≪囲碁の布石~片岡聡氏の場合≫
(2024年12月29日)
今回のブログでも引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にしながら考えてみたい。
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]
「はしがき」にもあるように、序盤は中・終盤にくらべ、比較的自由である。ただし、比較的自由な序盤でも、それなりの制約がある。その制約を無視すれば、いきなり形勢を損なうことになる。本書では、その制約にスポットを当ててみたという。
タイトルにもあるように、その局面で「これだけはいけない」という手を強調して論を進めている。なぜいけないのかを解説することで、序盤に対する基本的心構えを述べたという。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、3頁)
【片岡聡氏のプロフィール】
・昭和33年、千葉県生まれ。榊原章二九段門下。
・昭和42年院生。昭和47年に入段、昭和63年に九段昇段。
・昭和52年、53年留園杯連続優勝。
・昭和54年、初のタイトル戦に挑戦するも加藤正夫天元に敗退。
・昭和57年新人王戦優勝。同年、第8期天元戦に加藤天元を破り、初タイトルを獲得。
・平成2年鶴聖戦優勝。
・平成10年早碁選手権戦優勝。
※本因坊リーグ11回、名人戦リーグ6回出場。棋道賞2回。
【片岡聡『布石 これだけはいけない』(フローラル出版)はこちらから】
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・みなさんは布石は好きですか?
碁の面白さは、なんといっても中盤の戦いである、という人も少なくないだろう。しかり、布石もそれなりに楽しいもの。
・序盤は中・終盤にくらべ、比較的自由である。
「答」が出しやすい中・終盤に対し、序盤は「答」の得にくい分野。
ああ打っても一局、こう打っても一局と、打つ人の価値判断によって「答」がまちまちになる場合が少なくない。その点が、よりいっそう布石を面白くしている。
・ただし、比較的自由な序盤でも、それなりの制約がある。
その制約を無視すれば、いきなり形勢を損なうことになるだろう。
・本書では、その制約にスポットを当ててみたという。
タイトルにもあるように、その局面で「これだけはいけない」という手を強調してみたようだ。なぜいけないのかを解説することで、序盤に対する基本的心構えを述べたという。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、3頁)
・みなさんは局面局面で、どのように打つ手を決めているだろうか。
着手はおよそ、次のプロセスを経て決まる。
①大局を見る
碁盤全体をながめる。
②構想を立てる
立てた構想を実現するための、
③戦略、戦術を考える
戦略が定まったら、その戦略にふさわしい
④着手を選ぶ
・おおむねこのような「手順」で着手は決定されているはず。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、12頁)
・大局(急場)を見誤れば形勢を損なう。
大局を正しくとらえても、あとの構想に無理があれば、やはり形勢を損なう。
大局を正しく見、立派な構想を持ったとしても、着点を誤れば同様。
・「序盤は比較的自由」「どう打っても一局という場面も少なくない」。実際、そうした場面もある。しかし、「これだけはいけない」という手も存在する。
本書では、その点をとくに強調している。
「これだけはいけない」という手と、その理由を示すことが、序盤感覚に磨きをかけることになる、と信ずるから。
【12図】
・著者(黒番)の実戦。
・白は1と浅くカカって来た。
・著者は黒2とケイマで応じ、白3と入らせて、黒4とコスミツケ。
【13図】
・12図の白1に対し、「これだけはいけない」という手は、13図、黒1の受け。
➡これこそ白の注文。
・白はすかさず2とツケてくるだろう。
・黒3、白4となったでき上がり図を見てほしい。
※下辺の白は立派な構え。
黒▲はほとんど活力を失っている。
なおかつ、白にはaのツケが残っている。白aとツケられると、黒は低位を強いられる。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、20頁~21頁)
「第3章 石の効率と働き」の「緩急をつける<研究局6>」(118頁~131頁)において、苑田勇一氏との実戦譜が載っている。
【研究局6】
黒 片岡聡
白 苑田勇一
≪棋譜≫118頁、片岡VS苑田
【第1譜】(1—19)あっさり
