(2024年12月8日)
【はじめに】
今回も引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]
山下敬吾 監修者
構成・文 内藤由起子
山下敬吾九段といえば、NHK杯などの対局に見られるように、初手天元とか5の五といった奇抜な布石を打たれることでよく知られている。
現代の碁でそうした布石を打つプロ棋士が少ない中で、山下九段が指導を受けた師匠の教えを忠実に守っておられることが一つの要因であろう。
というのは、本書の「おわりに」において、次のように述べておられるからである。
「私の修業時代、師匠の菊池康郎先生は、常に「人真似ではなく、自分で考えろ」とおっしゃっていました。
その影響は大きく、いまだに流行の布石は研究はしますが、自分からは打ちません。同じ布石ばかりでは見ていてつまらないし、やるのもつまらない。」(281頁)
このように、書いておられる。
山下九段の布石の本だから、初手天元の布石について述べてあるかと思って、本書を開いてみると、そうした奇抜な布石については一切言及されていない。
先の「おわりに」の続きには、次のように付記されている。
「布石の本を書いておきながら、こんなことを言うのはおかしいかもしれませんが……」(281頁)
やはり、基礎的な布石の本を書くからには、どうしても初手天元の布石になどには触れないほうがよいと思われたのであろう。
本書の特徴の一つは、目次を見てもわかるように、定石を詳しく解説しつつ、布石について述べてある点であろう。定石は、形と手筋の宝庫とよく言われる。山下氏が定石にこだわり、手筋に精通していることは、例えば、基本手筋事典を執筆しておられることからもわかる。
〇山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年
ここでも、定石を紹介しながら布石について、述べてみたい。
と同時に、「おわりに」に述べてあるように、内心忸怩たる思いを察して、初手天元についても、こちらで調べてみた。
すると、依田紀基九段の次の布石事典において、初手天元について解説されており、しかも【2000年】第26期天元戦本戦においても、初手天元を実際に打たれていた。
詳しくは【補足】を参照していただきたい。
白 九段 林海峰
黒 六段 山下敬吾
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年
また、9路盤では、初手天元というのは、わりとよく打たれているようだ。
私が9路盤に興味を持ったきっかけは、次のYou Tubeのサイトであった。
You Tube
〇日本棋院囲碁チャンネル
「9路盤を楽しもう!第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会」
(2024年3月18日付)
そして、安斎伸彰氏の著作でも明らかなように、9路盤では、初手天元が有力な打ち方であることがわかる。
「第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会」においても、謝依旻七段(黒番)と上野愛咲美女流名人(白番)との対局でも、初手天元が打たれていた。石倉昇九段の解説にもあるように、強いプロ棋士同士が9路盤を打つと、全体が詰碁になる。隅には「一合マス」形が現れるのである!
【山下敬吾氏のプロフィール】
・昭和53年生まれ。北海道旭川市出身。菊池康郎氏(緑星囲碁学園)に師事。
・平成5年入段。平成15年九段。
・棋聖5期、名人2期、本因坊2期など獲得タイトルは23を数える。
・日本棋院東京本院所属。
<著書>
・『アマの弱点徹底分析』(毎日コミュニケーションズ)
・『山下敬吾自戦細解』(誠文堂新光社)
・『山下流戦いの感覚』(棋苑図書)
・『出る順で学ぶ実戦手筋』(マイナビ)などがある。
【プロフィールの補足】
山下敬吾九段は、先日(9月29日)の第72回NHK杯2回戦で、福岡航太朗五段との対局で、奇抜な布石を打たれていた。
解説の河野臨九段は、山下九段を“囲碁界随一の力戦家”と紹介されていた。
山下九段といえば、かつては初手天元、5の五など、大胆な布石で知られていた。この日の布石は、黒番の山下九段が5手目に、天元一路左横に打たれ、奇抜な布石を打たれた。
こうした布石が打てるのも、深い読みに裏打ちされた手筋を熟知されているからであろう。
さて、その山下敬吾九段の経歴であるが、高校の数学教師で囲碁愛好家の父より、兄と共に囲碁を習ったのがきっかけであるようだ。
1986年、旭川市立東栄小学校2年の時に、少年少女囲碁大会小学生の部で、歴代最年少記録で優勝し、小学生名人となる(決勝の相手はのちにプロでタイトル争いをすることとなる高尾紳路氏)。
