≪囲碁の手筋~加藤正夫氏の場合≫
(2025年1月19日)
今回のブログでも、引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年
著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する(2頁)。
本書の構成は、1章から3章から成り、攻め、守り、一般の基本手筋と分けられている。
本書の特徴としては、テーマ図に必ず手順図がついていることである。これにより、実戦的にも応用がきくようになっている。
また、基本手筋に関連する重要な指摘も多々見られる。
例えば、ツケ切りについて、次のような指摘は参考になろう。
ツケ切りの手法は白に地を与えても、それに見合う外勢を求めるさいに有力となる(22頁)。ツケ切りは白に地を与えて黒の厚みをつくる場合に使われる(51頁)。一般に「サバキにはツケ」とか「サバキはツケ切りで」などといわれている。 これらはサバキのテクニックの一面を表現している(160頁)。
ここで紹介するのは、「攻め合い」など、重要性が高く、関心がありそうな基本手筋に限定することにした。
【加藤正夫氏のプロフィール】
・1947(昭和22)年3月生まれ。福岡県出身。
・1959(昭和34)年木谷實九段に入門。1964(昭和39)年入段。
・1967(昭和42)年四段で第23期本因坊戦リーグ入りを達成。1969(昭和44)年(五段)には本因坊挑戦者となって、碁界の注目をあびた。
・1976(昭和51)年碁聖戦(第1期)で初タイトル。同年十段。
・1977(昭和52)年本因坊(第32期、剱正と号す)。その後、名人、天元、王座等を獲得。
・2002(平成14)年第57期本因坊獲得(本因坊剱正と号す)。
・2004(平成16)年6月日本棋院理事長に就任。
※棋風:碁は厚く、それをバックに攻めて圧倒していくタイプ。
【加藤正夫『明快・基本手筋』(日本放送出版協会)はこちらから】
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・碁を覚えて、ようやくその面白さがわかってきた頃、筋とか手筋という言葉を耳にするようになる。
「筋がいい」とか「筋が悪い」などと批評され、筋とはどういうものか気になりはじめる。
そうした読者のためにまとめたのが、本書であるという。
・では、筋とか手筋とはなにか?
著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。
・その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。
つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する。
・ところが、同じ手になるにしても、ごく当たりまえの手段では手筋とはいわない。
意外性が強調される手段にかぎられるのが特徴である。
(だから、本とか実戦で、はじめて手筋に接したとき、おそらく読者の多くは驚きと感銘を受けるだろう。そして、碁の奥深さは倍加するはず。)
・碁の腕を磨くには、定石の勉強をはじめ、戦い(攻め、守り、模様の形成、厚みの生かし方等)の仕方など、いろいろとやることが多いもの。
(それはそれで上達するためには欠かせない勉強である)
・しかし、それらの中に、つねに手筋が顔をのぞかせてくる。
だから、手筋を学ぶことによって、他の分野の勉強も比較的容易に理解できるようになる。
・本書では、まずどういう手筋があるか、基本的な型を76型収録した。
そして、その手筋がどういう状況で生ずるか、そのプロセスにもふれ、納得できるようにまとめてみたという。
(これらは手筋へのいわばスタートラインに過ぎない。本書が碁への理解を深め、上達の手助けになってくれることを願う)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、2頁~3頁)
【テーマ図第6型】黒番
・図柄は大きいが、そうむずかしい問題ではないという。
・いま白1と黒の二子を制した局面。
・黒としてはなんとか白△の要石を捉えたいが、どう打てばよいだろうか。
【1図】(失敗)
・黒1なら両アタリであるが、白2と要の石に脱出される。
・白4とノビキられると、左側の黒五子が被告にされる。
※明らかに失敗。いま一度考え直してほしい。
【2図】(正解)
・黒1と遠回しに囲うのが好手筋。
・次に黒2と切れば、要石が取れる。
・そこでもし白2とツゲば、黒3とハズして、白を包囲するのが好手。
➡これで白の三子は逃げられない。
※白aでも黒bからサエギられて手にならない。
そのほかの手でも、白は逃げ出せないことを確認してほしい。
【3図】(正解―変化)
・黒1に、もう白2とカケツいできたら、どうなるだろう。
・黒はひとまず3とアテ。
・つづいて…
【4図】(ダメを詰める急所)
・白4のツギに黒5と頭をオサえるのが急所。
・白は6とハネても、黒7のアテを利かして、9とオサエれば、白は身動きができない。
【5図】(テーマ図の手順)
・白のケイマガカリに、黒1、3のツケ切りを打ったところから生じた。
※このツケ切りの手法は白に地を与えても、それに見合う外勢を求めるさいに有力となる。
・白4、6と決め、8とアテたところから変化したのだが、白20のツギに黒21と動き出され、白は慌ててaと二子を制したのが、テーマ図だった。
・しかし、白は黒21につづいてbとツギ、黒c、白d、黒eと決めてから、白aと二子を制すべきである。
※これはむずかしい戦いに突入する。
・したがって、その黒17では、
【6図】(簡明なワカレ)
・単に黒1とカカえ、白2と二子を取らせて、黒5までと打つ簡明な方法を採用できる。
・また、
【7図】(互角)
・5図白10で1とオサえ、黒8までと決めるのもあり、これでいい加減のワカレとなる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、20頁~22頁)
【テーマ図第8型】黒番
・白1は一見筋に似て非。
※黒は白の欠陥を突いて、白を崩壊に導くきびしい手段がある。
アマチュアの陥ち入りやすい安易な解決法が次図。
【1図】(失敗)
・黒1の出から5のカカエまで。
➡これで満足してはいけない。
・白6、8の追及がきびしく、左方の黒四子も弱体で、このあとの戦いが思いやられる。
【2図】(正解―第一の手筋)
※ここでは大切な手筋が四つ出てくる。
・黒1のサガリを利かすのが最初の手筋。
・つづいて、
【3図】(第二の手筋―ツケ)
・白2と黒のダメを詰めて、いっぱいに頑張ることは、十分考えられる。
・ここで黒3のツケが白の形を崩す急所になる。
➡この手筋もぜひ覚えてほしい。
※黒aと打てば、要の白二子が取れる急所に当たる。
【4図】(第三の手筋―オリキリ)
・白4とツイで頑張れば、黒5のハネを一本利かせ、白6と交換してから、黒7とサガるのが、三番目の手筋になる。
※このサガリがなにを意味しているかわかれば、この問題は卒業だろう。
【5図】(第四の手筋―カケ)
・白8の取りは仕方ない(次図参照)。
・ここまで交換しておいて、黒9とオサエ込んでいく。
・白10のとき、黒11とゲタにカケるのが、最後の手筋。
※白はaと脱出を試みても、黒bとオサえられて、脱出できないことは容易に確認できよう。
※では、白8がどうして必要かというと、
【6図】(追い落とし)
・4図につづいて、白1とみずからは脱出を図りながら、黒を取りにいくと、黒2の放り込みから、4とサシ込んで、白四子が落ちてしまう。
【7図】(テーマ図の手順)
・黒の両ガカリに白1と上ヅケしたところから生ずる定石。
・黒4の三々入りから、黒14までのとき、白15がミス。
※白aとマゲる一手だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、26頁~28頁)
テーマ図第3型 黒番
・白が△にアテてきたところ。
・黒の一子は助からないが、捨て石に利用してほしい。
【1図】(無策)
・黒の一子を諦めるのは仕方がないとして、黒1とアテてしまうのはもったいない。
・当然白2の抜きとなるが、白の形がしっかりしたのに対して、黒の形は少しも整わない。
かといって、黒aとノビるのでは後手になる。
※こういう決め方で満足しているようでは、上達はおぼつかない。
