≪囲碁の布石~依田紀基氏の場合≫
(2024年12月31日投稿)
今回のブログでも引き続き、囲碁の布石について、次の事典を参考にして考えてみたい。
〇依田紀基『基本布石事典 上(星・小目の部)』日本棋院、2008年[2013年版]
〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年
依田紀基九段は、「はしがき」において、布石の勉強法について、次のように述べている。
アマの布石勉強法の一つとして、プロの碁を並べることを勧めている。たとえば、好きなプロの碁を繰り返し並べるのが効果的である。布石の50手までを一つの目安とする。
本書で取り上げた参考譜は、上・下巻合わせて127例ある。これを繰り返し並べるだけでも、布石の力がつくことを確信している。
この「はしがき」の言葉により、なるべく参考譜を紹介してみた。
(以前のブログでも【補足】として紹介したものも含まれることをお断りしておく)
【依田紀基(よだ・のりもと)氏のプロフィール】
・1966年、北海道に生まれる。
小学校5年生で棋士を目指し上京、安藤武夫七段門下となる。
・1980年、入段。
1983年、第8期棋聖戦四段戦と新人王戦に優勝。
・1984年、18歳で名人リーグ入りし、最年少記録となる。
・1987年、七段、1990年八段、1993年九段。
・1995年、大竹英雄九段を破り十段位を獲得。
・1996年、小林覚九段を破り棋聖を獲得。98年まで3連覇。
・2000年、趙治勲九段を破り名人位を獲得、04年まで4連覇。
<著書>
・ベストセラーになった『依田ノート すぐに役立つ上達理論』(講談社)
『依田紀基 私の布石構想』(誠文堂新光社)などがある。
【依田紀基『基本布石事典 上』(日本棋院)はこちらから】
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
〇上巻のはしがき
・「基本布石事典」は、昭和50年代に林海峰名誉天元の編纂によって刊行されたが、この度、30年ぶりに21世紀版を届けることになった。
・この30年間、最も変革したのは布石の分野であろう。
その要因は、コミにある。
コミが4目半から5目半になり、現在は6目半の時代になっている。
コミが多くなれば、黒はそのため積極的に、時には激しくならざるを得ない。
そうしたことから、黒の布石は、より積極的にと変わってきている。
さらに、碁の国際化に伴って、韓国、中国で過激なほど布石の研究が進んでおり、その影響もある。
・布石に対する心構えは、大きいところから打つことにある。
とはいえ、プロは布石で少しでも遅れをとると、後の戦いに大きく影響してくる。
しかし、アマの場合はそこまで深刻になる必要はないが、布石を有利に運ぶことは、中盤を有利な戦いに導き、ひいては勝利への道に繋げていくことができる。
・アマの布石勉強法の一つとして、プロの碁を並べることを、著者は勧めている。
たとえば、好きなプロの碁を繰り返し並べるのが効果的である。
布石の50手までを一つの目安とする。
本書で取り上げた参考譜は、上・下巻合わせて127例ある。これを繰り返し並べるだけでも、布石の力がつくことを確信している。
・上巻では、黒の「星と小目」の組み合わせでまとめてある。
星のスピードと厚みに、小目の実利と戦闘力の組み合わせは、「中国流」をはじめ現在、最も多く打たれている布石である。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、3頁~4頁)
〇下巻のはしがき
・布石は日進月歩を続けていて、プロの世界では、次から次へ過激な手法も生まれている。
プロは、常に1目でも半目でも得をすることを心掛けているため、布石から激しくなることが多々ある。
しかし、そのような布石をアマの人に求めることは無理であるし、意味のないことである。
・そのような観点から、本書では、最新の過激な布石は極力避け、アマが実戦で活用できる実用的な布石に重点を置いたという。
・下巻では、黒の「星」「小目」「その他」の布石を取り上げている。
・第1章の「星」は、二つの考え方がある。
宇宙流といわれる武宮正樹九段のように、二連星から三連星に発展させ、大模様の碁に持っていく考え方。模様の碁に持って行くには、星は最も有効である。
次に、呉清源先生のように、隅を星の一手で済ませ、足早に辺に展開する考え方で、スピード重視の星である。
・ただし、三々が空いているので、当然ながら地の甘さは否めない。
したがって、厚みと実利のバランスを考慮に入れることが肝要である。
・第2章の「小目」は、昭和年代に多用されていたが、当時に比べ近年は出番がやや少なくなってきている。
小目は実利に就きやすく、また戦闘力もあり、変化が多い布石になる公算が高い。
したがって、特に局面にマッチした定石選択、局面の展開を広く考えるのが、要諦である。
・第3章の「目外し、高目」の布石は、現在は特殊な布石といえる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、3頁~4頁)
【総譜】(1-46)
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、90頁~97頁)
【補足】小林覚氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典 上』より
【参考譜】(1-54)小林覚vs武宮正樹
【1999年】第26期天元戦本戦
白 九段 武宮正樹
黒 九段 小林覚
【参考譜】(1-54)
・黒3から5のミニミニ中国流に対し、白6大ゲイマとシマって、黒の出方をうかがうのは冷静な打ち方。譜の白6はミニ中国流を回避した。
・黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。
※黒は5から7とフトコロを広く構えるのが、ミニミニ中国流の特長である。
・白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。
・黒31に白32は気合の反発。
【1図】(ミニ中国流)
〇白6の大ゲイマで、
・白1の割り打ちなら、黒2のカカリで白3の受けと換わり、ミニ中国流に戻る。
・黒2はaのツメも有力である。
【2図】(おもしろ味なし)
〇黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。これで、
・黒1の一間ジマリは手堅いが、白2と割り打たれはおもしろ味がない。
【3図】(白、働き)
〇白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。黒17で、
・先に黒1、3のツケヒくと、白5とツギ、黒5、7には白aとツガず、8のコスミにまわる。
※これは白働きである。
【4図】(黒、重い)
〇黒31に白32は気合の反発。これでAは、黒47ツケにまわられる。黒47で、
・黒1のカカリは、白2以下黒7まで実戦よりも、黒は重い。
【5図】(白、サバキ)黒9ツグ
〇黒53コスミで、
・黒1のトビは、白2ツケ以下サバかれる。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、218頁~219頁)
・黒1の星と3の小目の構えから5と辺にヒラくのを「中国流」という。
※星と小目の石を一手で連係させるもので、戦闘力の強い布石である。
・なお黒5でAの「高中国流」もある。
・中国流に白6のカカリはオーソドックス。
・譜の黒9と下辺からカカったのは、中国流を働かすもので、白は10とおとなしく受けた。
≪総譜≫(1-40)
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、240頁~246頁)
【参考譜第23型2】依田紀基vs山田規三生(250頁)
第23型2【参考譜】(1-47)依田紀基vs山田規三生
【1998年】第23期棋聖戦最高棋士決定戦
白 王座 山田規三生
黒 碁聖 依田紀基
・黒の中国流に白6からカカったので、黒は9、11と下辺を盛り上げた。
・白12のカカリに黒13のケイマ。
・黒13のケイマに白14、16とツケヒいた。
・白18のヒラキに黒19のトビが形である。
・黒29のカカリ。
・白30に黒31、白32を決めて、黒33が手順である。
・黒43に白44、46はやむを得ない。
【1図】(コスミ)
〇白12のカカリに黒13のケイマでは、
・黒1のコスミも有力で、白に根拠を与えない打ち方である。
・白2、4以下、黒11まで相場である。
【2図】(白、変化)
〇黒13のケイマに白14、16とツケヒいたが、白14では、
・白1のツケ一本から3、5と変化するのもあり、黒は6から8が正しい応手である。
・白9以下黒12となれば、黒十分のワカレであろう。
【3図】(黒、破綻)
〇黒6で、
・黒1とカカえるのは失策である。
・白2の切りから4と出られると、黒破綻する。
【4図】(一策)
〇白18のヒラキに黒19のトビが形であるが、
・黒1とブツカり、3とトンで、右辺を盛り上げるのも一策である。
・しかし、白を安定させる嫌いもあり、譜の運びとは一長一短。
