昔、有線放送は農家や漁村の通信手段として普及したが今ではそのよさが都会で
見直され地域ニュース、コミュニティー活動の手段に使われている。1回目の放送で
は一つの情報もなかった。考えられることは
1.未だ山の中にいる
2.だれかが仕掛けた兎罠にかかり身動きが取れなくなった
3.人が連れ去った
4.誰かが迷い犬として預かってくれている
1の可能性は深い山ではないからすぐに何処かの道に出るので薄い。2は私がそ
の場所に行き着く迄は救出できず時間関係から考えたくはないが死を 意味する。
3は面白くないが死だけは免れる。一番いいのが4で情報さえ届けば確実に帰宅
できる。日が経つにつれて『雨を予想しながら山に入れた』ことに対する悔いが出
始めた。日増しに諦めムードが支配するようになった。2回目の放送をその翌日にお
願いする。私の家から3キロ奥の娘の同級生の家から電話が入った。『放送で聞い
たけど、お宅の犬らしいのを預かっている』この目で見るまでは安心できない。車を
飛ばし迎えに行く。
家の裏につながれたパピーは私の姿を見ると飛びつこうとして後足で立ち前足をバ
タバタさせながら大声で鳴き叫んだ。お爺さんが薪を切っていたら何処ともなく姿を
現し後について離れなかったそうだ。恐らく初めて出会った人で人恋しかったのだ
ろう。餌をやるとガツガツと全部たいらげ、なお空腹そうだったと聞いた。それからも
お爺さんの後ばかりついて歩き傍から離れなかったそうだ。パピーは乗り馴れた車
に飛乗り家路を急いだ。家では家族の出迎えを受けたっぷりの御馳走にありついた。
安心したのかその夜は久々の自分の寝床でゆっくりと寝ていた。
離れた場所で迷うと出発点にタオルや手袋を置き、そこに餌を置いておく。餌がなく
なっていれば一度はここに戻ってきた目安になる。臭いのあるものは犬にとっても唯
一の手掛りだからその近辺から離れずに待っている。
猟期の最中、行方不明になった犬を四~五日がかりで回収することがあった。