歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の攻め~山下敬吾『基本手筋事典』より≫

2024-10-06 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~山下敬吾『基本手筋事典』より≫
(2024年10月6日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、引き続き、囲碁の攻めについて、次の事典を参考に考えてみたい。
〇山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年 
 
 著者の山下敬吾九段は、先日(9月29日)の第72回NHK杯2回戦で、福岡航太朗五段との対局で、奇抜な布石を打たれていた。
 解説の河野臨九段は、山下九段を“囲碁界随一の力戦家”と紹介されていた。
 山下九段といえば、かつては初手天元、5の五など、大胆な布石で知られていた。この日の布石は、黒番の山下九段が5手目に、天元一路左横に打たれ、奇抜な布石を打たれた。
 こうした布石が打てるのも、深い読みに裏打ちされた手筋を熟知されているからであろう。
 さて、その山下敬吾九段の経歴であるが、高校の数学教師で囲碁愛好家の父より、兄と共に囲碁を習ったのがきっかけであるようだ。
 1986年、旭川市立東栄小学校2年の時に、少年少女囲碁大会小学生の部で、歴代最年少記録で優勝し、小学生名人となる(決勝の相手はのちにプロでタイトル争いをすることとなる高尾紳路氏)。
 翌年、1987年に上京して、アマチュア強豪菊池康郎先生の主宰する緑星囲碁学園に入園する。その後、プロとなり、張栩、羽根直樹、高尾紳路とともに「平成四天王」と称された。

 山下敬吾九段の“神童ぶり”は、平本弥星氏もその著作で、高尾紳路氏の棋譜とともに、紹介されている(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁~58頁)。

 ところで、折しも、本日のNHK杯の放送にかわって、少年少女囲碁大会(8月6日、7日)の決勝戦の模様を、鶴山淳志八段が解説されていた。
 小川蓮君(小4)vs横手悠生君(小6)
 二人とも東京代表で、藤澤一就八段の主宰する囲碁教室で勉強しているライバル同士の決勝戦となった。小川君が左辺の白の勢力圏に打ち込み、戦いを仕掛けてゆき、劣勢になったものの、中盤で挽回し、小学4年生にして、見事に前年度の覇者の横手君を打ち破り、全国1位に輝いた。
 藤澤一就氏といえば、前回のブログで紹介した『基本手筋事典』の藤沢秀行名誉棋聖の息子さんである。そして、一就氏の長女が、女流四冠などを達成した藤沢里菜七段である。
 秀行名誉棋聖の息子さんの囲碁教室から、全国小学生のトップを輩出させるとは、その指導力にも敬服した。



【山下敬吾(やました けいご)氏のプロフィール】
・昭和53年生まれ。旭川市出身。
・菊池康郎氏に師事。
・平成5年入段、9年五段、15年九段。
・平成12年25期碁聖。15年27期棋聖。18年棋聖を奪回4連覇。22年65期本因坊。
 他に天元、新人王など多数のタイトルを獲得。



【山下敬吾『基本手筋事典』(日本棋院)はこちらから】



山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年
【目次】
第1部 攻めの手筋(全て黒番)
1 切断する 第5型
2 石を取る 第8型
3 封鎖する 第7型
4 形を崩す 第7型
5 重くして攻める 第8型
6 手数を縮める 第1型
7 両にらみの筋 第1型
8 根拠を奪う 第5型
9 地を荒らす 第6型
10 いじめる 第6型
11 コウの攻防Ⅰ 第6型
12 眼を奪う 第1型
第2部 守りの手筋(全て黒番)
13 連絡する 第7型
14 シノぐ 第7型
15 進出する 第5型
16 形を整える 第3型
17 サバく 第2型
18 手数を延ばす 第4型
19 様子を聞く 第1型
20 コウの攻防Ⅱ 第1型
21 生きる 第4型
22 その他の手筋 第4型
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、6頁~11頁)




第1部 攻めの手筋の序文


1切断する


・石の連絡を断ち切る手筋である。
 石や地を切り離すことによって、石を弱体化させる効果が大きい。
・切断によって別々に生きなければならなくなるからである。
 場合によっては、切断がそのまま石の取り込みにつながることもある。
 攻めの第一に挙げた由縁である。
・ここでは切断の基本的な形をいくつか採り上げた。
 個々の手筋を見ていく前の、準備知識としていただきたい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、14頁)

2石を取る


・囲碁とは本来<石を囲む>こと、つまり<石を取る>ことを意味する。
 石を取るのは原初からの碁の基本行為である。
・石を取るのは相手の戦闘能力を削ぎ、有利になることはいうまでもない。
 とくに石を切り離している<かなめ石>を取ることができれば、あとを安心して強く戦うことができる。
・石を取る手段はいろいろある。
 本編に入るまえに、基本的な石の取り方を説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、44頁)

3封鎖する


・封鎖にはふたつの目的がある。
①ひとつは相手の進出を止め、攻めに活用することである。
 とくに眼のない石に対しては、進出を止めることにより、きびしい攻めがねらえる。
②もうひとつは封鎖により、自分の地を広げること。
 模様を構築するときなどは、とくに封鎖が効果的である。
・ここでは、封鎖の基本について、頻繁に現われる形を例として簡単に説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、80頁)

4形を崩す


・形を崩すというのは、多くの場合、相手の形の急所に一撃して、働き、効率の悪い愚形にさせることを意味する。
・愚形は、アキ三角や陣笠、ダンゴ石などさまざまな形があるが、要は石の働きの悪い重複形のことである。
・碁は一面では、石の効率性を争うゲームだから、相手を愚形に追い込めばそれだけ有利になるともいえる。
☆代表的な例をあげて、説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、110頁)

5重くして攻める


・石が重い、石が軽いという表現がある。
 囲碁用語でもあるが、抽象的でわかりにくい。
 ごく簡単にいえば、石数の多少で決まるといってもよい。
・重い石というのは、石のかたまりが大きく、捨てにくい石。  
 逆に軽い石は、石数が少なく、捨てても影響がない石である。
・攻めようというときには、相手を重くして、フリカワリを許さない形にするのが、効果的である。
☆ここでは代表例を挙げて説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、140頁)

6手数を縮める


・手数を縮める、あるいは手数を延ばすのは、攻め合いに勝つための必須の手筋である。
・手数というのは、石を取るまでのダメの数のことである。
 相手の手数は縮め、自分の手数は延ばすのが、石の取り合い、つまり攻め合いの基本である。
・それでは、手数を縮めるには、どうすればいいか。
 一言でいえば、相手をダメヅマリに導くこと。
 そのためには、①形の急所を衝く筋、②捨て石の筋、これら、ふたつの手段がある。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、164頁)
図も既に入力済

7両にらみの筋


・両にらみの筋とは、その名のとおり、一つの着手で二つのねらいを持つ手筋のことである。
 相手が片方を防げば、もう一方のねらいを実現する可能性が高い。
・見合いという術語があるが、考え方としては相通じるものがある。
 両ガラミ、モタレなどの作戦も両にらみの筋の一つの変形ともみられよう。
・碁の一手一手が両にらみの要素を含んでいる、といってもいいかもしれない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、188頁)

8根拠を奪う


・根拠を奪うとは、文字どおり相手の眼形を奪うことである。
・封鎖が相手の進路を止めて小さく生かす攻めとすれば、根拠を奪うのはそれとは反対に追い出す攻めといえる。
・根拠を奪うには、外からじりじり相手の領域を狭めるのと、内部から撹乱するのと、ふた通りある。
 いずれにしろ、自分の地を固めながら、相手の根拠を脅かし、それが攻めにつながれば理想的である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、222頁)