【2図】(正解―まず二子に……)
※ここで≪二子にして捨てよ≫の格言を思い出してほしい。
・黒1のサガリがそれ。
・ただし黒3とアテて5のアテも利かして満足しているようではまだまだ未熟。
※白aの切り味も残り、黒bのオサエも先手にならないから。
※かといって、黒aとツグのでは後手をひく。
【3図】(三子にする)
・白2のとき、黒3のアテを決めるのが面白い手筋。
・つづいて―
【4図】(完封)
・白4とツゲば、そこでまず黒5のアテを利かし、黒7とツイで上方を厚くする。
・白8、10は仕方がない。
※なお、この形は黒aのアテが利くので、白bのハサミツケは成立しない。
【5図】(テーマ図の手順)
・白のケイマガカリに、黒1、3とツケ切るところから生じる。
※このツケ切りは白に地を与えて黒の厚みをつくる場合に使われる。
・したがって普通の状況では、黒3の切りで黒aとノビるものと覚えておいてほしい。
【6図】(白の反発)
・5図のあと、白が4図を嫌えば、白1とアテることも可能。
・黒2のアテ返し黒4とサシ込む変化となる。
・白aの切りの大コウが残るが、これは黒も怖いが、白も同様に怖い。
【7図】(黒、不満)黒10ツグ(8の右)
・だからといって、白1と黒2とツイでしまうと、白3、5とやってこられる。
・ここで黒6のアテに、白は8とツグわけもなく、白9とアテを利かされ、11とツガれてしまう。
※黒大いに不満。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、49頁~51頁)
・「攻め合い」の勉強はひじょうに大切。
・勝てば相手の石が取れるし、負ければ自分の石が取られてしまうわけであるから、その出入り計算では大変な差になる。
・だから、まず攻め合いに入る前に、攻め合いになった場合のダメの数をかぞえておくことが必要。
・たとえば、相手の黒の石のダメは5つ、自軍の白のダメは4つとする。
これは普通に攻め合ったら負けることは、火を見るより明らか。
なんとか攻め合いを回避する方法を考えるほうが賢明。
・ところが、常識的には攻め合い負けのはずが、その攻め合いの形によっては、手筋を駆使して、逆に勝てる場合もある。
その攻め合いの基本手筋をとりあげる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、74頁)
【テーマ図第1型】
・白が△にオサえた局面。
・黒には攻め合いに勝てる(右下の二子を助ける)手筋があるのだが、ぜひ発見してほしい。
【1図】(失敗-勝てない)
〇例によってます失敗から。
・≪攻め合いは外ダメから≫という格言もあるが、黒1のハネからでは、失敗に終わる。
・黒3、5で勝てそうに思えるが、その瞬間、白6のアテを利かす好手があって、白8までで負けとなる。
(各自確認のこと)
【2図】(正解―置きの手筋)
・黒1の置きがすばらしい手筋。
➡これさえ覚えておけば、あとは簡単。
※ただし、誤って黒aと置いてはいけない。
白bと詰められて、黒二子を取られてしまう。
置きは黒▲の二子に近いほうと記憶してほしい。
【3図】(解決)
・白2には黒3ハネで黒の勝ち(白aには黒b)。
【4図】(テーマ図の手順)
・黒1、3のツケ切りに、白は2から4とサガって、抵抗してきた。
・白6はこの際いささか無理。
・黒7のあと、白aとオサえたのが、テーマ図。
※その白6では―、
【5図】(黒、好調)黒6コウ取る(黒a)
・白1とカカえるくらいが相場。
・黒は2の切りから4と封じ込めるのがシメツケの手筋。
・白3以下9までと生きることになるが、黒の厚みが勝る。
※4図の手順中、白4が頑張り過ぎ。
【6図】(相場)
・白1とカカえて十分だった。
・黒は2、4と形を整えるくらい。
・白5とハネ、黒の一団への攻めをみることになろう。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、74頁~76頁)
【テーマ図第2型】
・前型と同じ状況で、こんどは白Aでなく、白△にトンできた。
・一見手筋風であるが、黒はうまい手筋で、攻め合いに勝つことができる。
【1図】(失敗―押す手なし)
・黒1と出て、白の眼を奪うのは急所に似て非。
・白2とツガれると、攻め合いに勝てない。
・念のために、黒3、5とダメを詰めてみる。
・白6と詰められたところでよく見ると、黒はaからも、またbからもダメを詰めることができない。
➡いわゆる≪押す手なし≫黒の負け。
【2図】(正解―ワリ込みの手筋)
・黒1のワリ込みがうまい手筋。
・第一感では白aとカカえられて、まずそうであるが―。
【3図】(正解の証明)
・白2のカカエに、黒3とサガる妙手があった。
・黒5までで白は打つ手なし。
・たとえば白aとダメを詰めても、黒bでアタリ。
➡白はどうすることもできない。
【4図】(準正解)
・なお攻め合いに勝つだけなら、黒1の置きからいけばよろしい。
・白2、4がベストの抵抗で、黒aで白の二子が取れる。
・ただし、将来白bのツギの余地があり、3図には及ばない。
※途中、白2で白3とツグと、今度は黒aでなく黒bとコスミツけるのが手筋で、白4に黒cで白の負けとなる。
(各自確認)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、77頁~78頁)
【テーマ図第3型】黒番
・白としてはともかく白△のハネを一本利かしておきたい。
・そうした軽い気持ちでハネる人は多いと思う。
・ところが、これが打ち過ぎ。
・黒からきびしい反撃の手段があって、白に大きなダメージを与えることができる。
では、どういう手段だろうか。
【1図】(失敗―チャンスを逃す)
・黒の一子を取られてはどうにもならない―と簡単に黒1とツグようでは、失格。
・白2と手を戻されて、何事も起こらない。
【2図】(正解―強手)
・黒1とオサエ込む手が成立。
※意外と思われるかもしれないが、このあとに出てくる手筋は応用の利くものであるから、ぜひとも頭の中にとどめておいてほしい。
【3図】(二子にして捨てる)
・当然、白は2と切ってくるはず。
・黒はひとまず3と二子にする。
・白4に黒5とアテ、白6と二子を取った形が次図。
【4図】(石塔シボリ)
・ここで、黒7の放り込みを打つ。
・ダメヅマリで、白11とはツゲないから、白8と取る一手。
・あとは黒9から11と順にダメを詰めていけば、白は7にツゲず、12とノビ出すくらい。
・黒13と三子が抜ける。
・次に白はaと逃げ出すことになるが、要の白三子が抜けては、黒成功。
【5図】(有利なコウ)
〇なお、途中黒11で、
・コウ争いに自信があれば、黒1とオサえて、全体の白を取りにいくこともできる。
・白は2のハネを一本利かして、コウで抵抗するより仕方がなく、黒7までコウになる。
※このコウは黒の取り番であるから、黒の有利なコウとみてよろしい。
【6図】(テーマ図の手順)
・白1のツケに黒2とハネ出したところから生じた形。
・黒8までは必然であるが、白9のハネは不用意だった。
・白aとカカえ、将来白9のハネをみるべきだろう。
【7図】(常法)
〇問題の黒2であるが、
・黒2と内からオサえ、黒4までとなるのが常法。
➡これなら互角だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、77頁~78頁)
【テーマ図第4型】
〇これは攻め合いの手筋の基本中の基本。
しっかり形を覚えてほしい。
・いま白が△にツイだところ。
・白Aの切りが気になるが、ひとまず白のダメの数を確認して、そのうえで攻め合いに勝てるかどうかを考えてほしい。
※一手誤ると、隅の黒三子は逆に取られてしまう。
【1図】(失敗―攻め合い負け)
・初級者は切りを恐れ、黒1とツグ人が少なくない。
・白に2、4と頑張られて、隅の黒は攻め合い負けになる。
※次に黒aでも、白bと眼をもたれ、メアリメナシであるから、黒は勝てない。
黒cなら白d、黒eには白fで、黒から押す手なし。
【2図】(正解―ハネ)
〇では正解を。
・黒1とハネて万事解決。示されれば簡単。
【3図】(証明)
・白2と頑張ってみても、黒3のアテから5。
※白はaと切る暇がない。
※以上で、2図黒1のハネがいかに効果的か、わかったであろう。
【4図】(定石)
・黒1、3のツケノビから生じた。
・白4のコスミには、黒5のトビツケが最強。
・以下、白10までが定石。