翌年、1987年に上京して、アマチュア強豪菊池康郎先生の主宰する緑星囲碁学園に入園する。その後、プロとなり、張栩、羽根直樹、高尾紳路とともに「平成四天王」と称された。
山下敬吾九段の“神童ぶり”は、平本弥星氏もその著作で、高尾紳路氏の棋譜とともに、紹介されている(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁~58頁)。
【山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社はこちらから】
〇山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
第1章 三連星の布石
この章で覚えたい定石
問題01~13
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 星・スベって二間ビラキ定石
その2 星・一間バサミ三々入り①-1
その3 星・一間バサミ三々入り①-2
その4 星・一間バサミ三々入り①-3
その5 星・一間バサミ三々入り②
第2章 二連星の布石
この章で覚えたい定石
問題14~25
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 三々入り定石
その2 三羽ガラス
その3 大々ゲイマへの三々入り
その4 大ゲイマへの三々入り
第3章 星とシマリの布石
この章で覚えたい定石
問題26~36
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 スベリにツメる定石
第4章 小目の布石
この章で覚えたい定石
問題37~67
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 一間ガカリ・ツケ引き定石・カタツギ
その2 一間ガカリ・ツケ引き定石・カケツギ
その3 大ゲイマガカリ・コスミ
その4 大ゲイマガカリ・一間バサミ
その5 大ゲイマガカリ・広いハサミ
第5章 中国流の布石
この章で覚えたい定石
問題68~101
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 中国流・小目へのカカリ
その2 カカリと受けがあるときの三々①
その3 カカリと受けがあるときの三々②
その4 三々定石・二段バネ①
その5 三々定石・二段バネ②
その6 一間バサミ・両ガカリ
第6章 ミニ中国流の布石
阻止される可能性も
問題102~110
(付録)布石の用語解説
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・氏のプロフィール
・「はじめに」と「おわりに」の要点
・布石の基本用語
・本書で覚えたい定石
・各章の問題 抜粋
・【補足】初手天元について~依田紀基『基本布石事典 下』より
・【補足】山下敬吾氏の初手天元の実戦譜(vs林海峰)~依田紀基『基本布石事典 下』より
・【参考】9路盤の天元の打ち方~安斎伸彰氏の著作より
・【参考】9路盤の実戦譜(初手天元)~謝依旻vs上野愛咲美
「はじめに」と「おわりに」の要点
<はじめに>
・囲碁は自分の好きなように打って欲しい、というのが著者の思い。
自由な発想を盤上に表すことは、碁の楽しみのひとつである。
・とはいえ、アマチュアの人に「自由にどうぞ」といっても、どこに打ったらいいのか迷い、途方に暮れる。
・そこで、本書は、基本的な布石の考え方を中心にまとめた。
問題を解くことで、打つ指針が身につけられるはずである。
布石に欠かせない、基本定石のポイントも詳しく説明した。
〇布石のポイントは、次のふたつである。
①広い方が大きい
②石の強弱に気をつける
※本書は、19路盤で打てるようになった人から、初段を目指す人まで、また、基本をおさらいしたい有段者の人までにも、おすすめであるという。
まずは基本を身につけ、そのあとは自由に楽しんでほしいというのが著者の思いである。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、2頁~3頁)
<おわりに>
・著者の修業時代、師匠の菊池康郎先生は、常に「人真似ではなく、自分で考えろ」と言われていた。
その影響は大きく、いまだに流行の布石は研究はするが、自分からは打たないそうだ。
同じ布石ばかりでは見ていてつまらないし、やるのもつまらない。
(布石の本を書いておきながら、こう言うのはおかしいかもしれないが)
・ただし、本書で取り上げたような基礎的な布石の知識は、上達に欠かせないものである。
身につけておけば、実戦で必ず役立つ。
その上で、工夫して、自由に碁を楽しんでほしいという。
・著者は、新たな可能性を恐れずに、果敢に挑むのが、勝負の醍醐味だという。
