(2024年12月15日投稿)
【はじめに】
今回のブログでも、引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇大竹英雄『大竹英雄の基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]
本書の特徴は、目次をみてもわかるように、布石の分類に基づいた構成にあろう。
大竹英雄氏は、冒頭で、布石の分類について、次のような意味のことを述べている。
布石を大きく分類すると、平行型とタスキ型とに二分できる。
・平行型は、自軍の石を右なら右の上下に配置する型。
タスキ型は、自軍の石を斜め(たとえば右上と左下)に配置する型。
大ざっぱにいって、平行型は模様碁になる傾向が強く、タスキ型は戦闘的な碁になる傾向があるといわれている。
・以上の二つの型以外に、秀策流(黒が三隅を占める)もあるが、これは白が二隅を占拠しなかった場合に生ずる特殊な型といえる。(7頁)
本書も、平行型、タスキ型、秀策流の布石に分けて、第1章から第3章までの構成となっている。代表的な型と実戦譜について述べるスタイルで全体を執筆されている。
紹介にあたっても、このスタイルを踏襲し、型と実戦譜を併記しながら、進めていく。
なお、「第3章 秀策流の布石」については、
・桑原秀策vs井上因碩~<耳赤の一手>の局
・桑原秀策vs師匠の本因坊秀和
この二つの実戦譜を取り上げてみた。
なお、例によって、依田紀基『基本布石事典』より、大竹英雄氏の実戦譜を【補足】として掲載した。
【大竹英雄氏のプロフィール(著者略歴)】
・昭和17年、福岡県に生まれる。
・昭和26年、故木谷實九段に入門。昭和31年、入段。昭和44年、第8期十段位。
昭和45年、九段。
・昭和50年 第14期名人位。昭和51年 第1期名人位~昭和60年 第10期碁聖位。
(この間、名人位、碁聖位、十段位、鶴聖位など多数)
※独得の手厚い棋風は「大竹美学」と呼ばれる。
早碁にも才を示し、「早碁の神様」の異名をとる。
<著作>
〇大竹英雄『囲碁「形」の覚え方』永岡書店、1975年[1984年版]
以前、このブログで紹介済
〇大竹英雄『NHK囲碁シリーズ 大竹英雄の強くなる囲碁の筋と考え方』日本放送出版協会、2001年[2005年版]
今後、紹介してみたい本
【大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』(誠文堂新光社)はこちらから】
〇大竹英雄『大竹英雄の基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]
【目次】
はしがき
本書の独習法
布石について
第1章 平行型の布石
平行型の布石について
No.1 二連星(第1型~第3型)
No.2 三連星(第1型~第4型)
No.3 星と小目(第1型~第2型)
No.4 シマリと小目(第1型~第3型)
No.5 シマリと星(第1型~第3型)
No.6 向い小目(第1型~第3型)
No.7 両三々(第1型~第3型)
No.8 中国流(第1型~第4型)
No.9 高中国流(第1型~第4型)
No.10 新型<小林光一流>(第1型~第2型)
練習問題と解答
第2章 タスキ型の布石
タスキ型の布石について
No.1 タスキ星(第1型~第4型)
No.2 タスキ小目(第1型~第2型)
No.3 混合型(第1型~第3型)
No.4 ケンカ小目(第1型~第3型)
練習問題と解答
第3章 秀策流の布石
秀策流の布石について
No.1 古典型(第1型~第2型)
No.2 現代型(第1型~第2型)
練習問題と解答
補章 布石の基礎知識
布石の基礎知識について
No.1 布石の三原則
No.2 布石と定石
No.3 ヒラキとツメ
No.4 ワリウチ
さくいん
学習のポイント 1~15
<参考棋譜と登場する棋士>
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・はしがき
・布石について
・第1章 平行型の布石 No.5 シマリと星
・第1章 平行型の布石 No.8 中国流
・第2章 タスキ型の布石 No.1 タスキ星
・第2章 タスキ型の布石 No.2 タスキ小目
・第2章 タスキ型の布石 No.3 混合型
・第3章 秀策流の布石
・第3章 秀策流の布石 桑原秀策vs井上因碩~<耳赤の一手>の局
・第3章 秀策流の布石 桑原秀策vs師匠の本因坊秀和
・補章 布石の基礎知識について
・【補足】大竹英雄氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】大竹英雄氏の実戦譜(vs高尾紳路)~依田紀基『基本布石事典』より
はしがき