※テーマ図はこのあと白aのノゾキから生じた。
【5図】(白、無謀)
・白1のノゾキはともかく、黒2のツギに白3と切ったのは、無理を通り越して、無謀というほかない。
・白7までで、テーマ図が完成。
【6図】(常法)
・前図白3の切りでは1とコスんで、黒2とツガせるところ。
・白3は必ずしもすぐハネるとは限らない。
※黒aからの反撃がきびしいから。
※したがって、白3では白bとヒラくくらいだろう。
※なお、5図黒2のツギは少々重い。
【7図】(黒の正しい応接)白8ツグ(3)
・黒1のオサエから3と切り込むのが好手筋。
・黒7のアテに、もし白8とツゲば、黒9からの攻めがきびしい。
・したがって、白8で白aとヒラくことになる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、82頁~84頁)
【テーマ図第5型】
・白が隅の手入れを怠っているので、黒からの手段がある。
・無条件とはいかないが、攻め合いで花見コウにもち込むことができる。
・ただし、手順を間違えないように注意してほしい。
【1図】(失敗―手順を誤る)
・黒1のサガリは急所の一つ。
・しかし、手順を誤った。白2とオサエ込まれては、攻め合いにはならない。
※黒aとアタリをかけても、白bとツガれてそれまで。
【2図】(正解―正しい手順)
・まず隅から黒1とオサエ。
・白2を待って、黒3とサガるのが正しい手順。
※次に黒aと詰められては、それまでであるから―
【3図】(放り込む手筋)
・白4とツグ一手であるが、ここで黒5と放り込むのが、なかなかの手。
・白6と取らせて、黒7とオサえれば、これは≪二段コウ≫と呼ばれるコウ争い。
※白aの詰めに黒5とコウを取り、さらに黒bと取って本コウであるから、解決までには手がかかる。
・しかし、黒にとっては花見コウ。
もともと隅は白地だったと思えば、気の楽なコウといえる。
【4図】(テーマ図の手順)
・白3~7は無謀に近い打ち方。
・黒14まで黒の厚みが勝る。
・黒14のあと、白aが本手だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、85頁~86頁)
【テーマ図第6型】
・この問題は大分むずかしい攻め合いの筋が含まれている。
・しかし攻め合いとしては、基本的な原理でもあるので、あえてとりあげておいた。
・普通は白△の二段バネは成立するのであるが、左方に黒▲の備えがある場合には危険。
【1図】(失敗―チャンスを逃す)
・おそらく実戦に出た場合、多くの読者は黒1のノビを考えるだろう。
※確かに穏やかな打ち方で悪くはならないが、実はせっかくのチャンスを逃している。
【2図】(正解)
・黒1の出から3と元を切る手が成立。
・そして黒5の切り。
・さらに―
【3図】(正解の続き)
・白6のツギを待って、黒7、9とハッていく。
➡ここではじめて攻め合いの問題が生じた。
・白10とオサエられ、果たしてこの黒は勝つことができるのだろうか。
※黒のダメはわずかに三手、そこで―
【4図】(シメツケの手筋)
・黒1の切り込みがきびしい手筋になる。
・黒3、5は前にも出た≪石塔シボリ≫の手順。
※このシメツケの手筋は攻め合いの際、しばしば活用されるはずであるから、しっかり頭の中にたたき込んでおいてほしい。
・白6の二子取りにつづいて―
【5図】(両バネ)
・黒1の放り込みから3とアテ。
※ここでよく見ると、黒のダメはいぜん三手であるが、白のダメは四手ある。
したがってこのままでは黒は勝てないはず。
・ところが黒5のハネが先手で打てるのがミソ。
・白6と交換してから、黒7とハネ。
・この黒5と7とが両バネ。
※格言に≪両バネ一手延び≫というのがある。
黒のダメは一見三手であるが、両バネで四手に延びている。
・白8と打ち欠いても、黒9で黒の勝ちがはっきりした。
【6図】(テーマ図の手順)
・黒▲がすでにあるという前提。
・この場合、白10の二段バネは打ち過ぎとなる。
・その10では、
【7図】(正着)
・白1とノるのが正着だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、87頁~89頁)
【テーマ図第7型】
・隅を白が放置していたので、黒1と出て白2と交換した。
・下方の梅鉢形の白との攻め合いであるが、果たして結果はどうなるだろうか。
・この攻め合いは白黒双方に、好手筋が内蔵されていて、なかなかやっかい。
コウ含みであるが、黒の有利な攻め合いにもち込みたいものである。
【1図】(失敗―黒、無条件負け)
・初級者のほとんどは、黒1のオサエ込みを考えたはず。
・これには白2の腹ヅケが有力。
・ただし、黒3では白4で、簡単に負けてしまう。
【2図】(白、取り番のコウ)白8コウ取る(4)
・1図黒3で、1とサガリ、白2に黒3とマゲる強手があった。
・白は4と放り込むのが好手。
・白8まで白の取り番のコウになった。
※黒はコウにもち込んだが、やや不利なコウ。
【3図】(正解-コスミの手筋)
・黒1のコスミがこうした形でのうまい手筋になる。
【4図】(黒、余裕のあるコウ)
・白2から6と頑張る手はあるが、黒7と取って、黒の楽なコウ。
・白はいま一手aとダメを詰めて、はじめて本コウ。つまり≪一手ヨセコウ≫というわけである。
・なお、途中黒5に白bと抜くと、黒cで、これは黒の攻め合い勝ちになる。
・したがって、白は次図で―
【5図】(白の危険なコウ)
・白1のアテから3と打つコウも考えられる。
※黒aと抜いてコウであるが、これは白がコウに負けたときの被害が大き過ぎて問題。
いずれにしても、白の有利なコウは考えられない。
3図黒1のコスミが好手筋といわれるゆえん。
【6図】(テーマ図の手順)白10ツグ(5)
〇ではテーマ図の手順を示しておく。
・黒1のボウシから生ずる変化で、中盤の定石といわれるもの。
・白2に黒3のツケから5と切り込むのが手筋で、以下黒11までの手順をへて、次に黒a、白bが加わったのがテーマ図。
・なお―
【7図】(本手)
・黒1のオサエには白2の手入れが本手。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、90頁~92頁)
・相手から攻撃を受けたときなど、じょうずに処理して苦境を打開する――これがサバキである。
・弱い石が攻められた場合、ただ逃げることだけを考えるようでは強くなれない。
・一般に「サバキにはツケ」とか「サバキはツケ切りで」などといわれている。
これらはサバキのテクニックの一面を表現している。
・状況に応じて、たとえば一部の石を捨て石にして、本体を安全に導くなど、いろいろな方法がある。
・そうした巧みにサバく手筋を身につけていれば、いかなる根拠に立たされても、怖いものはなくなる。
・比較的多く実戦に生ずるサバキの基本例を6型とりあげてみた。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、160頁)
【テーマ図】第1型 黒番
・星定石にしばしば生ずる形。
・白が△に打ち込んできたところであるが、黒は分断された二子をどうサバいたらよいだろう。
・例によって、まず失敗図から。
【1図】(失敗Ⅰ――不利な戦い)
・平凡に黒1とトンで逃げ出すようでは、白2とコスまれて、黒は二分される。
※黒aとツケて動き出すことはできるが、黒は弱石を二つ抱え、そのシノギは容易ではない。
・いま一つ疑問の手は――
【2図】(失敗Ⅱ――白の実利大)
・黒1の上ツケ。
・白は2のハネ出しから、普通に白8までと決め、黒の一子(▲)を手中にして、その実利はかなりのもの。
・黒9で治まったものの、白の利益には及ばない。
【3図】(正解――下ツケの手筋)
・黒としては1と、下にツケるのがうまいサバキの手筋になる。
【4図】(変化)
・白は1とハネ出し、黒6のとき白7と切るのが、常法ながら強手。
・白9抜きにつづいて、黒には二通りの打ち方が考えられる。
【5図】(黒、実利を重視)
・黒が1のツケから7までと実利を稼ぐのがその一つ。
・また――、
【6図】(利き筋を残す)
・4図につづいて黒1とサガリ、白2と受けさせるのも有力。
・白4で黒三子は助からないが、まず黒5のアテを利かせ、黒7と整形。
※これはいずれ黒aのコウ狙い、黒bのサガリが利き筋で、右方の白を攻めるには強力。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、160頁~162頁)