9地を荒らす


・地を荒らす手筋には、派手さはないが、その巧拙によってすぐ数目は違ってしまう。
 地味な分野ではあるけれど、勝敗に直結するだけにおそろそかにはできない。
・地を荒らすには、まず相手の地の欠陥、弱点を見つけることが必要だ。
 それによって、ヨセの具体的な手段を考えることが大切である。
☆本章では、欠陥を衝くヨセを多く収録した。
 手筋を知って実戦で使いこなしてほしい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、246頁)

10いじめる


・囲碁でいじめの筋といえば、石の生死を脅かすことによって、何らかの得を図る手段のことである。
 たとえば、攻めて地を削減したり、石をもぎ取ったりするのが、いじめの筋の目的である。
・死活の筋とも関連するが、死活はあくまで石の生き死にだけを問題にする。
 地の多寡を考えるいじめとは、異なるところである。
☆本編に入るまえに、少々例を挙げて、いじめの筋をみていただこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、270頁)

11コウの攻防Ⅰ


・コウは序盤から終盤まで、あらゆる局面があらわれる。
 コウというルールがあるからこそ、局面が複雑化し、囲碁の深みが増すともいえる。
・攻防という観点から考えれば、攻めのコウもあれば、守りのコウもある。
 一概に判別できないものも多いが、ここでは攻めの要素を含んだコウを採り上げた。
 守りのコウについては、第2部の「コウの攻防Ⅱ」をご覧いただこう。
☆まず攻めのコウの手筋をいくつか例示しよう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、294頁)

12眼を奪う


・攻めの部最終章は、死活のうち「眼を奪う」手筋を採り上げた。
〇石を殺すには、大きく二つの方法に分けられる。
①ひとつはフトコロをせばめる攻め。
 眼形を作る<広さ>を攻めるもので、ほとんどの場合、外からせばめて眼形を奪う。
②もうひとつが急所の攻めである。
 形によって急所は変わるから、その見極めが大事になる。
 眼形の急所に直撃するその性格上、内部から攻めることが多い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、324頁)

第1章 切断するの例題


切断する
【1図】(直截の切り)
・単独の石を切り離す切りの原点。
・本図では、黒1によって、白はどちらかの石が助からない。
・白2は上辺の石を大切にするもの。
・黒3で三角印の白は動けず、攻めを防いで白4の二間ビラキも省けない。
※切りの威力である。

【2図】(出切り)
・黒1、3は、手筋以前のもっとも素直な切り。
※形からみて切断への力強い迫力といったものが感じられる。
※切り離された白は両方とも見捨てるわけにはいかず、ここから激しい戦いが予想される。

【3図】(ツケコシ)
※格言に「ケイマにツケコシあり」という。
・黒1がそのツケコシで、切断の手筋として多用される。
※本図ではシチョウが悪いので、白はaないしbとノビて戦うことになる。
 いずれにしても、むずかしい戦い。

【4図】(ワリ込み)
・黒1がワリ込み。
・一間トビに割って入る形に意外性、飛躍といったものが強く感じられる。
➡決まれば恐ろしい手筋。
・黒1で白はつながらない。
※上辺の白には眼形を作る余地がなく、あきらめざるを得ない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、14頁~15頁)

切断する:第5型


【第5型】
・切断の形はさまざまあっても、もっとも効果の大きい手段を選ぶのが常識。
・形に明るいことも手筋発見の力になる。
【1図】(失敗)
・黒1のハネ出しは白2とオサえられて、切断できない。
※隅にはもともと一眼はあり、なんら事情は変わっていない。
※周囲の黒の石の形をもう少し考えれば、どこが急所の点になるか、わかるだろう。

【2図】(失敗)
・黒1はつい打ちたくなる手だが、都合よく白3とはツイでくれない。
・正しく白2と応じられると、黒はアキ三角の愚形になっている。
※黒3と切断はできても、白4でぴったりと生き。
 これでは効果半減だ。

【3図】(正解)
・黒1のツケが手筋。
・白2と受けても、黒3のアテ込みが好手で、白は切断されている。
※隅の白にも生きはない。
※黒1、3は上辺の黒の形(▲の二子)をいっぱいに働かせた切断といえるだろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、20頁)

第1章 切断する:ツケ【参考譜1】孔傑vs張栩


【ツケ】
・単に生きを求めるだけでは、相手は痛痒を感じない。
 相手の弱点を衝きながら、シノぐのが要諦。

【参考譜1】
第3期トヨタ&デンソー杯準々決勝
 白 張栩
 黒 孔傑

【参考譜1】
・白1のツケが黒の切断をにらんだ手筋。
※ただ生きるだけでなく、場合によっては黒を切り離して、攻めに転じようという強い手でもある。

【1図】(実戦)
・黒2は中央の厚みで勝負しようとしたものであろう。
・白3のアテには、黒4から6の切り返しが手筋。
※黒8で9は、白aからbと切られて、うまくいかない。
・白11まで切り離しては実利が大きく、白成功であろう。
 
【2図】(変化)
・白1に黒2と受けると、白3から5と取り、前図のように、黒6と封鎖するのは、白7の両アタリがあって、破綻する。
・したがって、白3のアテに黒は7とノビる相場で、白6のノビキリになれば、白は悪くない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、34頁)

【参考譜2】37頁 2024年9月6日

第1章 切断する:ワリ込み【参考譜2】古力vs依田紀基


【ワリ込み】
「一間トビにワリ込みあり」というが、ワリ込みは相手の形に節をつけ、切断をねらうのがいちばんの目的。

【参考譜2】
第17期テレビアジア選手権
 白 依田紀基
 黒 古力

・白1はシノギと反撃を含んだきびしいワリ込みである。
※黒がどちらにツイでも、切る気迫。
・黒4のツギなら、当然白5の切りである。

【1図】(実戦)
・白の切りに対して、黒1のアテから、3のカケはサバキの手段。
※強く戦うなら、黒4のツギだが、白aとマゲられて、無理と判断したものだろう。
・白4から6の取りに、黒7の後退は自重したものか。
※黒8にツイでシボリをねらえないのでは、つらい。
・白は8から10と切って厚くなった。
※はじめの形からみれば、予想以上の成果とみていいだろう。
※本局は中国の北京で行われ、依田九段が中押し勝ち。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、37頁)

第2章 石を取る:第14型


第2章 第14型 黒番
【テーマ図】
・オイオトシで石を取るには、相手をダメヅマリに追い込むことが条件となる。
 そのためには細心の手順が必要。
 初手で成否がわかる。

【1図】(失敗)
・黒1のトビは、白をダメヅマリにする工夫が感じられない。
・白2のトビが好手で、左方に連絡してしまう。
※なお、黒1でaのアテを決めてしまうのも、白bと換わって、そのあとがうまくいかない。

【2図】(正解)
・黒1の押しが手筋。
※なんの変哲もない普通の手にみえるが、これが白のダメヅマリに追い込む急所の一手になる。
・白2に黒3のカケが好手。
・白4なら、黒5のホウリ込みが手順となり、オイオトシ。

【3図】(変化)
・前図黒3のカケに、白1のトビなら、黒2から4と詰める手順。
 ⇒やはりオイオトシが成立。
※前図の黒1の押しは普通すぎて、ことさら手筋というほどのものでもないが、理にかなった急所の一着である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、59頁)

石を取る:ツケ【参考譜4】張栩vs王銘琬


【ツケ】
・実戦ではいうまでもなく、石を取る状況にはいろいろなケースがある。
 相手の出方次第で、石を取る手が生じてきたりする。

【参考譜4】
第56期本因坊戦 挑戦手合第1局 
 白 王銘琬
 黒 張栩
【参考譜4】
・中央の黒大石が危機に瀕しているが、黒1のツケが白の応手をみた妙手だった。
※白の出方によってはダメがつまり、白が取られるはめになる。
【1図】(実戦)
・黒1のツケを食らってはほかの打ちようもなく、実戦は白2とツイだ。
・黒は3から5と白三子を取り込み、白は4から6と切って、あくまで黒全体をねらう。
・黒7から9と出切る手が強烈な反撃。
・黒11から13とハワれては、左辺の白が持たない。
※実戦の白2で、3にツイで助けるのは、黒aと眼を持たれる。
 そこで白bとあくまで大石をねらうのは、黒7、白8、黒10、白9、黒2の切りがきびしく、白が破綻する。