・白10のハサミまでは、黒白立場は違うが、研究局3とまったく同じ進行。
・著者は両ガカリではなく、あっさりと三々にフリカワる黒11を選んだ。
※「どう打っても一局」の場面
【第2譜】(20)細分化狙い
・白は20のカカリ。
※白(14, 三)でなく、こちら側のカカリは、局面細分化の狙いがある。
局面を細分化して、コミに物を言わせようという手法。
(白(14, 三)との善悪はいえない)
※著書では、ここをテーマ局面としている。
➡白のカカリを迎え、きわめて常識的な応接でよい。
中国流のこの部分にカカえられたときは、対応は決まったようなもの
・定法通り、黒21とコスミツケて、黒23と受けておく。
(黒21は白(18, 四)の拒否に他ならない)
・白24とヒラかせても、黒(17, 十一)の存在で寸のつまった二間ビラキ。
※白22と立たせてはいるが、まだまだ攻めの狙える石。
攻めが狙えるということを言い換えれば、黒の右下一帯が地になりやすいともいえる。
※なお、黒23と受けておけば、碁の推移によっては、黒(6, 二)も有力な狙いになる。
【第3譜】(21—26)狙い含み
・白24に黒25のトビ。
※これでは右下一帯の完全な守りには、なっていない。
ただし、白に圧力をかける手には、なっている。
※加えて、右下を一手で守り切る適当な手が見当たらない。
それなら、いっそうのこと黒25とトンで、二間ビラキの白への攻めと、ある狙いをテンビンにかける。
※黒25に白は白26と打って、二間ビラキを補強した。
ここでテーマ場面としている。黒25と打ったからには、ただ右下を守る気にはなれない。
➡黒25とトンだ手には、複合的な狙いがあった。
ひとつは、白の二間ビラキへの攻め。そして、もうひとつは、黒27への打ち込み。
※白が白26と二間ビラキを強化したので、黒27ともうひとつの狙いを決行するのは、必然の帰結。
※黒25は、以上の狙いだけでなく、場合によっては、右下を丸々地にする手に化ける可能性もある。
➡このように、狙いが複合的な手ほど、効率がいいといえる。
【第4譜】(27—31)地になる
・白28に黒29、白30に黒31は、ともに大事な手。
※黒が利かされたと見るのは、誤り。
こう受けて、「自動的に」右下が固まった、地になったと見るべきである。
これも、黒27で白6を攻めに出た効果。
※攻めは「押して引く」「引いてまた押す」という緩急が大切。
攻めっぱなしで、あとに何も残らない、という攻めであってはならない。
黒29、31と「引い」たお陰で、右下が強化され、そこそこの黒地がついている。
【第5譜】(32—39)25目確定
・白は34のコスミツケでワタリを防ぎ、白36から逆襲に転じた。
※今度は黒が黒27をサバく番であるが、生きた碁とは、こういうもの。
※この間、黒は右下に約25目の地を確定させている。
白が一子を強化するために、それだけの資本を投下したということ。
サバキに回るのは、やむを得ない。
【第6譜】(40—53)治まる
・黒41から45まで、下辺で世帯を構えることができた。
※左下の白は、まだ確定地とはいえない。
ただし、手をつけていくためには、黒一団の強化も必要。
・それが、黒47のハネから黒49、そして53。
※これは黒一団の単なる強化だけでなく、上辺の白をも意識している。
中央が強くなれば、黒(6, 二)や黒(6, 五)が狙いやすくなる。
※単一の働きしかしない手というのは、そうそうない。
要はその働きを、打ち手が認識しているかどうかである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、118頁~131頁)
・「第4章 石の方向の流れ」の「気合というもの<研究局12>」(196頁~205頁)において、中野寛也氏との実戦譜が載っている。
【研究局12】
黒 片岡聡
白 中野寛也
・タスキ小目から、ひと隅を黒5とシマリ。
・白は両三々から白6のカカリ。
・黒7で打つ手はいくらでもあるが、このカカリは一種の工夫。
・白8のカケから12までは、こちらの注文の拒否。
※注文通り打って悪いというのではなく、拒否したい気分になった、ということ。
また、こちらの趣向に対し、趣向し返したいという反発もあったかもしれないという。
・黒13に当然ながら、白も14と反発してきた。
・黒15、17は必然。
・白18のアテを利かされても、この形は隅の白がまだ生きていないのが、黒の自慢。
・白20、22で間に合わせ、やむなく白は24のスベリ。
・黒25とトンで、少なくとも黒互角以上の戦い。
※白12の次の一手をテーマ図としている。
実戦は、手抜きを咎める黒13と打った。
打つ場所は、下辺、それも右下隅しか考えられない場面。