【テーマ図】第2型 黒番
・白と黒との競り合いであるが、白1とノビるのが一つの手筋。
・黒はピンチに立たされているが、どうサバいたらいいだろう。
・まず失敗図から。
【1図】(黒、やや不満)
・白aのカカエを避けるために、黒1のサガリ。
・しかしこれでは白6まで、黒の二子を取られて、不十分。
※一見利かしたようだが、二子を打ち抜いた白の形は厚過ぎる。
【2図】(正解――腹ヅケの手筋)
・黒1とツケるのが≪2の二≫の急所。
いわゆる≪腹ヅケ≫と呼ばれる好手筋。
※白は隅の二子を助ける打ち方もある(4図参照)が、普通は――
【3図】(変化Ⅰ)
・白2とアテるところ。
・黒3で隅の白二子を手中にすることができた。
・黒3につづいて、白はaから黒b、白cとするか、あるいは黒3のあと白dから決めて、上方に厚みを築くか、選択の権利はある。
【4図】(変化Ⅱ)
・黒1の腹ヅケに、白が隅の二子を助けて戦うには、白2とアテ、4とツギ。
・黒は5と二子を動かし、白6以下、黒13までの戦いに入る。
※3図をとるか4図を選ぶかは、周囲の状況による。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、163頁~164頁)
【テーマ図】第3型 黒番
・前型とは白石、黒石の配置が反対になっている。
・その時は黒A(前型では白)とノビたが、黒はほかにいま一つうまい手筋がある。
その手筋を発見してほしい。
【1図】(失敗――俗手)
・初級者だと、ほとんどの人が黒1、3を考えたはず。
・そして、黒5以下13まで。
※大変な厚みを築いたようだが、白14と押し上げられると、厚みはさほど働きそうもない。
それになによりも隅の損が大き過ぎて、失敗図といえる。
【2図】(正解――腹ヅケの手筋)
・黒1のツケ。
※前型とは少々異なるが、これがうまいサバキの手筋。
・黒aと取らせるわけにはいかないので、
【3図】(黒、サバく)
・白2と逃げ出せば、黒は3の押しを一本打って、黒5と一子をカカエる。
※しかし、これで一段落というわけにはいかない。
・このあと――、
【4図】(白の抵抗)
・白1とサガリ、3と切る鋭い手筋。
※ここまでを見て、どういう変化になるか、また白は何を意図しているのかわかれば、たいへんな上達。
【5図】(互角)黒10ツグ(8の左)
・前図につづいて、黒4と二子を取るくらいが相場。
※黒aなどとマゲると、白6のシチョウで黒二子が取られてしまう。
・白はそこで5とカケる。これがまたうまい手筋。
・黒6の抵抗に、以下白9までとシメツける。
※白も下方の四子を犠牲にして、うまくシメツケることに成功。
このワカレはいい加減のものといえる。
【6図】(テーマ図の手順)
・星の黒に白1とカカり、3、5と切り違えたところから生じた。
・なおその白7で、
【7図】(白、失敗)
・白1とノビ、3とハネるのは黒4と打たれ、aの切りとbの取りを見合いにされて、失敗。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、163頁~164頁)
【テーマ図・第4型】黒番
・この白の形を一見しただけで、多くの読者は、「ああこれか」と、ピンときたことと思う。
・この白に対して、黒はどうヨセるのが正しいか――というのがテーマである。
【1図】(失敗Ⅰ―凡手)
・おそらく実戦では、黒1とツイでヨセる人が多いはず。
・白はむろん2と整形する。
※黒aに白bツギが先手で利くとしても、これで白地が6目できてしまう。
また中には、……
【2図】(失敗Ⅱ―余計な手)
・黒1と放り込み、そこで3、5と余計なことを考えている人もあるかもしれない。
・これは手がないばかりでなく、1図よりもさらに2目損をしてしまった。
〇では正しい手筋を示そう。
【3図】(正解―置きの手筋)
・黒1の置きからいくのが、正解。
【4図】(白、大損)
・もし、白2と受ければ、そこで黒3と根元をツギ。
・白4は仕方ない。
※それで白7とツグと、黒aアタリ、白5ツギ、黒4ツギで、中手三目の死形となってしまうから。
・白6で生きであるが、黒7と三子を抜かれては白地よりも、黒の得た利益のほうが大きい。
【5図】(セキ)
・白は2とツキアタリ、黒3ツギに白4とツイで、以下黒7まで。
※これは一見≪隅のマガリ四目≫と錯覚しそうであるが、まぎれもなくセキ。
※地としてはゼロ目であるが、4図より1目得という計算になる。
つまり、この白2と打ちセキにするほうが、正しいというわけである。
【6図】(テーマ図の手順)
・黒の星から大ゲイマにヒラいた構えのところに、白1と三々に入ったところから生じる変化。
・白が15とカケツいだ場合には、黒16とカケツいでおく。
・またその白15で、……
【7図】(固ツギの場合)
・1と固くツイだ場合は、黒2の固ツギで、aの欠陥を補う。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、217頁~219頁)
(2025年1月19日)
【はじめに】
今回のブログでも、引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年
著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する(2頁)。
本書の構成は、1章から3章から成り、攻め、守り、一般の基本手筋と分けられている。
本書の特徴としては、テーマ図に必ず手順図がついていることである。これにより、実戦的にも応用がきくようになっている。
また、基本手筋に関連する重要な指摘も多々見られる。
例えば、ツケ切りについて、次のような指摘は参考になろう。
ツケ切りの手法は白に地を与えても、それに見合う外勢を求めるさいに有力となる(22頁)。ツケ切りは白に地を与えて黒の厚みをつくる場合に使われる(51頁)。一般に「サバキにはツケ」とか「サバキはツケ切りで」などといわれている。 これらはサバキのテクニックの一面を表現している(160頁)。
ここで紹介するのは、「攻め合い」など、重要性が高く、関心がありそうな基本手筋に限定することにした。
【加藤正夫氏のプロフィール】
・1947(昭和22)年3月生まれ。福岡県出身。
・1959(昭和34)年木谷實九段に入門。1964(昭和39)年入段。
・1967(昭和42)年四段で第23期本因坊戦リーグ入りを達成。1969(昭和44)年(五段)には本因坊挑戦者となって、碁界の注目をあびた。
・1976(昭和51)年碁聖戦(第1期)で初タイトル。同年十段。
・1977(昭和52)年本因坊(第32期、剱正と号す)。その後、名人、天元、王座等を獲得。
・2002(平成14)年第57期本因坊獲得(本因坊剱正と号す)。
・2004(平成16)年6月日本棋院理事長に就任。
※棋風:碁は厚く、それをバックに攻めて圧倒していくタイプ。
【加藤正夫『明快・基本手筋』(日本放送出版協会)はこちらから】
〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
1章 攻めの基本手筋
1石を取る手筋
2切断の手筋
3捨て石の手筋
4シメツケの手筋
5攻め合いの手筋
6形を崩す手筋
7侵略の手筋
2章 守りの基本手筋
1連絡の手筋
2形を決める手筋
3サバキの手筋
3章 一般の基本手筋
1シチョウと手筋
2コウをめぐる手筋
3ヨセの手筋
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・氏のプロフィール
・「はじめに」
・1章 攻めの基本手筋 1石を取る手筋 テーマ図第6型
・1章 攻めの基本手筋 テーマ図第8型
・1章 攻めの基本手筋 捨て石 テーマ図第3型
・1章 攻めの基本手筋5攻め合いの手筋
・5攻め合いの手筋テーマ図第1型~第7型
・2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋
・3章 攻めの基本手筋 3ヨセの手筋 テーマ図第4型
「はじめに」
・碁を覚えて、ようやくその面白さがわかってきた頃、筋とか手筋という言葉を耳にするようになる。
「筋がいい」とか「筋が悪い」などと批評され、筋とはどういうものか気になりはじめる。
そうした読者のためにまとめたのが、本書であるという。
・では、筋とか手筋とはなにか?
