歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の布石~結城聡氏の場合≫

2024-12-01 18:00:11 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~結城聡氏の場合≫
(2024年12月1日)
 

【はじめに】


 本日12月1日の第72回NHK杯2回戦は、河野臨九段(黒番)と結城聡九段(白番)の対局で、司会は安田明夏さん、解説はマイケル・レドモンド九段という豪華な顔ぶれだった。
 レドモンド九段は、結城九段の棋風を評して、碁盤全体をつかった攻めに特徴があると言われた。確かに、石の働きを追求する棋風で、“武闘派”とも呼ばれ、攻めの得意な棋士が結城聡九段である。

 さて、今回のブログでは、囲碁の布石について、その結城聡九段の著作を参考にして、考えてみたい。
〇結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年
 この本は、数年前に知り合いのOさんから、図版も豊富でわかりやすく解説してある本だから、一読するように勧められた本である。そういう経緯があるので、ようやく紹介することができて、積年の“宿題”を果たせて、安堵している。
 目次を見てもわかるように、「第1章 基本編~序盤の目的」では、布石の目的、隅や三々や小目の特徴について、図版を交えながら、丁寧に解説してある。
 第2章から第4章までも基本編として、ヒラキ、攻めと根拠、厚みについて説明し、第5章および第6章では応用編として、実戦での序盤として、定石の応用、布石の一貫性、大ゲイマガカリについて、そして打ち込みや荒らしについて、解説している。
 加えて、コラムも読みごたえがあり、例えば、「上達するための3要素」(102頁)などは、囲碁に興味がある人は誰でも関心があるテーマであろう。
 また、「囲碁の用語解説」も付記されており、改めて参考になる。
 例えば、「サバキとは何ですか?」と、囲碁を知らない人に尋ねられたら、返答に窮するのではあるまいか。「サバキはツケよ」とか「サバキは軽く」といった具体的なイメージはつくにしても、きちんと言葉で「サバキ」を説明するには、この「囲碁の用語解説」が役に立つであろう。
 ちなみに、著者は、「サバキとは、相手の勢力圏で、自分の弱い石を厳しく攻められないようにすること」(8頁)といい、また、「石を攻められないように形を整えること」(178頁)という。
(S君、このブログを読んでくれてますか? 囲碁に興味があるなら、この本から読み始めることを、私もお勧めします)

【結城聡氏のプロフィール】
・兵庫県神戸市出身。昭和47年生まれ。関西棋院に所属。
・佐藤直男九段門下。昭和59年3月に入段し、平成9年4月に九段へ昇段。
・第36期天元位、第51期十段位、NHK杯5回優勝、テレビ囲碁アジア選手権戦準優勝。
・2007年度には、NHK囲碁講座の講師を務める。



【結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版はこちらから】




〇結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年

本書の目次は次のようになっている。
【目次】Contents
はじめに
本書の使い方
●おさらいしよう! 囲碁の用語解説①
第1章 基本編~序盤の目的
 布石の目的
 隅の効果
 隅の打ち方
 隅の特徴
 三々の特徴
 小目の特徴
 相手の隅へのカカリ
 カカリの方向と布石作戦
 実力チェック 問題1 解答解説

第2章 基本編~ヒラキの基本
 ヒラキの価値
 二間ビラキ
 段違いの三間ビラキ
 ヒラキの目安
 三線と四線の目安
 ワリ打ち
◎コラム「AIが囲碁の打ち方を変える!」
 実力チェック 問題1~3 解答解説

第3章 基本編~攻めと根拠
 攻めと戦い
 相手の石を封鎖
 ツメで根拠を奪う
 カカリへのハサミ
 ハサミ
◎コラム「上達するための3要素」
 実力チェック 問題1~3 解答解説

第4章 基本編~厚みを学ぶ
 厚みの考え方
 厚みのけん制
 強くない厚み
◎コラム「棋士という仕事」
 実力チェック 問題1~4 解答解説

第5章 応用編~実戦での序盤
 布石は判断と選択
 トビカケの定石
 模様を広げる手順
 定石の応用
 攻めの方向
 布石の一貫性
 カカリの使い分け
 小ゲイマガカリ
 大ゲイマガカリ
 模様の接点
◎コラム「試合とその種類」
 実力チェック 問題1~4 解答解説

第6章 応用編~序盤を制する技術
 攻めの打ち込み
 地を荒らす打ち込み
 三々への打ち込み
 辺への荒らし
 狙いのあるツメ
 先手を生かす
 ◎コラム「囲碁の歴史」
 実力チェック 問題1~4 解答解説
●おさらいしよう! 囲碁の用語解説②



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・「はじめに」の要
・コラム「上達するための3要素」より
・囲碁の用語解説
・第1章 基本編~序盤の目的
・相手の隅へのカカリ~第1章 基本編
・カカリの方向と布石作戦~第1章 基本編
・二間ビラキ~第2章 基本編
・厚みの考え方~第4章 基本編
・布石は判断と選択~第5章 応用編
・布石の一貫性~第5章 応用編
・大ゲイマガカリ~第5章 応用編
・第6章 応用編~地を荒らす打ち込み
・第6章 応用編~三々への打ち込み
・【補足】結城聡氏の実戦譜(vs片岡聡)~依田紀基『基本布石事典 上』より
・【補足】結城聡氏の実戦譜(vs小林覚)~依田紀基『基本布石事典 下』より