黒7に手を抜いた白の趣向に対し、それを咎めるには、黒13に限る、と著者は解説している。
≪棋譜≫196頁、片岡VS中野
〇変化図として、参考となる図を紹介しておこう。
≪棋譜≫201頁、3図
【3図】(これだけはいけない)
※黒13で、黒1と打つのは、いけない。
下辺から目をそらすのだけは、いけない。
・黒1、3は大場ではあっても、完全なソッポ。
・白4と受けられると、最初の黒の趣向、三角印の黒が悪手になってしまう。
≪棋譜≫203頁、7図
【7図】(シチョウ)
※黒13で黒1のケイマでも、いけない。
・白2に黒3とオサえられなければ、黒不満。
・しかし、白4と切られて困る。
・黒5、7で黒aのとき、見合えればいいのだが、白8とワタられ、黒aのシチョウが成立しない。
≪棋譜≫203頁、8図
【8図】(白やれる戦い)
・ということで、白のツケ切りに対しては、黒1とノビ、戦っていかざるを得ない。
・しかし、隅の白はすでに生きており、白4にノビられては、実戦とくらべても、黒の苦しい戦い。
≪棋譜≫205頁、10図
【10図】(手筋だが…)黒6コウ取る(1の右)
・実戦の白18でこの白1のカカエのとき、黒2の切り返しは、ひとつの手筋。
・しかし、このケースでは、白5と切られて、黒が持て余す。
※捨てるには、三角印の黒は大きい。
手筋も、時と場所をわきまえるべきである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、196頁~205頁)
(2024年12月29日)
【はじめに】
今回のブログでも引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にしながら考えてみたい。
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]
「はしがき」にもあるように、序盤は中・終盤にくらべ、比較的自由である。ただし、比較的自由な序盤でも、それなりの制約がある。その制約を無視すれば、いきなり形勢を損なうことになる。本書では、その制約にスポットを当ててみたという。
タイトルにもあるように、その局面で「これだけはいけない」という手を強調して論を進めている。なぜいけないのかを解説することで、序盤に対する基本的心構えを述べたという。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、3頁)
【片岡聡氏のプロフィール】
・昭和33年、千葉県生まれ。榊原章二九段門下。
・昭和42年院生。昭和47年に入段、昭和63年に九段昇段。
・昭和52年、53年留園杯連続優勝。
・昭和54年、初のタイトル戦に挑戦するも加藤正夫天元に敗退。
・昭和57年新人王戦優勝。同年、第8期天元戦に加藤天元を破り、初タイトルを獲得。
・平成2年鶴聖戦優勝。
・平成10年早碁選手権戦優勝。
※本因坊リーグ11回、名人戦リーグ6回出場。棋道賞2回。
【片岡聡『布石 これだけはいけない』(フローラル出版)はこちらから】
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はしがき
第1章 序盤を乗り切るコツ
序盤は「自由」か?
どう打っても一局
着手決定のプロセス
大局を見誤るな
構想をたのしむ。ただし―
どこにでもある落とし穴
これだけはいけない
第2章 狙いを秘める
仕掛けのタイミング<研究局①>
出切って戦う 三方ガラミ
防御は攻めに通ず<研究局②>
遠慮のカカリ 堂々のカカリ
厚みを意識する<研究局③>
中国流布石概要 勢力を活かす 気分は攻め 踏み込む
第3章 石の効率と働き
攻守を兼備<研究局④>
着意の継承 攻めも狙う
八方をにらむ<研究局⑤>
光る中央の一歩 狙いの決行
緩急をつける<研究局⑥>
常識的対応 打ち込んでこそ
厚みには敬意を<研究局⑦>
ワリ打ち 浅く消す
続・厚みには敬意を<研究局⑧>
限界の大ゲイマ
第4章 石の方向と流れ
目的意識を持つ<研究局⑨>
相手の注文は? 大きく攻める
大所を逃がすな<研究局⑩>
第一級の大場 模様のスケール
本手の威力<研究局⑪>
一手で厚みに
気合いというもの<研究局⑫>
手抜きを咎める
手順も有力な武器<研究局⑬>
厚みと呼応 「いま」だから
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・氏のプロフィール
・はしがき
・第1章 着手決定のプロセス
・第1章 これだけはいけない
・第3章 「石の効率と働き」の「緩急をつける<研究局6>」
・第4章 「石の方向の流れ」の「気合というもの<研究局12>」
はしがき
・みなさんは布石は好きですか?