著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。
・その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。
つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する。
・ところが、同じ手になるにしても、ごく当たりまえの手段では手筋とはいわない。
意外性が強調される手段にかぎられるのが特徴である。
(だから、本とか実戦で、はじめて手筋に接したとき、おそらく読者の多くは驚きと感銘を受けるだろう。そして、碁の奥深さは倍加するはず。)
・碁の腕を磨くには、定石の勉強をはじめ、戦い(攻め、守り、模様の形成、厚みの生かし方等)の仕方など、いろいろとやることが多いもの。
(それはそれで上達するためには欠かせない勉強である)
・しかし、それらの中に、つねに手筋が顔をのぞかせてくる。
だから、手筋を学ぶことによって、他の分野の勉強も比較的容易に理解できるようになる。
・本書では、まずどういう手筋があるか、基本的な型を76型収録した。
そして、その手筋がどういう状況で生ずるか、そのプロセスにもふれ、納得できるようにまとめてみたという。
(これらは手筋へのいわばスタートラインに過ぎない。本書が碁への理解を深め、上達の手助けになってくれることを願う)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、2頁~3頁)
1章 攻めの基本手筋 1石を取る手筋 テーマ図第6型
【テーマ図第6型】黒番
・図柄は大きいが、そうむずかしい問題ではないという。
・いま白1と黒の二子を制した局面。
・黒としてはなんとか白△の要石を捉えたいが、どう打てばよいだろうか。
【1図】(失敗)
・黒1なら両アタリであるが、白2と要の石に脱出される。
・白4とノビキられると、左側の黒五子が被告にされる。
※明らかに失敗。いま一度考え直してほしい。
【2図】(正解)
・黒1と遠回しに囲うのが好手筋。
・次に黒2と切れば、要石が取れる。
・そこでもし白2とツゲば、黒3とハズして、白を包囲するのが好手。
➡これで白の三子は逃げられない。
※白aでも黒bからサエギられて手にならない。
そのほかの手でも、白は逃げ出せないことを確認してほしい。
【3図】(正解―変化)
・黒1に、もう白2とカケツいできたら、どうなるだろう。
・黒はひとまず3とアテ。
・つづいて…
【4図】(ダメを詰める急所)
・白4のツギに黒5と頭をオサえるのが急所。
・白は6とハネても、黒7のアテを利かして、9とオサエれば、白は身動きができない。
【5図】(テーマ図の手順)
・白のケイマガカリに、黒1、3のツケ切りを打ったところから生じた。
※このツケ切りの手法は白に地を与えても、それに見合う外勢を求めるさいに有力となる。
・白4、6と決め、8とアテたところから変化したのだが、白20のツギに黒21と動き出され、白は慌ててaと二子を制したのが、テーマ図だった。
・しかし、白は黒21につづいてbとツギ、黒c、白d、黒eと決めてから、白aと二子を制すべきである。
※これはむずかしい戦いに突入する。
・したがって、その黒17では、
【6図】(簡明なワカレ)
・単に黒1とカカえ、白2と二子を取らせて、黒5までと打つ簡明な方法を採用できる。
・また、
【7図】(互角)
・5図白10で1とオサえ、黒8までと決めるのもあり、これでいい加減のワカレとなる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、20頁~22頁)
1章 攻めの基本手筋 テーマ図第8型
【テーマ図第8型】黒番
・白1は一見筋に似て非。
※黒は白の欠陥を突いて、白を崩壊に導くきびしい手段がある。
アマチュアの陥ち入りやすい安易な解決法が次図。
【1図】(失敗)
・黒1の出から5のカカエまで。
➡これで満足してはいけない。
・白6、8の追及がきびしく、左方の黒四子も弱体で、このあとの戦いが思いやられる。
【2図】(正解―第一の手筋)
※ここでは大切な手筋が四つ出てくる。
・黒1のサガリを利かすのが最初の手筋。
・つづいて、
【3図】(第二の手筋―ツケ)
・白2と黒のダメを詰めて、いっぱいに頑張ることは、十分考えられる。
・ここで黒3のツケが白の形を崩す急所になる。
➡この手筋もぜひ覚えてほしい。
※黒aと打てば、要の白二子が取れる急所に当たる。
【4図】(第三の手筋―オリキリ)
・白4とツイで頑張れば、黒5のハネを一本利かせ、白6と交換してから、黒7とサガるのが、三番目の手筋になる。
※このサガリがなにを意味しているかわかれば、この問題は卒業だろう。
【5図】(第四の手筋―カケ)
・白8の取りは仕方ない(次図参照)。
・ここまで交換しておいて、黒9とオサエ込んでいく。
・白10のとき、黒11とゲタにカケるのが、最後の手筋。
※白はaと脱出を試みても、黒bとオサえられて、脱出できないことは容易に確認できよう。
※では、白8がどうして必要かというと、
【6図】(追い落とし)
・4図につづいて、白1とみずからは脱出を図りながら、黒を取りにいくと、黒2の放り込みから、4とサシ込んで、白四子が落ちてしまう。
【7図】(テーマ図の手順)
・黒の両ガカリに白1と上ヅケしたところから生ずる定石。
・黒4の三々入りから、黒14までのとき、白15がミス。
※白aとマゲる一手だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、26頁~28頁)
1章 攻めの基本手筋 捨て石 テーマ図第3型
テーマ図第3型 黒番
・白が△にアテてきたところ。
・黒の一子は助からないが、捨て石に利用してほしい。
【1図】(無策)
・黒の一子を諦めるのは仕方がないとして、黒1とアテてしまうのはもったいない。
・当然白2の抜きとなるが、白の形がしっかりしたのに対して、黒の形は少しも整わない。
かといって、黒aとノビるのでは後手になる。
※こういう決め方で満足しているようでは、上達はおぼつかない。
【2図】(正解―まず二子に……)
※ここで≪二子にして捨てよ≫の格言を思い出してほしい。
・黒1のサガリがそれ。
・ただし黒3とアテて5のアテも利かして満足しているようではまだまだ未熟。
※白aの切り味も残り、黒bのオサエも先手にならないから。
※かといって、黒aとツグのでは後手をひく。
【3図】(三子にする)
・白2のとき、黒3のアテを決めるのが面白い手筋。
・つづいて―
【4図】(完封)
・白4とツゲば、そこでまず黒5のアテを利かし、黒7とツイで上方を厚くする。
・白8、10は仕方がない。
※なお、この形は黒aのアテが利くので、白bのハサミツケは成立しない。
【5図】(テーマ図の手順)
・白のケイマガカリに、黒1、3とツケ切るところから生じる。
※このツケ切りは白に地を与えて黒の厚みをつくる場合に使われる。
・したがって普通の状況では、黒3の切りで黒aとノビるものと覚えておいてほしい。
【6図】(白の反発)
・5図のあと、白が4図を嫌えば、白1とアテることも可能。
・黒2のアテ返し黒4とサシ込む変化となる。