・この独習法シリーズも、迎えて第3集になった。今回のテーマは布石である。
・布石は戦いの前哨戦で、お互いに自軍を有利に導くために、好点を占めるべく配石する段階である。
・初心者だと布石の意義も分からなければ、むろん技術も拙劣である。したがって、少々強い人にぶつかると、早くも序盤で優位に立たれてしまう。
また、棋力が近い人同士でも、布石のじょうずへたの違いで、前半で差をつけられる。
そのため、中盤でそのハンデを取り戻すのに、ずいぶん苦労させられる。
・ところが、布石の知識に乏しい人は、そこですでに差がつけられていることが分からない。中盤の力が強いので、どうにか互角にわたり合えるのだが、もし布石をしっかり勉強しておけば、当然互角以上になれる。
そういう意味からも、布石の勉強は大切。
・それから、布石の醍醐味はいろいろと構想をめぐらすことにある。
厚く打とうか、地にからく打とうか、それとも大模様作戦でいこうか、と考える。
これが楽しいのである。
・みなさんはアマチュアであるから、自由に構想をねり、思いきった布石を打つことができる。
それを実現するためにも、基礎的な知識は絶対に必要。
そうした知識を学びとってもらうために、本書を上梓したという。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、1頁)
布石について
【布石とは】
・一局の碁を大きく分けると、序盤戦、中盤戦、終盤戦の三段階に分けられる。
その最初の部分が布石。
・戦いを行うにあたって、できるだけ有利に戦えるよう、あらかじめ自軍の石を好位置に配置させておく。これを布石するという。
・したがって、布石がじょうずになれば、序盤で優位に立つことができるわけである。
布石がしっかりしていれば、それだけ中盤の戦いも楽になる理屈。
そうした意味で、布石の勉強は上達に絶対欠かせないものの一つ。
【布石型】
・布石には、いろいろの型がある。
有名なのが、中国流布石、あるいは三連星など。
・隅の打ち方で、いろいろと型も違ってくる。
また自軍の石だけでなく、相手の着手によっても変わる。
たとえば、自分が三連星をしこうと考えても、相手が妨げて中に割って入ってくれば、三連星は諦めなければならない。中国流にしても同じ。
しかし、中国流は駄目になったとしても、そこに新しい型が生まれてくる。
そうして生ずるいろいろの型の中から、自分の好きな型を選び、それを学ぶことによって、布石の技術が向上するわけである。
・ではまず、布石を大きく分類してみよう。
それは平行型とタスキ型とに二分できる。
・平行型は、自軍の石を右なら右の上下に配置する型。
タスキ型は、自軍の石を斜め(たとえば右上と左下)に配置する型。
それらの型にもいろいろの型があって、それぞれの特色をもっている。
大ざっぱにいって、平行型は模様碁になる傾向が強く、タスキ型は戦闘的な碁になる傾向があるといわれている。
(これはあくまで傾向であるから、絶対とはいえない)
・以上の二つの型以外に、秀策流(黒が三隅を占める)もあるが、これは白が二隅を占拠しなかった場合に生ずる特殊な型といえる。
(そのほか隅とか辺よりも中央を重視する<新布石>もあるが、これは歴史的には重要な布石であるが、特に基本を学ぶうえには不必要なので、割愛した)
【布石と定石】
・布石と定石とは密接な関係がある。
定石があるからこそ、布石が成立する。また布石には定石は絶対に欠かせないものである。
隅で石の接触が生じたときに、そこで遅れをとるようでは、布石をリードすることができないからである。
・したがって、布石を勉強するかたわら、その布石に必要な定石を勉強するように努めてほしい。
その場合の定石は、難解なものは必要ない。
極力簡明な定石を採用するように努めれば、それですむはず。
【布石の流行性と独自性】
・布石にもはやりすたりがある。
かつては、中央の碁が重視される傾向があって、配石にも当然高位に打たれることが多かった。
・中国流の布石などはその思考法に魅力はあるわけだが、それが最善というわけではない。
それにもかかわらず、アマプロを問わず、多くの人に打たれていた。これはやはり流行性があるからである。
・同じ布石をくり返していると飽きがくることも確かである。
しかし、そうした流行性にとらわれず、むしろ自分で開発した独自の布石を使うようにしたら、どうだろうか。布石の楽しさが倍加するはずである。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、7頁~8頁)
第1章 平行型の布石 No.5 シマリと星
第1章 平行型の布石 No.5 シマリと星
・一方がシマリ、そして他方が星という配置。
【1図】(基本型)