(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、67頁)

第2章 石を取る:鼻ヅケ【参考譜6】朴永訓vs山下敬吾


第2章石を取る:鼻ヅケ
【鼻ヅケ】
・シノぐときには、相手のかなめ石を取るのが、もっとも効果的である。
・それには、急所を見極め、直撃する。

【参考譜6】
〇第1期トヨタ&デンソー杯1回戦 
 黒 朴永訓
 白 山下敬吾
・白1の鼻ヅケがこの一手の手筋。
※黒二子のダメヅマリを直接衝いて、黒の動きを封じる、形の急所である。
 黒は動きが不自由となった。
【1図】(実戦)
・白1に黒は2と出るくらいのもの。
・そこで、白3の利きを行使して、黒4に白5と形を整える。
※攻め合いの形となったが、すでに白は読み切りである。
※なお、黒2で5のハネ出しは、白2と出て心配はない。

【2図】(実戦・続)
・黒は1、3とツケヒいて、手数を延ばそうとするが、白2、4で大丈夫。
・黒5とダメをつけても、白10までぴったり白の一手勝ち。
※平成14年、朴三段はこのとき16歳。韓国の天元だった。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、75頁)

第2章石を取る:第28型


第2章 第28型 黒番
【テーマ図】
・黒八子の救出が問題。
 そのためには、切り離している白一団を取り込まなければならない。
 白のダメヅマリに注目。
 シチョウは黒有利。
※原図は「官子譜」所載。

【1図】(失敗)
・一見すると、黒1がバランスのよい封鎖の手筋にみえるかもしれない。
・しかし、白2のコスミツケから6と打たれて困る。
※生きと脱出が見合いになっている。
※白のダメヅマリを衝いた攻めが必要。

【2図】(正解)白10ツグ
・黒1のカドが急所。
・白2のコスミには黒3、白4を交換し、黒5から7のホウリ込みで白をダメヅマリに追い込むのがうまい。
・最後は黒13のホウリ込みが決め手となり、白はシチョウ。

【3図】(変化)
・黒1に白2の押しから4のマゲも考えられる。
・それに対しては、黒5のホウリ込みから7のカケが読みの入った一手。
・白8以下、脱出を試みても、黒13が決め手で白の大きなかなめ石は助からない。
※次に白aなら黒b。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、76頁)

第2章 第30型


第1部 第2章 第30型
・ねらいは白のダメヅマリ。
 初手さえ発見できれば、かなめ石はわりあいすんなり取れるかもしれない。
※原図は「発陽論」所載。
【1図】(正解)
・単に黒1とハネ込むのが、白のダメヅマリをねらった手筋。
・白2のアテには黒3が妙着で、白が参っている。
・白4なら黒5でかなめの白五子がオイオトシ。
※白はダメヅマリに泣いている。

【2図】(変化)
・黒1に白2と内側からアテれば、黒3と突っ込む手順。
・白6までとダメヅマリにさせて、黒7のツギから9のカケが決め手になる。
・白10から12ともがいても無駄な抵抗で、黒13までシチョウ。

【3図】(失敗)
・前図黒9で、黒1の押しから7まで攻めるのもありそうだが、これは失敗に終わる。
・白8のツケから12までとなって、ぴったり攻め合いは白の一手勝ち。
 ゲームセット寸前の逆転では泣くに泣けない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、78頁)

封鎖する:第1型


【封鎖する:第1型】(黒番)
・切断の手筋として、有効な働きを持つ手段で、ここではそれを封鎖に活用する。
・一子を犠牲打とする代表的な封鎖の形。
【テーマ図】
【1図】(失敗)
・黒1のツケは白2とノビられて、相当味悪の形。
・黒3とツグしかないが、白a、b、cの出切りを含みにして、dのハネ出しがきびしくなる。
※すぐさま決行されても、黒は持ちこたえられないだろう。
【2図】(正解)
・黒1のツケコシが封鎖の手筋。
・白2、4は仕方なく、黒5から7まで味のよい封鎖形である。
※なお、白4でaのアテを利かすか、あとにbやcの味を残すかは、どちらともいえない。
 黒からは白へのいじめが楽しみ。
【3図】(変化)
・黒3のとき、白4とノビて戦うのは、無理としたものだろう。
・黒5から7が整形の形。
・白は8と生きるくらいの相場となり、黒9に先行できる。
※なお、白4でaは、黒b、白c、黒8となって、やはり黒有利な戦い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、82頁)

封鎖する:コスミツケ【参考譜7】小林覚vs安斎伸彰


【参考譜7】
第14期竜星戦決勝トーナメント
 白小林覚 vs黒安斎伸彰

<コスミツケ>
・封鎖は相手の出足を止め、自身は安定する。
 しかも外に厚みができて、一局の主導権を握ることができる。
【参考譜7】
・白1のコスミツケが封鎖の手筋。
※黒のタケフの形の急所にあたっている。
 ここを封鎖できるか、黒に突破されるかは大変な違いである。
【1図】(実戦)
・黒2のマゲは仕方がない。
・白は3と封鎖して手厚い。
・白5から9と暴れて、白が打ちやすい。
※なお、白3でaは、黒3と突破されて悪い。

【2図】(変化)
・黒2と出るのは、白3のハネ込みから、5のオサエがきびしい。
・黒6から8とダンゴになってはつらい。
※白にとっては格好の攻撃目標だ。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、91頁)

第3章 封鎖する:第10型


第10型
【テーマ図】
・ダメヅマリをねらった封鎖の形を考える。
 白の反発により、思わぬ結果になることも考慮に入れておきたい。
【1図】(失敗)
・黒1のツケもときに考えられる筋だが、この場合はちょっと凝り過ぎだろう。
・白2、4のワリツギが適切で、黒5なら白6とはみ出される。
※なお、黒1で3のコスミは、白1とナラばれてつまらない。
【2図】(正解)
・黒1から3のハネを一発利かして、5にカケるのが、ダメヅマリをねらった封鎖の筋。
・白6から8の出切りには、黒11まで先手になる。
※あと黒aが白の右辺進出を妨げる好点。
 黒の手厚い封鎖形であろう。
【3図】(変化)
・黒3のハネに、白4と押して反発することも考えられる。
・それには黒5のハイを利かし、7とトンで不満はない。
※封鎖は逃したが、黒aとトベば白は眼がなくなる。
 といって白は一手入れていると後手。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、92頁)

封鎖する:第14型


第14型
【テーマ図】
・格言に「ケイマにツケコシあり」という。
 本型はまさにその一手が焦点である。
 白の応手によっては、黒から隅に手段の余地が残る。
【1図】
・黒1がツケコシの手筋。
・白は2とさえぎり、黒3の切りに白4とカカえるくらいのもの。
・黒9まで完封して黒厚い。
※これは白がつらいので、あらかじめ9に備えが必要。
 なお白8を省くと、黒8でトン死する。
【2図】
・前図のように完封されるのはひどいから、白4、6とサガった形。
・しかし、これには黒7のコスミが筋で、隅に手が生じる。
・白8のアテはやむなく、黒13までのエグリは大きい。
※白は根拠を失った。
【3図】
・黒1のツケコシに、白2と下から受けるのもひとつの手筋である。
・白8まで辺に展開するのが白の作戦だが、黒も7まで大きく稼いで不満はない。
※途中、白4でaとカカえるのは、黒4で1図に戻る。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、97頁)