失敗したら負けるだけのことで、また挑戦すればよい。
負けから学ぶことも多くある。
・碁の世界には、まだまだ未知の可能性が広がっているそうだ。
その未知なる世界への挑戦を大いに楽しもうという。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、281頁)
布石の基本用語
〇布石の解説で頻繁に使用される基本的な囲碁用語の解説が巻末に掲載されている。
その一部を紹介しておこう。
・厚い/厚み…外勢や壁ともいう。周囲への威力が発揮できる可能性がある場合が多い。
・薄い/薄み…欠点、弱点のこと。
・大場…価値の大きなところ。とくに布石で広いところや双方の要所をいう。
・オサエ/オサえる…相手の進路を止める手。
・鶴翼の陣…隅から二辺に広げた陣形。
・カケツギ/カケツぐ…断点の一路隣に打って、断点を補う手。
・三羽ガラス…星から左方にコスんだ3子セットの形。
・三連星…隅、辺、隅の星に打つ布石の陣形。
・シボリ/シボる…捨て石を使って、相手の石をダンゴ状にしたり働きのない格好にしたりする手。
・スベリ…第三線から第二線へ、または第二線から第一線へケイマや大ゲイマで相手の石の下に打つ手。
・石塔シボリ…捨て石を使った石を取るテクニック。最終形が石塔(墓)の形に似ている。
・中国流…布石の陣形。星、小目、辺の星脇で構成される。
・二連星…右辺または左辺に並んで隅にふたつ星を打つ陣形。
・ノゾキ…相手の断点の側に打ち、次に切るぞ、という手。
・ハザマ…ナナメに一路あいた形。
・ハサミ/ハサむ…第三線や第四線で、相手の石がヒラかないように石をくっつけずに両側に石を配置する手。
・ハネ出し…ハネながら相手の石を分断するようなところに打つ手。
・ヒラき/ヒラく…第三線か第四線の石から二路以上四路くらいまであけて第三線か第四線に打つ手。
・ワタリ…下から連絡する手。
・割り打ち…辺の第三線で、両側に二間ビラキできるだけあいたところに打つ手。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、282頁~287頁)
本書で覚えたい定石
第1章 三連星の布石
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 星・スベって二間ビラキ定石
【完成図】
【手順図】
その2 星・一間バサミ三々入り①-1
【完成図】
【手順図】
その3 星・一間バサミ三々入り①-2
【完成図】
【手順図】
〇前の定石の変化形。
白はがっちり生きる形になるのが特徴。
・白1のカカリに、黒が2と一間にハサミ。
※星にカカってハサまれたら、三々に入っておくのが基本。
・この定石は、あらかじめある黒(16, 十)などを生かして、黒4とオサえて、右辺に模様を築くのが目的。
・黒6のノビも急所で逃せない。
・ここで、白7と押し上げる変化がある。
・黒はすぐ8と出る。
・白に断点がふたつできるが、黒10と隅に近いほうから、切るのがコツ。
・白は切られた石を11と取る。
・黒12と反対側を切って……。
・黒14とハネて16とアテ、外勢を築く。
・黒18または黒(15, 六)と守って、一段落。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、39頁~40頁)
その4 星・一間バサミ三々入り①-3
【完成図】
【手順図】
その5 星・一間バサミ三々入り②
【完成図】
【手順図】
第2章 二連星の布石
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 三々入り定石
【完成図】
【手順図】
その2 三羽ガラス
【完成図】
【手順図】
〇右上、3つ並んだ形を「三羽ガラス」という。
守りながら、攻める態勢を秘める。
ちなみに、白でも「三羽ガラス」である。
・スタートは、白(17, 十)の割り打ちから。
・黒が1とツメてきたとき、白は2と二間にヒラキ。
・黒3は、隅を守りながら、右辺の白への攻めも見ている。
・白は4と上辺から迫る。
・黒は5と守るのが大切。
・白6とまた二間にヒラいて、一段落。
※白6は左上の形によっては、白(10, 四)の四線もある。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、73頁~74頁)
その3 大々ゲイマへの三々入り
【完成図】
【手順図】
〇大々ゲイマの構えに入る三々定石
構えが広いので、生きるのには余裕がある。
・白1と三々に入った。
・下辺のほうが広いので、黒は2とオサエ。
・白3とフトコロを広げたとき、黒4とはずすのが、弱点が残らない打ち方。
・白は5、7と広げる。
・白9と切って、黒10とツガせる。