・黒1を星に打ち、3を小目(aではない)に打ったところから発生する構え。
・白が2、4と左方のアキ隅を占めたから、黒5とシマって、右辺に黒模様を形成しようとする。
・次に黒b(あるいはc)と構えれば、それはもう立派な黒模様といえる。
【第1型】
・右辺に黒模様を形成されてはたまらない――というところから打たれるのが、この白1。
・この1はワリウチと呼ばれる手法。
※黒aなら白b(またはc)、黒dからのツメなら白eである。
・黒はツメを保留して、2のカカリを急ぐ。
【4図】(二間高バサミ)
・こんどは白2が3三を占めている。
・これかかりにaの星であっても、白8の二間高バサミは有力。
・黒9、白10は定石。
※ここで黒bと走り、白cとなれば、普通。
〇では、この布石が生じた実戦例を、著者の碁の中からとりあげてみよう。
【5図】(実戦例)
・黒は走らずに(4図b)、1とハサんできた。
※黒は石井邦生九段。【第8期名人戦リーグ】
・白2とサエギるところ。
・黒はここで3とツケる古い定石(以前はほとんどこう打った)を打ってきた。
※この定石は、4図bと走る定石よりも、実質的に少々損。
そのかわり白a と攻めてこられても、あまりこたえないという長所ももっている。
・黒9から11も相場。
・そこで白12の好点にヒラキ。
※黒bとツメられるとの差は決して小さくない。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、56頁~58頁)
第1章 平行型の布石 No.8 中国流
第1章 平行型の布石 No.8 中国流
・黒1…星、3…小目、5…辺の星脇下、と配置する布石を中国流と呼んでいる。
・その構えはたまたま日中囲碁交流でこうした布石の考え方もあることを知った中国囲碁界で、この布石が徹底的に研究されたものである。
一時、大流行し、いまでも打たれている。
【第1型】
・黒1、3、5、これが中国流の構え。
・白の対策もいろいろと考えられてきたが、6と星のほうからカカっていくのが、代表的な一つのパターン。
【2図】(模様で対抗)
・黒7と応ずるのが普通。
・黒7と黒(17, 十一)との間合いがよいので、7と応じていて、不満がない。
・白8以下10までは基本定石。
・そこで黒は先手をとって、11のカカリに先着することになる。
※途中白8の走りで、単にaと大場を占めているのもある。
※黒は右辺に模様を形成しようとしているが、これに対して白は上辺に勢力圏をきずいて、中国流に対抗している。
※これまでの進行で特に注意してほしいのは、第1型白6のカカリが常識的だという点。
【4図】(同形)
・2図につづく打ち方を検討してみよう。
・白1と一間に応ずるのが、もっとも普通。
・黒は2と走り、4とヒラいて、右上隅の白と同じ手法を採用してみる。
※白には、白(3, 十)の大場、あるいは白(6, 四)の一間の構えなどの好点もあるが、黒5と右下隅をシマるのが好形であるから、白5とカカっていく。
このあたりの石の流れは、ごく自然で、双方に無理がない。
【6図】(実戦例)
・4図までとまったく同じ手順の実戦例はいくつかある。その一例を示しておこう。
・黒(14, 十六)に対して、白1とツケ、黒2と交換してから、白3、5とツケ切った変化をしたのが、第35期本因坊戦挑戦者決定リーグの石田芳夫九段(白)対林海峯九段の一戦に生じた。
・その碁では、黒18につづいて、白aと切り、黒b、白cと切っていくすさまじい戦いに突入した。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、88頁~91頁)
第2章 タスキ型の布石 No.1 タスキ星
・アキ隅を二カ所、斜めに星打ちするのをタスキ星と呼んでいる。
・黒同士、あるいは白同士いずれの場合でも、タスキ星となる。
・二連星と違って、辺に片寄っていないが、足の早い布石であることは、他の星打ちとかわらない。
【第1型】
・黒1、3がタスキ星。
・一方の白は2が小目、4が星の混合型になっているが、白2がaにあれば白もタスキ星になる。
・双方ともにタスキ星という例は比較的少ないので、あえてこの型をとりあげてみた。
・黒は当然白のシマリを妨げて、5にカカリ。
・白6の三間高バサミは最近流行の型。
※なお、黒5ではbに高くカカることもできる。
【4図】(実戦例)
・白のトビ、つまり白△の一着が加わっているときには、黒▲のカケに対して、白1、3と出切るのが常識。
※白1で6と受けているのでは気合い不足。
黒aと圧迫されて面白くない。
・黒4は形。
・白5以下9となって、ここから早くも戦闘に入る。
・黒10のノゾキは14とトビ出すための準備。
※なお、この碁は、第7期棋聖戦。