封鎖する:第16型


第16型
【テーマ図】
〇小目の一間バサミ定石からの変化形。
 封鎖は相手の進出の急所を直撃するところか始まる。
 それがダメヅマリを衝いていれば効果が大きい。
【1図】(失敗)
・黒1、3の二段バネはきびしそうにみえるが、白4の単バネが黒の勢いを削ぐいい手。
・黒5のツギはやむを得ず、白6にノビキられては息が切れている。
※これでは白のダメヅマリを衝いてはいない。
【2図】(正解)
・黒1の点が白の進出とダメヅマリの両方を見据えた急所。
・白2のツケなら黒3とワリ込んで切る。
・黒9まで手厚い。
※黒aは先手、逆に白aなら黒bとノビてよし。
なお、左辺重視なら白2に黒c、白5、黒d。
【3図】(変化)
・黒1に白2は堅実な受け。
・黒は3と戻るくらいのものだから白先手。
※白2でaは黒bと打たれ、ここは進出しづらい。
 なお、白2を省くと、黒2のマクリから、白c、黒d、白e、黒fがきびしい手段となる。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、99頁)

封鎖する:第26型


第26型
【テーマ図】
・上辺の黒を助けるのがテーマ。
 そのためには中央の白を封鎖して取り込まないといけない。

【1図】(失敗)
・黒1のアテから3とシボるのが、まず目につく筋だろう。
・白4に黒5とアテても、シチョウにはならない。
・黒7から9は、白14まで黒破綻する。
※また、黒7で12のカケは、白14の切りで黒無理。

【2図】(正解)
・黒1のハサミツケが封鎖の手筋。
・白2の取りなら、黒3とオサえてよい。
・白4には黒5から7まで、オイオトシでかなめ石が落ちる。
※なお、白2で5のブツカリには、黒aのヒキで白は打つ手がない。
【3図】
・白の最強のがんばりは前図白4で、白1のツケである。
・しかし、これには黒2のハネ出しが強手。
・白3から5のアテに、黒6から8とアテて、天下コウ。
※白のツブレといっていいだろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、109頁)

第4章 形を崩すの例題


第1部第4章 形を崩す
・形を崩すというのは、多くの場合、相手の形の急所に一撃して、働き、効率の悪い愚形にさせることを意味する。
・愚形は、アキ三角や陣笠、ダンゴ石などさまざまな形があるが、要は石の働きの悪い重複形のことである。
・碁は一面では、石の効率性を争うゲームだから、相手を愚形に追い込めばそれだけ有利になるともいえる。
☆代表的な例をあげて、説明しておこう。

【1図】(ノゾキ)
・黒1が白の形を崩す急所のノゾキである。
※切りを防いでaと打てば、アキ三角の愚形で最悪の形。
・それを避けて白2と断点を守っても、白は愚形に変わりはない。
※黒1の一発で、白は眼形が失われた形。

【2図】(急所の守り)
・白番なら1と急所を守るところ。
※これで白は一気に強い石になり、急な攻めはなくなる。
反対に上辺の黒は弱くなり、白aなどの攻めが脅威になる。
一手の差で完全に攻守交替したということである。
【3図】(急所の一撃)
・黒1が白の根拠を取る急所。
・封鎖を避けて白2と押すが、黒3とハネられて困った。
・進出するには白4しかない。
※アキ三角の愚形になるが、仕方がない。
・白の形にくらべ、黒は5と守って好形。
【4図】(切り)
・前図、白4のアキ三角はつらいから、白1とツケて進出を図る。
※しかしこれはもっと悪い結果になる。
・黒2が強手で、白は5、7から生きるしかない。黒厚い。
※白1で4のハネも、黒2と切られて悪い。
【5図】(コスミ)
・黒1に白2とコスむのは、黒3の押しに白4とノビるしかない。
・黒a、白bの先手利きからみれば、白4はアキ三角であり、この進出もすでに形が崩れている。
※白は眼がなく、一方的に攻められる。
【6図】(俗筋)
・シチョウが悪いからといって、黒1とアテ、白2に黒3とアテてしまうのは味気ない。
・黒5は手厚いが、白に右辺に先着されて、黒は棒石になりかねない。
※黒5でaのヒラキなら、白5のマゲが手厚い。
【7図】(カケ)
・黒1のカケが手筋。
・白2とアテれば、黒3から5のシボリが気持ちいい。
※白はダンゴ石となり、形が崩れる。
※ちなみに、隅の白三子は、黒aには白bでよく、他の手もうまくいかない。
 黒からのちにcが狙い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、110頁~111頁)

形を崩す:第2型


【形を崩す:第2型】(黒番)
・相手をダンゴ石にさせる常用の手筋である。
・本型の場合、相手をダメヅマリにして重くさせる効果もある。
・原図は「活碁新評」所載。

【原図】
【1図】(失敗)
・黒1と打って、逃げ出せないことはない。
※しかし、白に左右を固められて、黒は得にならない。
 はっきりした根拠を持つまで、黒が負担になるであろう。
※すぐの逃げ出しでなく、柔軟な発想も必要。

【2図】(失敗)
・黒1のツケもひとつの筋ではあるが、この場合は白2と取られて、つまらない。
※次図の気持ちいいシボリを逃しただけでなく、黒三子を一手で取られたため、あと何も利かなくなっている。
【3図】(正解)白4ツグ
・黒1のホウリ込みから、3、5とシボるのが、形を崩す手筋。
※白をダメヅマリにし、重くしている効果もある。
・ここで黒7と動き出すなら、1図と違い十分考えらえられる。
※互角以上の競り合いであろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、113頁)

第4章 形を崩す 第5型

 
【第4章 形を崩す 第5型(黒番)】
・形を崩すのと形を整えることは、表裏の関係にある。
 黒が急所を衝くか、白が守るか。
 一手の差で石の強弱が入れ替わる。
※原図は「活碁新評」所載

≪棋譜≫117頁、問題図


≪棋譜≫117頁、1図

【1図】(正解)
・黒1のノゾキが、白の断点をねらった、形を崩す手筋。
・白2と守れば、黒3とトンで、攻めの態勢が整う。
※白は眼形を失い、弱い石になる。
※白番なら、1と守るのが、相場。
 一手の価値があり、強い石となる。

≪棋譜≫117頁、2図

【2図】(変化)
・黒1に白2が手強い抵抗手段だが、この場合は黒3のサガリが強手。
※黒aの躍り出しとbのツケが見合い。
黒bのツケに白cのツギなら、黒dの切りが成立。
 攻め合いは白が勝てない。

≪棋譜≫117頁、3図

【3図】
・白が1図のように攻められるのを嫌うなら、白2のツケも考えられる。
・黒は3のハネ出しから、手順に9まで手厚く封鎖して十分の形。
※なお、黒3で6の下ハネは、白5とノビられて、生きても大損。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、117頁)

形を崩す:ハサミツケ【参考譜11】宮沢吾朗vs小山靖男


【ハサミツケ】
・相手が打ちたいところを先回りして打つのが筋になることがある。
・封鎖の筋とも関連のある手段である。

【参考譜11】
〇第35回NHK杯戦1回戦
 黒 宮沢吾朗
 白 小山靖男
・黒1のハサミツケが強烈な手筋。
※通常は、黒aとハネ、白1とノビるところ。
黒1は白bなら黒aだが、白はbにツグわけがない。
【1図】(実戦)
・黒1のハサミツケには白2と出るしかない。
・黒3の切断も勢いであり、白は4のアテから6とシノギを図る。
・黒7に筋よく白8とハネたのが悪かった。
・ここは愚直に俗っぽく白9とアテて出ていくのが、よかったようだ。
・白14に黒15とハネ出されては、白が苦しい。
※白はいろいろもがいたが、結局最後は白の大石が召し捕られた。
※豪快な武闘派、宮沢七段(当時)の気合あふれる一気の攻めが奏功した。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、133頁)

