歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪漢文について~田中雄二『漢文早覚え速答法』より≫

2023-12-10 19:00:13 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪漢文について~田中雄二『漢文早覚え速答法』より≫
(2023年12月10日投稿)

【はじめに】


  漢文の勉強法について考える際に、現在、私の手元にある参考書として、次のものを挙げておいた。
〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
〇田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]
〇三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]
〇幸重敬郎『漢文が読めるようになる』ベレ出版、2008年
〇小川環樹・西田太一郎『漢文入門』岩波全書、1957年[1994年版]

これらのうち、受験に特化し、効率的な勉強法を説いた参考書としては、次の2冊である。
〇田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]
〇三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]
 
 今回のブログでは、次の参考書について、紹介しておきたい。
〇田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]
 田中雄二先生の主張とともに、受験の参考となる問題も添えておいた。
・私大の過去問~『世説新語』より
・共通テスト試行テスト~劉基『郁離子』より

なるべく数多くの漢文の文章に触れて、漢文の句形や内容を知ってほしい。
(返り点は入力の都合上、省略した。白文および書き下し文から、返り点は推測してほしい。)



【田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』(学研プラス)はこちらから】
田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』(学研プラス)





田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版
【目次】
早覚え速答法Ⅰ
10の“いがよみ”公式
いがよみ1 『使役』の公式
      「ヲシテ」と読めば使役はできる
いがよみ2 『受身』の公式
      「る」「らる」、活用しっかり受身形
いがよみ3 『比較』の公式
      「シカズ」と読めるに「シクハナシ」
     『受身』と『比較』の「於(おい)テ」の識別法
いがよみ4 『反語』の公式
      反語はこれだけ、語尾の「ンヤ」
      難解大学を受ける人への注意
いがよみ5 『詠嘆』の公式
      詠嘆は反語の親戚、語尾の「ズヤ」
いがよみ6 『疑問』の公式
      疑問の語尾は連体形
いがよみ7 『限定』・『累加』の公式
      みんな忘れる語尾の「ノミ」
いがよみ8 『部分否定』の公式
      部分否定は「ズシモ」と「ハ」
いがよみ9 『仮定』・『二重否定』の公式
      「ズンバ」と「クンバ」でルンバを踊れ
      超難関校を受験する人に
いがよみ10 『抑揚』の公式
      「スラ」すら覚えよ、語尾の「ヲヤ」
早覚え速答法Ⅱ これだけ漢字91
      「重要漢字」は見て慣れるだけでよい!!
早覚え速答法Ⅲ 受験のウラわざ
 1 出題者のひっかけを見抜く法
   熟語による翻訳と説明・注をマークせよ
 2 3分間記憶事項
   漢詩も文学史もほとんど出ないが、コレだけは…
 3 早覚え速答法・総集編
   10分で読め、60分で暗唱できるコレだけ漢文

田中先生のFAQ
Q1 漢字かなまじりの書き下し文はどうするか?
Q2 送りがなはどうする? 「安くんぞ」か? 「安んぞ」か?
Q3 「置き字」は覚える必要がありますか?
Q4 『疑問』の末尾は「や」? それとも「か」?
Q5 動詞の読み方がわからない。「臣とす」? 「臣す」?
Q6 「亦た楽しからずや」は『反語』か『詠嘆』か?
Q7 「是以(ここをもって)」はなぜ「これをもって」と読まないのですか?




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・10の“いがよみ”公式
・漢文速習のコツ
・受験のウラわざ
・私大の過去問~『世説新語』より
・共通テスト試行テスト~劉基『郁離子』より






10の“いがよみ”公式


 目次をみてもわかるように、本書の特色は、10の“いがよみ”公式を挙げていることである。
 漢字以外の読み、「いがいのよみ」、略して“いがよみ”と著者は称している。
 漢文の学習は、句形や漢字を一生懸命暗記するより、漢字以外の読みをおさえることが大切。
 ここで紹介する10個をおさえれば、漢文も制したも同然であると、著者はいう。
(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]、9頁)

例えば、「いがよみ1 『使役』の公式 「ヲシテ」と読めば使役はできる」について
・「AをしてB(セ)しム」というのが『使役』の形。
 ここで大事なことは、決して「使」を「使(し)む」と読むことでなく、名詞に「ヲシテ」をつけることである。
 つまり、漢字以外のヨミ(「いがよみ」と著者はいう)の「ヲシテ」を忘れずに正確な場所につけなければならない。
 また、「せしム」と訓読するように、サ変動詞の未然形「せ」に「使(し)ム」がつくことも、しっかり覚えておくこと。間違えやすいポイントである。
・『使役』では、「使」「令」「教」「俾」の4つの漢字に慣れればよい。
<まとめ>
〇「使(し)」「令(れい)」「教(きょう)」「俾(ひ)」(シレイキョウヒ!)
→全部「しむ」と読む

『使役』のいがよみの公式
使(し)ム二+A(名詞)ヲシテ+B(動詞)[セ]一
【読み】AをしてB(せ)しむ
【意味】AにBさせる

【ポイント】
①Aは使(令・教・俾)のすぐ下
②「名詞」+「ヲシテ」→いがよみをつける
③「未然形」+「使(し)ム」

【注意すること】
①「未然形」がわかりにくいときは、動詞の漢字に現代語の「せる・させる」をつけて読むと未然形がわかり、訳の練習にもなって便利。
②「ず」に「しム」がつく場合は「ざらしム」。
③漢字かなまじりで書き下すときは、「しム」が助動詞なので「使(し)」はひらがな。
④文脈から『使役』の訓読を問うことはない。
(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]、10頁~11頁)