・白11、13とハネツいで、黒14カケツギで、一段落。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、75頁~76頁)
その4 大ゲイマへの三々入り
【完成図】
【手順図】
第3章 星とシマリの布石
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 スベリにツメる定石
【完成図】
【手順図】
第4章 小目の布石
この章で覚えたい定石
問題37~67
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 一間ガカリ・ツケ引き定石・カタツギ
【完成図】
【手順図】
その2 一間ガカリ・ツケ引き定石・カケツギ
【完成図】
【手順図】
その3 大ゲイマガカリ・コスミ
【完成図】
【手順図】
その4 大ゲイマガカリ・一間バサミ
【完成図】
【手順図】
その5 大ゲイマガカリ・広いハサミ
【完成図】
【手順図】
〇一間バサミとそのほかのハサミで、定石が違ってくる。
しっかり区別をつけよう。
※黒2や黒(17, 十一)など、広いハサミの場合
・白1の大ゲイマガカリに、黒2と一間にハサんできた。
・白は3とツケて、さばく。
・黒4のハネには白5と切り違えるのも、肝心。
・黒は6、8とアテて、10とツギ。白一子を分断した。
・白11とオサエて、黒(16, 十七)を動けなくする。
・黒12とハサむのが大事。
・白13と頭を出したら、黒14と白一子を制する。
・白15の押しに黒16と軽くトビ。
・白17とツケて、薄みを補い、ここで一段落。
※黒は黒(13, 十六)を助けるのは、まだまだ小さい。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、177頁~178頁)
第5章 中国流の布石
<この章で覚えたい定石の解説>
その1 中国流・小目へのカカリ
【完成図】
【手順図】
〇中国流特有の定石。
手順は長いが、意味をしっかり理解して、身につけよう。
・下辺にヒラキがきたときに、白1とカカる定石。
・黒2に白3、5とツケ引き。
・黒(17, 十一)があるときに、黒は6とサガって、根拠を脅かす。
・狭いながら、白7とヒラキ。
・黒は8とトンで、下辺を盛り上げる。
・白が9と頭を出す。
・ここで黒10と出て、12とノゾくのが肝心。
・白はすぐツガずに、白13、15とフトコロを広げるのも大事。
・白17とツイで、一段落。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、249頁~250頁)
その2 カカリと受けがあるときの三々①
【完成図】
【手順図】
その3 カカリと受けがあるときの三々②
【完成図】
【手順図】
その4 三々定石・二段バネ①
【完成図】
【手順図】
その5 三々定石・二段バネ②
【完成図】
【手順図】
その6 一間バサミ・両ガカリ
【完成図】
【手順図】
第1章 問題05
第1章 問題05 ●黒番
・白1の三々に黒2とオサえたため、白3とハワれたところ。
黒はAのノビ、Bのハネ、どちらがいいのだろうか。
【問題図】
【正解】
・黒1とノビるべき。
・白は2、4とハネツギを先手で決めて、6とトンで根拠を得た。
・白6が三連星を消して、好点になっている。
【失敗】
・黒1のハネは危険。
なぜかは、次問で扱う。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、17頁~18頁)
第1章 問題06 〇白番
【問題図】
・黒1のハネは危険で、よくない。
白はどうとがめるか。
AとBでは、どちらがいいだろうか。
【正解】
・まず白1とサガって守る。
・黒が2と分断してきたら、白3と切る。
・黒4には白5、7で、黒三子は逃げられない。
※黒4で5なら、白4で切った黒一子を取ることができる。
【失敗】
・白1、3では、黒が得をしている。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、19頁~20頁)
【問題15】第2章
第2章 【問題15】黒番
【問題15までの手順】
【問題15】黒番
・白1のカカリに、黒が2とハサミ。
・白3の三々入りに対して、AとB、どちらからオサえるほうがいいか。
【正解】
・下辺星に黒がいるときには、黒1とオサえて5までの定石を選ぶと、下辺の配石が生きてくる。
【失敗】
・黒1と遮る定石を選ぶと、白8までとなる。
※黒▲が中途半端な構えになっていて、黒不満。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、49頁~50頁)
【問題21】第2章
第2章 【問題21】黒番
・三々に入った白は2からフトコロを広げる。
・黒はAとB、どちらで応じるか。
【正解】