碁の面白さは、なんといっても中盤の戦いである、という人も少なくないだろう。しかり、布石もそれなりに楽しいもの。
・序盤は中・終盤にくらべ、比較的自由である。
「答」が出しやすい中・終盤に対し、序盤は「答」の得にくい分野。
ああ打っても一局、こう打っても一局と、打つ人の価値判断によって「答」がまちまちになる場合が少なくない。その点が、よりいっそう布石を面白くしている。
・ただし、比較的自由な序盤でも、それなりの制約がある。
その制約を無視すれば、いきなり形勢を損なうことになるだろう。
・本書では、その制約にスポットを当ててみたという。
タイトルにもあるように、その局面で「これだけはいけない」という手を強調してみたようだ。なぜいけないのかを解説することで、序盤に対する基本的心構えを述べたという。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、3頁)
第1章 着手決定のプロセス
・みなさんは局面局面で、どのように打つ手を決めているだろうか。
着手はおよそ、次のプロセスを経て決まる。
①大局を見る
碁盤全体をながめる。
②構想を立てる
立てた構想を実現するための、
③戦略、戦術を考える
戦略が定まったら、その戦略にふさわしい
④着手を選ぶ
・おおむねこのような「手順」で着手は決定されているはず。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、12頁)
第1章 これだけはいけない
・大局(急場)を見誤れば形勢を損なう。
大局を正しくとらえても、あとの構想に無理があれば、やはり形勢を損なう。
大局を正しく見、立派な構想を持ったとしても、着点を誤れば同様。
・「序盤は比較的自由」「どう打っても一局という場面も少なくない」。実際、そうした場面もある。しかし、「これだけはいけない」という手も存在する。
本書では、その点をとくに強調している。
「これだけはいけない」という手と、その理由を示すことが、序盤感覚に磨きをかけることになる、と信ずるから。
【12図】
・著者(黒番)の実戦。
・白は1と浅くカカって来た。
・著者は黒2とケイマで応じ、白3と入らせて、黒4とコスミツケ。
【13図】
・12図の白1に対し、「これだけはいけない」という手は、13図、黒1の受け。
➡これこそ白の注文。
・白はすかさず2とツケてくるだろう。
・黒3、白4となったでき上がり図を見てほしい。
※下辺の白は立派な構え。
黒▲はほとんど活力を失っている。
なおかつ、白にはaのツケが残っている。白aとツケられると、黒は低位を強いられる。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、20頁~21頁)
第3章 「石の効率と働き」の「緩急をつける<研究局6>
「第3章 石の効率と働き」の「緩急をつける<研究局6>」(118頁~131頁)において、苑田勇一氏との実戦譜が載っている。
【研究局6】
黒 片岡聡
白 苑田勇一
≪棋譜≫118頁、片岡VS苑田
【第1譜】(1—19)あっさり
・白10のハサミまでは、黒白立場は違うが、研究局3とまったく同じ進行。
・著者は両ガカリではなく、あっさりと三々にフリカワる黒11を選んだ。
※「どう打っても一局」の場面
【第2譜】(20)細分化狙い
・白は20のカカリ。
※白(14, 三)でなく、こちら側のカカリは、局面細分化の狙いがある。
局面を細分化して、コミに物を言わせようという手法。
(白(14, 三)との善悪はいえない)
※著書では、ここをテーマ局面としている。
➡白のカカリを迎え、きわめて常識的な応接でよい。
中国流のこの部分にカカえられたときは、対応は決まったようなもの
・定法通り、黒21とコスミツケて、黒23と受けておく。
(黒21は白(18, 四)の拒否に他ならない)
・白24とヒラかせても、黒(17, 十一)の存在で寸のつまった二間ビラキ。
※白22と立たせてはいるが、まだまだ攻めの狙える石。
攻めが狙えるということを言い換えれば、黒の右下一帯が地になりやすいともいえる。
※なお、黒23と受けておけば、碁の推移によっては、黒(6, 二)も有力な狙いになる。
【第3譜】(21—26)狙い含み
・白24に黒25のトビ。
※これでは右下一帯の完全な守りには、なっていない。
ただし、白に圧力をかける手には、なっている。
※加えて、右下を一手で守り切る適当な手が見当たらない。
それなら、いっそうのこと黒25とトンで、二間ビラキの白への攻めと、ある狙いをテンビンにかける。
※黒25に白は白26と打って、二間ビラキを補強した。
ここでテーマ場面としている。黒25と打ったからには、ただ右下を守る気にはなれない。