【5図】(黒、外回り)
〇黒29のカカリでは、
・黒1のカカリから3とハサみ、以下黒11と外回りで行くのも考えられるが、白2の受けで4と変化される可能性もある。
【6図】(白、苦境)
〇黒43に白44、46はやむを得ない。44で、
・白1と逃げを急ぐと、黒2以下8で白苦境に陥ることになる。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、250頁~251頁)
・黒の中国流に、白も2、4から6の高い中国流で抵抗する。
※双方、中国流の構えだと、模様の対峙となることが多い。
・黒7のカカリから9と構えた。
・黒13でAなら、白13、黒Bで模様の張り合いとなる。
・白14では、
≪譜1≫(1-14)
【3図】(白、ケイマ)
・白1もあり、黒2、4以下6まで穏やか。
また、
【4図】(白、ツケヒキ)
・白1のツケなら、黒は2から4が形である。
・黒4ではaは、白bと受けられ、黒重い。
・黒2では、
【5図】(黒、有力)
・黒2のヒキも有力で、6までが形。
・次にaと、譜1のAが見合いである。
≪譜2≫(14-36)
・白14のコスミには、黒も15のコスミが普通である。
・黒15以下19のトビまでは、常識的な運びである。
・白は右下20のカカリが絶対で、逆に黒20の一間ジマリを許しては、右辺から下辺一帯の黒模様が強大となる。
・黒21以下25までは定形であるが、25では、
【10図】(白、サバキ)
・黒1、3の急襲もあるが、白は4、6が筋で、白8、10とシボって、12までサバキ形である。
・黒31で白32が手筋で、
【11図】(根拠を失う)
・単に白1とツグのは、黒2のコスミが絶好で、白は根拠を失う。
≪譜3≫(37-45)
・右下隅が一段落すると右上と左下の隅が大きくなる。
・黒は37と打ち込んだ。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、284頁~289頁)
〇結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 上』より
【2001年】第26期碁聖戦本戦
白 九段 片岡聡
黒 九段 結城聡
【参考譜】(1-48)
・黒5の高いカカリもよく打たれる。
・白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方。
・白12から14のケイマが攻めの形である。
・黒13のコスミは常識的である。通常は譜の13である
・白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなる。
・白28はよい見当である。
・白30は形。
【1図】(バランス悪し)
〇白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方である。これで、
・定石どおり黒1とヒラくのは、たとえば白2以下6となると、黒のバランスがよくない。
【2図】(白、重い)
〇白12から14のケイマが攻めの形であり、12で、
・白1の割り打ちは、黒2のツメがぴったりで、白3以下7となるが、白の形はいかにも重い。
【3図】(黒、外勢)
〇黒13のコスミは常識的であるが、
・黒が外回りに徹するなら、黒1のカケも一策である。
・白2のハネに黒3のツギが手厚いが、甘さは否めない。
【4図】(方向が逆)
〇白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなるが、白22で、
・白1とトブのは石の方向が逆で、黒2、4から6と攻められる。
【5図】(難しい戦い)
〇白28はよい見当であり、
・白1とまともにカカるのは、黒2以下6と攻められ難しい戦いとなる。
【6図】(味消し)
〇白30は形。これで、
・白1のカカリは、黒2とシマられ味消し。
※また、後に黒aからgとからまれる恐れがある。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、328頁~329頁)
ここから『基本布石事典 下』
〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年
②1993年 武宮正樹-大竹英雄(126頁)
第14型 【参考譜】(1-72)
1993年 第49期本因坊戦予選決勝
白十段 大竹英雄
黒九段 武宮正樹
・左下隅、白4と高目に打ったのは、黒の二連星を意識して、位を高く保つためである。
・黒9の大ゲイマは、二連星と呼応して、スケールを大きく持っていく。
・黒13のコスミは、三連星を働かせている。
・白は14と三々に入った。
・黒15のオサエ。
・黒17のカケに白18、20の出切りは気合いである。
・白は譜の18以下22ノビて黒模様を消す拠点にしている。
・黒21のトビは形である。
・白30のマガリトビに黒31は冷静。
【1図】(黒、調子づく)
〇白は14と三々に入ったが、これで、
・白1のケイマは、黒2、4と調子づかせることになる。
・続いて、白aとカカるが、黒の谷はかなり深くなってくる。
【2図】(一つの形)
〇黒15のオサエでは、
・黒1から3にはずすのも一つの形。
・白8、10に、黒はaにツガず、他に転じることになる。
【3図】(戦わず)
〇黒17のカケに白18、20の出切りは気合いであるが、
・ここは戦わずに白1とハイ、黒2ノビとなる打ち方もある。
【4図】(筋違い)
〇黒21のトビは形であるが、
・黒1のノビは筋違い。
・白2のノビから4にトバれると、戦いの主導権は白のものになる。
【5図】(黒、破綻)
〇白30のマガリトビに黒31は冷静。これで、
・黒1以下5の切りは無謀で、白6のワリコミから白aかbで黒破綻する。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、126頁~127頁)
【補足】高尾紳路氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
<星・タスキ星>【参考譜】
②1999年 高尾紳路-大竹英雄(146頁)
第16型 【参考譜】(1-53)
1999年 第25期天元戦本戦
白九段 大竹英雄
黒六段 高尾紳路
・白8のカカリに黒9とハサみ、以下白18まで、先手を取って、黒19とツメた。
・黒19に白は手を抜いた。
・黒23のカケは工夫した手である。
・白30の押し。
・白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。
【1図】(下辺も大場)
〇黒19とツメたが、これでは、
・黒1のヒラキも大場である。
・白2のカカリに黒3以下白8まで先手を取って、待望の黒9にツメる。これもあろう。
・手順中、白2でaと守れば、黒4のシマリが絶好である。
【2図】(打ちにくい)
〇黒19に白は手を抜いたが、これで、
・白1、3と守れば、手堅い。
・しかし、黒2の立ちで、左辺が理想形になり、白は打ちにくい。
【3図】(黒、今ひとつ)
〇黒23のカケは工夫した手である。これでは、
・黒1のコスミツケが手筋であるが、この場合は、白2から6のコスミまで、黒、今ひとつであろう。
【4図】(黒、十分)
〇白30の押しで、
・白1とシマるのは、黒2から4のトビが調子よくなる。
・譜の黒23と相まって、黒十分である。
【5図】(黒、つらい)
〇白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。これで、
・黒1にカカるのは、白2から4のトビが好点で、黒5と守るのでは、つらい。
・黒7に続いて、白は譜のAトビで好調になる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、146頁~147頁)
【補足】山田規三生氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
<小目タスキ>【参考譜】
②1999年 加藤正夫-山田規三生 (298頁)
第18型 【参考譜】
1999年 第47期王座戦本戦
白七段 山田規三生
黒九段 加藤正夫
【参考譜】(1-56)
≪棋譜≫298頁、参考譜
・白10のカケに黒11、13と出切り、白14のツケ以下18までは、代表的な定石。
・黒19のカカリに、白は手を抜いて、20のカカリから22とヒラいた。
・黒21のシマリでは、下記のような変化もある。
・黒27以下37は常套の封鎖手段。
※依田氏は、黒21のシマリについて、次のようなサバキの変化図を示している。
≪棋譜≫299頁、2図
【2図】(サバキ・1)
・前図の黒21のシマリで、黒1のハサミなら、白2のツケがサバキの筋。
・黒3に白4以下10となる。
・続いて、黒aと押し、白b、黒cなら自然。
≪棋譜≫299頁、3図
【3図】(サバキ・2)~ツケ切り
・前図の黒3で黒1のハネは、白2の切り以下の定石に戻り、これも白サバキ。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、298頁~299頁)
⑧2003年 張栩-淡路修三 (350頁)