「はじめに」の要点


・囲碁のルールはとても簡単。
 しかし初級者の多くは、あまりにもルールがシンプルなため、打ち方の自由度が高過ぎて何を考えればよいのか迷ってしまう。
 実は、碁は絶対的な正解がない場面がほとんどである。
 特に布石は、100点の手があちらこちらにあり、80点以上でも合格にするなら、大体どこに打ってもそれなりになることが多い。

〇布石を楽しむには、次の3つをできるようになること。
①現在の状況を判断すること。
②その状況に合わせて、自分なりの構想を立てること。
③自分の構想を実現するための、着手を選ぶこと。
 自分で考えることに慣れ、ちょっとコツをつかむだけでできるようになるという。

・よく「碁が強くなるには、たくさんの定石を覚えなければならないのでは?」と聞かれる。
 しかし、定石は自分の考えを実現するための手助けに過ぎないという。
 たくさんの定石の手順を暗記するだけでは意味がない。
 布石を上達させるためには、定石でできあがった形の意味を知ることのほうが大切。
 また、一手一手の意味をしっかり理解することで、一局を通して応用の利く読みの力を身につけることもできる。

・一局の碁は、人生にたとえることができるそうだ。
 特に布石は、「正解がない状況で、自分なりに考えて判断する」ということが似ている。
 布石の段階では、自由に構想を立て、判断することが何よりも大切だという。
(この楽しみを知ってもらえば、きっと囲碁の奥深い魅力に引き込まれるらしい)
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、2頁)

◎コラム「上達するための3要素」より


・「どうすれば強くなれますか?」 囲碁を覚えて少し楽しくなってくると、誰もが必ず思うことである。
 この質問への答えも決まっているそうだ。
 「プロの棋譜を並べる」
 「詰碁を解く」
 「実戦を積む」
 誰に聞いても返ってくる答えは、概ねこの3つである。
(「定石を覚える」というのは棋譜並べに近い要素になる。手筋などの問題を解くことは「詰碁」に含まれると言ってよい)
※本書のような布石の本を読むことは、棋譜を並べることの入り口にあたる。

・人によってどの勉強が効果的かは変わってくるが、大切なことは「適正なレベル」の勉強をすることである。
 少し考えたら解けるくらいの問題、少なくとも解くための手がかりくらいはわかるような問題を、繰り返し解くほうが力がつく。
・実戦を積む場合でも、10回対局して10勝したり、逆に10敗したりするような打ち方をしていても、なかなか強くならない。置き碁でも、10回打てば3~7勝くらいになる適正なハンデキャップで対局するのがよい。

◎自分の棋風に合うようなプロを見つける
・棋譜並べは少し趣が変わる。これは強い人の碁を並べることで、盤上のどこが大きいかをつかむ感覚を磨く練習である。
・もしも自分の棋風に合うようなプロを見つけることができれば、幸運である。
 あとは、その人の碁を繰り返し並べるのがよい。

※ただ、最近のプロの棋譜は、世界戦やAIの影響を受けていて、序盤から深い読みを必要とする難解な碁が多いので、並べても意味がよくわからないかもしれないという。
 だから、解説のついている碁を探したり、少し昔の碁や江戸時代の古碁などを並べるのも有効だとする。
 強い人がなぜそこに打ったのかを考え、大きさの感覚を感じることで、上達の効果が上がる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、102頁)

囲碁の用語解説


〇囲碁の用語解説についても、触れてある。改めて、囲碁用語を問われると、答えにとまどいを覚えることも多い。以下、勉強になったものを一部紹介しておく。
・厚み…広い空間に対して、影響力の強い形のこと。
・打ち込み…相手のヒラキや地の中に単独で入っていくこと。
  相手の地を荒らしたり、相手を分断したりする目的で打たれる。
・エグる…相手の地や根拠を、その内側深くまで入り込んで荒らすこと。
・大場・急場…大場は自分の地になりそうな所を広げる手。急場は石の根拠に関わる手。
・コスミツケ…味方の石からナナメに打つコスミの形で、相手の石に接触する手。
・根拠…相手の勢力の中で孤立した石が、攻められても二眼を作ることができるようなスペース。
・サバキ…相手の勢力圏で、自分の弱い石を厳しく攻められないようにすること。
・スソ空き…碁盤の端の二線や一線の囲いが十分でないため、相手に入り込まれる隙が残っている状態。
・スベリ…相手の地などに、二線などの位の低いところから入ること。エグりよりは浅い感じ。
・競り合い…お互いの根拠のない石が、戦いながら中央に向かっていくような流れ。
・脱出…相手の石に囲まれてしまいそうな自分の石を、連絡しながら中央方面へ出て行くこと。
・断点…石のつながりが切られる心配のある場所のこと。
・ノビ…自分の石の隣に打つこと。連絡が確実だが、スピードは遅い。
  周囲の石の状況によって、サガリ、ハイ、オシなどと言う場合もある。
・ハネ出し…相手の連絡の薄みを突いて、分断したり相手の応手を強要したりする手筋。
・封鎖…隅や辺にいる相手の石を、周囲や中央へ出られないように止めること。
・ボウシ…相手の石から中央の方向へ、一路空けて自分の石を打つこと。
  相手の模様を制限したり、相手の石の進行を止める効果がある。
・連絡…石が相手に分断される心配がなくなること。石は連絡すると強くなることが多い。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、8頁、239頁)