・黒▲があるときには、黒1とはずすのが形
・白は2、4と広げて、6と切ってから、8、10とハネツギ。
・白12と周囲の弱い石を守るのが、大事な呼吸。
※黒がaと切っても、白b、黒c、白dで生きている。
【失敗】
・黒1から9は危険。
・続きは次問で。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、61頁~62頁)
【問題22】第2章
第2章 【問題22】白番
・右下の黒の格好はよくない。
・白は1などと守っておくのがよいだろう。
・右下には狙いがある。
【正解】
・白1の切りが厳しい。
・黒2のアテなら、白3から7と押して、9まで。
※右辺の黒が逃げられそうにない。
【正解変化】
・白1に黒2からアテても、うまくいかない。
・黒6のあとは、次問で考えよう。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、63頁~64頁)
【問題26】第3章
第3章 【問題26】白番
・黒1が星。
・黒3の小目から5とシマった布石。
※星は勢力、シマリは実利でバランスがよく、非常によく打たれている。
・白6の割り打ちに、黒は7と詰めるのは一法。
・白はどう打つか。
【正解】
※右辺は黒の勢力圏であるので、早く治まることを目指すと楽になる。
・白1の第3線での二間ビラキは、安定する形の基本。
【失敗】
・白1など他へ向かうのは、黒2で根拠を奪われる。
※弱い石ができて、おすすめできない。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、81頁~82頁)
【問題36】第3章
【問題36】白番
・黒が2、4と封鎖してきた。
・白はどう応じるか。
【正解】
・白1と一回ハネ出して、黒に節をつけるのが肝心。
・黒2とわざと切らせて、白3とツギ。
・黒4とシチョウにカカえて、一段落。
【失敗】
・白はすぐに生きている格好なので、白1とブツカるのは、筋がよくない。
・黒6まで黒の厚みが鉄壁になる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、101頁~102頁)
【問題42】第4章
第4章 【問題42】〇白番
【問題42までの手順】
【問題42】白番
・黒1、3の割りツギに対しては、白4とツギ。
・黒5、7の切りノビは無理な手段。
※しかしこの二子が取れないと白はバラバラ。しっかり仕留めてほしい。
【正解】
・白1とカケるのが形。
・黒2、4の出に対して、白5と緩めるのが好手。
※これで黒は逃げられない。
【失敗】
・白1はいいのだが、黒2、4に白5とオサえてしまうと、黒6の切りから10までと、突破される。
※右辺の白が取られそう。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、117頁~118頁)
第4章 問題52
第4章 問題52 〇白番
【問題図】
・白6の大ゲイマガカリについて考えて行こう。
※大ゲイマガカリは定石が少なく、分かりやすくおすすめ。
・白6に対して、黒が7とコスんできた。
・どう応じるか。
【正解1】
・白1と二間にヒラいて、安定する。
※地へ向かわず、まず根拠を得ることが大切。
【正解2】
・白1と大々ゲイマに構えるのもある。
※あとの打ち方が違ってくる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、137頁~138頁)
第4章 問題53
第4章 問題53 〇白番
【問題図】
・白1の二間ビラキに対して、黒2とツメて攻めを見るのも有力。
※右上のシマリから右辺にヒラいた格好で、次に黒が上辺に展開すると、「鶴翼の陣」の好形になる。
・それを阻止すべく、白はAとBのどちらがいいだろうか。
【正解】
・白1がヒラキの限度。
・黒が2と間に入ってきても、白3と、石が接触せずに、二間ビラキできる場所が限度。
【失敗】
・白1まで進めてしまうと、黒2と入られると、白3と一間にしかヒラけない。
※黒のほうが、4と二間ビラキできている。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、139頁~140頁)
第4章 問題54
第4章 問題54 〇白番
【問題図】
・黒が2、4と下辺に展開してきた。
・ここで白は守っておきたいところがある。
【正解】
・白1とトンでおくのが、肝心。
・黒に2と守られるが、仕方ない。こんなものである。
【失敗】
・白1などと他へ向かうと、黒2と、二間ビラキを攻めながら、下辺を盛り上げられる。
➡続きは次問で。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、139頁~140頁)
第4章 問題55