第24型 【参考譜1】
2003年 第28期棋聖戦リーグ
白九段 淡路修三
黒本因坊 張栩
【参考譜】(1-64)
・黒7のヒキは、白8に手を抜く作戦で、黒9のカカリを急いだ。
・白10のハサミに黒11のケイマは、趣向である。
※白12の受けでは、
【1図】(右辺を重視)
・白1のケイマから3と右辺を重視するのもある。
・黒4のシマリに白5以下9と隅を守り、黒10から12と左辺に展開し、これもあったろう。
※譜の白12に受ければ、黒13のカケから19のケイマが手厚い。
白20に、黒21と下辺に展開したが、
【2図】(シマリ)
・黒1のシマリも好点である。
・白2のヒラキから4の守りが自然な流れであるが、黒からはaのノゾキのねらいが有力になってくる。
※手順中、黒3では、
【3図】(一長一短)
・黒1とツケて上辺に侵入するのもある。
・白2以下黒7に白8とヒラいて、前図にくらべ、一長一短である。
※黒21に白22のハイ以下28までは定形で、白の実利に黒は外勢を築く。
白24のハネコミは肝要で、
【4図】(大模様出現)
・白1と左辺に向かうと、黒2のオサエが先手になり、4のシマリで下辺一帯に大模様が出現する。
※黒は29から31と一路広くヒラき、いっぱいにがんばった。
この隙を衝いて、白32でAに打ち込むのは、黒B以下Fのトビとなり、右方の黒の勢力が働いてくる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、350頁~351頁)
②2001年 山田拓自-三村智保 (370頁)
第26型 【参考譜】(1-61)
2001年 第26期棋聖戦リーグ
白九段 三村智保
黒六段 山田拓自
・白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。
・黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。
・白12と三連星を布いた。
・白14に黒15の三々入り以下、19までは定石である。
・白20のケイマは柔らかい手である。
(通常は、白(16, 十四)、黒(18, 十四)で手を抜く)
・白22は形。
・黒23と下辺からのカカリは正しい。
【1図】(黒、無理気味)
〇白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。これに対しすぐ、
・黒1と切るのは性急過ぎで、白2、4から6とカケツがれる。
・黒7以下の戦いは無理気味である。
【2図】(黒、先手)
〇黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。続いて、
・白1のトビサガリには、黒2から4のハイを決めて、先手を取るのも、一策である。
【3図】(上辺に備える)
〇白12と三連星を布いたが、これでは、
・白1とヒラくのもある。
・黒2の割り打ちに、白3とツゲば、上辺は一人前の形。
・黒4のヒラキ以下8まで、これもあるだろう。
【4図】(がんばり過ぎ)
〇白22は形だが、これで、
・白1のオサエはがんばり過ぎで、黒2を決めて、4、6以下10と抵抗されると、白地はガラガラになる。
【5図】(黒、重複)
〇黒23と下辺からのカカリは正しく、
・黒1からカカるのは、白2、4とツケノビられ、黒7のヒラキが上方の低位の黒▲(3, 七)とコリ形になり、黒はおもしろくない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、370頁~371頁)
【補足】小林覚氏の実戦譜(vs趙治勲)~依田紀基『基本布石事典 下』より
第28型 【参考譜1】
1995年 第19期棋聖戦第5局
白九段 小林覚
黒九段 趙治勲
第28型 【参考譜1】(1-59)
・白は6のカカリから8、10と手厚く運んだが、8では手を抜いてAとヒラき、黒9、白10、黒Bに白Cと足早に展開するのも一策。
・白12のハサミに、黒13、15と下辺を割って足早の運び。
・白16と備えたのは手厚い。
・黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものである。
・譜の黒39のカカリを急ぐ。
・白40の大ゲイマに、黒41と入った。
・黒41と入れば、43以下生きはあるものの、周囲の黒が手薄くなってくる。
【1図】(これも一局)
〇白16と備えたのは手厚いが、
・白1のヒラキも好点である。
・しかし、黒2以下の動き出しも大きく、以下黒12まで、これも一局である。
【2図】(穏健路線)
〇黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものであるが、これは、
・白1のボウシくらいなら穏健路線で、黒2に白3が好形であった。
【3図】(黒、名調子)
・上辺にさわらず白1と右辺に向かうと、黒2のトビが絶好点になる。
・白3に、黒4、6と自然に左辺を囲って名調子となる。
【4図】(効果が薄い)
〇黒37、白38のとき、
・すぐ黒1、3とハミ出すのは、白4のハネ一本から6の大場にまわられ、黒つまらない。
・ここは、譜の黒39のカカリを急ぐ。
【5図】(立派なヒラキ)
・黒1のヒラキも立派。
・白2、4と隅を守られるのを嫌ったのであろうが、黒5で不満ない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、390頁~391頁)
⑥1998年 加藤正夫-羽根直樹 (392頁)
第28型 【参考譜2】
1998年 第46期王座戦本戦
白七段 羽根直樹
黒九段 加藤正夫
【参考譜】(1-53)黒21コウ取る 白24コウ取る
【1図】
【2図】
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、392頁~393頁)
【補足】三村智保氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
<小目・向かい小目>【参考譜】
⑨2004年 依田紀基-三村智保 (416頁)
第31型 【参考譜1】(1-58)
2004年 第59期本因坊戦プレーオフ
白九段 三村智保
黒名人 依田紀基
・隅をシマらずにすぐ5とカカリ、白6のハサミに黒11と実利に就いた。
・白14のオサエ。
・黒17のコスミに、白18から20のワタリは欠かせない。
・白18で右上にカカると、黒(2, 十四)、白(1, 十四)、黒(2, 十二)の動き出しが厳しく、逆に白が攻められかねない。
・黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。
・白28のハサミ。
・白38、48のツケハネは筋である。
【1図】(一子が遊ぶ)
〇白14のオサエで、
・白1のオサエから5と下辺に構えるのは、黒先手で6のシマリにまわる。
※白は白△の一子が遊んでおり、不十分である。
【2図】(白、遅れ気味)
〇黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。これでは、
・白1から3が定形であるが、この場合、黒4から6と大場にまわられ、白は遅れ気味である。
【3図】(白、厚い)
〇ただし、2図の黒4で、
・黒1に受けると、白2以下6まで中央が厚くなり、絶好の8に展開される。
※また、白2ではaのカケもありそうだ。
【4図】(定形だが―)
〇白28のハサミで、
・白1のコスミツケ以下5までは定形だが、黒から6または黒a、白b、黒cと圧迫される可能性がある。
【5図】(白模様消える)
〇白38、48のツケハネは筋であるが、38で、
・白1と止め3と広げるのは、黒4以下10で簡単に白模様を消される。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、416頁~417頁)
⑩2007年 依田紀基-高尾紳路 (418頁)
第31型 【参考譜2】
2007年 依田紀基-高尾紳路 (418頁)
2007年 第62期本因坊戦第4局
白本因坊 高尾紳路
黒九段 依田紀基
【参考譜】(1-70)
・黒5のカカリ一本から7と高くシマッった。
・白8から10と割ったのは、黒9の両ジマリを許しても、ゆっくり打つ作戦である。
※黒11とカドを衝いたが、
【1図】(大場へ先行)
・黒1から3、5と大場へ先行するのもある。
・白2は根拠を確かめる好点である。
・譜の白12の押しで、Aと間隙を衝くのは、黒12、白B、黒Cと突き抜かれて、白よくない。
・白14に黒15、17以下、サバキに出たが、15でDのツメも好点であり、白15のシマリに黒28と動き出すのもある。
・黒23は、白24と封鎖されても、黒27まで先手で生きにつく作戦である。
・黒29のカカリは苦心の一手。
※これで、
【2図】(壁に近寄る)
・黒1の割り打ちは、白2からツメられ、黒3のヒラキが白の壁に近寄り過ぎる嫌いがある。
・後に、白a、黒b、白cの封鎖が厳しい。
※白30のツメで、
【3図】(黒の注文)
・白1のコスミは穏やかであるが、黒2、4と好点にヒラいて、これは黒の注文である。
※黒33、35のツケハネに白36のツギでは、