形を崩す:第21型


【形を崩す:第21型】(黒番)
・互いに切り結んで一手も揺るがせにできない局面。
・白の弱点を衝いて、形を崩す手筋を発見してほしい。
【原図】
【1図】(失敗)
・黒1のアテから、3、5のハネツギは無策というしかない。
※隅は生きたが、外はすっかり白が厚くなってしまった。
・黒7から9と動き出してみても、白十分の戦い。
※これでは、白の弱点にまったく迫っていない。

【2図】(正解)
・黒1のハネが白の弱点を衝いた手筋。
・白2のオサエなら、黒3、5と出るのが手順。
・白は6、8と取り、黒は9と取り合うフリカワリである。
※白2の一子が無駄石になっている分、黒有利とみられる。

【3図】(変化)
・前図を避けて、白2のアテから4のツギなら、黒5の躍り出しが手筋。
・白8と取られても、黒は7とワタって、まずまずの結果だろう。
※なお、白4でa、黒5、白6、黒b、白8の変化もある。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、135頁)

形を崩す:第22型


【形を崩す:第22型】(黒番)
・白の形を崩す絶対の急所がある。
・実戦でもよくお目にかかる形なので、この際しっかり頭に入れていただきたいもの。
・原図は「活碁新評」所載。

【1図】(失敗)
・黒1のトビは、白2と逃げられて、白の形を崩しているとはいえない。
・黒3と攻めようとしても、白4と進出されて、はっきりしない戦いだろう。
※なお、黒1でaは、白bと受けられて、白が好形になる。

【2図】(正解)
・黒1のツケが白のタケフの急所であり、また弱点ともいえる。
・愚形でも白2とツグよりなく、黒3、5から7とノビて、十分戦える。
※なお、白2でaのオサエは、黒2の切りがきびしく、白苦しい。

【3図】(変化)
・黒1には白2とフクラみたくなるが、これはよくない。
・黒3のハネが緩みのないきびしい手。
・白4には黒5と二段バネされ、白6では黒7、9を利かされて、白重苦しい。
※白は前図にしたがうほかないところ。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、136頁)

重くして攻める:第12型


第12型
・白△とツケたところ。
・形になじんで打つとチャンスを逸する。
・白の連絡具合に注目して、傷を発見することが肝要。

【1図】(失敗)
・考えずに打つと、手拍子で黒1とハネてしまいそう。
・すると、白2を利かされて、4の攻めがきびしくなる。
※白が強化されただけに、黒の苦戦が予想される。
※黒1では、もっときびしい手がある。

【2図】(正解)
・黒1の出がきびしい。
・白2と隅を受ければ、黒3の両ノゾキがあって、白は分断される。
・白4はやむを得ず、隅は大きく生きるが、白四子は重い石となってしまう。
※なお、黒3で4は、白aとかわされる。

【3図】(変化)
・黒1には、白2とツケる変化もある。
・黒はいきおい、3、5と隅を取り切るくらいのもの。
・白は4から6と形を作り、前図の浮き石となることはない。
※しかし、黒も隅を地にして不満はない。白はaがねらい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、153頁)

重くして攻める:ハネ込み【参考譜12】張栩vs小山竜吾


【ハネ込み】
・形は違うが、ハネ込みも形を崩し、重くする手段として有力である。
・白が断点の守り方に迷うように打つのがよい。

【参考譜12】張栩vs小山竜吾
第10期竜星戦本戦
 黒 張栩 
 白 小山竜吾

・黒1が断点をねらったハネ込みである。
・白aと切るのは黒bで苦しいから、白bと受けるしかないが、このとき断点の守り方が悩ましい。
【1図】(実戦)
・黒1に白2のアテから4のカケツギは、黒5が気持ちのよい利かしとなって、つらい。
・白8までの形は、石が重複して重くなっている。
※といって、白4で5は、黒4、白6。
 この形も、白やる気がしない。

【2図】(実戦・続)
・続いて、白1から3のツケ切りがサバキの手筋だが、黒4のヒキが冷静な手だった。
・白5のヒキには、黒6から8の二段バネがきびしい。
※白は上下を連絡する手がなく、結局上方の白が取られてしまった。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、155頁)

重くして攻める:鼻ヅケ【参考譜13】羽根直樹vs小林覚


【参考譜13】羽根直樹vs小林覚
第31期棋聖戦挑戦者決定戦
 黒 羽根直樹 
 白 小林覚

・白1の鼻ヅケが黒の形の急所である。
※かなめの黒二子をねらって、ここから局面を動かして、白の形を整えるのがいい。
 黒はシノギに追われる。
【1図】(実戦)
・白1の場所は攻防の急所である。
※黒の出足を鈍らせ、重くして攻める拠点となっている。
・黒2には白3と出て、黒を分断する。
・黒は4のハネから6と、シノギに専念するほかはない。
・逆に、白は7から9と堂々の進軍で、完全に攻守が入れ替わった。
・白11から13の二段バネが切断の筋。
・白23と眼形の急所を直撃しては、勝負はあった。ここで黒投了。
※小林覚九段が10年ぶりに棋聖挑戦を決めた一局である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、159頁)

重くして攻める:第18型


【第18型】
・一団の白石をどう重くして攻めるか。
・ふた通りほどの手段が考えられるが、どちらも実戦で多用される手筋である。
・原図は「活碁新評」所載。

【1図】(失敗)
・黒1と出るのは、白の形に節をつける意味でも逃せない。
・しかし、白2のオサエに、黒3が生ノゾキと呼ばれる筋悪の手。
・白4のツギのあと、白aのハネが残っている。
※黒bも同様の生ノゾキ。悪手の見本である。

【2図】(正解)
・黒1のハサミツケが常用の手筋。
・白2のツギなら、黒3のトビで断点をねらうのが気持ちのいいところ。
※白aとツグほかなく、黒bと改めて絶好調である。
※白2でaなら、黒の切りで分断する。

【3図】(別解)
・もうひとつの手段は黒1の切り。
・白2のノビに黒3のノゾキが急所。
※白aと断点を守っても、白の姿は重く、攻めが期待できる。
※黒1で単に3とノゾくと、白aのカケツギが好形になってしまう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、161頁)

第6章 手数を縮めるの例題


第1部第6章 手数を縮める

【1図】(ホウリ込み)
・黒1のホウリ込みがダメヅマリにする捨て石の筋。
・白2と取らせて黒3とアテれば、白の手数は三手。黒の一手勝ち。
※黒1で3のアテは失敗。
 白1にツガれて手数は四手。逆に黒が一手負けになってしまう。

【2図】(ワリ込み)
・黒1のワリ込み。
※これも捨て石の活用による、手数を縮める手筋である。
・白2に黒3のアテから5のサガリまで、黒の一手勝ち。
※このあと、白aなら黒b。
※黒1で5は白1にツガれて黒負け。

【3図】(切り)
・黒1の切りが出発点。
・白2のアテに、黒3と二目にして捨てる石塔シボリの筋である。
・黒7のホウリ込みもダメヅマリにする手筋で、黒9のツギまで黒一手勝ち。
※切りから捨て石を利用する筋は数多い。

【4図】(ハネ)
・黒1のハネから、緩まずつめるのが手筋。
・白4の切りには、黒5で一手勝ちだ。
※黒1で2は、白1とアテられて失敗。
※攻め合っている本体を攻めるのが、攻め合いの基本型。
 枝葉を攻めても、仕方がない。

【5図】(オキ)
・黒1は白の形の急所を衝いて、手数を縮める手筋。
・白2と黒3のところが見合いで、黒の一手勝ちである。
※なお、黒1でaは、白1と眼を持たれて、セキとなり、失敗。
※眼持ちが手数を延ばしている。