第4章 問題55 〇白番
【問題図】
・黒1は厳しいボウシ。
・白は2とトンで、封鎖を避けた。
・このあとの攻めを考えてほしい。
【正解】
・黒1、3とノゾキ。
・黒5と出て、7のほうを切るのが肝心。
・黒9、11と切り離すことができる。
・白は12から生きなければならず、黒15まで、白はひどい目にあった。
【正解変化】
・前図白8で1とツグと、黒2で白二子が取れる。
※白は眼形がなく、苦しい。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、143頁~144頁)
第4章 問題58
第4章 問題58 〇白番
【問題図】
・大ゲイマガカリから、白1と広くヒラくのもある。
・黒は2とツメて、白のスキをねらう。
・白はAとB、どちらで守るか。
【正解】
・白1とトンで守る。
・白に圧迫されないように、黒2とヒラいて一段落。
【失敗】
・白1は「二立三析」であるが、堅すぎる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、149頁~150頁)
第4章 問題61
第4章 問題61 〇白番
【問題図】
・白1の大ゲイマガカリに、黒が2とハサんできた。
白はAとB、どちらで応じるか。
【正解】
・白1とツケ。
※黒の勢力圏なので、ツケてさばくのが基本。
【参考】
・白1とトブのは、好戦的な手。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、155頁~156頁)
第4章 問題62
第4章 問題62 ●黒番
【問題図】
・白が1とツケてきた。
・黒はAとB、どちらをハネるか。
【正解】
・黒1と、分断するようなほうからハネる。
・続きは次問で。
【失敗】
・黒1のハネでは、白2と連絡される。
・白4のトビが好手。
・黒が5と守れば、白6で圧迫。
※黒が5でaと守れば、白5と打ち込まれ、白に主導権を握られる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、157頁~158頁)
第4章 問題63
第4章 問題63 ●黒番
【問題図】
・黒1のハネに、白が2と切ってきた。
切り違いである。黒はどう打つか。
【正解】
・黒1、3とアテて、白一子を分断するのが好判断。
・黒5ツギのあとは、次問で考える。
【失敗】
※「切り違いは一方をノビよ」という格言は、この形では当てはまらない。
・黒1とノビると、白2とアテられ、全体がつながる。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、159頁~160頁)
第4章 問題64
第4章 問題64 ●黒番
【問題図】
・黒▲を確保しなければならない。
どう打つか。
【正解】
・白1のマガリで取れている。
・黒2から6までで、定石の完成。
【正解変化】
・白1とマガることで、黒一子を制することができる。
・黒2には白3とハネて、9までと取れた。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、161頁~162頁)
【参考】
〇石田、事典、471頁
〇井山、囲碁、27頁
【問題72】~第5章 中国流の布石
【問題72】第5章 中国流の布石
【中国流の布石 問題までの手順】(1-25)
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、181頁~188頁)
【問題72】黒番
・白が1とツケてきた。
・黒はAとB、どちらで受けるか。
【正解】
・黒1とオサエ。
・白2と引き、黒3とツギから、白4とツギ。
※白はここだけで生きている。
ここまでが中国流の定石。
【失敗】
・黒1とハネ出すのは、3で白一子が取れるが、白2から6で黒一子も取られる。
※ノゾいた石が取られて、黒が損。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、189頁~190頁)
第6章 ミニ中国流の布石
<阻止される可能性も……>
・これまで学んできた布石は、打とうとすればだいたい実現したが、ミニ中国流は必ず打てるとは限らない。
・黒1を小目に打っても、白が2と星に打ってくれれば、黒5、7でミニ中国流ができる。
・しかし、白2をAの小目などに打たれると、黒5のカカリが打てないし、白6でBなどにハサまれても、ミニ中国流にすることはできない。
※ミニ中国流は阻止される可能性もあることを含んでおいてほしい。
(山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]、262頁)
【問題102】第6章 ミニ中国流の布石
【問題102】黒番
・黒3の小目から、5、7の構えが「ミニ中国流」。