【4図】(黒の踏み込み)
・白1のノビが自然であるが、3に黒4の踏み込みを嫌ったものか。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、418頁~419頁)
結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 下』より
<小目・向かい小目>【参考譜】
⑪2006年 結城聡-小林覚(426頁)
【第32型 参考譜】(1-76)
・白6のヒラキに黒7とカカリ。
・白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手。
・黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。
・黒13のケイマではハサミもありそう。
・黒19のトビに、白20のトビは省けない。
・黒21のボウシに、白22、24以下、脱出を図り、中盤の戦いに入った。
【1図】(模様を拡大)
〇白6のヒラキに黒7とカカったが、
・黒1とツメ、白2なら黒3、5とケイマで模様を拡大していくのもある。
・続いて、白aは黒bで理想形になるので、白bのボウシから消すことになろう。
【2図】(サバキの筋)
〇白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手である。これでは、
・黒のケイマが定石であるが、白のカカリから実戦と同じように黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。
【3図】(利かし)
〇譜の白12のカカリでは、
・白1の肩ツキも目につく。
・かりに、黒2と受け、白3以下8となれば大変な利かしで、白9にカカって十分である。
【4図】(白の強行手段)
〇しかし、黒2では、
・黒2のコスミツケから4と切る強行手段がある。
・白5以下抵抗しても、黒10となっては白苦しい。
※黒13のケイマではAのハサミもありそうだが、白Bとかわされ、黒Cに白D、黒16、白Eと展開されて、おもしろくない。
【5図】(つらい封鎖)
〇黒19のトビに、白20のトビは省けない。これで、
・白1の逃げを急ぐと、黒2から4と封鎖され、これは白はつらい。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、426頁~427頁)
第3章 目外し 第5型(480頁~)
2譜 7図(ツメ方)ツケ切り 8図(白模様拡大) カケ+ツケ
第3章 目外し 第5型
【テーマ図 1譜(1-15)】
【テーマ図 2譜(16-22)】
・右上隅が一段落し、白は16とシマッた。
※黒21の理由は8図で解説
【7図】(ツメ方)
〇白は18とツメたが、これでは、
・白1と左方からツメるのもあるが、これには黒2とヒラく。
・白3のシマリに黒4と守って、強固な構えになる。
※白3で、aの打ち込みには、黒3、白b、黒cのツケ切りがあり、黒のサバキは容易である。
【8図】(白模様拡大)
〇白18のツメには、黒19以下21のトビが定形であるが、21で、
・黒1、3と左辺へ先着すると、白4から6のツケが強手になる。
・黒は7以下11と運ぶよりなく、白12のノビまで右方一帯の白模様が拡大する。
※よって、譜の黒21は欠かせない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、480頁~483頁)
【1~3譜(1-49)】
【1譜】(1-14)初手、天元
・黒1の天元は、コミ碁の現代ではほとんど見られないが、勢力主体の変化に富む布石である。
・白2、4の二連星に、黒は高目と目外しで威圧する。
・白6は変則なカカリ。
・白6に、黒のケイマ。
・黒11のコスミに、白12の三間ビラキは手堅い。
・黒13の天王山は逃がせず、逆に白13を許してはいけない。
・白14のカカリ。
【2譜】(14-24)白、模様を荒らす
・白14には、黒15のコスミが形。
※この布石は、双方ともに天元の石を常に意識していなければならない。
ちょっとした不注意から、一気に形勢が傾く恐れがある。
・黒15に白16とはずしたのが臨機の一手。
・譜の白16とくれば、黒17以下21のツギまでは一本道である。
・白は、隅の一子を捨てて、かわりに22まで所帯を持った。
※黒はこの代償として右上隅から上辺にかけて、模様の構築に資することになる。
天元の布石は、黒は単に一カ所の模様にこだわらないで、柔軟な考えが必要である。
・黒23とカカって、碁を広く持っていくところ。
・黒23には白24と割る。
【3譜】(24-49)黒は戦い歓迎
・白24の割り打ちは、ゆっくりした碁に持っていく工夫の一手である。
※戦いは黒の望むところであり、天元の石が働いてくる。
・白24に、黒は25と左方からツメた。
・白は26以下34まで、所帯を持った。
※白は弱い石をつくらないことが、天元を働かせない要諦である。
・黒35で両ガカリ。
・黒35には、白は36から38とオサえることができ、白46までで一段落。
・黒47から49と構えた。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、516頁~521頁)
【2000年】第26期天元戦本戦
白 九段 林海峰
黒 六段 山下敬吾
山下敬吾vs林海峰
【参考譜】(1-64)
※コミ碁の現代、初手天元の碁はほとんど見られず、本局は珍しい。
・白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道である。
・黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。
※11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。
・黒13に白14の切りから戦いに突入した。
・黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。
・黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。
【1図】(天元をぼかす)
〇白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道であり、これで、
・黒1、3のツケヒキは、白4、6と軽く展開され天元の一子がボケてくる。
【2図】(シメツケ)
〇黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。白12で、
・白1のノビは、黒2、4の切りサガリから、6のオサエでシメツけられ、よくない。
【3図】(白のねらい筋)
〇黒13に白14の切りから戦いに突入したが、白18では、
・白1のカドがねらいの筋で、黒2にサガると、白3から5となって、黒ツブレ。
【4図】(白、空振り)
〇3図の黒2では、
・黒1のハネ一本が手筋で、
・白2に黒3以下7となれば、白のねらいは空振りに終わる。
【5図】(黒、甘い)
〇黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。これで、
・黒1のトビは、白2以下黒7となり、黒▲の高目が甘くなる。
※また、白が厚くなり、天元の石も威力を失ってくる。
【6図】(天元働かず)
〇黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。55で、
・黒1、3と下辺に展開するのは、白4を利かされ下辺はまとまるが、肝心の天元が働かない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、522頁~523頁)
(2024年12月31日投稿)
【はじめに】
今回のブログでも引き続き、囲碁の布石について、次の事典を参考にして考えてみたい。
〇依田紀基『基本布石事典 上(星・小目の部)』日本棋院、2008年[2013年版]
〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年
依田紀基九段は、「はしがき」において、布石の勉強法について、次のように述べている。
アマの布石勉強法の一つとして、プロの碁を並べることを勧めている。たとえば、好きなプロの碁を繰り返し並べるのが効果的である。布石の50手までを一つの目安とする。
本書で取り上げた参考譜は、上・下巻合わせて127例ある。これを繰り返し並べるだけでも、布石の力がつくことを確信している。
この「はしがき」の言葉により、なるべく参考譜を紹介してみた。
(以前のブログでも【補足】として紹介したものも含まれることをお断りしておく)
【依田紀基(よだ・のりもと)氏のプロフィール】
・1966年、北海道に生まれる。
小学校5年生で棋士を目指し上京、安藤武夫七段門下となる。
・1980年、入段。
1983年、第8期棋聖戦四段戦と新人王戦に優勝。
・1984年、18歳で名人リーグ入りし、最年少記録となる。
・1987年、七段、1990年八段、1993年九段。