最高棋士決定戦の準々決勝で、林海峯九段と石田芳夫九段(黒)とが対戦したときのもの。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、139頁~141頁)
No.2 タスキ小目
・タスキ星に対して、それぞれの隅が小目に打たれるのが、<タスキ小目>である。
・つまり右上隅を小目に打てば、斜めの左下隅を小目に打つ布石。
・タスキ小目の場合、その小目の位置によって、二通りの型がある。
〇第1型
・まず考えられるのが、黒1、3の配置。
※またもし右上隅が黒aと打たれ、左下隅がbと打たれた場合も、対称であるから、同型とみなされる。
・ここでは、白2、4がタスキ星になっているが、白がcの小目、あるいはdの3三にあっても、黒のタスキ小目であることにかわりない。
【5図】(白が小目の場合)
・では左上隅の白△が小目のときには、どのような進行が考えられるだろう。
・黒1、白2は前例とまったく同じ。
・ここで黒は右上を放置して、直ちに3とカカる手が考えられる。
※むろんこの場合でも、3とカカらずaとハサむことは可能。そうすればまた別の碁になるだろう。
・黒3とカカった例は、第7期名人戦で、趙治勲名人に挑戦した第3局(筆者白番)に出た。そのときの進行がこの図。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、150頁~152頁)
第2章 タスキ型の布石 No.3 混合型
・同じタスキ型でも、一方が小目、他方が星とか、小目に目ハズシ、小目に3三あるいは星と3三というように、違った置き方もあるわけである。
・その数は組み合わせしだいで、相当数にのぼる。
そしてそれらを一つ一つ説明するのは、とうてい無理。
・したがって、ここでは特にもっとも多く使われている星と小目の混合型を扱ってみることにする。
〇第1型
・白も2を小目、この場合、4を3三にしてみた。
・ではこの黒5とケイマにカカり、白は6と一間にカカる型をとりあげてみよう。
【2図】(普通の着想)
・右上隅の小目の黒に対して、白がカカれば、黒1とツケる手をまず思い浮かべるだろう。
・白2、黒3なら普通。
※ただし、注意を要するのは、ここで白aとツギ、黒bに白cとヒラく打ち方。
白cに対して黒は直ちにdと圧迫するだろう。
白は上辺で重複することになるので、好ましくない。
【3図】(高等戦術)
・2図のままツギを保留して、本図白1のハサミからもっていく戦法は成りたつ。
・黒の応じ方によって、白4とツごうというのである。
・黒も2とトンで4と切るのが気合い。
※この碁は、第3期名人戦で、著者が林海峯名人(白)に挑戦したときの第4局に現れたものである。
・なお、そのあと白は5に回り、以下白9までと布石は進行した。
・本図のように、あえてツぐところをツがず、相手に切らせて他の好点に先着する打ち方もある。
【6図】(右辺に黒模様)
・では3図につづいて、黒がどう打っていったか、また白の応じ方について、みることにする。
・黒1のツメが好点。
・白2と交換をしたのち3のカカリに先着した。
・黒5と構えれば、右辺一帯はかなりの模様。
・実戦では左上隅を6とナラんで、黒の2子を攻めてきたわけであるから、黒はあらかじめそのシノギに勝負をかけているのである。
※もっとも、その下の白2子(2と白△)もまだ弱く、そう威張れた形ではないから、黒としてはそれほど不安はないわけである。
【7図】(中盤戦)
〇6図のあと、どうなったか気になる読者のために、中盤戦の手順を示しておく。
・手数が長いので、眼で追うのはむずかしいと思うから、碁盤に並べてみてほしい。
・戦いの要領というようなものを感じとれるかもしれない。
・いちおう、黒39までで、双方中央に進出した。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、162頁~165頁)
第3章 秀策流の布石
第3章 秀策流の布石
〇秀策流の布石について
・<秀策流>と呼ばれる布石は古来打たれていたものを、江戸末期の俊才、桑原秀策(1829~1862)が系統立てたのである。
明治以降、今日までこの布石は多くの棋士によって利用されてきた。
しかしその後コミダシの制度ができてから、多少利用法に変化がみられるようになった。
・秀策流はいわば先番の布石である。
先番で手堅く勝つための一方法として、打ち出されたものである。
・ところが、現在のように大きなコミダシの制度が生まれると、堅実に勝つということがむずかしくなった。
つまり、5目半(ママ)のコミがあるために、細碁になって、このコミにひっかかる危険性が出てきたのであった。現在は黒番でも手堅く布石するよりも、積極的に打つことが多く、秀策流の布石はいこうとする傾向が強い。そのためには従来の秀策流では不十分とみられるようになった。