第1章 基本編~序盤の目的


【布石の目的】
<ここでの視点!>
・碁を打ち始めたら、まず布石を打つ。 
 布石ですぐに負けになることはあまりなく、自由に打てるのが魅力。
 しかし、ある程度、効率よく打つ必要はある。
<石の効率>
・布石では、効率よく相手よりも大きな領域を制していくことを最初の目標とする。
・布石は空白の碁盤に、自分の領域を切り拓いていくものである。
〇地になりやすい隅から辺へと展開する。
・地を作るには、隅が効率のよい場所である。
 はじめのうちは、星を占めれば簡明。
・隅を占めたら、その次は辺へ展開する。その後は展開によって中央を占める。
※布石は、はじめの領域作りである。

【隅の効果】
<ここでの視点!>
・布石は自由度が高いため、多少はセオリーから外れた手を打っても、大丈夫。
・しかし、効率の悪い手をいくつも重ねると、少しずつ差がついてしまう。
<隅と辺の差>
・隅は一手である程度の空間を自分の勢力圏にすることができるが、辺に地を作るのは手間がかかる。
・隅のほうが辺よりも地になりやすいので、有利な布石。
(あとをうまく打てるなら、辺や中央を序盤から占める打ち方もある)
※囲碁は盤上に大きく地を作るゲームである。
 まず隅に先着することで、大きな地を作りやすくなる。
 隅と辺の地を作るときの効率の違いに注目してほしい。

【隅の打ち方】
<ここでの視点!>
・まず、隅を占めるのが効率がよいことはわかったであろう。
・その次は、具体的に隅のどこに打つのがよいか、それぞれの着点の特徴について説明しよう。
<星とその周辺から>
・空いている隅(空き隅)を占めるときに、最もよく打たれているのが、碁盤に印がついている星である。
・他に、星の周辺がよく打たれている。はじめは、星と小目、三々の3つを知っていればよく、基本である。その他に、目外し、高目は少し応用の打ち方であり、「5の五」はまれに打たれる。
※空き隅を占めるとき、隅に近づき過ぎると、中央から圧迫され、小さな地しか作れず不利になる。
※空き隅だけに限らず、序盤は三線や四線から占めるのがバランスがよく、地を広げやすい打ち方である。

【隅の特徴】
<ここでの視点!>
・隅の基本的な打ち方を見ていこう。
・星は一手で隅を占め、すぐに辺へと発展することが狙いで、大きな模様を作りやすい手である。反面、隅の地には少し隙が残る。
➡すぐに辺へ発展することができるのが魅力。隅を多少荒らされることは気にせず、どんどん自分の勢力圏を広げていくような作戦に適している。
・星の弱点は、三々で簡単に隅の地を荒らされてしまうこと。
※星の特徴は、辺へ発展しやすく、中央から圧迫されにくいこと。
 模様を広げる作戦などに相性がいい打ち方。

【三々の特徴】
<ここでの視点!>
・隅の占め方はいくつかあり、少しずつ特徴が違う。
 三々も隅を一手で占める利点があり、隅の地をしっかりと確保できる。
 一方、辺や中央への発展性では劣る。
<隅に入られる心配なし>
・三々は、星よりも隅に近い三線なので、隅がしっかり地になる。
・ここから少しずつ地を増やすこともできるし、根拠がしっかりしているので、他の場所へ回ることもできる。
・相手から隅に入られる心配がないので、初級者の人には安心な打ち方。
・その代わり、大模様を広げるような打ち方とは、相性がよくない。
※三々は、隅の地をしっかり確保する打ち方。その分、中央からは圧迫されやすくなる。
(三々は中央への発展力は少し乏しくなる)

【小目の特徴】
<ここでの視点!>
・小目は四線と三線の交点に打つので、実利と勢力のバランスがとれた打ち方。
・ただし、隅に2手かけることを狙っているため、運用が難しくなる。
<小目の特徴>
・小目は、もう一手かけるシマリを打つことを狙っている。
 小目からのシマリは、隅の実利をしっかりと確保しつつ、辺や中央への発展性を持つことができる理想形である。
・相手も、シマリを妨害するカカリを打ってくることが多くなる。
・シマリの特徴や使い分けは、有段者向けの内容になるので、はじめのうちは、小ゲイマジマリを練習するのがいいだろう。

※小目は、幅広い戦略が採れるが、カカリからの戦いが難しくなる。
※小目の目的は、もう一手かけてシマリを打つことである。
 小目からのシマリは、布石の好形のひとつである。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、10頁~27頁)

相手の隅へのカカリ~第1章 基本編より


【相手の隅へのカカリ】
<ここでの視点!>
・空き隅を占めたら、次は自分の隅をシマったり、辺へ展開したりする。
・また、相手の隅へ迫っていく「カカリ」という打ち方もある。

【第1図】
<星へのカカリ>
・黒1から白4までお互いに星を占めた
※これはよくある布石。
 次にA~Cと自分の勢力を広げたり、Dと相手の勢力に割って入る作戦などいろいろあるが、黒5のように相手の隅に迫っていく「カカリ」という打ち方が一番よく打たれている。
※カカリから色々な変化や定石につながるので、覚えるべきことが増えるが、戦略を考える楽しみがある。

【第2図】
<上辺を大きく広げる>
・黒▲のカカリに対しては、白6と隅を受けてくれば普通。
・黒も単に7などとヒラくよりも、黒▲のカカリがあるほうが上辺を大きく広げることができる。
【第3~4図】
【第3図】
<封鎖すれば有利>
・黒▲に対して白1などと手抜きしてきたら、黒2と反対側からもカカリ。
➡この手を「両ガカリ」と言う。
・白3とさらに手を抜いてきたら、黒4と封鎖する。
※カカリは、封鎖につながる積極策。
<ポイント>
・カカリは相手の石に迫っている。相手が放置してきたら、両ガカリから封鎖を狙うことができる。