・白aの切りの大コウが残るが、これは黒も怖いが、白も同様に怖い。
【7図】(黒、不満)黒10ツグ(8の右)
・だからといって、白1と黒2とツイでしまうと、白3、5とやってこられる。
・ここで黒6のアテに、白は8とツグわけもなく、白9とアテを利かされ、11とツガれてしまう。
※黒大いに不満。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、49頁~51頁)
1章 攻めの基本手筋5攻め合いの手筋
・「攻め合い」の勉強はひじょうに大切。
・勝てば相手の石が取れるし、負ければ自分の石が取られてしまうわけであるから、その出入り計算では大変な差になる。
・だから、まず攻め合いに入る前に、攻め合いになった場合のダメの数をかぞえておくことが必要。
・たとえば、相手の黒の石のダメは5つ、自軍の白のダメは4つとする。
これは普通に攻め合ったら負けることは、火を見るより明らか。
なんとか攻め合いを回避する方法を考えるほうが賢明。
・ところが、常識的には攻め合い負けのはずが、その攻め合いの形によっては、手筋を駆使して、逆に勝てる場合もある。
その攻め合いの基本手筋をとりあげる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、74頁)
5攻め合いの手筋テーマ図第1型
【テーマ図第1型】
・白が△にオサえた局面。
・黒には攻め合いに勝てる(右下の二子を助ける)手筋があるのだが、ぜひ発見してほしい。
【1図】(失敗-勝てない)
〇例によってます失敗から。
・≪攻め合いは外ダメから≫という格言もあるが、黒1のハネからでは、失敗に終わる。
・黒3、5で勝てそうに思えるが、その瞬間、白6のアテを利かす好手があって、白8までで負けとなる。
(各自確認のこと)
【2図】(正解―置きの手筋)
・黒1の置きがすばらしい手筋。
➡これさえ覚えておけば、あとは簡単。
※ただし、誤って黒aと置いてはいけない。
白bと詰められて、黒二子を取られてしまう。
置きは黒▲の二子に近いほうと記憶してほしい。
【3図】(解決)
・白2には黒3ハネで黒の勝ち(白aには黒b)。
【4図】(テーマ図の手順)
・黒1、3のツケ切りに、白は2から4とサガって、抵抗してきた。
・白6はこの際いささか無理。
・黒7のあと、白aとオサえたのが、テーマ図。
※その白6では―、
【5図】(黒、好調)黒6コウ取る(黒a)
・白1とカカえるくらいが相場。
・黒は2の切りから4と封じ込めるのがシメツケの手筋。
・白3以下9までと生きることになるが、黒の厚みが勝る。
※4図の手順中、白4が頑張り過ぎ。
【6図】(相場)
・白1とカカえて十分だった。
・黒は2、4と形を整えるくらい。
・白5とハネ、黒の一団への攻めをみることになろう。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、74頁~76頁)
5攻め合いの手筋テーマ図第2型
【テーマ図第2型】
・前型と同じ状況で、こんどは白Aでなく、白△にトンできた。
・一見手筋風であるが、黒はうまい手筋で、攻め合いに勝つことができる。
【1図】(失敗―押す手なし)
・黒1と出て、白の眼を奪うのは急所に似て非。
・白2とツガれると、攻め合いに勝てない。
・念のために、黒3、5とダメを詰めてみる。
・白6と詰められたところでよく見ると、黒はaからも、またbからもダメを詰めることができない。
➡いわゆる≪押す手なし≫黒の負け。
【2図】(正解―ワリ込みの手筋)
・黒1のワリ込みがうまい手筋。
・第一感では白aとカカえられて、まずそうであるが―。
【3図】(正解の証明)
・白2のカカエに、黒3とサガる妙手があった。
・黒5までで白は打つ手なし。
・たとえば白aとダメを詰めても、黒bでアタリ。
➡白はどうすることもできない。
【4図】(準正解)
・なお攻め合いに勝つだけなら、黒1の置きからいけばよろしい。
・白2、4がベストの抵抗で、黒aで白の二子が取れる。
・ただし、将来白bのツギの余地があり、3図には及ばない。
※途中、白2で白3とツグと、今度は黒aでなく黒bとコスミツけるのが手筋で、白4に黒cで白の負けとなる。
(各自確認)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、77頁~78頁)
5攻め合いの手筋テーマ図第3型
【テーマ図第3型】黒番
・白としてはともかく白△のハネを一本利かしておきたい。
・そうした軽い気持ちでハネる人は多いと思う。
・ところが、これが打ち過ぎ。
・黒からきびしい反撃の手段があって、白に大きなダメージを与えることができる。
では、どういう手段だろうか。
【1図】(失敗―チャンスを逃す)
・黒の一子を取られてはどうにもならない―と簡単に黒1とツグようでは、失格。
・白2と手を戻されて、何事も起こらない。
【2図】(正解―強手)
・黒1とオサエ込む手が成立。
※意外と思われるかもしれないが、このあとに出てくる手筋は応用の利くものであるから、ぜひとも頭の中にとどめておいてほしい。
【3図】(二子にして捨てる)
・当然、白は2と切ってくるはず。
・黒はひとまず3と二子にする。
・白4に黒5とアテ、白6と二子を取った形が次図。
【4図】(石塔シボリ)
・ここで、黒7の放り込みを打つ。
・ダメヅマリで、白11とはツゲないから、白8と取る一手。
・あとは黒9から11と順にダメを詰めていけば、白は7にツゲず、12とノビ出すくらい。
・黒13と三子が抜ける。
・次に白はaと逃げ出すことになるが、要の白三子が抜けては、黒成功。
【5図】(有利なコウ)
〇なお、途中黒11で、
・コウ争いに自信があれば、黒1とオサえて、全体の白を取りにいくこともできる。
・白は2のハネを一本利かして、コウで抵抗するより仕方がなく、黒7までコウになる。
※このコウは黒の取り番であるから、黒の有利なコウとみてよろしい。
【6図】(テーマ図の手順)
・白1のツケに黒2とハネ出したところから生じた形。
・黒8までは必然であるが、白9のハネは不用意だった。
・白aとカカえ、将来白9のハネをみるべきだろう。
【7図】(常法)
〇問題の黒2であるが、
・黒2と内からオサえ、黒4までとなるのが常法。
➡これなら互角だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、77頁~78頁)
5攻め合いの手筋テーマ図第4型
【テーマ図第4型】
〇これは攻め合いの手筋の基本中の基本。
しっかり形を覚えてほしい。
・いま白が△にツイだところ。
・白Aの切りが気になるが、ひとまず白のダメの数を確認して、そのうえで攻め合いに勝てるかどうかを考えてほしい。
※一手誤ると、隅の黒三子は逆に取られてしまう。
【1図】(失敗―攻め合い負け)
・初級者は切りを恐れ、黒1とツグ人が少なくない。
・白に2、4と頑張られて、隅の黒は攻め合い負けになる。
※次に黒aでも、白bと眼をもたれ、メアリメナシであるから、黒は勝てない。
黒cなら白d、黒eには白fで、黒から押す手なし。
【2図】(正解―ハネ)
〇では正解を。
・黒1とハネて万事解決。示されれば簡単。
【3図】(証明)
・白2と頑張ってみても、黒3のアテから5。