【基本図】
・黒1、3、5がいわゆる<秀策流>である。
・先番で足早に三隅を占拠しようというのである。
・最近ではアキ隅を重視する傾向が強く、したがって黒に三隅を許す布石はきわめて少なくなった。
【2図】(秀策のコスミ)
・基本図につづいて、白6とカカるのがもっとも普通であるが、それなら黒7とコスミ。
➡このコスミが<秀策のコスミ>と呼ばれる手法。
秀策は、“碁の規則が変わらないかぎり、このコスミはいつまでも好手として打ちつがれるであろう”という意味のことを述べていたそうだ。
【No.1 古典型】
・秀策流のもっとも大きな特徴は、
①黒の布石
②三隅を占める
③厚い秀策流のコスミ
以上の三点である。
・コミダシの制度が発足してから、考え方も変わってきたが、いぜんとして使う棋士もいる。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、190頁~193頁)
【第2型】
【2図】
・秀策流の布石に白6とシマリ、黒7とシマリ、白8とカカリ、黒9とコスミ。
・次に黒aのハサミが絶好点になるから、白bとヒラけば、黒は右下をcとコスミ。
※白cのカケを避けるためである。
・つづいて白dと構えれば、黒e、白f、黒gという進行が予想される。
※ここで白がどう打てば最善かは、むずかしいところであるが、例えば―
第3章 秀策流の布石 桑原秀策vs井上因碩~<耳赤の一手>の局
【3図】(実戦例)
・白1と大斜にカケた実戦例を示す。
※これは、弘化3年に桑原秀策(先)が井上因碩と打ち<耳赤の一手>の局として、後世に残された有名な局である。
秀策が大阪に旅をしたさい、そこに在住していた因碩を訪問して、この碁が打たれた。
【4図】(難解)
・この大斜ガケは百変との千変ともいわれるほどの難解定石。
・シチョウ関係もからんで、大変な変化を含んでいる。
したがって、ここでどう打てばよかったか――というような決定的なことはいえない。
・ただ、この定石で問題点は、右上に黒(コスミ)、左下にも黒があるという配石では、白が苦しい戦いをしいられるというのが常識。
よほどの力自慢でないと、大斜ガケは危険。
※なお、この4図の変化中、黒16のハイが問題だった。
20に軽くケイマに打っておくべきだった。
・仮に白17、黒18の交換ののち、白19とコスミツケてくれば、黒21とノビられるからである。
・つづいて白aのハネダシには、黒16、白bに黒c、白d、黒e、白f、黒gでシチョウにカカエられる。
・それを黒16とハッたために、むずかしいことになった。
【5図】(進行)黒13コウトリ(3)、白16〃、黒19〃
・参考までに、実戦の進行具合を示しておく。
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、196頁~198頁)
第3章 秀策流の布石 桑原秀策vs師匠の本因坊秀和
第3章 秀策流の布石桑原秀策vs師匠の本因坊秀和
桑原秀策vs師匠の本因坊秀和
【8図】(実戦例)
〇これは桑原秀策が師匠の本因坊秀和と打った17連戦の第9局目に当たる。
それまで秀策は7勝1敗と圧倒的な強さをみせていたのだが、絶対に白をもとうとしなかったようだ。
秀策の先。
・黒1と頭につけていった。
・黒3でaと引けば簡明。
⇒白b黒7の切り、白8黒9白c黒dというように変化する。
・黒3とノビ、白4と押しあげる変化になって、ひじょうに難解な戦いになった。
【9図】(戦い)
〇せり合いはなおもつづく。
・黒1が急所。
・白はツぐのは利かされとみて、気合いで2とオサエ込んでいった。
・以下、白20まで(ここでコウ争いに入る)となり、さらにむずかしい戦いがつづく。
(布石とは直接関係ないので、割愛するという)
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、200頁)
布石の基礎知識について
補章 布石の基礎知識
布石の基礎知識について
・布石には、<隅が大きい>とか、辺は第3線、第4線あたりを重視するというような基礎的な考え方がある。
そうした基礎知識をもってのぞめば、かなりむずかしいように思われる布石も、案外楽に入れるはず。
そこで、この章では、そうした問題についてふれておく。
・布石は、戦いに入る下準備。
どういうように配置しておけば、戦いが有利に進められるかを考えることからはじまる。
入門者でも学ぶように隅から始めるわけであるが、それからシマリ、カカリというように、二つの原則のようなものにしたがって、打ち進める。
・シマるとはどういうものか、カカリはどういう意味をもっているのか、そうしたことが分からないと、なかなか正しい布石はむずかしいものである。
その意味が分かれば、状況に応じて正しい布石をしくことができる。