・1995年、大竹英雄九段を破り十段位を獲得。
・1996年、小林覚九段を破り棋聖を獲得。98年まで3連覇。
・2000年、趙治勲九段を破り名人位を獲得、04年まで4連覇。
<著書>
・ベストセラーになった『依田ノート すぐに役立つ上達理論』(講談社)
『依田紀基 私の布石構想』(誠文堂新光社)などがある。
【依田紀基『基本布石事典 上』(日本棋院)はこちらから】
〇依田紀基『基本布石事典 上(星・小目の部)』日本棋院、2008年[2013年版]
【上巻目次】
第1章 星・小目平行 第1型~第41型
第2章 星・小目タスキ他 第1型~第10型
〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年
【下巻目次】
第1章 星(平行・タスキ) 第1型~第16型
第2章 小目(平行・タスキ) 第1型~第35型
第3章 目外し・高目他 第1型~第10型
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・氏のプロフィール
・はしがき
〇依田紀基『基本布石事典 上(星・小目の部)』日本棋院、2008年[2013年版]
・星・小目平行 第8型
・星・小目平行 第20型 参考譜
・星・小目平行 第23型
・星・小目平行 第23型 中国流(1)参考譜 依田紀基vs山田規三生
・星・小目平行 第27型中国流(5)
・星・小目平行 第31型 参考譜 結城聡vs片岡聡
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年
・星・二連星 参考譜 武宮正樹vs大竹英雄
・星・タスキ星 参考譜 高尾紳路vs大竹英雄
・小目タスキ 参考譜 加藤正夫vs山田規三生
・小目タスキ 参考譜 張栩vs淡路修三
・小目・向かい小目 参考譜 山田拓自vs三村智保
・小目・向かい小目 参考譜 趙治勲vs小林覚
・小目・向かい小目 参考譜 加藤正夫vs羽根直樹
・小目・向かい小目 参考譜 依田紀基vs三村智保
・小目・向かい小目 参考譜 依田紀基vs高尾紳路
・小目・向かい小目 参考譜 結城聡vs小林覚
・第3章 目外し 第5型
・第3章 天元 第10型
・第3章 天元 第10型 参考譜 山下敬吾vs林海峰
はしがき
〇上巻のはしがき
・「基本布石事典」は、昭和50年代に林海峰名誉天元の編纂によって刊行されたが、この度、30年ぶりに21世紀版を届けることになった。
・この30年間、最も変革したのは布石の分野であろう。
その要因は、コミにある。
コミが4目半から5目半になり、現在は6目半の時代になっている。
コミが多くなれば、黒はそのため積極的に、時には激しくならざるを得ない。
そうしたことから、黒の布石は、より積極的にと変わってきている。
さらに、碁の国際化に伴って、韓国、中国で過激なほど布石の研究が進んでおり、その影響もある。
・布石に対する心構えは、大きいところから打つことにある。
とはいえ、プロは布石で少しでも遅れをとると、後の戦いに大きく影響してくる。
しかし、アマの場合はそこまで深刻になる必要はないが、布石を有利に運ぶことは、中盤を有利な戦いに導き、ひいては勝利への道に繋げていくことができる。
・アマの布石勉強法の一つとして、プロの碁を並べることを、著者は勧めている。
たとえば、好きなプロの碁を繰り返し並べるのが効果的である。
布石の50手までを一つの目安とする。
本書で取り上げた参考譜は、上・下巻合わせて127例ある。これを繰り返し並べるだけでも、布石の力がつくことを確信している。
・上巻では、黒の「星と小目」の組み合わせでまとめてある。
星のスピードと厚みに、小目の実利と戦闘力の組み合わせは、「中国流」をはじめ現在、最も多く打たれている布石である。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、3頁~4頁)
〇下巻のはしがき
・布石は日進月歩を続けていて、プロの世界では、次から次へ過激な手法も生まれている。
プロは、常に1目でも半目でも得をすることを心掛けているため、布石から激しくなることが多々ある。
しかし、そのような布石をアマの人に求めることは無理であるし、意味のないことである。
・そのような観点から、本書では、最新の過激な布石は極力避け、アマが実戦で活用できる実用的な布石に重点を置いたという。
・下巻では、黒の「星」「小目」「その他」の布石を取り上げている。
・第1章の「星」は、二つの考え方がある。
宇宙流といわれる武宮正樹九段のように、二連星から三連星に発展させ、大模様の碁に持っていく考え方。模様の碁に持って行くには、星は最も有効である。
次に、呉清源先生のように、隅を星の一手で済ませ、足早に辺に展開する考え方で、スピード重視の星である。
・ただし、三々が空いているので、当然ながら地の甘さは否めない。
したがって、厚みと実利のバランスを考慮に入れることが肝要である。
・第2章の「小目」は、昭和年代に多用されていたが、当時に比べ近年は出番がやや少なくなってきている。
小目は実利に就きやすく、また戦闘力もあり、変化が多い布石になる公算が高い。
したがって、特に局面にマッチした定石選択、局面の展開を広く考えるのが、要諦である。
・第3章の「目外し、高目」の布石は、現在は特殊な布石といえる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、3頁~4頁)
星・小目平行 第8型
【総譜】(1-46)
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、90頁~97頁)
星・小目平行 参考譜第20型
【補足】小林覚氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典 上』より
【参考譜】(1-54)小林覚vs武宮正樹
【1999年】第26期天元戦本戦
白 九段 武宮正樹
黒 九段 小林覚
【参考譜】(1-54)
・黒3から5のミニミニ中国流に対し、白6大ゲイマとシマって、黒の出方をうかがうのは冷静な打ち方。譜の白6はミニ中国流を回避した。
・黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。
※黒は5から7とフトコロを広く構えるのが、ミニミニ中国流の特長である。
・白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。
・黒31に白32は気合の反発。
【1図】(ミニ中国流)
〇白6の大ゲイマで、
・白1の割り打ちなら、黒2のカカリで白3の受けと換わり、ミニ中国流に戻る。
・黒2はaのツメも有力である。
【2図】(おもしろ味なし)
〇黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。これで、
・黒1の一間ジマリは手堅いが、白2と割り打たれはおもしろ味がない。
【3図】(白、働き)
〇白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。黒17で、
・先に黒1、3のツケヒくと、白5とツギ、黒5、7には白aとツガず、8のコスミにまわる。
※これは白働きである。
【4図】(黒、重い)
〇黒31に白32は気合の反発。これでAは、黒47ツケにまわられる。黒47で、
・黒1のカカリは、白2以下黒7まで実戦よりも、黒は重い。
【5図】(白、サバキ)黒9ツグ
〇黒53コスミで、
・黒1のトビは、白2ツケ以下サバかれる。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、218頁~219頁)
星・小目平行 第23型
・黒1の星と3の小目の構えから5と辺にヒラくのを「中国流」という。
※星と小目の石を一手で連係させるもので、戦闘力の強い布石である。
・なお黒5でAの「高中国流」もある。
・中国流に白6のカカリはオーソドックス。
・譜の黒9と下辺からカカったのは、中国流を働かすもので、白は10とおとなしく受けた。
≪総譜≫(1-40)
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、240頁~246頁)
星・小目平行 第23型 中国流(1)参考譜 依田紀基vs山田規三生
【参考譜第23型2】依田紀基vs山田規三生(250頁)
第23型2【参考譜】(1-47)依田紀基vs山田規三生
【1998年】第23期棋聖戦最高棋士決定戦
白 王座 山田規三生
黒 碁聖 依田紀基
・黒の中国流に白6からカカったので、黒は9、11と下辺を盛り上げた。
・白12のカカリに黒13のケイマ。
・黒13のケイマに白14、16とツケヒいた。
・白18のヒラキに黒19のトビが形である。
・黒29のカカリ。
・白30に黒31、白32を決めて、黒33が手順である。
・黒43に白44、46はやむを得ない。
【1図】(コスミ)
〇白12のカカリに黒13のケイマでは、
・黒1のコスミも有力で、白に根拠を与えない打ち方である。
・白2、4以下、黒11まで相場である。
【2図】(白、変化)