・中国流と同様、白はすぐ白8とミニ中国流の中に入っていくのは、得策ではない。
・黒はAとB、どちらで応じるか。
【正解】
・黒1とケイマに受ける。
・白2から6には、黒7トンで圧迫する。
・白16までの定石のあと、黒17と構えて、黒好調。
【失敗】
・黒1のコスミだと、白2から6となり、黒が低位で不満。
【補足】初手天元について~依田紀基『基本布石事典 下』より
第3章 天元 第10型(516頁~)
【1~3譜(1-49)】
【1譜】(1-14)初手、天元
・黒1の天元は、コミ碁の現代ではほとんど見られないが、勢力主体の変化に富む布石である。
・白2、4の二連星に、黒は高目と目外しで威圧する。
・白6は変則なカカリ。
・白6に、黒のケイマ。
・黒11のコスミに、白12の三間ビラキは手堅い。
・黒13の天王山は逃がせず、逆に白13を許してはいけない。
・白14のカカリ。
【2譜】(14-24)白、模様を荒らす
・白14には、黒15のコスミが形。
※この布石は、双方ともに天元の石を常に意識していなければならない。
ちょっとした不注意から、一気に形勢が傾く恐れがある。
・黒15に白16とはずしたのが臨機の一手。
・譜の白16とくれば、黒17以下21のツギまでは一本道である。
・白は、隅の一子を捨てて、かわりに22まで所帯を持った。
※黒はこの代償として右上隅から上辺にかけて、模様の構築に資することになる。
天元の布石は、黒は単に一カ所の模様にこだわらないで、柔軟な考えが必要である。
・黒23とカカって、碁を広く持っていくところ。
・黒23には白24と割る。
【3譜】(24-49)黒は戦い歓迎
・白24の割り打ちは、ゆっくりした碁に持っていく工夫の一手である。
※戦いは黒の望むところであり、天元の石が働いてくる。
・白24に、黒は25と左方からツメた。
・白は26以下34まで、所帯を持った。
※白は弱い石をつくらないことが、天元を働かせない要諦である。
・黒35で両ガカリ。
・黒35には、白は36から38とオサえることができ、白46までで一段落。
・黒47から49と構えた。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、516頁~521頁)
【補足】山下敬吾氏の初手天元の実戦譜(vs林海峰)~依田紀基『基本布石事典 下』より
【2000年】第26期天元戦本戦
白 九段 林海峰
黒 六段 山下敬吾
山下敬吾vs林海峰
【参考譜】(1-64)
※コミ碁の現代、初手天元の碁はほとんど見られず、本局は珍しい。
・白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道である。
・黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。
※11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。
・黒13に白14の切りから戦いに突入した。
・黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。
・黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。
【1図】(天元をぼかす)
〇白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道であり、これで、
・黒1、3のツケヒキは、白4、6と軽く展開され天元の一子がボケてくる。
【2図】(シメツケ)
〇黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。白12で、
・白1のノビは、黒2、4の切りサガリから、6のオサエでシメツけられ、よくない。
【3図】(白のねらい筋)
〇黒13に白14の切りから戦いに突入したが、白18では、
・白1のカドがねらいの筋で、黒2にサガると、白3から5となって、黒ツブレ。
【4図】(白、空振り)
〇3図の黒2では、
・黒1のハネ一本が手筋で、
・白2に黒3以下7となれば、白のねらいは空振りに終わる。
【5図】(黒、甘い)
〇黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。これで、
・黒1のトビは、白2以下黒7となり、黒▲の高目が甘くなる。
※また、白が厚くなり、天元の石も威力を失ってくる。
【6図】(天元働かず)
〇黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。55で、
・黒1、3と下辺に展開するのは、白4を利かされ下辺はまとまるが、肝心の天元が働かない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、522頁~523頁)
