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マーラー/交響曲第10番(クック補筆完成版)を金聖響の指揮で聴く

2014年03月30日 21時17分33秒 | マーラー

マーラー/交響曲第10番(デリック・クック補筆完成版)



管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団


指揮:金 聖響



録音:2013年2月



 本当に不思議な音楽です。
「マーラーの曲だ」と言い切れないと、何度聴いても感じます。
 でも、仮に「マーラーの音楽」と言われる音楽がこの1曲しかなかったとしても、マーラーの名は永遠に残る、そうとも思えるのです。
 第2楽章以下の、どことどこがほぼ自筆でどこがクックの補筆かとか、そんなことは私はほとんど知りません。
 真ん中の3つの楽章は特にヘンテコです。
 だんだん若き日の交響曲第1番に戻っていくみたいな第2楽章。
 仮面をかぶったようで本性がさっぱり分からない第3楽章。
 やはり第1交響曲や第5交響曲の残像を聴かせながら、突然に赤裸々な感情を無造作に挟み込んでくるみたいな第4楽章。
 これら3つの楽章は何度聞いても面白いです。
 そして、この交響曲の両端楽章・・・「ちゃんと『終わる』ように終わる」第1楽章と第5楽章は、本当に素晴らしいとあらためて思わされました。

 この演奏を聴いて、やはり第1楽章だけやる場合と、こうして「全曲」の中の第1楽章としてやる場合とでは全然違うのだと、あらためて気づかされました。
 冒頭を聴いての第一印象は、スリムでありながら何と説得力に満ちた演奏なのだろうか、というもの。
 私には、この「スリムながら決して細過ぎず中身がいっぱい」という陳腐な形容しか思いつかない独特のスタンスがずっと一貫していて、聴いている間、常に心地よい天然のミストを浴びているような感覚がありました。
 これが神奈川フィルの魅力なのか!とか思いながら聴いていました。
 そして、その響きは、この「補筆完成版」という楽譜の演奏にピッタンコはまっているのではないか。そうも思いました。
 例の「アルマのA」の箇所も、今まで聴いてきたいくつかの演奏のようなおぞましい叫びの様相とは全く違う、控えめで詠嘆のようなものでした。
 不協和音の生々しいぶつかりよりも、相反する感情が同時に起こっているような複雑で微妙な雰囲気を感じました。
 この演奏では、「アルマのA」の切実さは終楽章での再現の方に重きが置かれているように聴きました。
 バスドラムの厳しい打ち込みから始まる第5楽章は圧巻でした。
 おごそかに葬列が動き出すかのような前に聴いたオーマンディ盤とは正反対みたいな解釈。
 しかし、そのあとの、「大地の歌」や9番とはまるで違う、どこか無邪気さを漂わせて笑顔さえ感じさせる「幕の引き方」は、今回も本当に痛いほど胸に沁みました。
 私は、この終楽章には自分固有の「物語」を持っていますが、それは言いたくない。
 マーラーは楽譜を完成させることはできなかったけども、こうして、たいした予備知識のない聴き手でも心底揺さぶられる感動を与えられるものは残した・・・・そしてクックは、マーラーがこの曲に込めたもの、この曲を書いた時のマーラーの等身大を彼なりの誠実さを持って再構築してくれた、ということなのでしょうか。
「マーラーの作品」ではないかも知れません。でも、明らかにマーラーを感じる作品ではあります。
 その不思議さと、どうにもうまく言えない10番の魅力を、平明かつ美しい言葉で教えてくれたみたいな、そんな素敵な演奏でした。

 聖響さんと神奈川フィルのマーラーが評判を呼んでいることはネットでずっと見聞きしてきましたが、今日まで、このコンビの実演に接する機会を一度も得られませんでした。
 そのことは残念でなりません。

 彼を初めて聴いたのは、大阪でセンチュリー響を振ったオール・シューマン・プロでした。
 あのときの金髪で骨ばった精悍な顔つきの若武者指揮者が、今、このようなマーラー10番を聴かせていることに一言では言えない感慨があります。
 コンサート会場に出向くことが難しくなってしまった自分ですが、こうしてディスクを通してでも「進化(深化)をし続ける金聖響」を実感することが出来たことは嬉しい限りです。


マーラー:交響曲第10番[デリック・クック補筆完成版]
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 金聖響
神奈川フィルハーモニー管弦楽団


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4 コメント

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第5楽章大好きです (ももパパ)
2014-03-31 21:24:04
突然の乱入、すみません。

第10番の第5楽章、小生は大好きです。
最後の最後のあの部分・・・第9番の第4楽章を感じさせます。

いつもはラトル/BPOで聴きます。
ミーハーです。

ライブでは聴いたことがないのですが、きっと第9番と同じようにライブだと特別な印象をよりもつのでしょう・・・か。
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ももパパさん (親父りゅう)
2014-04-01 05:06:22
お久しぶりです。
ラストは、どれで聴いても感動させられますね。

ラトルBPO盤は、この曲で初めて買ったディスクでした。今はセットものの中に入っています。
最近はハーディングのもよかったですし、レヴァインのも面白かったです。
10番は、どれも録音された時点でそれなりに存在感を出すようですね。
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カーペンター版 (ももパパ)
2014-04-01 22:48:19
カーペンター版はいまいちでした。
指揮はジンマンでしたが、最後の一番おいしい部分がクック版と違いさら~といってしまって・・・

1楽章の一番いい部分、BPOのホームページからアバドの指揮で。
これもすごい!
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ももパパさん (親父りゅう)
2014-04-02 09:24:18
カーペンター版、実はまだ聴いたことがありません。ジンマン盤は全集でどうしようかな???って段階ですが、でも、聴いてみたいですね。

アバドの映像はNHKのを録りました。
あれはすばらしかったですね。
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