私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

自作詩 夏に寄す

2019-12-14 14:13:26 | 自作詩
夏に寄す

遠い獣の暁に兆した死への戦きに
駆り立てられるまま
我ら憐れな叡智ある者らは月へと至った
さみしい藍色の夜空を
追い立てられた銀色の兎が見上げている

 (私は帰りたいのだ 故郷に帰りたいのだ)

Home sweet home!
懐かしい埴生の宿よ
朽ちてゆく苑の芝生に
白百合の育つ宿よ
眠れ 愛しい死者たちよ 花咲く旧い苑に
そして行かせておくれ
夏毎に戻ってくるから

 (夏は我らの追悼の季節だ 今も そしてこれからも)

過ぎた昔の輝きが花火に転じて
夏の終わりの藍色の夜空を彩り尽くす


リチャード・ウィルヴバー 汝妹よ 全訳再掲載

2019-12-14 03:22:03 | その他 訳詩
汝妹

彼女の美は何であったのか 吾らの初めの住まいで
アダムの望みだけがすべてで もっとも少ないものばかりが
その王の賜物と産物として現れていたころ
吾らにどうして思い描けよう? 類似が

分離を待たねばならぬ そのような所で
彼女は共に在った 水と光と木々と
いずれにも似ては映らぬほどにも
彼は目覚めて見つめ尽くした 彼女の裸の顔を

しかしそのとき彼女は変わって 近づき下ってきた
アベルの群れどもとカインの原野へと
彼らの願いを纏って 彼女の楽土は優美さを隠し
穀物の塊の豊かな形を隠した

彼女はこの世で毀れた あらゆる労苦と
その果実の見せかけを受け入れたときに
襞をとる薄物の衣を纏った円柱の姿で
耐え忍ぶその掌〔テ〕に属性を注がせ

最果ての塔に囚われた輝ける虜となって
その誉れを戦いの野へと流して
黄昏時に苑を歩む
その影は弧を描く昏い扉と似て

西へと向かうすべての船のための海どもを胸に受け止め
処女の帝国へと来たりてまた変わり――
月と似た真正の蝕へと向かい
男らの夢の内で平伏す女神となった

木や寺や舳〔ミヨシ〕やガゼルや機械など
いや増しに名づけられ或いは朝の星よりも名を持たずに
いずれの形でも心惹きつけ すべては見えざるまま
吾らは敢えて願いはしない あなたをあなたのまま見出そうとは

その現れは 切望が廃れ果てて
後の世をもたらす時に至って
花開くだろう 吾らの望みの荒廃のもとに
そしてゆきのしたの花のように打ち毀された石どもを飾るのだろう


 *夜中に目が覚めてしまったため、先日訳し終えた八連の詩をまとめておきます。
 ついでにふと浮かんだ童話のような自作詩も。

 茨の城の夢

 眠れる者の睡りの醒める朝に
 吾らは滅えねばならぬ
 茨の城の幻の戦士は
 賢者と女教師は
 吾らの愛しい眠れる者よ
 百年を生きた童女よ
 お目覚め 誰かに起こされる前に
 朽ちた寝間着を脱ぎ捨てて 野のままの姿に戻って
 駆け出てごらん 窓の外へと
 お前は鹿にも白鳥にも花にも獅子にもなれる
 矢を掛けられたら戻っておいで
 薔薇の咲くこの城へと
 吾らがすでに無くとも
 お前の熱い血潮を羊歯の葉が受け止め
 陽を零す花の縁から滴る水が
 懐かしい誰かの手のように
 その傷を癒やすだろう