【第4図】
<生きても効率が悪い>
・封鎖したときに、さらに白が手を抜くと、黒5の三々などで、白△(4, 四)を取って白が先着した左上隅を黒地にすることができる。
・白は5から17などと打てば生きるが、石の効率がとても悪くなる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、28頁~31頁)

カカリの方向と布石作戦~第1章 基本編より


【カカリの方向と布石作戦】
<ここでの視点!>
・カカリとシマリの選択やカカリの方向で、布石の様相は変わってくる。
・特にカカリの方向、相手のカカリに対する受けとハサミの使い方は、のちの進行に影響する。

【第1図】
<布石の岐路>
・黒5のカカリに白6と受け、黒7とヒラいた場面。
※白の次の手は自由であるが、シマリ、カカリ、ヒラキという基本から考えると、A~Iなどが考えられる。この中で、Fは黒1と7の間が狭くて攻められる可能性が高いので、候補から外すことが多い。
※作戦の大きな柱は、自分の地を大きく広げる打ち方と、相手の地を小さく制限する打ち方の2通りである。

【第2~3図】
【第2図】
<模様作戦>
・白8とカカリ、黒9に白10とヒラけば、白の領域が広がる。
※このように大きな地になりそうな領域を「模様」と言う。
・白8から14までと打てば、白の模様は大きくなるが、同時に黒の模様も大きくなる。

【第3図】
<打ち込み>
・お互いに大模様を広げ合う進行は、先に打つ黒の模様のほうが大きくなりやすい傾向がある。
・第2図に続いて、黒が15から19までと広げてきたら、白20などと黒の模様に打ち込んでいくような進行になる。
<ポイント>
・自分の模様を広げようとすれば、相手の模様も広がる。
 模様比べは相手よりも大きく広げることを目指す。

【第4~5図】
【第4図】
<じっくりした布石>
・白1と右辺のほうからカカリ、黒2と受けてくれば、白3、5が基本定石のひとつ。
※この進行では、お互いに大きな模様を広げにくくなり、次に黒が目を向けるのは、黒(6, 十七)や(3, 十四)のカカリ、黒(17, 六)のシマリなどになる。

【第5図】
<2つの辺>
・続いて、黒6、8と下辺に打ち、白9から13までと右辺に打てば、黒は上辺と下辺、白は左辺と右辺に展開する布石となる。
※カカリの方向の選択で、このようにあとの進行が変わってくる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、32頁~34頁)

二間ビラキ~第2章 基本編


第2章 基本編~ヒラキの基本
 二間ビラキ
【二間ビラキ】
・二間ビラキは、辺で孤立した石が根拠を得るための基本的なヒラキ。
・序盤ではできるだけ弱い石を作らないほうが有利で、プロの碁でもよく打たれている。

【第1図】
<辺で根拠>
・上辺へヒラく場合、黒1と辺の中心までヒラくのが基本。
・黒▲との距離が離れているのが気になるかもしれないが、白2と間に入り込まれても、黒3と反対側に二間ビラキをする余地が残っているのがポイント。
※これで黒1の石は上辺に根拠を作ることができ、白2の石は不安定なままであるから、やはり上辺は黒有利な状況となる。

【第2図】
<白は狭い>
・続いて、白は4の一間までしかヒラくことができない。
・黒5、7が第3章で説明する基本の攻め方であるが、白は根拠が狭いので、不安定。
※第1図のように入られても、やはり上辺は先着した黒が有利。

【第3図】
<近づき過ぎ>
・白1と二間ビラキにするのは、黒▲に近づき過ぎ。
・黒2とオサえられて石が接触したときに、黒石は2と黒▲の2つ、白石は1の1つなので、白のほうが不利。
・黒8までは一例であるが、黒有利。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、44頁~45頁)

厚みの考え方~第4章 基本編


第4章 基本編~厚みを学ぶ
・厚みの判断は布石の重要なポイント。
・厚みの価値をどのように判断するかで、その人の棋風が分かれると言ってもよい。
・まずは基本的な厚みの特徴を理解しよう。
・厚みの力を判断し、それをどのように働かせるかが第一歩。

【厚みの考え方】
<ここでの視点!>
・布石で最も悩ましいのが厚みの判断。
・厚みの判断ができるようになれば、布石の楽しみが一段と増してくる。
・まず、厚みの基本を学んでいこう。

【第1図】
<どこまでヒラく?>
・黒1から白16までとなった場面。
・黒が占めた右上隅の星に白が6とカカリ、黒7のハサミに白8と三々に入った定石。
※白は隅に10目っほどの地を確保した。
 黒はその代わりに上辺に向けて勢力を得た。
 この勢力が何目くらいの価値があるかを判断することは、とても難しい。
※厚みは、使い方によって、隅の白地の価値を上回ったり、下回ったりする。

【第2図】
<厚みと実利>
※白△は隅の地を確保しつつ、右辺に進出している。
 ただ、右辺は三線なので、すぐに大きな白模様には広がらない。
 一方の黒▲は上辺に大きな可能性を秘めている。
 黒▲をどこまで活用できるかが、布石のポイント。

【第3図】
<狭いヒラキ>
・黒1の二間ビラキは安全であるが、白2とツメられて、不満。
※黒は黒▲の強い石からたったの二間しかヒラいていないのに、白は白△一つから同じ幅を広げている。
 これでは、黒▲の厚みの働きは不十分。
<ポイント>
・厚みをどこまで働かせることができるかで、布石の優劣が決まってくる。