〇黒13のケイマに白14、16とツケヒいたが、白14では、
・白1のツケ一本から3、5と変化するのもあり、黒は6から8が正しい応手である。
・白9以下黒12となれば、黒十分のワカレであろう。
【3図】(黒、破綻)
〇黒6で、
・黒1とカカえるのは失策である。
・白2の切りから4と出られると、黒破綻する。
【4図】(一策)
〇白18のヒラキに黒19のトビが形であるが、
・黒1とブツカり、3とトンで、右辺を盛り上げるのも一策である。
・しかし、白を安定させる嫌いもあり、譜の運びとは一長一短。
【5図】(黒、外回り)
〇黒29のカカリでは、
・黒1のカカリから3とハサみ、以下黒11と外回りで行くのも考えられるが、白2の受けで4と変化される可能性もある。
【6図】(白、苦境)
〇黒43に白44、46はやむを得ない。44で、
・白1と逃げを急ぐと、黒2以下8で白苦境に陥ることになる。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、250頁~251頁)
星・小目平行 第27型中国流(5)
・黒の中国流に、白も2、4から6の高い中国流で抵抗する。
※双方、中国流の構えだと、模様の対峙となることが多い。
・黒7のカカリから9と構えた。
・黒13でAなら、白13、黒Bで模様の張り合いとなる。
・白14では、
≪譜1≫(1-14)
【3図】(白、ケイマ)
・白1もあり、黒2、4以下6まで穏やか。
また、
【4図】(白、ツケヒキ)
・白1のツケなら、黒は2から4が形である。
・黒4ではaは、白bと受けられ、黒重い。
・黒2では、
【5図】(黒、有力)
・黒2のヒキも有力で、6までが形。
・次にaと、譜1のAが見合いである。
≪譜2≫(14-36)
・白14のコスミには、黒も15のコスミが普通である。
・黒15以下19のトビまでは、常識的な運びである。
・白は右下20のカカリが絶対で、逆に黒20の一間ジマリを許しては、右辺から下辺一帯の黒模様が強大となる。
・黒21以下25までは定形であるが、25では、
【10図】(白、サバキ)
・黒1、3の急襲もあるが、白は4、6が筋で、白8、10とシボって、12までサバキ形である。
・黒31で白32が手筋で、
【11図】(根拠を失う)
・単に白1とツグのは、黒2のコスミが絶好で、白は根拠を失う。
≪譜3≫(37-45)
・右下隅が一段落すると右上と左下の隅が大きくなる。
・黒は37と打ち込んだ。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、284頁~289頁)
星・小目平行 第31型 参考譜 結城聡vs片岡聡
〇結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 上』より
【2001年】第26期碁聖戦本戦
白 九段 片岡聡
黒 九段 結城聡
【参考譜】(1-48)
・黒5の高いカカリもよく打たれる。
・白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方。
・白12から14のケイマが攻めの形である。
・黒13のコスミは常識的である。通常は譜の13である
・白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなる。
・白28はよい見当である。
・白30は形。
【1図】(バランス悪し)
〇白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方である。これで、
・定石どおり黒1とヒラくのは、たとえば白2以下6となると、黒のバランスがよくない。
【2図】(白、重い)
〇白12から14のケイマが攻めの形であり、12で、
・白1の割り打ちは、黒2のツメがぴったりで、白3以下7となるが、白の形はいかにも重い。
【3図】(黒、外勢)
〇黒13のコスミは常識的であるが、
・黒が外回りに徹するなら、黒1のカケも一策である。
・白2のハネに黒3のツギが手厚いが、甘さは否めない。
【4図】(方向が逆)
〇白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなるが、白22で、
・白1とトブのは石の方向が逆で、黒2、4から6と攻められる。
【5図】(難しい戦い)
〇白28はよい見当であり、
・白1とまともにカカるのは、黒2以下6と攻められ難しい戦いとなる。
【6図】(味消し)
〇白30は形。これで、
・白1のカカリは、黒2とシマられ味消し。
※また、後に黒aからgとからまれる恐れがある。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、328頁~329頁)
ここから『基本布石事典 下』
〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年
星・二連星 参考譜 武宮正樹vs大竹英雄
②1993年 武宮正樹-大竹英雄(126頁)
第14型 【参考譜】(1-72)
1993年 第49期本因坊戦予選決勝
白十段 大竹英雄
黒九段 武宮正樹
・左下隅、白4と高目に打ったのは、黒の二連星を意識して、位を高く保つためである。
・黒9の大ゲイマは、二連星と呼応して、スケールを大きく持っていく。
・黒13のコスミは、三連星を働かせている。
・白は14と三々に入った。
・黒15のオサエ。
・黒17のカケに白18、20の出切りは気合いである。
・白は譜の18以下22ノビて黒模様を消す拠点にしている。
・黒21のトビは形である。
・白30のマガリトビに黒31は冷静。
【1図】(黒、調子づく)
〇白は14と三々に入ったが、これで、
・白1のケイマは、黒2、4と調子づかせることになる。
・続いて、白aとカカるが、黒の谷はかなり深くなってくる。
【2図】(一つの形)
〇黒15のオサエでは、
・黒1から3にはずすのも一つの形。
・白8、10に、黒はaにツガず、他に転じることになる。
【3図】(戦わず)
〇黒17のカケに白18、20の出切りは気合いであるが、
・ここは戦わずに白1とハイ、黒2ノビとなる打ち方もある。
【4図】(筋違い)
〇黒21のトビは形であるが、
・黒1のノビは筋違い。
・白2のノビから4にトバれると、戦いの主導権は白のものになる。
【5図】(黒、破綻)
〇白30のマガリトビに黒31は冷静。これで、
・黒1以下5の切りは無謀で、白6のワリコミから白aかbで黒破綻する。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、126頁~127頁)
星・タスキ星 参考譜 高尾紳路vs大竹英雄
【補足】高尾紳路氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
<星・タスキ星>【参考譜】
②1999年 高尾紳路-大竹英雄(146頁)
第16型 【参考譜】(1-53)
1999年 第25期天元戦本戦
白九段 大竹英雄
黒六段 高尾紳路
・白8のカカリに黒9とハサみ、以下白18まで、先手を取って、黒19とツメた。
・黒19に白は手を抜いた。
・黒23のカケは工夫した手である。
・白30の押し。
・白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。
【1図】(下辺も大場)
〇黒19とツメたが、これでは、
・黒1のヒラキも大場である。
・白2のカカリに黒3以下白8まで先手を取って、待望の黒9にツメる。これもあろう。
・手順中、白2でaと守れば、黒4のシマリが絶好である。
【2図】(打ちにくい)
〇黒19に白は手を抜いたが、これで、
・白1、3と守れば、手堅い。
・しかし、黒2の立ちで、左辺が理想形になり、白は打ちにくい。
【3図】(黒、今ひとつ)
〇黒23のカケは工夫した手である。これでは、
・黒1のコスミツケが手筋であるが、この場合は、白2から6のコスミまで、黒、今ひとつであろう。
【4図】(黒、十分)
〇白30の押しで、
・白1とシマるのは、黒2から4のトビが調子よくなる。
・譜の黒23と相まって、黒十分である。
【5図】(黒、つらい)
〇白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。これで、
・黒1にカカるのは、白2から4のトビが好点で、黒5と守るのでは、つらい。
・黒7に続いて、白は譜のAトビで好調になる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、146頁~147頁)
小目タスキ 参考譜 加藤正夫vs山田規三生
【補足】山田規三生氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
<小目タスキ>【参考譜】
②1999年 加藤正夫-山田規三生 (298頁)
第18型 【参考譜】
1999年 第47期王座戦本戦
白七段 山田規三生
黒九段 加藤正夫
【参考譜】(1-56)
≪棋譜≫298頁、参考譜
・白10のカケに黒11、13と出切り、白14のツケ以下18までは、代表的な定石。
・黒19のカカリに、白は手を抜いて、20のカカリから22とヒラいた。