漢文速習のコツ


「漢文速習のコツ」として、著者は次のようにいう。 

漢文は時間がかかる。漢字だけだし、ひっくり返って読むのはしんどい。
でも試験では時間がない。そこで早く読むにはどうするか?
暗記しても効果がない。コトバなのだから慣れればよいのだ。
そしてコトバに慣れる最も効果的な方法は音読であるという。
声に出して読むことだ。

どの語学でも基本は音読である。
1目で見て、2頭で理解するより、
1目で見て、2口に出して、3耳で聞いて、4頭で理解する方が、効果は二倍である。

〇しかも音読は楽だ。力んで覚えるのとは正反対。口に出して唱えるだけで自然と身につく」。
身につかないと感じたら、早口で言えるまで数回唱えることをおすすめする。
 スラスラ早口で言えるようになったら、その時はすでに体が覚えている。
<合格川柳>早口で 言えば もう身についている

〇全部を音読する必要はない。
 本書『早覚え速答法』なら問題だけ。過去問の復習なら傍線部だけ。
 読みにくいからこそ、傍線を付けられて問題になるのだ。だから、そこだけ早口で音読すれば、すぐに口が慣れてしまう。
<合格川柳>早口で いえば身になる 傍線部

丸暗記の知識は試験で使えない。
 しかし音読で「身についた」知識は使える。
 試験で勝つには「知っている」では足りない。時間があれば「解ける」でもまだ足りない。
 「早く解ける」レベルでやっと合格できる。早く解けるための知識は「身についた」知識だ。
 体が覚えている知識だ。学んだことが体に染みつているからこそ、スター選手は瞬時に妙技をくりだす。
 基本知識が身についているからこそ、声を出した受験生は変化技に対応できる。
(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、
 付録『共通テスト漢文攻略マニュアル+私大&記述対策』、1991年[2020年版]、30頁~31頁)

受験のウラわざ(早覚え速答法III)


3早覚え速答法・総集編 10分で読め、60分で暗唱できるコレだけ漢文

「試験に出る句形と重要な漢字だけで書かれた漢文があったら、さぞ便利だろう」という「コレだけ漢文」を、著者は友人の中国人および先輩と協力して作成したという。
 10分でザッと読み、残りの50分音読すれば、キッと頭に入るだろう。
 合格を保証する呪文の漢文だという。
 その漢文の使い方は、勉強の進度によって変わるらしい。
①漢文の得意な人→いきなり漢文を読み、わからないところを書き下し文と現代語訳で確認する。
②漢文の不得意な人→まず書き下し文を音読し、現代語訳を頭に入れて、漢文を読み始める。

漢文の内容は、受験の本質を体得した漢文教師「楊朱進」(著者と友人の中国人および先輩の総合ペンネーム)とマジメな受験生との対話である。

考試之道        楊朱進
問君。
「若使己常向机。何爲不措筆而休?
 世界広大、必有適所。何不往而探其
 処乎?」
對曰「如不過考試、則必爲人所輕。学
及十有八年而見侮、非本意也。豈避考
試求安楽哉!將又、童蒙且励学、況青
年乎!是以不可不学。」
(中略)
曰「足矣。考試之道莫若誦文。考試問
訓読。非問漢語。一誦文輒熟訓。於是
勉而誦文。」


最後に次のように締めくくっている。
「使口唇憶全文、自通考試。嗟呼、奈此善方何。」

【書き下し文】(※新旧の字体に慣れてもらうため、旧字は新字に変更したという)
君に問ふ。
「若(なんぢ)己(おのれ)をして常に机に向はしむ。何為(なんす)れぞ筆を措(お)いて休まざる? 世界は広大、必ず適所有り。何ぞ往きて其処(そこ)を探らざるや?」と。
対へて曰く「如(も)し考試を過ぎざれば、則ち必ず人の軽んずる所と為る。学ぶこと十有八年に及び侮(あなど)らるるは、本意に非ざるなり。豈に考試を避けて安楽を求めんや! 将又(はたまた)、童蒙(どうもう)すら且つ学に励む、況んや青年をや! 是(ここ)を以て学ばざるべからず」と。
(中略)
曰く「足れり。考試の道は文を誦するに若(し)くは莫し。考試は訓読を問ひ、漢語を問ふに非ず。一たび文を誦すれば輒ち訓に熟す。是に於て勉めて文を誦せよ」と。

「口唇をして全文を憶せしむれば、自(おのづか)ら考試に通らん。嗟呼、此の善方を奈何せん」と。

【意味】
試験の道
君に質問する。
「おまえはいつも自分を机にむかわせているが、どうして筆をおいて休まないのだ。世の中は広く、(勉強なんかしなくても)必ず自分にぴったりした場所があるはずだ。どうしてそれを探しに行かないのだ。」
君は答える。
「もし試験に通らなければ絶対に人に軽蔑されてしまいます。18年間も勉強して侮辱されるのは私の本意ではありません。どうしてテストを避けて安楽を求めましょうか。私はトコトンやります。また、ガキンチョでさえ一生懸命勉強しているのですから、青年が勉学に励むのは当然です。だから勉強しないわけにはいかないのです。」
(中略)
「(それで)十分だ。試験の道は文章を音読するのが一番だ。試験では訓読(日本語で読めること)を聞き、中国語(の知識)を質問するのではない。一度文章を音読すればそのたびごとに読みに慣れる。だから一生懸命音読しなさい。」

唇に全文を覚えさせれば(スラスラ口をついてこの漢文が出てくるようになれば)自然と試験に合格するだろう。ああ、このすばらしい方法をどうしようか。」

(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]、186頁~197頁)