【第4図】
<なるべく広げる>
・黒▲の厚みを働かせるには、できるだけ幅を広げること。
・この局面では、黒1のカカリで、上辺を目一杯に広げる。
※上辺を大模様にしたときでも、上辺で戦いが起こったときでも、黒▲の厚みは働いてくる。

【第5図】
<大模様>
・白2の受けなら、黒3とトビ。
・白4と左辺を受ければ、黒5とケイマして、上辺の模様を広げながら、右辺の白の勢力をけん制する。
※黒3で無難にA(9, 四)と構えたとしても、上辺の幅は第3図よりも大きく広がっている。

【第6図】
<厚みに追い込んで攻める>
・第5図の白4で、本図の白1などと上辺に打ち込んできたら、黒2と止める。
※白1の石を、厚みのほうに追い込んで攻めることで、黒▲を有効に活用することができる。

【第7図】
<封鎖に成功>
・続いて、白3とヒラいても、黒4から6と止めて、封鎖することができる。
・白3の幅が狭く、白は生きるかどうかも、危ない形。
※これは一例であるが、相手の弱い石は自分の厚みのほうに追い込めば、封鎖しやすくなる。
<ポイント>
・厚みからは、とにかく一杯に広げることがポイント。
・相手が入ってくれば、有利に戦うことができる。

【第8図】
<攻めの連鎖>
※このあとは、まずは相手を封鎖して攻める。
・白を封鎖して、そのあとにもしも取ることができれば大成功であるし、仮に白7から11のように、上辺で小さく生きられたとしても、黒8、10で周囲の黒が強くなれば、黒十分。

【第9図】
<左辺へ展開>
・第8図の攻めの効果で、黒▲が厚みになった。
・今度は黒12とツメて、白△を黒▲の厚みに押しつける。
・白13と生きれば黒14と止めて、左辺が黒模様になった。
※白は上辺、左上と小さい地に何手もかかっており、本図も黒優勢。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、109頁~114頁)

第5章 応用編~実戦での序盤 布石は判断と選択


【第5章 応用編~実戦での序盤】
・布石は判断と選択の連続。
 盤面をどのように読み取るか、そして状況をどう判断し、着手をどのように選択するか。
 これが布石の考え方。
・定石を覚え、その手の意味を考え、着手に一貫性を持たせることで、石の効率がよくなる。

【布石は判断と選択】
<ここでの視点!>
・布石は判断と選択の連続。その中でも感覚的な判断が重要になる。
 ここまで身につけた考え方の基本をもとに決断してみよう。

【第1図】
<最初の決断>
・黒1から白4まで、お互いに隅の星を占め合った。
・黒5のカカリ、白6のハサミ、これらもひとつの決断ではあるが、この次の黒の打ち方によって、碁の流れが大きく変わることになる。
※まず、知識として黒Aの三々、黒Bのトビがあることを覚えてほしい。
※上級者になれば、黒Cの両ガカリも知っておくと便利。
<ポイント>
・まずは、どの定石が今の局面に、そして自分に合っているかを判断する。

【第2図】
<三々を選んだ>
・黒7の三々は、上辺の勢力を白に与え、黒は左上隅の地を確保する打ち方。
・黒15まで部分的には互角で、黒は実利を確保したため、模様を広げにくい碁になった。
※このあとの打ち方が大切になる。

【第3図】
<黒はAかBか?>
・続いて、白16と左下隅を構えてきた。これも普通に大きい手。
※ここで黒はAとBのどちらを選ぶかを判断してみよう。
 考える材料となるのは、もちろん左上隅の定石しかない。
<ポイント>
・布石が少し進行してきたら、これまでの打ち方に合った作戦を選ぶことがポイント。

【第4図】
<模様は広がりにくい>
・黒▲の二連星は、三連星に発展させて、右辺に大模様を作りやすくする構え。
・しかし、左上に白△の厚みがあり、左下も白□と構えられているので、この局面では右辺の黒地はあまり大きくなりそうにない。

【第5図】
<じっくり構える>
・したがって、黒1と構えてしっかり地を確保するのが普通。
・黒1では他にもA~Cなどが、じっくり打つときの大場。
・どれを選ぶかは気分で決めてよく、もし左上の白の厚みをけん制したければ、黒Aを選びます。

【第6図】
<実利作戦>
・続いて白2と右辺にワリ打ちをしてくれば、もう大模様を広げる碁にはならない。
※大きな競り合いも起こりにくそう。
※以下は一例だが、このような局面では、黒3、5と地を広げていく進行が適している。

【第7図】
<中規模の模様>
・第5図に続いて、白が左上隅の厚みを背景に白1、3と上辺を広げてきたら、黒2、4と右辺を構える。
・白が上辺、黒が右辺に中規模の模様を構える進行。
※右辺のほうが幅が広いので、黒に不満はない。
<ポイント>
・左上で実利を先行したので、少しずつ地を広げていく進行でも、黒は十分に白地に対抗できる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、137頁~141頁)

トビカケの定石


【トビカケの定石】
<ここでの視点!>
・碁が始まったばかりなら、どのような定石を選んでも大きな優劣はつかない。
・定石後は、その特徴に合った打ち方をしていかないと、少しずつ形勢を損じてしまう

【第1図】
<模様の定石>
・黒1のトビから黒3とカケる定石もある。
※これは、左上隅や上辺の実利は白に与え、中央に大きな勢力を築くための定石。
・いくつかの変化を秘めている形であるが、黒11までの形が最もよく打たれている。
・白がここで12と左辺にヒラいてきたら、上辺の形の特徴を考え、それを生かすためにどこへ打つべきかを判断する。