【6図】(ハサミツケ)
・黒1のハサミツケが白の急所を衝いた手筋。
・白2には黒3とワタって、黒一手勝ち。
※なお、黒1で3のハネは、白1、黒a、白bで、黒一手負け。
※正解の黒1は、2と3を見合いにした急所。

【7図】(ツケ)
・黒1は白の急所を衝いた手数を縮める手筋。
・白2、4に対しては、黒5のアテで、黒が一手勝っている。
※なお、黒1で5のアテは、白aとコウにする筋がある。
※黒1で2は、白1でやはり手になる。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、164頁~165頁)

手数を縮める:第2型


【第2型】
・黒の手数は三手。白の手数はわかりにくいが、△の白四子が攻め合う本体だから、やはり三手。
・しかし初手を誤ると、白の手数を増やしてしまう。

【1図】(失敗)
・黒1、3のハネツギは白2と受けられて失敗。
※白の手数は三手あり、一手もつめていない。
・白4とつめられて、黒は一手負け。
※この黒1のハネは、枝葉の白二子を攻めてしまった理屈となる。

【2図】(失敗)
・黒1のサガリも白2と受けられて、黒一手負け。
※aのところは「内ダメ」といって、眼のある白が有利。
 黒がaとつめなければならず、白だけの手数になる。
 白4の時点で、黒は外ダメの二手、白は三手。

【3図】(正解)
・黒1が手数を縮める手筋。
※白がどう受けようと、白の手数は延びない。
・白2には黒3が筋で、黒の一手勝ち。
※本図は眼あり眼なしも時によるケースで、眼があっても、必ずしも有利でない例である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、167頁)

手数を縮める:オキ【参考譜14】依田紀基vs結城聡


【オキ】
・相手の手数を縮めるには、形の急所を直撃しなければならない。
・急所は眼形の急所と重なることも多い。

【参考譜14】依田紀基vs結城聡
第30期碁聖戦挑戦手合第1局
 黒 依田紀基
 白 結城聡

・黒1のオキが白の手数を縮める手筋。
※黒はダメヅマリだが、白との攻め合いに関係するのは、本体だけで、枝葉は捨ててもかまわない。

【1図】(実戦)
・白2のハネは紛れを求めたものだが、黒3とツイで、手数が延びる。
・いきおい白4のアテに、黒5と中央の白を取り込んで、ゲームセット。
【2図】(変化)
・黒1に白2とさえぎれば、普通の応酬。
・黒3には白4から6と黒を取りながら、ダメをつめる。
※しかし、本体はぴったり黒の一手勝ち。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、168頁)

手数を縮める:第15型


【第15型】
・黒は三手ではっきりしているが、白の方は何手なのか、わかりにくい。
・とにかく三手以内で、取る工夫をしなければならない。

【1図】(失敗)
・黒1のオサエは白2のハネが利くと、手数が一手延びる。
・格言の「両バネ一手延び」のとおり、三手になり、白4とダメをつめられて、黒の一手負けになる。
※黒1ではもう少し踏み込みがほしいところ。

【2図】(失敗)
・黒1のアテから白2のツギに、黒3と二段バネする手がある。
・白は4と切るしかなく、黒5と弾けばコウになる。
※しかし、無条件で取る手があるのだから、コウでは失敗。
※なお黒1ではaでもコウ。

【3図】(正解)
・黒1のオキが手数を縮める手筋である。
・白2のハネには黒3のナラビが関連する手筋で、白はどうしても手が延びない。
➡黒一手勝ち。
※この黒1、3は「タヌキの腹つづみ」と呼ばれる手筋である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、182頁)

両にらみの筋:ツケコシ【参考譜16】瀬戸大樹vs山下敬吾


【ツケコシ】
・両にらみは相手の応手によって実利に就くこともあるし、厚みを築くこともある。
・そして、その後の作戦も変わってくる。
【参考譜16】瀬戸大樹vs山下敬吾
・第26期新人王戦3回戦
 黒 瀬戸大樹
 白 山下敬吾
・白1のツケコシは相手の様子をうかがった手である。
※実利を稼ぐか、じっくり辛抱するか。
 いまがそれを聞くタイミングとみたのである。
【1図】(実戦)
・白1に黒2から4とサガって辛抱したのは、やむを得ないと判断したのだろう。
・黒は6から右辺の白を攻める構想だが、白の実利も大きい。
【2図】(変化)
・黒1の反発には、白2から6のアテがある。
・黒7に白8と黒二子を取り込んでは厚い。
※左辺の黒の一団が薄く、全局的に白が打ちやすい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、196頁)

両にらみの筋:第30型


【第30型】
・隅は生かしても左方の大石を仕留めるには、どうすればいいか。
・鮮やかな手筋が秘められている。
・原図は「玄玄碁経」「官子譜」所載。

【テーマ図】
【1図】(失敗)
・黒1のツケコシは切断の手筋だが、大石を生かしてしまうのが難。
・白2には黒3のアテ込みが筋で、黒5、7と隅は取れる。
・黒5、7と隅は取れる。
・その反動で白6と一眼を作らせてしまう。
※切断して、さらに眼を取る工夫が必要。

【2図】(失敗)
・黒1の切りはひとつの筋、応手には注意を要する。
・白2からアテなければいけない。
※白aのアテは黒bが利き筋となって、黒6で切られる。
・黒3からねばっても、白6まで生き。
・コウではなく、白8で生き。

【3図】(正解)
・黒1のアテツケがすばらしい筋である。
・白2には黒3のツケコシが手順で切断できる。
※白2で4のオサエには黒2に切り、白は眼ができない。
※また白2で5のツギには、黒a、白4、黒3。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、221頁)

根拠を奪う:第6型


【第6型】
・白の形の急所に直撃する筋である。
・本型は根拠を奪う代表的な例といえるだろう。
・一連の変化をよく心得ておくことが大切。
【テーマ図】

【1図】(正解)
・黒1のノゾキが、2の切りと5のワタリを両にらみにした、根拠を奪う手筋である。
※白は隅に半眼あるだけの形となり、今後も攻めの余得を期待できる。
※なお、白2でaは間に合わず、黒2の切り。

【2図】(変化)
・白2のコスミツケには黒3の切り。
・白4が手数を延ばす手筋だが、黒5から7の反撃があって、白がうまくいかない。
※黒11までaまたはbのシチョウと黒cのツギが見合い。
 この変化手順をよく知るべし。

【3図】(変化)
・白の無理な抵抗手段をもうひとつ挙げておく。
・白2から4を利かして、6が紛らわしい。
・これには黒7の切りから9の鼻ヅケが好手である。
※ただし、周囲の状況が変われば、2図、3図が成立しない場合もある。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、229頁)

根拠を奪う:ケイマ【参考譜19】張栩vs馬暁春


【ケイマ】
・相手の根拠を脅かしながら、自分の根拠を守ることができれば、一石二鳥の働きがある。
 攻防兼備の手である。

【参考譜19】張栩vs馬暁春
第13回富士通杯本戦2回戦
 黒 張栩
 白 馬暁春

・黒1のケイマから3のコスミツケが攻防兼備の好手である。
・白aなら生きているが、それではつらすぎるから、白は外へ出ざるを得ない。

【1図】(実戦)
・白は1と進出するくらいのもの。
・黒は2と補強を兼ねて右上の白の攻めをうかがう。
・黒4から白5に、調子で黒6とノゾいたのがきびしい。
・黒10から12と改めて、黒ペースの進行であろう。

【2図】(大きい白2)
・黒1の封鎖も考えられるが、白2の守りが大きい。
※白aと分断するねらいも残って、黒が薄い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、236頁)

根拠を奪う:第17型


【第17型】
・白のダメヅマリを衝くエグリの手筋である。
・急所を一撃すれば、白は打ち方に困るだろう。
・白は被害を最小限に食い止めたい。

【テーマ図】
【1図】(失敗)
・黒1は打ち込みの急所だが、この場合は白2と受けられて、後続手段がない。
※このあといくら動いても相手を固めるだけだろう。
※なお、黒1でaのひとつの筋だが、白bで持ち込みになる。