私大の過去問~『世説新語』より


私大の過去問を解いてみよう。
次の文章を読んで後の問いに答えなさい。
 魏文帝嘗令東阿王七歩中作詩、不成当行法。応声(a)便
為詩曰、「煮豆持作羹、漉豉以為汁。(A)萁在釜下(b)然、(B)豆在釜
中泣。本自同根生、相煎何太急。」帝深有慙色。
 <『世説新語』より 明治大・文>

<注>
・東阿王…文帝の弟。
・羹…あつもの。スープ。
・豉(し)…みそ。
・萁(き)…豆がら。
問一 傍線(a)「便」、 (b)「然」の読みを記せ。ただし、現代かなづかいでよい。

問二 「当行法」の意味として適切なものを、次のなかから選び出して、その番号をマークせよ。
① 当然法廷であらそうことになる。
② 当然法律で裁かれることになる。
③ 当然しきたりに従うべきである。
④ 当然おきてに照らして処罰する。

問三 傍線部(A)「萁」、(B)「豆」はそれぞれ何をたとえたものか。文中の語で答えよ。

問四 「何太急」とはどういうことをいっているのか。わかりやすく説明せよ。

問五 「帝深有慙色」といっているが、どういう心境からであろうか。次のなかから適切なものを選び出して、その番号をマークせよ。
① 予想に反して、自分の目的が達せられなかったのを残念に思って
② 詩に託された弟の心情に感動し、自分の非をさとって
③ 才能のある弟を苦しめることは、自分に不利だと思って
④ 弟の文才が、自分よりもすぐれていることを痛感して

【書き下し文】
魏の文帝嘗て東阿王をして七歩の中(うち)に詩を作らしめ、成らずんば当に法を行うべし。声に応じて便ち詩を為(つく)りて曰く、「豆を煮て持て羹(こう)を作(な)し、豉(し)を漉(こ)して以て汁と為す。萁(き)は釜下(ふか)に在りて然(も)え、豆は釜中に在りて泣く。本同根より生ず、相煎(い)ること何ぞ太だ急なる」と。帝深く慙(は)ずる色有り。

【現代語訳】
かつて魏文帝は弟の東阿王に、七歩あるく間に詩を作り、できなければ法律どおりに処罰すると言った。王は兄の命を受けるとたちまち次のような詩を作って答えた。
豆を煮てスープを作る
味噌を漉して汁を作る
豆がらは釜の下で燃え、
豆は釜の中で泣く
これらは同じ根から生えたのに
どうして激しく責めるのか
文帝は恥じ入った。

【解答】
問一 (a)すなわ(ち)、 (b)も(え)
問二 ④
問三 (A)文帝、(B) 東阿王
問四 文帝が弟の東阿王に、七歩のうちに詩を作らないと処罰すると言ったことに対する東阿王の嘆き。
問五 ②

【解き方】
・東阿王の父は、三国志で有名な曹操。
 詩才にすぐれ武将としても活躍した東阿王は、曹操の死後、兄の文帝に警戒され、死ぬまで地方を転々とした。原文の内容は、魏の文帝が弟の東阿王をいたぶり、最後に許すというお話。

※共通テスト漢文が論理展開を問うのに対し、私大の問題文はこの例題のように、内容自体はわかりやすい説話である。
 だから、最初の行から普通に読んでよい。
 ただし、制限時間内に問題を解くためには、解ける順から片付けるのが合理的。

問五
 弟から「兄弟なのに私をいじめるのはむごい」と言われた
 ↓
 兄は恥じた=慙
 =自分がまちがっていた
 ②「(兄は)自分の非をさとって」

(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、
 付録『共通テスト漢文攻略マニュアル+私大&記述対策』、1991年[2020年版]、37頁~46頁)

共通テスト試行テスト~劉基『郁離子』より


「2018年度共通テスト試行テスト」として、次のような問題があるので、解いてみよう。

次の【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】は、いずれも「狙公(そこう)」(猿飼いの親方)と「狙(そ)」(猿)とのやりとりを描いたものである。
 【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】を読んで、後の問い(問1~5)に答えよ。
 なお、設問の都合で送り点・送り仮名を省いたところがある。

【文章Ⅰ】
猿飼いの親方が芧(とち)の実を分け与えるのに、「朝三つにして夕方四つにしよう。」といったところ、猿どもはみな怒った。「それでは朝四つにして夕方三つにしよう。」といったところ、猿どもはみな悦(よろこ)んだという。
(金谷治訳注『荘子』)

【文章Ⅱ】
楚有養狙以為(1)生者。楚人謂之狙公。旦日必部分衆狙
于庭、A使老狙率以之山中、求草木之実。賦什一以自奉。或
不給、則加鞭箠焉。群狙皆畏苦之、弗敢違也。一日、有小狙
謂衆狙曰、「B山之果、公所樹与。」「否也。天生也。」曰、「非公不得
而取与。」曰、「否也。皆得而取也。」曰、「然則吾何仮於彼而為之
役乎。」言未既、衆狙皆寤。其夕、相与伺狙公之寝、破柵毀柙、
取其(2)積、相携、而入于林中、不復帰。狙公卒餒而死。
 郁離子曰、「世有以術使民而無道揆者、其如狙公乎。C惟
其昏而未覚也。一旦有開之、其術窮矣。」
(劉基『郁離子』による)

<注1>楚―古代中国の国名の一つ。
<注2>旦日―明け方。
<注3>部分―グループごとに分ける。
<注4>賦什一―十分の一を徴収する。
<注5>自奉―自らの暮らしをまかなう。
<注6>鞭箠―むち。
<注7>郁離子―著者劉基の自称。
<注8>道揆―道理にかなった決まり。

問1 傍線部(1)「生」・(2)「積」の意味として最も適当なものを、次の各群の①~⑤のうちから、それぞれ一つずつ選べ。
(1)「生」
①往生
②生計
③生成
④畜生
⑤発生