・黒21のシマリでは、下記のような変化もある。
・黒27以下37は常套の封鎖手段。
※依田氏は、黒21のシマリについて、次のようなサバキの変化図を示している。
≪棋譜≫299頁、2図
【2図】(サバキ・1)
・前図の黒21のシマリで、黒1のハサミなら、白2のツケがサバキの筋。
・黒3に白4以下10となる。
・続いて、黒aと押し、白b、黒cなら自然。
≪棋譜≫299頁、3図
【3図】(サバキ・2)~ツケ切り
・前図の黒3で黒1のハネは、白2の切り以下の定石に戻り、これも白サバキ。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、298頁~299頁)
小目タスキ 参考譜 張栩vs淡路修三
⑧2003年 張栩-淡路修三 (350頁)
第24型 【参考譜1】
2003年 第28期棋聖戦リーグ
白九段 淡路修三
黒本因坊 張栩
【参考譜】(1-64)
・黒7のヒキは、白8に手を抜く作戦で、黒9のカカリを急いだ。
・白10のハサミに黒11のケイマは、趣向である。
※白12の受けでは、
【1図】(右辺を重視)
・白1のケイマから3と右辺を重視するのもある。
・黒4のシマリに白5以下9と隅を守り、黒10から12と左辺に展開し、これもあったろう。
※譜の白12に受ければ、黒13のカケから19のケイマが手厚い。
白20に、黒21と下辺に展開したが、
【2図】(シマリ)
・黒1のシマリも好点である。
・白2のヒラキから4の守りが自然な流れであるが、黒からはaのノゾキのねらいが有力になってくる。
※手順中、黒3では、
【3図】(一長一短)
・黒1とツケて上辺に侵入するのもある。
・白2以下黒7に白8とヒラいて、前図にくらべ、一長一短である。
※黒21に白22のハイ以下28までは定形で、白の実利に黒は外勢を築く。
白24のハネコミは肝要で、
【4図】(大模様出現)
・白1と左辺に向かうと、黒2のオサエが先手になり、4のシマリで下辺一帯に大模様が出現する。
※黒は29から31と一路広くヒラき、いっぱいにがんばった。
この隙を衝いて、白32でAに打ち込むのは、黒B以下Fのトビとなり、右方の黒の勢力が働いてくる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、350頁~351頁)
小目・向かい小目 参考譜 山田拓自vs三村智保
②2001年 山田拓自-三村智保 (370頁)
第26型 【参考譜】(1-61)
2001年 第26期棋聖戦リーグ
白九段 三村智保
黒六段 山田拓自
・白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。
・黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。
・白12と三連星を布いた。
・白14に黒15の三々入り以下、19までは定石である。
・白20のケイマは柔らかい手である。
(通常は、白(16, 十四)、黒(18, 十四)で手を抜く)
・白22は形。
・黒23と下辺からのカカリは正しい。
【1図】(黒、無理気味)
〇白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。これに対しすぐ、
・黒1と切るのは性急過ぎで、白2、4から6とカケツがれる。
・黒7以下の戦いは無理気味である。
【2図】(黒、先手)
〇黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。続いて、
・白1のトビサガリには、黒2から4のハイを決めて、先手を取るのも、一策である。
【3図】(上辺に備える)
〇白12と三連星を布いたが、これでは、
・白1とヒラくのもある。
・黒2の割り打ちに、白3とツゲば、上辺は一人前の形。
・黒4のヒラキ以下8まで、これもあるだろう。
【4図】(がんばり過ぎ)
〇白22は形だが、これで、
・白1のオサエはがんばり過ぎで、黒2を決めて、4、6以下10と抵抗されると、白地はガラガラになる。
【5図】(黒、重複)
〇黒23と下辺からのカカリは正しく、
・黒1からカカるのは、白2、4とツケノビられ、黒7のヒラキが上方の低位の黒▲(3, 七)とコリ形になり、黒はおもしろくない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、370頁~371頁)
小目・向かい小目 参考譜 趙治勲vs小林覚
【補足】小林覚氏の実戦譜(vs趙治勲)~依田紀基『基本布石事典 下』より
第28型 【参考譜1】
1995年 第19期棋聖戦第5局
白九段 小林覚
黒九段 趙治勲
第28型 【参考譜1】(1-59)
・白は6のカカリから8、10と手厚く運んだが、8では手を抜いてAとヒラき、黒9、白10、黒Bに白Cと足早に展開するのも一策。
・白12のハサミに、黒13、15と下辺を割って足早の運び。
・白16と備えたのは手厚い。
・黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものである。
・譜の黒39のカカリを急ぐ。
・白40の大ゲイマに、黒41と入った。
・黒41と入れば、43以下生きはあるものの、周囲の黒が手薄くなってくる。
【1図】(これも一局)
〇白16と備えたのは手厚いが、
・白1のヒラキも好点である。
・しかし、黒2以下の動き出しも大きく、以下黒12まで、これも一局である。
【2図】(穏健路線)
〇黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものであるが、これは、
・白1のボウシくらいなら穏健路線で、黒2に白3が好形であった。
【3図】(黒、名調子)
・上辺にさわらず白1と右辺に向かうと、黒2のトビが絶好点になる。
・白3に、黒4、6と自然に左辺を囲って名調子となる。
【4図】(効果が薄い)
〇黒37、白38のとき、
・すぐ黒1、3とハミ出すのは、白4のハネ一本から6の大場にまわられ、黒つまらない。
・ここは、譜の黒39のカカリを急ぐ。
【5図】(立派なヒラキ)
・黒1のヒラキも立派。
・白2、4と隅を守られるのを嫌ったのであろうが、黒5で不満ない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、390頁~391頁)
小目・向かい小目 参考譜 加藤正夫vs羽根直樹
⑥1998年 加藤正夫-羽根直樹 (392頁)
第28型 【参考譜2】
1998年 第46期王座戦本戦
白七段 羽根直樹
黒九段 加藤正夫
【参考譜】(1-53)黒21コウ取る 白24コウ取る
【1図】
【2図】
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、392頁~393頁)
小目・向かい小目 参考譜 依田紀基vs三村智保
【補足】三村智保氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
<小目・向かい小目>【参考譜】
⑨2004年 依田紀基-三村智保 (416頁)
第31型 【参考譜1】(1-58)
2004年 第59期本因坊戦プレーオフ
白九段 三村智保
黒名人 依田紀基
・隅をシマらずにすぐ5とカカリ、白6のハサミに黒11と実利に就いた。
・白14のオサエ。
・黒17のコスミに、白18から20のワタリは欠かせない。
・白18で右上にカカると、黒(2, 十四)、白(1, 十四)、黒(2, 十二)の動き出しが厳しく、逆に白が攻められかねない。
・黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。
・白28のハサミ。
・白38、48のツケハネは筋である。
【1図】(一子が遊ぶ)
〇白14のオサエで、
・白1のオサエから5と下辺に構えるのは、黒先手で6のシマリにまわる。
※白は白△の一子が遊んでおり、不十分である。
【2図】(白、遅れ気味)
〇黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。これでは、
・白1から3が定形であるが、この場合、黒4から6と大場にまわられ、白は遅れ気味である。
【3図】(白、厚い)
〇ただし、2図の黒4で、
・黒1に受けると、白2以下6まで中央が厚くなり、絶好の8に展開される。
※また、白2ではaのカケもありそうだ。
【4図】(定形だが―)
〇白28のハサミで、
・白1のコスミツケ以下5までは定形だが、黒から6または黒a、白b、黒cと圧迫される可能性がある。
【5図】(白模様消える)
〇白38、48のツケハネは筋であるが、38で、
・白1と止め3と広げるのは、黒4以下10で簡単に白模様を消される。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、416頁~417頁)
小目・向かい小目 参考譜 依田紀基vs高尾紳路
⑩2007年 依田紀基-高尾紳路 (418頁)
第31型 【参考譜2】
2007年 依田紀基-高尾紳路 (418頁)
2007年 第62期本因坊戦第4局
白本因坊 高尾紳路