【第2図】
<模様を広げて勢力を生かす>
・黒▲はまったく地を囲っていないが、碁盤の広いエリアに影響力を及ぼしている。
・それを最大に働かせるには、黒13の三連星で大模様を広げること。
➡こうなれば、黒▲の勢力が生きてくる。

【第3図】
<雄大な広がり>
・続いて白14とカカってきたら、黒15と受ける。
・模様を広げようとしているこの局面では、黒15と四線に受けるのが適している。
・白16と下辺を構えてきたら、黒17、19とさらに広げれば、黒▲が働いて、黒模様は雄大。
<ポイント>
・相手に実利を与え、自分が勢力を張る定石を選んだときには、大模様作戦が適している。

【第4図】
<ミスマッチ>
・第1図からの黒1はじっくりと構える作戦であるが、黒▲の厚みとマッチしていない。
・白2のワリ打ちから白6までと右辺で治まられてしまうと、黒▲を働かせる空間がなくなる。
※上辺や左上の白の実利に及ばなくなりそう。

【第5図】
<白の選択>
・白も第1図白12のヒラキで、先に白1と右辺のワリ打ちを選ぶことはできる。
・このときは黒2と左上の白△に迫ることで、上辺の勢力を生かす。
※黒は第3図の模様作戦と、本図の黒2を見合いにしているのである。

【第6図】
<厚みの効果が左辺に>
・続いて白3と封鎖を避け、白9までと左上に実利を確保して治まれば普通。
・黒は4から8まで左辺が固まったので、黒10のカカリに回る。
※上辺の厚みの効果が、左辺の黒地として現れた進行。

【第7図】
<下辺は遠過ぎる>
・白1のワリ打ちに黒2などと構えていると、白3とヒラかれて、やはり黒▲の働きが乏しくなる。
※上辺に築いた黒▲の勢力を働かすには、右辺か左辺のどちらかに回らなければいけない。
下辺では遠いのである。
<ポイント>
・勢力を生かすには、大模様を広げるか、相手の弱点に厳しく迫って攻めで得を図るか、この2つが有効。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、142頁~145頁)

布石の一貫性~第5章 応用編


【布石の一貫性】
<ここでの視点!>
・布石作戦は一貫性を持たせることで有効になる。
 そのためには、自分が前に打った手の意味を考えることが大切。
 最初は、なるべく1つの目標を意識するようにしよう。
≪棋譜≫【第1~4図(1-27)】

【第1図】
<カカリの布石>
・黒1、5のシマリと黒3の星の組み合わせの布石。
・白6のカカリに黒7とハサんだのは、右上のシマリの背中を生かして、右辺に模様を広げる狙い。
・白が8と三々に入ってかわしたので、黒9から白16までの定石になった。
※黒は隅の地を譲って右辺に勢力を築いた。
 この勢力を生かすためには、模様を大きく広げる必要がある。

【第2図】
<右辺に模様>
※右下隅の黒▲の形は、黒■を生かして右辺に黒模様を広げようという意図。
・したがって、黒17とこちらからカカって黒模様をさらに広げるのが、一貫性のある打ち方になる。

【第3図】
<両翼の模様に>
・白18の受けなら、黒19とヒラキ。
※上辺を構えることで黒模様は、右上隅のシマリを中心とした両翼になる。
 模様が大きくなればなるほど、右下隅の黒の厚みが働きやすくなり、白の実利を上回りやすくなる。
<ポイント>
・布石は一貫性を持たせることが大切。
・特に模様を広げる場合は、その重要性が増してくる。

【第4図】
<攻めが有効に>
・黒▲と打って模様を大きく広げておけば、白20、22と右辺に入られたときに、黒23と攻められる。
・白24なら、黒25、27と白を攻めながら、自然に上辺の黒地が大きくなる。
※作戦に一貫性がある布石だからである。

【第5図】
<より厳しい攻め>
・第4図の黒21で、黒1とハサんで根拠を奪い、右下の厚みに押しつけるように打つのは、より厳しい攻め方。
※白を攻めながら、黒は右上を中心に大きな黒地を固めることができそうで、やはり黒十分の進行。

【第6図】
<封鎖して大模様を作る>
・黒1のツメに白2とスベって根拠を確保しようとしてきたら、黒3のコスミツケから黒5と封鎖してもいいだろう。
※やはり黒▲が働いて、上辺から中央にかけて大模様ができる。
 これが一貫性のある布石の効果。

【第7図】
<上辺の石を攻める>
・第4図の白20で、本図白1と上辺に打ち込んできたら、黒2、4と攻める。
・白5には黒6と白に厳しく迫りながら、右辺を大きく囲う。
※黒はすべての手が、模様を広げる作戦の役に立っている。
<ポイント>
・一貫性を持って大きく広げた模様は、相手も容易には荒らせなくなる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、158頁~161頁)

大ゲイマガカリ~第5章 応用編


【大ゲイマガカリ】
<ここでの視点!>
・大ゲイマガカリは、相手の勢力圏で戦いを避けたいときに使うカカリ。
・相手の応手次第で隅の地を譲ったりするが、自分の石が弱くなって攻められることはない。

【第1図】
<相手の厚みをけん制>
・黒1の小目から、黒5、7と上辺に構えた。
・黒5や7では右上隅をシマるのが普通であるが、本図の打ち方も基本から外れていない。
・白8に黒9とハサんで、白10のツケに黒11から勢力を作ったが、右辺の幅が広く空き過ぎ。
※黒5と上辺からカカったのに、白に上辺へ入られてしまい、一貫性を欠いている。
・白18が、右上の黒の勢力をけん制するためのカカリ。