(2)「積」
①積極
②積年
③積分
④蓄積
⑤容積

問2 傍線部A「使老狙率以之山中、求草木之実」の書き下し文として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。(入力の都合上、問題文の一部を変更)
①老狙をして率ゐて以て山中に之き、草木の実を求めしむ。
②老狙を使ひて率(おおむ)ね以て山中に之かしめ、草木の実を求む
③老狙をして率(とら)へしめて以て山中に之き、草木の実を求む
④使(も)し老狙率ゐて以て山中に之かば、草木の実を求む
⑤老狙をば率(とら)へて以て山中に之き、草木の実を求めしむ

問3 傍線部B「山之果、公所樹与」の書き下し文とその解釈との組合せとして最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①山の果は、公の樹(う)うる所か
 山の木の実は、猿飼いの親方が植えたものか
②山の果は、公の所の樹(き)か
 山の木の実は、猿飼いの親方の土地の木に生(な)ったのか
③山の果は、公の樹(う)ゑて与ふる所か
 山の木の実は、猿飼いの親方が植えて分け与えているものなのか
④山の果は、公の所に樹(う)うるか
山の木の実は、猿飼いの親方の土地に植えたものか
⑤山の果は、公の樹(う)うる所を与ふるか
 山の木の実は、猿飼いの親方が植えたものを分け与えたのか

問4 傍線部C「惟其昏而未覚也」の解釈として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①ただ民たちが疎くてこれまで気付かなかっただけである
②ただ民たちがそれまでのやり方に満足していただけである
③ただ猿たちがそれまでのやり方に満足しなかっただけである
④ただ猿飼いの親方がそれまでのやり方のままにしただけである
⑤ただ猿飼いの親方が疎くて事態の変化にまだ気付いていなかっただけである

問5 次に掲げるのは、授業の中で【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】について話し合った生徒の会話である。これを読んで、後の(i)~(iii)の問いに答えよ。
生徒A 【文章Ⅰ】のエピソードは、有名な故事成語になっているね。
生徒B それって何だったかな。(X)というような意味になるんだっけ。
生徒C そうそう。もう一つの【文章Ⅱ】では、猿飼いの親方は散々な目に遭っているね。【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】とでは、何が違ったんだろう。
生徒A 【文章Ⅰ】では、猿飼いの親方は言葉で猿を操っているね。
生徒B 【文章Ⅱ】では、猿飼いの親方はむちで猿を従わせているよ。
生徒C 【文章Ⅰ】では、猿飼いの親方の言葉に猿が丸め込まれてしまうけど……。
生徒A 【文章Ⅱ】では、(Y)が運命の分かれ目だよね。これで猿飼いの親方と猿との関係が変わってしまった。
生徒B 【文章Ⅱ】の最後で郁離子は、(Z)と言っているよね。
生徒C だからこそ、【文章Ⅱ】の猿飼いの親方は、「其の術窮せん。」ということになったわけか。

(i) (X)に入る有名な故事成語の意味として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① おおよそ同じだが細かな違いがあること
② 朝に命令を下し、その日の夕方になるとそれを改めること
③ 二つの物事がくい違って、話のつじつまが合わないこと
④ 朝に指摘された過ちを夕方には改めること
⑤ 内容を改めないで口先だけでごまかすこと

(ii) (Y)に入る最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 猿飼いの親方がむちを打って猿をおどすようになったこと
② 猿飼いの親方が草木の実をすべて取るようになったこと
③ 小猿が猿たちに素朴な問いを投げかけたこと
④ 老猿が小猿に猿飼いの親方の素性を教えたこと
⑤ 老猿の指示で猿たちが林の中に逃げてしまったこと

(iii)  (Z)に入る最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 世の中には「術」によって民を使うばかりで、「道揆」に合うかを考えない猿飼いの親方のような者がいる
② 世の中には「術」をころころ変えて民を使い、「道揆」に沿わない猿飼いの親方のような者がいる
③ 世の中には「術」をめぐらせて民を使い、「道揆」を知らない民に反抗される猿飼いの親方のような者がいる
④ 世の中には「術」によって民を使おうとして、賞罰が「道揆」に合わない猿飼いの親方のような者がいる
⑤ 世の中には「術」で民をきびしく使い、民から「道揆」よりも多くをむさぼる猿飼いの親方のような者がいる

【書き下し文】
※音読のためルビと送りがなの歴史的かなづかいは今のかなづかいに変更したという。
楚に狙を養いて以て生を為す者有り。楚人之を狙公と謂う。旦日必ず衆狙を庭に部分して、
老狙をして率ひて以て山中に之き、草木の実を求めしむ。什の一を賦して以て自ら奉ず。或いは給せずんば、則ち鞭箠(べんすい)を加う。群狙(ぐんそ)皆畏れて之に苦しむも、敢えて違わざるなり。一日(じつ)、小狙有りて衆狙に謂いて曰わく、「山の果は、公の樹(う)うる所か。」「否(しから)ざるなり。天の生ずるなり。」と。曰わく、「公に非ずんば得て取らざるか。」と。曰わく、「否ざるなり。皆得て取るなり。」と。曰わく、「然らば則ち吾何ぞ彼に仮(か)りて之が役を為すか。」と。言未だ既(つ)きざるに、衆狙皆寤(さ)む。其の夕、相い与に狙公の寝(い)ぬるを伺い、柵を破り柙(おり)を毀(こぼ)ち、其の積を取り、相い携(たずさ)えて林中に入り、復た帰らず。狙公卒に餒(う)えて死す。
 郁離子(いくりし)曰わく、「世に術を以て民を使いて道揆(どうき)無き者有るは、其れ狙公のごときか。惟だ其れ昏(くら)くして未だ覚(さ)めざるなり。一旦之を開くこと有らば、其の術窮(きゅう)せん。」と。