黒九段 依田紀基
【参考譜】(1-70)
・黒5のカカリ一本から7と高くシマッった。
・白8から10と割ったのは、黒9の両ジマリを許しても、ゆっくり打つ作戦である。
※黒11とカドを衝いたが、
【1図】(大場へ先行)
・黒1から3、5と大場へ先行するのもある。
・白2は根拠を確かめる好点である。
・譜の白12の押しで、Aと間隙を衝くのは、黒12、白B、黒Cと突き抜かれて、白よくない。
・白14に黒15、17以下、サバキに出たが、15でDのツメも好点であり、白15のシマリに黒28と動き出すのもある。
・黒23は、白24と封鎖されても、黒27まで先手で生きにつく作戦である。
・黒29のカカリは苦心の一手。
※これで、
【2図】(壁に近寄る)
・黒1の割り打ちは、白2からツメられ、黒3のヒラキが白の壁に近寄り過ぎる嫌いがある。
・後に、白a、黒b、白cの封鎖が厳しい。
※白30のツメで、
【3図】(黒の注文)
・白1のコスミは穏やかであるが、黒2、4と好点にヒラいて、これは黒の注文である。
※黒33、35のツケハネに白36のツギでは、
【4図】(黒の踏み込み)
・白1のノビが自然であるが、3に黒4の踏み込みを嫌ったものか。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、418頁~419頁)
小目・向かい小目 参考譜 結城聡vs小林覚
結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 下』より
<小目・向かい小目>【参考譜】
⑪2006年 結城聡-小林覚(426頁)
【第32型 参考譜】(1-76)
・白6のヒラキに黒7とカカリ。
・白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手。
・黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。
・黒13のケイマではハサミもありそう。
・黒19のトビに、白20のトビは省けない。
・黒21のボウシに、白22、24以下、脱出を図り、中盤の戦いに入った。
【1図】(模様を拡大)
〇白6のヒラキに黒7とカカったが、
・黒1とツメ、白2なら黒3、5とケイマで模様を拡大していくのもある。
・続いて、白aは黒bで理想形になるので、白bのボウシから消すことになろう。
【2図】(サバキの筋)
〇白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手である。これでは、
・黒のケイマが定石であるが、白のカカリから実戦と同じように黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。
【3図】(利かし)
〇譜の白12のカカリでは、
・白1の肩ツキも目につく。
・かりに、黒2と受け、白3以下8となれば大変な利かしで、白9にカカって十分である。
【4図】(白の強行手段)
〇しかし、黒2では、
・黒2のコスミツケから4と切る強行手段がある。
・白5以下抵抗しても、黒10となっては白苦しい。
※黒13のケイマではAのハサミもありそうだが、白Bとかわされ、黒Cに白D、黒16、白Eと展開されて、おもしろくない。
【5図】(つらい封鎖)
〇黒19のトビに、白20のトビは省けない。これで、
・白1の逃げを急ぐと、黒2から4と封鎖され、これは白はつらい。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、426頁~427頁)
第3章 目外し 第5型(480頁~)
2譜 7図(ツメ方)ツケ切り 8図(白模様拡大) カケ+ツケ
第3章 目外し 第5型
第3章 目外し 第5型
【テーマ図 1譜(1-15)】
【テーマ図 2譜(16-22)】
・右上隅が一段落し、白は16とシマッた。
※黒21の理由は8図で解説
【7図】(ツメ方)
〇白は18とツメたが、これでは、
・白1と左方からツメるのもあるが、これには黒2とヒラく。
・白3のシマリに黒4と守って、強固な構えになる。
※白3で、aの打ち込みには、黒3、白b、黒cのツケ切りがあり、黒のサバキは容易である。
【8図】(白模様拡大)
〇白18のツメには、黒19以下21のトビが定形であるが、21で、
・黒1、3と左辺へ先着すると、白4から6のツケが強手になる。
・黒は7以下11と運ぶよりなく、白12のノビまで右方一帯の白模様が拡大する。
※よって、譜の黒21は欠かせない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、480頁~483頁)
第3章 天元 第10型
【1~3譜(1-49)】
【1譜】(1-14)初手、天元
・黒1の天元は、コミ碁の現代ではほとんど見られないが、勢力主体の変化に富む布石である。
・白2、4の二連星に、黒は高目と目外しで威圧する。
・白6は変則なカカリ。
・白6に、黒のケイマ。
・黒11のコスミに、白12の三間ビラキは手堅い。
・黒13の天王山は逃がせず、逆に白13を許してはいけない。
・白14のカカリ。
【2譜】(14-24)白、模様を荒らす
・白14には、黒15のコスミが形。
※この布石は、双方ともに天元の石を常に意識していなければならない。
ちょっとした不注意から、一気に形勢が傾く恐れがある。
・黒15に白16とはずしたのが臨機の一手。
・譜の白16とくれば、黒17以下21のツギまでは一本道である。
・白は、隅の一子を捨てて、かわりに22まで所帯を持った。
※黒はこの代償として右上隅から上辺にかけて、模様の構築に資することになる。
天元の布石は、黒は単に一カ所の模様にこだわらないで、柔軟な考えが必要である。
・黒23とカカって、碁を広く持っていくところ。
・黒23には白24と割る。
【3譜】(24-49)黒は戦い歓迎
・白24の割り打ちは、ゆっくりした碁に持っていく工夫の一手である。
※戦いは黒の望むところであり、天元の石が働いてくる。
・白24に、黒は25と左方からツメた。
・白は26以下34まで、所帯を持った。
※白は弱い石をつくらないことが、天元を働かせない要諦である。
・黒35で両ガカリ。
・黒35には、白は36から38とオサえることができ、白46までで一段落。
・黒47から49と構えた。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、516頁~521頁)
第3章 天元 第10型 参考譜 山下敬吾vs林海峰
【2000年】第26期天元戦本戦
白 九段 林海峰
黒 六段 山下敬吾
山下敬吾vs林海峰
【参考譜】(1-64)
※コミ碁の現代、初手天元の碁はほとんど見られず、本局は珍しい。
・白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道である。
・黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。
※11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。
・黒13に白14の切りから戦いに突入した。
・黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。
・黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。
【1図】(天元をぼかす)
〇白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道であり、これで、
・黒1、3のツケヒキは、白4、6と軽く展開され天元の一子がボケてくる。
【2図】(シメツケ)
〇黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。白12で、
・白1のノビは、黒2、4の切りサガリから、6のオサエでシメツけられ、よくない。
【3図】(白のねらい筋)
〇黒13に白14の切りから戦いに突入したが、白18では、
・白1のカドがねらいの筋で、黒2にサガると、白3から5となって、黒ツブレ。
【4図】(白、空振り)
〇3図の黒2では、
・黒1のハネ一本が手筋で、
・白2に黒3以下7となれば、白のねらいは空振りに終わる。
【5図】(黒、甘い)
〇黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。これで、
・黒1のトビは、白2以下黒7となり、黒▲の高目が甘くなる。
※また、白が厚くなり、天元の石も威力を失ってくる。
【6図】(天元働かず)
〇黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。55で、
・黒1、3と下辺に展開するのは、白4を利かされ下辺はまとまるが、肝心の天元が働かない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、522頁~523頁)
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