【第2図】
<二間がぴったり>
・白△の大ゲイマガカリは、黒19のコスミで隅の地を確保してきたときに、白20と二間にヒラくのが狙い。
・隅の地は簡単に与えてしまうが、白20のヒラキが右上の厚みをけん制しているので、バランスが取れている。

【第3図】
<攻められる心配がない>
・続いて、黒21のツメなら、白22のトビから白24のように、白は攻められないように補強しながら、黒▲の厚みが働く幅を狭めていく。
※大ゲイマガカリは戦いを避け、本図のような進行を目指すカカリ方。
<ポイント>
・大ゲイマガカリは、相手の勢力圏で戦いを避け、相手の厚みを制限したいときに有力。

【第4図】
<ハサミにはツケ切り>
・白1の大ゲイマガカリに対して、黒が右上の厚みを働かせようとして黒2とハサんできたら、白3と隅にツケる相手が用意されている。
・黒4には白5と切り違えるのが定石。
※白には隅でサバく(石を攻められないように形を整える)ための手段がある。

【第5図】
<隅で治まる>
・続いて、黒6と8のアタリから黒10のツギが定石。
・以下、黒16まで、黒は白△を制して、右辺に厚みを築き、白は隅の実利を得る。
※黒もこちらのほうが右上との一貫性があり、右辺の模様の消し具合が勝負となる。
※白は隅を確保し、このあと右辺に入っていく作戦。

【第6図】
<黒の厚みが働く>
・白1のカカリは、黒▲を背景に黒2とハサまれそう。
・白3、5と中央に進出しても、黒▲が強いので、白Aとは反撃しにくい状況。
※白Aと打てないのでは、黒4、6と下辺に与えた黒地の分を取り返しにくくなる。

【第7図】
<やはりハサまれる>
・白1の小ゲイマガカリも、黒2とハサまれて、前図とほぼ同じ。
※相手の勢力圏の中で戦いを避けたいときには、大ゲイマガカリが適している。
<ポイント>
・相手の勢力圏でハサまれたときに、どう対応するかは大切。
・大ゲイマガカリなら、簡単に治まることができる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、176頁~179頁)

第6章 応用編~地を荒らす打ち込み


【地を荒らす打ち込み】
<ここでの視点!>
・相手の勢力圏に入って地を荒らす打ち込みは、自分の勢力圏で相手を分断して攻める打ち込みとは、目的が違う。
・当然、打ち込みの場所やあとの打ち方も変わる。

【第1図】
<カカリの布石>
・黒は1、3、5と三連星の布石であるが、黒9で上辺にヒラかず、左辺からカカったのは、右辺を中心に模様を広げる三連星とは、やや一貫性を欠いた。
・白14から16と黒模様を右辺に限定されると、地を荒らされやすいという三連星の弱点が浮き上がる。
・黒19、21と左辺を構えて白番の局面。
※辺の大場は打ち終わり、右辺の黒模様へ荒らしに入るタイミング。

【第2図】
<荒らしは低く入る>
・荒らしの打ち込みの場合は、黒▲とは高さを変えて白22と三線に打つ。
※黒を分断する必要はなく、打ち込んだ石が根拠を作りやすくなることを最優先に考える。

【第3図】
<辺で根拠を持つ>
・黒23のツケで封鎖されてしまうが、白24から26と右辺に根拠を作っていく。
※荒らしの打ち込みは、ある程度相手に厚みを作られたり、攻められたりしても大丈夫なタイミングまで待ってから、打つことが大切。
<ポイント>
・地を荒らす打ち込みは、相手に封鎖されてもよいので、根拠を持つことが大切。

【第4図】
<荒らし成功>
・以下、黒27、29に白30から34まで、右辺を大きく荒らすことができた。
※その代わり、黒には黒▲という強い厚みができたが、すでに下辺に展開している白△や上辺白□が黒の厚みを打ち消している。

【第5図】
<中央へ逃げ出す>
・白1に黒2と辺を止めてきたら、白3と一間トビで中央に逃げる。
・黒2は一手遅れているので、楽に逃げられるし、やはり上辺や下辺に白が先着しているので、攻められても、それほど損をする心配はない。

【第6図】
<四線は根拠が不安>
・黒▲と同じ高さの四線に白1と打ち込めば封鎖はされにくいのだが、右辺での根拠が作りにくいという弱点がある。
・黒2とコスみ、白3に黒4と中央への出口を止めてくるのが、黒の攻めの形である。

【第7図】
<モタレ攻め>
・続いて白5と逃げれば、黒6、8がモタレ攻め(相手の石に直接手を出さずに攻める)というテクニック。
・白Aなら黒Bで封鎖されて苦しくなるし、白Bなら黒Cから下辺を破られそう。
※相手の地を荒らすときは、根拠を作りやすい三線が基本。
<ポイント>
・うまく根拠を作れないと攻められて不利になる。
・相手に封鎖されてもよいタイミングを図ることも大切。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、208頁~211頁)
 

第6章 応用編~三々への打ち込み


【三々への打ち込み】
<ここでの視点!>
・相手の地を荒らすとき、三々に入ることができれば、一番簡明で安全。
・辺の大場を打ち終え、局面が落ち着いたら三々に打ち込むタイミングを意識しよう。