【2図】(正解)
・黒1のツケが急所である。
・白2なら黒3から7まで隅を生きる。
※白4でaのサガリは、黒6、白5、黒bから白cには、黒dの石塔シボリがあって、白まずい。
※なお、白4で5は黒aのハネでサバキ形。

【3図】(変化)
・黒1のツケに白2なら黒3のノビ。
・そこで白4なら黒5のハネが機敏。
※白aなら黒bがぴったりだ。白cなら黒a。
※白4でcなら、黒4のハネで生き。
※また白4でaなら黒cの進出となるだろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、242頁)

地を荒らす:第4型


【第4型】
・白のダメヅマリを利用して、ヨセる形がある。
・内側からワタリをうかがう常用の手筋でもある。

【1図】(失敗)
・黒1のハネツギは小さくはないが、物足りない。
・白4の守りが正着。
※これを手抜きすると、黒aのコスミで大きくヨセる手筋が残ってしまう。
※黒1は白3のハネツギとくらべると、先手9目のヨセ。

【2図】(正解)
・黒1のカドが白のダメヅマリをとがめるヨセの手筋である。
・白2に黒3とオサえるのがよく、白4の取りに、黒5、7を利かす手順。
※白がこれを嫌うなら、早めにaのハネ一本を利かすのが大きい。

【3図】(失敗)
・黒1はいいとして、3のハネはやや損なヨセである。
・これに対しては白4が正着。
・黒5を打たざるを得ず、後手を引いてはおもしろくない。
※白4で5は、黒4、白a、黒b、白c、黒dで、コウダテ次第では有力。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、251頁)

地を荒らす:第6型


【第6型】黒番
・ヨセではどちらから打っても先手になる「両先手」が最優先される。
・しかしたとえ後手でも、大きなヨセになれば、優先順位は高くなる。
【1図】(正解)
・黒1のコスミが白のダメヅマリをねらう鮮やかな手筋である。
・白2のアテに、黒3コスミが筋で、黒はワタっている。
※白4で5は黒4。
※黒1は後手のヨセにはなるが、白地を大幅に減らした。
【2図】(先手ヨセ)
・黒1、3のハネツギは白4と守らなければならず、先手ヨセである。
※前図とは6目の差があり、選択は全局から判断するしかないだろう。
※なお、黒1で2のオキは、白4と打たれ、1図とくらべて、1目ほど損。

【3図】(白から)
・白から打てば、1、3のハネツギ。
※1図とくらべると、後手9目強のヨセで大きい。
※▲がなく、白1、3が先手になる状況なら、それを防ぐ1図のヨセは「逆ヨセ」となり、価値が高まる。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、253頁)

地を荒らす:第8型


【第8型】黒番
・シボリの筋を利用して先手でヨセる常用の筋である。
・白は被害を最小にする受け方を工夫しなければならない。

【1図】(失敗)
・黒1のハネは、白2のコスミがぴったりした受けで、たいしたヨセではない。
※このあと、黒aは白bと受けて、黒cなら手抜きもできる。
※なお、黒1で2は、白dと受けて持ち込み。

【2図】(正解)
・黒1から3の二段バネが筋である。
・白4の切りには、黒5から7とシボリ、9のコスミが筋。
・白14まで先手で、白地を大幅に減らした。
※この進行は理想的。これだけ荒らせば、いうことはない。

【3図】(変化)
・黒1に白は2の受けが工夫した手である。
※aの点はどちらが打っても大きいが、後手になる。
※黒aなら前図にくらべ、5目ほどの得でしかない。
※前図の黒の先手ヨセを阻止した白の抵抗手段である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、255頁)

地を荒らす:第10型


【第10型】黒番
・明治4年、村瀬秀甫が本因坊秀和との対局で見損じた有名な形。
・白の弱点を衝いて得を図る手がある。

【1図】(失敗)
・黒1は俗手。
・白2と受けられて、手がない。
※後年、秀甫は著書「方円新法」で「黒たちまち見損じて不意の負けを取りたり。――結了して碁子を碁笥に収むるまではすこしも気を疎放すべからず」と書いた。

【2図】(正解)
・黒1にアテ込む手が妙着である。
・白2のアテには黒3とサガリ、これでどうしても白四子が助からない。
※秀和・秀甫戦は秀甫の先相先先番。本型とは白黒逆だが、秀甫の3目負けだった。

【3図】(変化)黒11取る(1)
・黒1、3に白4とアテても、事情は変わらない。
・黒5から7と切り、黒9と単にアテるのが大切な一着。
・白10と取るしかなく、黒11と抜いてやはり白は助からない。
※黒9で1にホウリ込むと失敗。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、257頁)

地を荒らす:ツケ【参考譜20】趙善津vs山下敬吾


【ツケ】
・「サバキはツケから」というが、この局面では左右を関連づける手筋である。
・相手がどう受けても手になっている。

【参考譜20】趙善津vs山下敬吾
・第22期NECカップ1回戦
 黒 趙善津
白 山下敬吾
 
・白1のノゾキを利かして、3のツケが黒地を荒らす手筋である。
※白からaあるいはbが切断をみて利いていて、黒は動きが不自由。
【1図】(実戦)
・白1に黒2と受けたのが実戦。
・白3を利かして、さらに白5のツケが第二弾の荒らしの筋。
・黒6はやむを得ず、白15まで生きては勝負あった。

【2図】(変化)
・白1に黒2の受けは白3の切りから、9にツイで攻め合い。
・黒10から12は手数を縮める筋だが、白19までコウになっては、黒いけない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、261頁)

いじめる:第1型


【第1型】
・形の急所ははっきりしているが、問題は白の応手。
・受け方を間違えると、死にまであるので、細心の注意を払ってほしい。
【1図】(正解)
・黒1が「三目の真ん中」が二つ重なった大急所。
・白2のツギは気が利かないが、この場合最善である。
・黒3にはコウに備えて、白4までセキ。
※黒1は先手9目のヨセ。
※なお、白2でaは、黒2に切られて、トン死。
【2図】(変化)
・黒1に白2のブツカリも、前図と同じく正解である。
・黒3には白4とアテていい。
・コウを避けて、白6までセキ。
※なお、黒5のツギで6とホウリ込むのはいけない。 
 白5に取られて、白は生き。
【3図】(変化)
・黒1に白2の受けは、黒3から5のホウリ込みがきびしい。
・白6の取りに、さらに黒7とホウリ込んでコウ。
※セキは地はゼロだが、無条件の生き。
※それをむざむざコウにしては、白失敗である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、272頁)

いじめる:第5型


【第5型】
・ダメヅマリに追い込む常用の筋がある。
・いじめの筋を活用して、白を眼ふたつにしたい。
・自身のダメヅマリにも注意を要する。
・原図は「玄玄碁経」所載。
【1図】(失敗)
・黒1のハネは典型的な俗筋。
・黒3のアテから5とコウにねばる手がないわけではないが、正解の筋には及ばない。
※白はまずはコウを取って、様子をみることになるだろう。
 黒が謝れば、手抜きできる。
【2図】(失敗)
・黒1のコスミから3のトビは手筋だが、隅の特殊性がからんで、この局面では失敗。
・白4のアテに5とツグと、白6から8でオイオトシ。
・黒5のツギでは、前図のようにコウにするよりない形。

【3図】(正解)
・黒1から3のヒキがこの場合の手筋。
・白4には5で、白6に黒7のサガリがオイオトシを避ける好手。
※白6で7のハネは、黒6がある。
※白は8と眼ふたつで生きるほかない。いじめ成功である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、276頁)