※注
・惟だ其れ~—~のためなのだ。「惟其」は「其」以後に示される原因をあらわす熟語。
 「其」以前の内容を示す指示語ではないので、「其(そ)の」とは読まない。

【現代語訳】
楚にサル(狙)を飼って生計をたてている者がいた。楚人は彼を狙公(そこう)と呼んだ。彼は毎朝、庭でサルたちをグループに分け、年長のサルに統率させて山に入らせ、草や木の実を探させた。狙公はその十分の一を取り上げて自分の食い扶持(ぶち)とした。実を取れないサル
がいるとムチ打った。サルたちは恐れ、この仕打ちに苦しんでいたが反抗しようとはしなかった。ある日、小ザルがみんなに言った。
「山の果実は、狙公が植えたものか?」
「そうではない。天が生んだのだ。」
「狙公でなければ取ることはできないのか?」
「そうではない。誰でも取ることができる。」
「それならばどうして私はあの人の代わりに実を取るのか?」
小ザルの言葉が終わらない前に、サルたちはみんな気がついた。その夜、狙公が寝たのをみんなで確かめ、柵を破り檻をこわし、蓄えられた果実を取り、手に手を取って林に入り、二度と戻らなかった。その結果、狙公は飢え死にした。
 郁離子は言う。
「術を用いて不合理に民衆を使う者は、狙公と同じだ! 人々は知識がなくまだわからないだけなのだ。からくりがわかってしまえば、その術は使えなくなるだろう。」と。

※訳注
・仮―(仕事を)代わりに行う。
・役―「労≒役」→仕事
・復た~ず―二度と~しない
・其如~乎(それ~のごときか)―~にほかならない! 「乎(か)は疑問詞ではなく感嘆詞。
・昏―知識がない。熟語:昏迷(こんめい)
・開―知識を得る。熟語:開明

【解答】
問1 (1) ②  (2)④
問2 ①
問3 ①
問4 ①
問5 (i) ⑤ (ii)③  (iii)①

(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、
 付録『共通テスト漢文攻略マニュアル+私大&記述対策』、1991年[2020年版]、73頁~82頁)



≪故事成語~菊地隆雄『漢文必携』より≫

2023-12-10 18:30:30 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪故事成語~菊地隆雄『漢文必携』より≫
(2023年12月10日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、次の副教材から、故事成語についてみてゆきたい。
〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
 目次を参照してもらえばわかるように、「【資料編】5 故事成語」には、代表的な故事成語が列挙されている。
 そのうち、次の故事成語に関しては、出典漢文が引用してある。
・青は藍より出でて藍より青し<荀子>
・杞憂<列子>
・虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
・助長<孟子>
・舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>

数多くの故事成語に接して、漢文の句形やその意味を知ってほしい。
(返り点は入力の都合上、省略した。白文および書き下し文から、返り点は推測してほしい。)
 国語力とは、最終的には語彙力が基礎となるから。

〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]



【菊地隆雄ほか『漢文必携』(桐原書店)はこちらから】
菊地隆雄ほか『漢文必携』(桐原書店)







〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
【目次】
本書の特色・凡例
【基礎編】
1 漢文とは何か
2 漢語の構造
3 訓読のしかた
4 書き下し文
5 再読文字
6 返読文字
7 漢文特有の構造
8 漢文の読み方

【句形編】
1 単純な否定形・禁止形
2 部分否定形
3 二重否定形
4 疑問形
5 反語形
6 詠嘆形
7 使役形
8 受身形
9 仮定形
10 限定形
11 累加形
12 比較形
13 選択形
14 比況形
15 抑揚形
16 願望形
17 倒置形

【語彙編】
・<あ>悪・安~<わ>或
・「いフ」と読む字
・「つひニ」と読む字
・「すなはチ」と読む字
・「また」「まタ」と読む字
・繰り返し読む副詞
・所謂(いはゆる)など
・以是(これをもつて)など

【読解編】
1 構文から読解へ
2 読解へのステップ
 ①故事・寓話 ②漢詩 ③史伝 ④思想 ⑤文章

【資料編】
1 漢詩の修辞
2 史伝のエピソード
3 思想
4 文学
5 故事成語
6 漢文常識語





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


【故事成語】(出典漢文あり)
・青は藍より出でて藍より青し<荀子>
・杞憂<列子>
・虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
・助長<孟子>
・舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>

【故事成語】
【故事成語の意味】







故事成語


5故事成語

出典漢文あり
青は藍より出でて藍より青し<荀子>
 学不可以已。青取之於藍、而
青於藍、氷水為之、而寒於水。…
君子博学、而日参省乎己、則智
明而行無過矣。

【意味】
学問は途中でやめてはならない。青色は藍草からとるが、藍草よりも青く、氷は水からできるが、水よりも冷たい。…学問修養に志す人が広く学問を学び、日々何度も自分を反省すれば、知恵が確かなものになり、行いにも過ちがなくなる。

杞憂<列子>
杞国、有人憂天地崩墜、身亡
所寄、廃寝食者。又有憂彼之所
憂者。因往暁之曰、「天積気耳。…
奈何憂崩墜乎。」…其人舎然大
喜。

【意味】
杞の国に、天地が崩れ落ちたら、身の置き所がないと心配し、寝られもせず、食べ物も喉を通らない者がいた。さらにまた、その人が心配していることを心配する者がいた。そこで出かけていって、「天はたくさん集まった大気にすぎない。…天が崩れ落ちることを心配することなどない。」と言い聞かせた。…その人は心がすっきり晴れ晴れとして大いに喜んだ。

虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
不入虎穴、不得虎子。当今之
計、独有因夜以火攻虜、使彼不
知我多少。必大震怖、可殄尽也。