【第1図】
<三々は安全な打ち込み>
・黒▲の星の場合、黒■と受けられても、まだ白1の三々がある。
・この局面では、右辺に深く入ったほうが荒らしの効果は上がるが、白1の三々なら安全に黒地を荒らすことができる。
※右辺に入る余地がないときは、より有効。
※白1の三々入りからの攻防と変化は、使えるようにしておこう。

【第2図】
<黒の選択>
・黒は2と遮ってくるので、白は3とハネ。
※ここでは黒に選択権があり、黒4と下辺を分断するか、黒Aと右辺を守るのかのどちらかを打ってくる。
※黒4なら白は分断されるが、隅で地を持って生きることができる。

【第3図】
<白は簡単に生きる>
・続いて白5とツギ。
・黒は断点を6と守らなければならないから、白7とスベリ。
※白は隅で生きるが、白△が弱くなって下辺は荒らされる。
 三々に入るのは、下辺よりも隅の価値が高いときに有力。
<ポイント>
・三々への打ち込みは、プロの実戦でもよく出てくる。
 簡明に根拠を作ることができる。

【第4図】
<下辺と連絡>
・白1の三々に黒2、白3のときに黒4と右辺のほうを守ってきたら、白5とカケツギ。
・白5と打てば下辺の白△とは連絡できており、隅の黒地を荒らしながら、下辺の白地を広げることができる。

【第5図】
<黒は右辺を重視>
・続いて、黒6、白7までで一段落。
・黒は右辺を守ったので、続けて黒8、10などと広げてきそう。
※なお、白Aと打たれると黒6の石は取られるが、まだ価値の小さい石。
 黒はBと止めておけば、何の問題はない。

【第6図】
<トビが三々を防ぐ形>
・第1図の白1でなく、本図のように白1と上辺を守ると、黒2のトビで白Aの三々を防がれてしまう。これはとても大きな手。
・次に黒Bの打ち込みを狙っており、白3と補強すれば黒4と右辺を広げられる。

【第7図】
<三々に守られると入りにくい>
※少し脱線するが、三々は隅の急所。
・右上隅は黒▲と三々を受けられているので、当然隅には入れない。
・それどころか、白1と右辺に入るのも少し危なく、黒2から8までと厳しく攻められると、生きにくくなる。
<ポイント>
・打ち込みのタイミングや着点を間違えると、苦しい戦いを強いられる。
(結城聡『序盤 強くなる打ち方』成美堂出版、2019年、212頁~215頁)

【補足】結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 上』より


【参考譜第31型2】結城聡vs片岡聡
【2001年】第26期碁聖戦本戦
 白 九段 片岡聡
 黒 九段 結城聡
【参考譜】(1-48)
・黒5の高いカカリもよく打たれる。
・白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方。
・白12から14のケイマが攻めの形である。
・黒13のコスミは常識的である(通常は譜の13である)。
・白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなる。
・白28はよい見当である。
・白30は形。

【1図】(バランス悪し)
〇白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方である。これで、
・定石どおり黒1とヒラくのは、たとえば白2以下6となると、黒のバランスがよくない。

【2図】(白、重い)
〇白12から14のケイマが攻めの形であり、12で、
・白1の割り打ちは、黒2のツメがぴったりで、白3以下7となるが、白の形はいかにも重い。

【3図】(黒、外勢)
〇黒13のコスミは常識的であるが、
・黒が外回りに徹するなら、黒1のカケも一策である。
・白2のハネに黒3のツギが手厚いが、甘さは否めない。

【4図】(方向が逆)
〇白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなるが、白22で、
・白1とトブのは石の方向が逆で、黒2、4から6と攻められる。

【5図】(難しい戦い)
〇白28はよい見当であり、
・白1とまともにカカるのは、黒2以下6と攻められ難しい戦いとなる。

【6図】(味消し)
〇白30は形。これで、
・白1のカカリは、黒2とシマられ味消し。
※また、後に黒aからgとからまれる恐れがある。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、328頁~329頁)

【補足】結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 下』より


<小目・向かい小目>【参考譜】
【2006年】第31期棋聖戦リーグ
白 九段 小林覚
黒 九段 結城聡

【第32型 参考譜】(1-76)
・白6のヒラキに黒7とカカリ。
・白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手。
・黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。
・黒13のケイマではハサミもありそう。
・黒19のトビに、白20のトビは省けない。
・黒21のボウシに、白22、24以下、脱出を図り、中盤の戦いに入った。

【1図】(模様を拡大)
〇白6のヒラキに黒7とカカったが、
・黒1とツメ、白2なら黒3、5とケイマで模様を拡大していくのもある。
・続いて、白aは黒bで理想形になるので、白bのボウシから消すことになろう。

【2図】(サバキの筋)
〇白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手である。これでは、
・黒のケイマが定石であるが、白のカカリから実戦と同じように黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。

【3図】(利かし)
〇譜の白12のカカリでは、
・白1の肩ツキも目につく。
・かりに、黒2と受け、白3以下8となれば大変な利かしで、白9にカカって十分である。

【4図】(白の強行手段)
〇しかし、黒2では、
・黒2のコスミツケから4と切る強行手段がある。
・白5以下抵抗しても、黒10となっては白苦しい。
※黒13のケイマではAのハサミもありそうだが、白Bとかわされ、黒Cに白D、黒16、白Eと展開され、おもしろくない。

【5図】(つらい封鎖)
〇黒19のトビに、白20のトビは省けない。これで、
・白1の逃げを急ぐと、黒2から4と封鎖され、これは白はつらい。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、426頁~427頁)