いじめる:ハネ【参考譜22】山田規三生vs山下敬吾


【ハネ】
・ハネにはふところをせばめて、眼形を脅かす効果がある。
・相手ががんばれば、全体の眼形が怪しくなる。

【参考譜22】山田規三生vs山下敬吾
第30期名人戦リーグ
 黒 山田規三生
 白 山下敬吾

・△のオサエに、地合いで足りない黒はあえて、手を抜いてほかにまわり、投げ場を求めた場面。
・白1のハネから3のアテで、黒は投了した。
【1図】(オキ)
・黒二子を助けたいところだが、もし黒1とツグとどうなるか。
・白2のオキが鋭い。
・黒3に白4とアテる捨て石作戦が常用の筋。
【2図】(花見コウ)
・前図に続いて、白1のホウリ込みが決め手。
・黒2に白3とアテて、黒の大石はコウ。
※これは白の花見コウで、投了もやむを得なかった。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、283頁)

コウの攻防Ⅰ:【第1型】


【第1型】
・白三子を取られたあとに、コウの仕掛けが残るという常用の筋である。
・基本手筋なので、しっかり自家薬籠中のものにしていただきたい。
・原図は「碁経衆妙」所載。

【1図】(正解)
・黒1のハイが出発点である。
・白2のハネに黒3と切り、5のアテを利かすのがポイント。
・白6とポン抜くのが正しく、黒7とハネる。
※これで一応白を取ったようにみえるが、白からの反撃が残っている。

【2図】(正解・続)
・前図に続いて、白1のホウリ込みから3と再度ホウリ込むのが手筋である。
※黒はアタリとなっているため、コウを争うよりない。
※しかし、白もコウに負けると損が大きい。仕掛ける時機が問題。

【3図】(類型)
☆同じ筋のコウをあげておく。
・黒1とハネ、白2のアテに黒3でコウ。
※コウに勝って、aにツゲば、白三子が取れる。
※この黒3は、白が「1の一」にすぐに入れない隅の特殊性を利用した手筋である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、296頁)

第11章 コウの攻防Ⅰ~ハネ【参考譜26】高尾紳路vs橋本昌二


【ハネ】
「ツケにはハネよ」でハネは接触戦の基本だが、一線のハネには、フトコロをせばめ、ダメをつめる作用もある。
【参考譜26】
第51回NHK杯戦1回戦
 白 橋本昌二
 黒 高尾紳路

【参考譜26】
・三角印の黒のツメに、白が三角印の白と反発したところ。
・白1と打っていれば安全なのだが、利かされの気分もあり、実戦心理としても打ちにくいもの。

【1図】(実戦)
・黒1のハネが手数を縮める手筋。
・黒3から5と固め、一手ヨセコウ。
・このあと、右下を二手連打するフリカワリとなったが、黒満足のワカレ。

【2図】(変化)白6ツグ
・黒1に手拍子で白2とオサえるのは、いけない。
・黒3のホウリ込みが手数を縮める手筋。
・黒5、7とつめて、本コウになっては、実戦とは大差。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、317頁)

第12章 眼を奪うの例題


第12章 眼を奪う

【1図】(ハネ)
・黒1がフトコロをせばめる攻め。
※ハネて殺すから「ハネ殺し」と呼ばれる。白はどう受けても生きがない。
・白2には、黒3が急所で、7まで白死。
※また、白2で7は、黒6。
 白2で4には、黒5。

【2図】(打ち欠き)
・黒1の打ち欠きもフトコロをせばめる攻め。
・白2の取りに黒3で、五目ナカ手の白死。
※フトコロをせばめて急所にオク、いちばん多い死活の例である。
※黒1で3の攻めは、白a、黒b、白1、黒cでセキ。

【3図】(ツケ)
・黒1のツケもフトコロをせばめる攻め。
・白2から4と取っても、生きる広さはなく、黒5でナカ手の白死である。
※黒1で3は、せばめたことにならず、白1と広げて生き。
 また、内部からの攻めも白生き。

【4図】(オキ)
・黒1のオキが4の切りからウッテガエシをねらう急所。
※内部から攻めである。
・白2と切りを防げば、黒3を利かして7まで隅のマガリ四目の白死である。
※なお、黒1で3は、白1と守られて生き。

【5図】(オキ)
・黒1も眼形の急所を直撃する攻めである。
・白2なら、そこで黒3とフトコロをせばめる手順。
※黒1で3はフトコロをせばめる攻めだが、白aと取られて失敗。
 1と三角印の黒のところが見合いで白生きている。

【6図】(ツケ)
・黒1のツケが急所の攻め。
・白2のハネには黒3とサガり、白死。
※なお、黒1では3でも白死。
※白2で3のツケも筋だが、黒2、白5、黒aでやはり白死。
 なお、黒1で4とせばめる攻めは、白3のトビで生き。
【7図】(ホウリ込み)
・黒1のホウリ込みはフトコロをせばめる攻めか急所の攻めか、判断のわかれるところ。
・それはともかく、黒1に白aのツギなら黒bのハネだし、白cの取りなら黒dで、左方は欠け眼である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、324頁~325頁)

眼を奪う:【第1型】



【第1型】(黒番)
・フトコロをせばめる攻めか、それとも急所を攻めるか。
 ダメヅマリに注意してじっくり読んでいただきたい。
【1図】(失敗)
・黒1の切りは白2のアテが好手。
※黒aと打っても、白bでオイオトシ。
※なお、白2でbのアテは、黒2にノビられて白死。
※黒1でaも、白bでオイオトシ。
※黒1で2も白1で生き。
※内部からの攻めはすべて失敗。
【2図】(失敗)
・黒1の元ツギは、局面によっては成立するひとつの筋だが、この場合は白2とツガれて何ごともなし。
※ほとんどの手は検討したが、まだひとつ残っている。
 それが盲点の一着なのである。
【3図】(正解)
・黒1がフトコロをせばめる手筋である。
・頭をぶつけるイメージと、白2でアタリとなる姿から、盲点になりやすい。
・冷静になってみると、白2には黒3のアテから5が先手。
※ダメヅマリのため、白死である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、326頁)

山下敬吾九段の実戦譜~高尾紳路vs山下敬吾(平本弥星『囲碁の知・入門編』より)


 冒頭に述べたように、 山下敬吾九段の“神童ぶり”は、平本弥星氏もその著作で、高尾紳路氏の棋譜とともに、紹介されている(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁~58頁)。
・少年少女の頂点は、平成12年に第21回を迎えた「少年少女囲碁大会」である。
 中学生の部と小学生の部に約100名(男女区別なし)ずつ、各県で代表となった少年少女たちが全国から集まり、8月に日本棋院で盛大な大会が開かれる。
・最年少の小学生名人は、2年生で優勝した山下敬吾(昭和61年、北海道・旭川東栄小、平成5年入段、12年七段・碁聖)と井山裕太(9年、大阪・孔舎衛東小)。井山くんは院生になり、第二の山下敬吾を目指している。
・21世紀の囲碁界期待の星、山下敬吾と高尾紳路(3年入段、12年七段)の初対局(昭和61年小学生決勝)と、それから14年後の二人の対局の棋譜を掲載しておく、と平本氏は記している。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁)

 その二人の棋譜を紹介しておきたい。

<少年少女の囲碁>
〇昭和61年(1986)8月5日 NHK
第7回少年少女囲碁大会・小学生の部決勝
  黒 高尾紳路(千葉・桜木小4年)
  10目半勝ち 白 山下敬吾(北海道・旭川東栄小2年)

高尾VS山下(1986年)
【棋譜】(50手、以下略) 黒47コウ取る(39)、白50同(38)


〇平成12年(2000)10月26日 日本棋院
第26期名人戦三次予選
 中押し勝ち 黒 高尾紳路
  白 山下敬吾

【棋譜】(77手、以下略)

(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、58頁)



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