第1章 天元の打ち方 2024年12月5日
山下敬吾 ブログ 天元についての【補足】としても使える。
【参考】9路盤の天元の打ち方~安斎伸彰氏の著作より
9路盤については、次の著作が参考になる。
〇安斎伸彰『【新版】決定版! 囲碁9路盤完全ガイド』マイナビ出版、2022年
9路盤の解説については、後日に譲るとして、さしあたり、ここでは、9路盤の天元の打ち方について、触れておく。
第1章 天元の打ち方
【テーマ図】
・天元の一番のメリットは、9路盤のポイントであるマネ碁の心配がないこと。
・また、白の2手目候補が少なく、黒の3手目の候補は多いので、自分が得意とする形に持ち込みやすいのも、魅力。
・その代わり確定地がないので、地に甘くなりやすい欠点がある。
・大きく構えて入ってきた白石をいじめる展開も多いので、石を取る詰碁力が求められる。
・囲い合いより、攻めが好きな人におすすめ。
<白の初手>
・A:おすすめ、左右のヒラキを見合いにしたバランスの取れた打ち方。
・B:有力、少しひねった手で黒の応手を限定している意味がある。
・C:確実に隅を確保する手だが、少し偏った印象。
・△:疑問手。
【1図】(白の初手A)黒の候補手
・白1は一番初めに浮かぶバランスの取れた手。
・左右へのヒラキを見合いにしている。
・続いて黒からはA~Gなどの応手がある。
※どれも有力であるが、囲い合うならA、研究で優位に立ちたいならB、地力勝負したいなら、それ以外をおすすめ。
【2図】(黒の2手目A)一間トビの狙い
・黒1は対称形にして、右上から左上のどちらかを大きな黒地にしようとする打ち方。
・白2と右側へ打てば、黒3などと左上を囲う展開になる。
・白8まで互角の進行。
※黒5でA、白B、黒Cも有力な打ち方で難しい勝負。
【3図】(白の反発)要研究
・白1は囲い合いを拒否して、読みの勝負へ持ち込む打ち方。
※AとBを見合いに生きを確保して、右上に回る。
右上の白にどれだけヨリツキがきくかの勝負。
・黒6でAは白8、黒7、白6で下辺と中央どちらかの黒石が取られてしまう。
【4図】(白よし)白よし
・黒1は前図を拒否した手であるが、やや妥協した印象。
・白10までの進行は白よさそう。
※黒5や7で下辺に先着したいところであるが、Aの傷があってうまくいかない。
黒3ではAが自然な受けであるが、白9、黒B、白3と進んで、白が打ちやすそう。
【5図】(下ツケのねらい)白よし
・白1は黒に左右どちらを囲うのか、先に選ばせる打ち方。
・黒2と左を受ければ白3として、白7の利きを主張する。
・白11までの進行は、AとBが見合いで、白勝ちそう。
※黒は受けてばかりでは負けなので、どこかで反発しなくてはいけない。
【6図】(黒の反発)いい勝負
・黒1は有力な反発。
※下ツケの1目を持ち込みにさせようという手。
・黒7まで黒の主張が通ったようであるが、白8からハネツいで、白1目はまだアジ残り。
・白A、黒B、白Cの手段がある。
・本図は細かい勝負。白2では白8、黒2、白Dの反発もありそう。
(安斎伸彰『囲碁9路盤完全ガイド』マイナビ出版、2022年、16頁~19頁)
【参考】9路盤の実戦譜(初手天元)~謝依旻vs上野愛咲美
私が9路盤に興味を持ったきっかけは、次のYou Tubeのサイトであった。
先の安斎伸彰氏の著作でも明らかなように、9路盤では、初手天元が有力な打ち方である。
「第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会」においても、謝依旻七段(黒番)と上野愛咲美女流名人(白番)との対局でも、初手天元が打たれていた。
石倉昇九段の解説にもあるように、強いプロ棋士同士が9路盤を打つと、全体が詰碁になる。隅には「一合マス」形が現れるのである!
You Tube
〇日本棋院囲碁チャンネル
「9路盤を楽しもう!第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会」
(2024年3月18日付)
9路盤を楽しもう!
第2回桜ゴルフ杯 女流プロ9路盤大会
主催:日本棋院
出場棋士:上野愛咲美女流名人、謝依旻七段、星合志保三段、安田明夏初段
対局日:2024年2月24日
解説 石倉昇九段、星合志保三段
<9路盤のメリット>
・意外と奥が深い
・入門指導に最適
・10分で一局楽しめる
<9路盤の初手>
・天元、星、高目の3点が有力
※9路盤は、強いプロ棋士同士が打つと、全体が詰碁になる。
➡下記の対局で、右下隅と左上隅に「一合マス」の形が現れていることに注目してほしい。
コウになっても、9路盤の場合、ほとんどコウ材がない
1回戦Aブロック/第1局(1-60)
黒 謝依旻七段
白 上野愛咲美女流名人 白中押し勝ち