【意味】
(班超の言葉)虎のいる穴に入らなければ、虎の子を手に入れることはできない。今とりうる策は、夜の間に乗じ火を放って匈奴を攻め、敵に我らの人数が少ないことを悟らせないことしかない。そうすれば敵を大いに震え恐れさせて、きっと全滅させることができるだろう。

助長<孟子>
宋人有閔其苗之不長而揠
之者。茫茫然帰、謂其人曰、「今日
病矣。予助苗長矣」其子趨而往
視之、苗則槁矣。

【意味】
宋の国の人で、自分の田の苗が伸びないのを心配して苗のしんを引っ張った者がいた。すっかり疲れて帰ってきて、家の人に「今日は疲れてしまった。わたしは苗が伸びるのを助けてやったよ。」と言う。その子が(変に思って)走って田に行ってみると、苗はみな枯れてしまった。

舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>
楚人有渉江者。其剣自舟中
墜於水。遽刻其舟曰、「是吾剣之
所従墜。」舟止。従其所刻者、入水
求之。舟已行矣。而剣不行。求剣
若此、不亦惑乎。

【意味】
楚の国の人で、長江を渡る者がいた。その剣が舟の中から水に落ちた。あわててその舟ばたに目印をつけて言うことには、「ここが私の剣が落ちた所だ。」と。舟が止まった。その目印をつけた所から水中に入って、剣を探した。舟はすでに動いてしまっている。しかし、剣は動いていない。剣を探し求めるのに、このようにするのはなんと見当違いなことではないだろうか。






故事成語


青は藍より出でて藍より青し<荀子>
圧巻<直斎書録解題 >
羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く<楚辞>
石に漱(くちすす)ぎて流れに枕す<世説新語>
衣食足れば則ち栄辱を知る<管子>
一炊の夢<枕中記>
井の中の蛙、大海を知らず<荘子>
韋編三絶(いへんさんぜつ)<史記>
燕雀安くんぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや<十八史略>
温故知新<論語>
蝸牛(かぎゅう)角上の争い<荘子>
臥薪嘗胆(がしんしょうたん)<十八史略>
苛政は虎よりも猛なり<礼記>
隔靴搔痒(かっかそうよう)<無門関>
瓜田に履(くつ)を納(い)れず<古楽府(こがふ)>
鼎(かなえ)の軽重(けいちょう)を問う<春秋左氏伝>
画竜(がりょう)点睛を欠く<歴代名画記>
汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)<柳宗元「陸文通先生墓表」>
換骨奪胎<冷斎夜話>
完璧<史記>
管鮑(かんぽう)の交わり<十八史略>
木に縁(よ)りて魚を求む<孟子>
杞憂<列子>
牛耳を執(と)る<春秋左氏伝>
九仭(きゅうじん)の功を一簣(いっき)に虧(か)く<書経>
漁父(ぎょほ、ぎょふ)の利<戦国策>
鶏口と為るも牛後と為る無かれ<史記>
蛍雪の功<晋書>
鶏鳴狗盗<史記>
逆鱗に触れる<韓非子>
後世畏(おそ)るべし<論語>
呉越同舟<孫子>
虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
五十歩百歩<孟子>
塞翁(さいおう)が馬<淮南子(えなんじ)>
四面楚歌<史記>
助長<孟子>
水魚の交わり<三国志>
推敲<唐詩紀事>
杜撰<野客叢書>
守株(しゅしゅ)<韓非子>
人口に膾炙(かいしゃ)す<林嵩「周朴詩集序」>
多岐亡羊(たきぼうよう)<列子>
他山の石<詩経>
蛇足<戦国策>
知音(ちいん)<列子>
朝三暮四<列子>
登竜門<後漢書>
蟷螂(とうろう)の斧<韓詩外伝>
泣いて馬謖(ばしょく)を斬る<三国志>
鶏を割くに焉(いず)くんぞ牛刀を用いん<論語>
背水の陣<史記>
白眼視<晋書>
白眉<三国志>
舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>
刎頸(ふんけい)の交わり<史記>
墨守<戦国策>
先ず隗(かい)より始めよ<十八史略>
矛盾<韓非子>
孟母三遷<列女伝>
羊頭狗肉(くにく)<無門関>
洛陽の紙価貴し<晋書>
梁上(りょうじょう)の君子<後漢書>
和光同塵(どうじん)<老子>






【故事成語の意味】


青は藍より出でて藍より青し<荀子>
弟子が師よりも優れていること。
※「出藍(しゅつらん)の誉れ」ともいう。

圧巻<直斎書録解題 >
①多くの詩文中最も優れたもの。
②書物や催し物で最も優れた部分。
※科挙(=中国の官吏登用試験)で、最優秀の答案をほかの答案の上にのせたことから。

羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く<楚辞>
失敗に懲りて必要以上に警戒心を強めること。
※熱い吸い物でやけどをした者がそれに懲りて、冷たいなますでも息を吹きかけて食べたことから。

石に漱(くちすす)ぎて流れに枕す<世説新語>
負け惜しみが強いこと。
※晋の孫楚が「石に枕し流れに漱ぐ」と言うべきところを言い違え、「流れに枕するのは耳を洗うため、石に漱ぐのは歯を磨くためだ」とこじつけて言ったことから。

衣食足れば則ち栄辱を知る<管子>
人は生活が安定してみてはじめて、名誉や恥を知るようになること。
「衣食足りて礼節を知る」のもと。

一炊の夢<枕中記>
人生の栄華のはかないこと。
※盧生(ろせい)という青年が、邯鄲(かんたん)の町で黄梁(こうりょう=粟)の炊ける間に一生涯の夢を見たことから。
「邯鄲の夢」「黄梁一炊の夢」ともいう。