※白はaと切る暇がない。
※以上で、2図黒1のハネがいかに効果的か、わかったであろう。
【4図】(定石)
・黒1、3のツケノビから生じた。
・白4のコスミには、黒5のトビツケが最強。
・以下、白10までが定石。
※テーマ図はこのあと白aのノゾキから生じた。
【5図】(白、無謀)
・白1のノゾキはともかく、黒2のツギに白3と切ったのは、無理を通り越して、無謀というほかない。
・白7までで、テーマ図が完成。
【6図】(常法)
・前図白3の切りでは1とコスんで、黒2とツガせるところ。
・白3は必ずしもすぐハネるとは限らない。
※黒aからの反撃がきびしいから。
※したがって、白3では白bとヒラくくらいだろう。
※なお、5図黒2のツギは少々重い。
【7図】(黒の正しい応接)白8ツグ(3)
・黒1のオサエから3と切り込むのが好手筋。
・黒7のアテに、もし白8とツゲば、黒9からの攻めがきびしい。
・したがって、白8で白aとヒラくことになる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、82頁~84頁)
5攻め合いの手筋テーマ図第5型
【テーマ図第5型】
・白が隅の手入れを怠っているので、黒からの手段がある。
・無条件とはいかないが、攻め合いで花見コウにもち込むことができる。
・ただし、手順を間違えないように注意してほしい。
【1図】(失敗―手順を誤る)
・黒1のサガリは急所の一つ。
・しかし、手順を誤った。白2とオサエ込まれては、攻め合いにはならない。
※黒aとアタリをかけても、白bとツガれてそれまで。
【2図】(正解―正しい手順)
・まず隅から黒1とオサエ。
・白2を待って、黒3とサガるのが正しい手順。
※次に黒aと詰められては、それまでであるから―
【3図】(放り込む手筋)
・白4とツグ一手であるが、ここで黒5と放り込むのが、なかなかの手。
・白6と取らせて、黒7とオサえれば、これは≪二段コウ≫と呼ばれるコウ争い。
※白aの詰めに黒5とコウを取り、さらに黒bと取って本コウであるから、解決までには手がかかる。
・しかし、黒にとっては花見コウ。
もともと隅は白地だったと思えば、気の楽なコウといえる。
【4図】(テーマ図の手順)
・白3~7は無謀に近い打ち方。
・黒14まで黒の厚みが勝る。
・黒14のあと、白aが本手だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、85頁~86頁)
5攻め合いの手筋テーマ図第6型
【テーマ図第6型】
・この問題は大分むずかしい攻め合いの筋が含まれている。
・しかし攻め合いとしては、基本的な原理でもあるので、あえてとりあげておいた。
・普通は白△の二段バネは成立するのであるが、左方に黒▲の備えがある場合には危険。
【1図】(失敗―チャンスを逃す)
・おそらく実戦に出た場合、多くの読者は黒1のノビを考えるだろう。
※確かに穏やかな打ち方で悪くはならないが、実はせっかくのチャンスを逃している。
【2図】(正解)
・黒1の出から3と元を切る手が成立。
・そして黒5の切り。
・さらに―
【3図】(正解の続き)
・白6のツギを待って、黒7、9とハッていく。
➡ここではじめて攻め合いの問題が生じた。
・白10とオサエられ、果たしてこの黒は勝つことができるのだろうか。
※黒のダメはわずかに三手、そこで―
【4図】(シメツケの手筋)
・黒1の切り込みがきびしい手筋になる。
・黒3、5は前にも出た≪石塔シボリ≫の手順。
※このシメツケの手筋は攻め合いの際、しばしば活用されるはずであるから、しっかり頭の中にたたき込んでおいてほしい。
・白6の二子取りにつづいて―
【5図】(両バネ)
・黒1の放り込みから3とアテ。
※ここでよく見ると、黒のダメはいぜん三手であるが、白のダメは四手ある。
したがってこのままでは黒は勝てないはず。
・ところが黒5のハネが先手で打てるのがミソ。
・白6と交換してから、黒7とハネ。
・この黒5と7とが両バネ。
※格言に≪両バネ一手延び≫というのがある。
黒のダメは一見三手であるが、両バネで四手に延びている。
・白8と打ち欠いても、黒9で黒の勝ちがはっきりした。
【6図】(テーマ図の手順)
・黒▲がすでにあるという前提。
・この場合、白10の二段バネは打ち過ぎとなる。
・その10では、
【7図】(正着)
・白1とノるのが正着だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、87頁~89頁)
5攻め合いの手筋テーマ図第7型
【テーマ図第7型】
・隅を白が放置していたので、黒1と出て白2と交換した。
・下方の梅鉢形の白との攻め合いであるが、果たして結果はどうなるだろうか。
・この攻め合いは白黒双方に、好手筋が内蔵されていて、なかなかやっかい。
コウ含みであるが、黒の有利な攻め合いにもち込みたいものである。
【1図】(失敗―黒、無条件負け)
・初級者のほとんどは、黒1のオサエ込みを考えたはず。
・これには白2の腹ヅケが有力。
・ただし、黒3では白4で、簡単に負けてしまう。
【2図】(白、取り番のコウ)白8コウ取る(4)
・1図黒3で、1とサガリ、白2に黒3とマゲる強手があった。
・白は4と放り込むのが好手。
・白8まで白の取り番のコウになった。
※黒はコウにもち込んだが、やや不利なコウ。
【3図】(正解-コスミの手筋)
・黒1のコスミがこうした形でのうまい手筋になる。
【4図】(黒、余裕のあるコウ)
・白2から6と頑張る手はあるが、黒7と取って、黒の楽なコウ。
・白はいま一手aとダメを詰めて、はじめて本コウ。つまり≪一手ヨセコウ≫というわけである。
・なお、途中黒5に白bと抜くと、黒cで、これは黒の攻め合い勝ちになる。
・したがって、白は次図で―
【5図】(白の危険なコウ)
・白1のアテから3と打つコウも考えられる。
※黒aと抜いてコウであるが、これは白がコウに負けたときの被害が大き過ぎて問題。
いずれにしても、白の有利なコウは考えられない。
3図黒1のコスミが好手筋といわれるゆえん。
【6図】(テーマ図の手順)白10ツグ(5)
〇ではテーマ図の手順を示しておく。
・黒1のボウシから生ずる変化で、中盤の定石といわれるもの。
・白2に黒3のツケから5と切り込むのが手筋で、以下黒11までの手順をへて、次に黒a、白bが加わったのがテーマ図。
・なお―
【7図】(本手)
・黒1のオサエには白2の手入れが本手。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、90頁~92頁)
2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋
・相手から攻撃を受けたときなど、じょうずに処理して苦境を打開する――これがサバキである。
・弱い石が攻められた場合、ただ逃げることだけを考えるようでは強くなれない。
・一般に「サバキにはツケ」とか「サバキはツケ切りで」などといわれている。
これらはサバキのテクニックの一面を表現している。
・状況に応じて、たとえば一部の石を捨て石にして、本体を安全に導くなど、いろいろな方法がある。