・つづいて、大場。
これは意味の幅が広い。大きな大場もあれば、小さな大場もある。
また大場にまさる急場というのもあり、定石がからんでくる――というように、大場の選択もそう簡単ではない。
・それにどうヒラけばよいか、どこまでヒラくのが正しいか、という決断を迫られる。
➡それらの問題のうち、最も基礎的なものをとりあげた。
【1図】高段者同士の布石
(大竹英雄『基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]、212頁)
【補足】大竹英雄氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典』より
大竹英雄氏の実戦譜から、次の文献を参考に、布石の例について紹介しておこう。
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年
<星・二連星>【参考譜】
②1993年 武宮正樹-大竹英雄(126頁)
第14型 【参考譜】(1-72)
1993年 第49期本因坊戦予選決勝
白十段 大竹英雄
黒九段 武宮正樹
・左下隅、白4と高目に打ったのは、黒の二連星を意識して、位を高く保つためである。
・黒9の大ゲイマは、二連星と呼応して、スケールを大きく持っていく。
・黒13のコスミは、三連星を働かせる一策。
・白は14と三々に入った。
・黒15のオサエ。
・黒17のカケに白18、20の出切りは気合いである。
・白は譜の18以下22ノビて黒模様を消す拠点にしている。
・黒21のトビは形である。
・白30のマガリトビに黒31は冷静。
【1図】(黒、調子づく)
〇白は14と三々に入ったが、これで、
・白1のケイマは、黒2、4と調子づかせることになる。
・続いて、白aとカカるが、黒の谷はかなり深くなってくる。
【2図】(一つの形)
〇黒15のオサエでは、
・黒1から3にはずすのも一つの形。
・白8、10に、黒はaにツガず、他に転じることになる。
【3図】(戦わず)
〇黒17のカケに白18、20の出切りは気合いであるが、
・ここは戦わずに白1とハイ、黒2ノビとなる打ち方もある。
【4図】(筋違い)
〇黒21のトビは形であるが、
・黒1のノビは筋違い。
・白2のノビから4にトバれると、戦いの主導権は白のものになる。
【5図】(黒、破綻)
〇白30のマガリトビに黒31は冷静。これで、
・黒1以下5の切りは無謀で、白6のワリコミから白aかbで黒破綻する。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、126頁~127頁)
【補足】大竹英雄氏の実戦譜(vs高尾紳路)~依田紀基『基本布石事典』より
大竹英雄氏の実戦譜から、次の文献を参考に、布石の例について紹介しておこう。
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年
<星・タスキ星>【参考譜】
②1999年 高尾紳路-大竹英雄(146頁)
第16型 【参考譜】(1-53)
1999年 第25期天元戦本戦
白九段 大竹英雄
黒六段 高尾紳路
・白8のカカリに黒9とハサみ、以下白18まで、先手を取って、黒19とツメた。
・黒19に白は手を抜いた。
・黒23のカケは工夫した手である。
・白30の押し。
・白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。
【1図】(下辺も大場)
〇黒19とツメたが、これでは、
・黒1のヒラキも大場である。
・白2のカカリに黒3以下白8まで先手を取って、待望の黒9にツメる。これもあろう。
・手順中、白2でaと守れば、黒4のシマリが絶好である。
【2図】(打ちにくい)
〇黒19に白は手を抜いたが、これで、
・白1、3と守れば、手堅い。
・しかし、黒2の立ちで、左辺が理想形になり、白は打ちにくい。
【3図】(黒、今ひとつ)
〇黒23のカケは工夫した手である。これでは、
・黒1のコスミツケが手筋であるが、この場合は、白2から6のコスミまで、黒、今ひとつであろう。
【4図】(黒、十分)
〇白30の押しで、
・白1とシマるのは、黒2から4のトビが調子よくなる。
・譜の黒23と相まって、黒十分である。
【5図】(黒、つらい)
〇白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。これで、
・黒1にカカるのは、白2から4のトビが好点で、黒5と守るのでは、つらい。
・黒7に続いて、白は譜のAトビで好調になる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、146頁~147頁)