井の中の蛙、大海を知らず<荘子>
見聞・見識の狭いこと。ひとりよがり。

韋編三絶(いへんさんぜつ)<史記>
書物を繰り返し読むこと。
※孔子が『易経』を愛読してなめし革(=韋)のとじ紐が何度も切れたことから。


燕雀安くんぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや<十八史略>
小人物には大人物の気持ちがわからないこと。
※燕や雀のような小鳥には白鳥のような大きな鳥の心は理解できないことから。

温故知新<論語>
昔のことを研究して、そこから新しい知識や道理を見いだすこと。

蝸牛(かぎゅう)角上の争い<荘子>
つまらない争い。狭い世界での争い。
※蝸牛(かたつむり)の角の右と左とにいる者が戦って死者を多く出したという寓話から。

臥薪嘗胆(がしんしょうたん)<十八史略>
①復讐のため長い間苦労すること。
②将来の成功のため長い間苦労すること。
※呉王の夫差が越に対する恨みを忘れないように薪(たきぎ)の上に寝たことと、越王の勾践が呉から受けた恥を忘れないように苦い胆(きも)を嘗めたことから。

苛政は虎よりも猛なり<礼記>
厳しく残酷な政治は虎よりも恐ろしいということ。

隔靴搔痒(かっかそうよう)<無門関>
はがゆいこと。
※靴の外側から、足のかゆいところをかくということから。

瓜田に履(くつ)を納(い)れず<古楽府(こがふ)>
人から疑われるような行動はしない方がよいということ。
※瓜の畑で靴が脱げても、無用な疑いを招かないように靴のひもを結んだりするなということから。
「李下(りか)に冠を正さず」と同じ。

鼎(かなえ)の軽重(けいちょう)を問う<春秋左氏伝>
①王位をねらう下心があること。
②人の実力を疑うこと。
※天下への野心がある楚の荘王が、周の定王に周の宝である鼎の重さを尋ねたことから。


画竜(がりょう)点睛を欠く<歴代名画記>
最後の肝心な仕上げを欠くこと。
※竜を描いて最後にひとみを書き入れないことから。

汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)<柳宗元「陸文通先生墓表」>
蔵書が多いこと。
※車に積んで牛に引かせると牛が汗まみれになるほど、また家の棟木に届くほど、書物が多いことから。

換骨奪胎<冷斎夜話>
他人の詩や文をもとにして自分の創意を加え、新しく作品を作ること。

完璧<史記>
完全で欠けたところがないこと。
※藺相如(りんしょうじょ)が璧(たま)を無傷のまま持ち帰ったことから、「璧を完(まっと)うす」ともいう。

管鮑(かんぽう)の交わり<十八史略>
利害を越えた親密な交友のこと。
※管仲(かんちゅう)と鮑叔(ほうしゅく)の交友から。

木に縁(よ)りて魚を求む<孟子>
手段を間違えては何事も不可能なこと。

杞憂<列子>
取り越し苦労。無用な心配。
上記に資料

牛耳を執(と)る<春秋左氏伝>
集団の中心になって、自由に人を動かすこと。
※諸侯が同盟を結ぶ際に、盟主が牛の耳を切り、その血を回し飲みしたことから、「牛耳る」ともいう。

九仭(きゅうじん)の功を一簣(いっき)に虧(か)く<書経>
積み重ねてきた努力が、ちょっとした失敗一つでだめになってしまうこと。
以前のブログ、囲碁に関連して

漁父(ぎょほ、ぎょふ)の利<戦国策>
両者が争っている間に第三者が利益を得てしまうこと。
※蚌(ぼう、どぶがい)と鷸(いつ、しぎ)が争っている間に漁師が両方を捕まえたことから、「漁夫の利」ともいう

鶏口と為るも牛後と為る無かれ<史記>
大きな団体の末端につくより、小さな団体でもリーダーになるほうがよいこと。
※戦国時代の遊説家、蘇秦の言葉から。

蛍雪の功<晋書>
苦学して成果を上げること。
※車胤(しゃいん)が蛍の光で、孫康が雪明かりでそれぞれ読書し、後に成功したことから。

鶏鳴狗盗<史記>
つまらない技芸を持った人のこと。
※斉の孟嘗君(もうしょうくん)が、鶏の鳴きまねのうまい男と犬(=狗)のように巧みにしのび込み物を盗む男を利用して難を逃れたことから。

逆鱗に触れる<韓非子>
君主の怒りを買うこと。目上の人に厳しくしかられること。
※竜の喉元にある逆さに生えた鱗(うろこ)に触ると、竜が怒って人を殺すということから。

後世畏(おそ)るべし<論語>
若い人は努力次第で大いに進歩向上するので、その進歩はおそれ敬うべきものがあるということ。

呉越同舟<孫子>
仲の悪い者どうしが同じ場所にいること。
※仲の悪い呉の人と越の人が同じ舟に乗り合わせたことから。

虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
危険を冒さなければ大きな成果を上げることはできないこと。
上記の資料

五十歩百歩<孟子>
ほとんど違いがないこと。
※戦場で五十歩逃げるのも百歩逃げるのも同じであることから。

塞翁(さいおう)が馬<淮南子(えなんじ)>
人生の幸不幸や吉凶は予測がつかないこと。
※国境付近に住む老人の馬が一度逃げたが、その後名馬を連れて戻ってきたこと、また彼の息子が落馬して骨折したが、そのおかげで戦争に行かずに済んだことから。
「人間(じんかん)万事塞翁が馬」ともいう。「禍福(かふく)は糾(あざな)える縄のごとし」と同じ。