➡黒25とトンだ手には、複合的な狙いがあった。
ひとつは、白の二間ビラキへの攻め。そして、もうひとつは、黒27への打ち込み。
※白が白26と二間ビラキを強化したので、黒27ともうひとつの狙いを決行するのは、必然の帰結。
※黒25は、以上の狙いだけでなく、場合によっては、右下を丸々地にする手に化ける可能性もある。
➡このように、狙いが複合的な手ほど、効率がいいといえる。
【第4譜】(27—31)地になる
・白28に黒29、白30に黒31は、ともに大事な手。
※黒が利かされたと見るのは、誤り。
こう受けて、「自動的に」右下が固まった、地になったと見るべきである。
これも、黒27で白6を攻めに出た効果。
※攻めは「押して引く」「引いてまた押す」という緩急が大切。
攻めっぱなしで、あとに何も残らない、という攻めであってはならない。
黒29、31と「引い」たお陰で、右下が強化され、そこそこの黒地がついている。
【第5譜】(32—39)25目確定
・白は34のコスミツケでワタリを防ぎ、白36から逆襲に転じた。
※今度は黒が黒27をサバく番であるが、生きた碁とは、こういうもの。
※この間、黒は右下に約25目の地を確定させている。
白が一子を強化するために、それだけの資本を投下したということ。
サバキに回るのは、やむを得ない。
【第6譜】(40—53)治まる
・黒41から45まで、下辺で世帯を構えることができた。
※左下の白は、まだ確定地とはいえない。
ただし、手をつけていくためには、黒一団の強化も必要。
・それが、黒47のハネから黒49、そして53。
※これは黒一団の単なる強化だけでなく、上辺の白をも意識している。
中央が強くなれば、黒(6, 二)や黒(6, 五)が狙いやすくなる。
※単一の働きしかしない手というのは、そうそうない。
要はその働きを、打ち手が認識しているかどうかである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、118頁~131頁)
第4章 「石の方向の流れの「気合というもの<研究局12>」
・「第4章 石の方向の流れ」の「気合というもの<研究局12>」(196頁~205頁)において、中野寛也氏との実戦譜が載っている。
【研究局12】
黒 片岡聡
白 中野寛也
・タスキ小目から、ひと隅を黒5とシマリ。
・白は両三々から白6のカカリ。
・黒7で打つ手はいくらでもあるが、このカカリは一種の工夫。
・白8のカケから12までは、こちらの注文の拒否。
※注文通り打って悪いというのではなく、拒否したい気分になった、ということ。
また、こちらの趣向に対し、趣向し返したいという反発もあったかもしれないという。
・黒13に当然ながら、白も14と反発してきた。
・黒15、17は必然。
・白18のアテを利かされても、この形は隅の白がまだ生きていないのが、黒の自慢。
・白20、22で間に合わせ、やむなく白は24のスベリ。
・黒25とトンで、少なくとも黒互角以上の戦い。
※白12の次の一手をテーマ図としている。
実戦は、手抜きを咎める黒13と打った。
打つ場所は、下辺、それも右下隅しか考えられない場面。
黒7に手を抜いた白の趣向に対し、それを咎めるには、黒13に限る、と著者は解説している。
≪棋譜≫196頁、片岡VS中野
〇変化図として、参考となる図を紹介しておこう。
≪棋譜≫201頁、3図
【3図】(これだけはいけない)
※黒13で、黒1と打つのは、いけない。
下辺から目をそらすのだけは、いけない。
・黒1、3は大場ではあっても、完全なソッポ。
・白4と受けられると、最初の黒の趣向、三角印の黒が悪手になってしまう。
≪棋譜≫203頁、7図
【7図】(シチョウ)
※黒13で黒1のケイマでも、いけない。
・白2に黒3とオサえられなければ、黒不満。
・しかし、白4と切られて困る。
・黒5、7で黒aのとき、見合えればいいのだが、白8とワタられ、黒aのシチョウが成立しない。
≪棋譜≫203頁、8図
【8図】(白やれる戦い)
・ということで、白のツケ切りに対しては、黒1とノビ、戦っていかざるを得ない。
・しかし、隅の白はすでに生きており、白4にノビられては、実戦とくらべても、黒の苦しい戦い。
≪棋譜≫205頁、10図
【10図】(手筋だが…)黒6コウ取る(1の右)
・実戦の白18でこの白1のカカエのとき、黒2の切り返しは、ひとつの手筋。
・しかし、このケースでは、白5と切られて、黒が持て余す。
※捨てるには、三角印の黒は大きい。
手筋も、時と場所をわきまえるべきである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、196頁~205頁)