・そうした巧みにサバく手筋を身につけていれば、いかなる根拠に立たされても、怖いものはなくなる。
・比較的多く実戦に生ずるサバキの基本例を6型とりあげてみた。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、160頁)
2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋 第1型
【テーマ図】第1型 黒番
・星定石にしばしば生ずる形。
・白が△に打ち込んできたところであるが、黒は分断された二子をどうサバいたらよいだろう。
・例によって、まず失敗図から。
【1図】(失敗Ⅰ――不利な戦い)
・平凡に黒1とトンで逃げ出すようでは、白2とコスまれて、黒は二分される。
※黒aとツケて動き出すことはできるが、黒は弱石を二つ抱え、そのシノギは容易ではない。
・いま一つ疑問の手は――
【2図】(失敗Ⅱ――白の実利大)
・黒1の上ツケ。
・白は2のハネ出しから、普通に白8までと決め、黒の一子(▲)を手中にして、その実利はかなりのもの。
・黒9で治まったものの、白の利益には及ばない。
【3図】(正解――下ツケの手筋)
・黒としては1と、下にツケるのがうまいサバキの手筋になる。
【4図】(変化)
・白は1とハネ出し、黒6のとき白7と切るのが、常法ながら強手。
・白9抜きにつづいて、黒には二通りの打ち方が考えられる。
【5図】(黒、実利を重視)
・黒が1のツケから7までと実利を稼ぐのがその一つ。
・また――、
【6図】(利き筋を残す)
・4図につづいて黒1とサガリ、白2と受けさせるのも有力。
・白4で黒三子は助からないが、まず黒5のアテを利かせ、黒7と整形。
※これはいずれ黒aのコウ狙い、黒bのサガリが利き筋で、右方の白を攻めるには強力。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、160頁~162頁)
2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋 第2型
【テーマ図】第2型 黒番
・白と黒との競り合いであるが、白1とノビるのが一つの手筋。
・黒はピンチに立たされているが、どうサバいたらいいだろう。
・まず失敗図から。
【1図】(黒、やや不満)
・白aのカカエを避けるために、黒1のサガリ。
・しかしこれでは白6まで、黒の二子を取られて、不十分。
※一見利かしたようだが、二子を打ち抜いた白の形は厚過ぎる。
【2図】(正解――腹ヅケの手筋)
・黒1とツケるのが≪2の二≫の急所。
いわゆる≪腹ヅケ≫と呼ばれる好手筋。
※白は隅の二子を助ける打ち方もある(4図参照)が、普通は――
【3図】(変化Ⅰ)
・白2とアテるところ。
・黒3で隅の白二子を手中にすることができた。
・黒3につづいて、白はaから黒b、白cとするか、あるいは黒3のあと白dから決めて、上方に厚みを築くか、選択の権利はある。
【4図】(変化Ⅱ)
・黒1の腹ヅケに、白が隅の二子を助けて戦うには、白2とアテ、4とツギ。
・黒は5と二子を動かし、白6以下、黒13までの戦いに入る。
※3図をとるか4図を選ぶかは、周囲の状況による。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、163頁~164頁)
2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋 第3型
【テーマ図】第3型 黒番
・前型とは白石、黒石の配置が反対になっている。
・その時は黒A(前型では白)とノビたが、黒はほかにいま一つうまい手筋がある。
その手筋を発見してほしい。
【1図】(失敗――俗手)
・初級者だと、ほとんどの人が黒1、3を考えたはず。
・そして、黒5以下13まで。
※大変な厚みを築いたようだが、白14と押し上げられると、厚みはさほど働きそうもない。
それになによりも隅の損が大き過ぎて、失敗図といえる。
【2図】(正解――腹ヅケの手筋)
・黒1のツケ。
※前型とは少々異なるが、これがうまいサバキの手筋。
・黒aと取らせるわけにはいかないので、
【3図】(黒、サバく)
・白2と逃げ出せば、黒は3の押しを一本打って、黒5と一子をカカエる。
※しかし、これで一段落というわけにはいかない。
・このあと――、
【4図】(白の抵抗)
・白1とサガリ、3と切る鋭い手筋。
※ここまでを見て、どういう変化になるか、また白は何を意図しているのかわかれば、たいへんな上達。
【5図】(互角)黒10ツグ(8の左)
・前図につづいて、黒4と二子を取るくらいが相場。
※黒aなどとマゲると、白6のシチョウで黒二子が取られてしまう。
・白はそこで5とカケる。これがまたうまい手筋。
・黒6の抵抗に、以下白9までとシメツける。
※白も下方の四子を犠牲にして、うまくシメツケることに成功。
このワカレはいい加減のものといえる。
【6図】(テーマ図の手順)
・星の黒に白1とカカり、3、5と切り違えたところから生じた。
・なおその白7で、
【7図】(白、失敗)
・白1とノビ、3とハネるのは黒4と打たれ、aの切りとbの取りを見合いにされて、失敗。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、163頁~164頁)
3章 攻めの基本手筋 3ヨセの手筋 テーマ図第4型
【テーマ図・第4型】黒番
・この白の形を一見しただけで、多くの読者は、「ああこれか」と、ピンときたことと思う。
・この白に対して、黒はどうヨセるのが正しいか――というのがテーマである。
【1図】(失敗Ⅰ―凡手)
・おそらく実戦では、黒1とツイでヨセる人が多いはず。
・白はむろん2と整形する。
※黒aに白bツギが先手で利くとしても、これで白地が6目できてしまう。
また中には、……
【2図】(失敗Ⅱ―余計な手)
・黒1と放り込み、そこで3、5と余計なことを考えている人もあるかもしれない。
・これは手がないばかりでなく、1図よりもさらに2目損をしてしまった。
〇では正しい手筋を示そう。
【3図】(正解―置きの手筋)
・黒1の置きからいくのが、正解。
【4図】(白、大損)
・もし、白2と受ければ、そこで黒3と根元をツギ。
・白4は仕方ない。
※それで白7とツグと、黒aアタリ、白5ツギ、黒4ツギで、中手三目の死形となってしまうから。
・白6で生きであるが、黒7と三子を抜かれては白地よりも、黒の得た利益のほうが大きい。
【5図】(セキ)
・白は2とツキアタリ、黒3ツギに白4とツイで、以下黒7まで。
※これは一見≪隅のマガリ四目≫と錯覚しそうであるが、まぎれもなくセキ。
※地としてはゼロ目であるが、4図より1目得という計算になる。
つまり、この白2と打ちセキにするほうが、正しいというわけである。
【6図】(テーマ図の手順)
・黒の星から大ゲイマにヒラいた構えのところに、白1と三々に入ったところから生じる変化。
・白が15とカケツいだ場合には、黒16とカケツいでおく。
・またその白15で、……
【7図】(固ツギの場合)
・1と固くツイだ場合は、黒2の固ツギで、aの欠陥を補う。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、217頁~219頁)