四面楚歌<史記>
自分の周囲がみな敵であること。
※楚の項羽が垓下(がいか)で漢の劉邦(りゅうほう、=沛公)の軍に囲まれたとき、劉邦の軍が項羽の出身地である楚の国の歌を歌うのを聞いて、驚き悲しんだことから。

助長<孟子>
不要な助けをしたために、かえって悪い状態にしてしまうこと。
上記の資料

水魚の交わり<三国志>
極めて親密な付き合い、間柄。
※蜀の劉備が、諸葛亮(しょかつりょう)との交際についていった言葉から。

推敲<唐詩紀事>
詩や文を作るとき、字句を何度も練り直すこと。
※詩人の賈島(かとう)が自分の詩の一句に「推」と「敲」の字のどちらを使うかで迷ったことから。

杜撰<野客叢書>
いい加減なこと。間違いの多いこと。
※詩人の杜黙(ともく)が撰(せん)した(=作った)詩に、作詩上の規則に合わないものが多かったことから。

守株(しゅしゅ)<韓非子>
古い習慣にとらわれて融通のきかないこと。
※農夫が木の切り株に当たった兎を手に入れたため、もう一度同じことがあるのではないかと切り株の番をしたことから。「株(かぶ)を守る」ともいう。

人口に膾炙(かいしゃ)す<林嵩「周朴詩集序」>
世間に広く知れわたること。
※膾(=なます)と炙(=あぶり肉)は誰からも喜ばれることから。

多岐亡羊(たきぼうよう)<列子>
①学問の道が多方面にわたり、真理を見失うこと。
②方針が多くあり迷うこと。
※逃げた羊を探す者が、分かれ道(=岐)が多くて見つけられなかったことから。

他山の石<詩経>
どんなつまらないものでも自分を磨くのに役立つこと。
「他山の石以(もっ)て玉を攻(おさ)むべし」から

蛇足<戦国策>
よけいな付け足し。
※楚の国で蛇を早く描く競争をしたところ、早く描いた人が蛇に足を描き加えたために負けてしまったことから。

知音(ちいん)<列子>
自分のことをよく理解してくれる人、親友。
※春秋時代、鐘子期(しょうしき)が伯牙(はくが)の弾く琴の音色で彼の心境をよく理解したことから。

朝三暮四<列子>
①目先の違いにとらわれて、同じ結果になることに気がつかないこと。
②ごまかすこと。
※宋の狙公(そこう)という者が猿にえさをやるのに、朝三個夜四個と言ったら猿が怒ったが、朝四個夜三個と言ったら猿が喜んだから。

登竜門<後漢書>
立身出世のための難しい関門。
※黄河上流の竜門は急流の難所で、ここを登りきった鯉は竜になるという伝説があることから。

蟷螂(とうろう)の斧<韓詩外伝>
自分の力量を考えずに強敵に向かうこと。
※蟷螂(かまきり)が前足を挙げて馬車に立ち向かったことから。

泣いて馬謖(ばしょく)を斬る<三国志>
規律を守るために、私情を断ち切って処罰すること。
※蜀の諸葛亮が命令に背いて失敗した罪を責め、泣きながら部下の馬謖を斬ったことから。

鶏を割くに焉(いず)くんぞ牛刀を用いん<論語>
小さな事を処理するのに、大人物を起用したり大げさな方法をとったりする必要はない。
※鶏を料理するのに牛を解体するような大きな包丁を使う必要はないという孔子の言葉から。

背水の陣<史記>
決死の覚悟で事に当たること。
※韓信(かんしん)が、わざと川を背にして陣を張り、勝利を収めたことから。

白眼視<晋書>
人を冷たい目で見ること。
※阮籍(げんせき)が、好ましい人には青眼(=黒目)で、気に入らない俗人には白眼(=白目)を向けて応対したことから。

白眉<三国志>
多くの中で最も優れている人や物。
※蜀の国に五人の優れた兄弟がいて、最も優れていた長男の眉に白い毛があったことから。

舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>
時の推移に気づかず、融通がきかないこと。
上記の資料

刎頸(ふんけい)の交わり<史記>
非常に親密な交際。
※廉頗(れんぱ)と藺相如(りんしょうじょ)が頸(くび)を刎(は)ねられても悔いがないほどの親交を結んだことから。

墨守<戦国策>
自説を固く守って変えないこと。
※墨子が公輸盤(こうしゅばん)との模擬戦争で、九度の攻撃から城を守ったことから。

先ず隗(かい)より始めよ<十八史略>
①大きな事業を行うにはまず身近なことから始めるのがよい。
②何事も言い出した者から実行せよ。
※郭隗(かくかい)が「優れた人材を集めたいなら、まずこの私を優遇せよ」と燕の昭王に述べたことから。

矛盾<韓非子>
つじつまの合わないこと。
※矛と盾を売っている人がその両方を自慢したため、話のつじつまが合わなくなってしまったことから。

孟母三遷<列女伝>
教育には環境が大事ということ。
※孟子の母が子のために三度転居し学校の近くに住んだことから。

羊頭狗肉(くにく)<無門関>
見かけと内容が異なること。
※店頭に羊の頭を掲げながら、実際には狗(いぬ)の肉を売ることから。

洛陽の紙価貴(たか)し<晋書>
著書がもてはやされ、よく売れること。
※晋の左思(さし)の文章「三都賦(さんとのふ)」を洛陽の人々が先を争って書き写したために紙の値段が上がったことから。

梁上(りょうじょう)の君子<後漢書>
盗賊のこと。
※後漢の陳寔(ちんしょく)が梁(はり)の上の盗賊を指し、「梁上の君子」と言ったことから。

和光同塵(どうじん)<老子>
自分の知恵を包み隠して俗世間に同化していくこと。
※「其(そ)の光を和らげ、其の塵(ちり)を同(どう)ず」から。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、182頁~186頁)