銃で撃ち取
るのは違反にはならないが、銃以外のものを使って捕ることは法解釈上、違反にな
る可能性が高い。この場合、銃を使って獲ったということにして頂こう。
朝から霎混じりの最悪の天気の、ある日曜日。カッパを着ての猟までの根性はない
し、代わりに炬燵の番人では芸はない、ウーンと唸っていると以心伝心の電話が入
る。『以前から目をつけていたマミ穴がある。多分、間違いなく冬眠していると思う』
スコップ、クワを手に造林でもするような格好をして、天気の悪い山に出かけていく。
マミの穴は尾根筋の排水のいい場所にあり、居るか居ないかは穴の外にある泥の
新旧で判断する。泥の新しい穴には数匹のマミが冬眠している。
本日の穴は、その条件を満たしており可能性は大。穴の直径は20センチほどの小
さなもので柔らかい木を突っ込んで深さを調査してみると1メータ位先で直角に曲が
っていて2メータ近くまで木は入るがその先の様子は判らない。穴は水平方向で上
から掘ると奥に行くに従って深くなるので得策ではなさそうだ。穴に沿って掘ることに
した。時間はかかるだろうが確実性を重視したのだ。
土は掘るとその量は2~3倍になる。掘ったものは次々と斜面から下の方に捨てるが
直ぐに山のようになってしまう。掘り進むためには人間が屈んで作業できる最低の直
径、80センチは必要だ。マミの穴を見失わないようにする為、穴の中心がマミの穴
になるような位置取りをしながら掘り進む。1メータ掘ったところで作業の程度が判っ
た。今の装具では奥に行くほど、掘った土を外に出すのに効率は悪くなり人海戦術
を取るにも、数が少な過ぎる。装備の補給、人の確保、長期戦に備える必要がある。
1メータ掘るのに小1時間はかかり、この先どれ位あるのか予測もっかない。その上、
土は真砂土で柔らかいから相当遠くまで掘っているはずだ。この時点で救援と物資
の補給を決心し一人が山を降りた。結果からみるとこの判断なくして成功はなかった。
作業効率のポイントは先述の『掘った泥は穴の外に出す』これに尽き、奥に行けば
いくほど作業が大変になるからだ。分担を先に掘り進む先鋒、その土を後ろに構え
る人に送り出す人、中間で受け渡し外に運び出す人、これらが機能しないと時間ば
かりかかり先には進めない。
特に、穴の入口は外に出した土が直ぐに溜るので、常に泥を下方に押出すことをし
なければならなかった。
穴の中は暗いから明かりとして懐中電灯を使うが、穴が直線でなくなると明かりが通
らなくなるので数個の用意が必要。3メータほど掘ったところで調達人が一人の応援
者と機材、穴の中から土を出す為のト口箱とそれを引っ張る口ープ、小型のクワ、そ
れに食料品を携えて帰ってきた。