歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪【参考書の紹介】山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社≫

2022-04-13 18:05:14 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪【参考書の紹介】山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社≫
(2022年4月13日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、次の古文単語帳を紹介してみることにする。
〇山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]

目次を見てもわかるように、古文単語を「○○ワード」と分類されていることが最大の特徴である。この分類が具体的にどのような内容であるかは、このブログで解説してみたい。
また、前回のブログで紹介した武田博幸/鞆森祥悟『読んで見て覚える 重要古文単語315[三訂版]』(桐原書店、2014年[2004年初版])のように、付録の章がないので、和歌、古典常識、文学史、識別について述べた項がない。いわば古文単語に特化した単語帳である。



【山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社はこちらから】
山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社








山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社
【目次】
はじめに
本書の構成・利用法
第1章 とにかく丸暗記で攻略
 日常動作ワード
 言語活動ワード
 恋愛ワード
 涙ワード
 仏教ワード
 生命系ワード
 皇室専用ワード
 丸暗記慣用表現
 セットもの副詞
 セットもの以外の副詞
 敬語
 特に注意すべき敬語Ⅰ
 特に注意すべき敬語Ⅱ
 注意すべき人物ワード
 注意すべき時間ワード

第2章 ちょっと工夫して攻略
 パーツで攻略
 現代語に近づけて攻略Ⅰ
 現代語に近づけて攻略Ⅱ
 漢字化して攻略
 対で攻略

第3章 違いに注意して攻略
 現代語との違いに注意して攻略Ⅰ
 現代語との違いに注意して攻略Ⅱ
 活用・品詞の違いに注意して攻略
 一文字違いに注意して攻略
 類似品に注意して攻略Ⅰ
 類似品に注意して攻略Ⅱ
 類似品に注意して攻略Ⅲ

第4章 使い方までおさえて攻略
 両極端系単語の攻略
 多義語・同音異義語の攻略
 バクゼン系単語の攻略

巻末付録・索引
 用言活用表
 助動詞一覧表
 助詞一覧表
 索引





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・特に注意すべき敬語Ⅰの「たまふ」
・武田単語帳と山村単語帳との比較
・「よをそむく(世を背く)」という単語をめぐって
・山村単語帳の良い点
・おもしろいエッセイ「ことばの窓」
・恋愛ワード
・恋愛ワード と古文読解








GROUP30に分けた場合










特に注意すべき敬語Ⅰの「たまふ」



No.119たまふ
〇尊敬(四段)
①お与えになる。くださる。※「与ふ」の本動詞
②~なさる。お~になる。 ※補助動詞
〇謙譲(下二段)
③~(ており)ます。 ※補助動詞


見分け方

尊敬の補助動詞 【訳】~なさる。お~になる。
=四段 【たま‖は|ひ|ふ|ふ|へ|へ 】

動詞+たまふ

下二段 【たま‖へ|へ|〇|ふる|ふれ|〇 】 ※〇のところは普通、現れない
=謙譲の補助動詞 【訳】~(ており)ます。

【覚え方】
たまお(「たまふ」)さん、尊敬のあまり四段をくださる。
下仁(下二)田ネギを献上(“謙譲”)します。

・敬語出題率ナンバー1です!!
 特に補助動詞の際に要注意!
 訳や文脈から見分けるのは相当むずかしいので、四段活用なら尊敬語、下二段活用なら謙譲語、と形から見分けましょうという。
(山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]、52頁)

武田単語帳と山村単語帳との比較


「しほたる(潮垂る)」および「かきくらす」という単語をめぐっての比較
まず、武田単語帳には、次のようにある。
No.175(151頁)
しほたる(潮垂る) 【ラ行下二段】
①涙を流す・涙で袖が濡れる
【解説】
もともとは「潮水に濡れてしずくが垂れる」という意味でした。
その様子が涙を流しているように見えることから、泣くことを比喩的に「潮垂る」というようになりました。
<例文>
①いと悲しうて、人知れずしほたれけり。(『源氏物語』・澪標)
【現代語訳】
▶ほんとうに悲しくて、人知れず涙を流したのであった。

※絵としては、海から上がった少年には体に海水が垂れている。それを指さして女性が「泣いてるの?」という。

(武田博幸/鞆森祥悟『読んで見て覚える 重要古文単語315[三訂版]』桐原書店、2014年[2004年初版]、151頁)

No.176(151頁)
かきくらす(掻き暗す) 【サ行四段】
①空を暗くする・あたり一面を暗くする。
②心を暗くする・悲しみにくれる

【解説】
・「かき」は接頭語。「くらす」は「暗くする」という意味で、もともとは自然の様子をいう語が心情を比喩的に表すようになったものです。
かきくらす=(空や心を)暗くする

<例文>
①雪のかきくらし降るに、(『枕草子』今朝はさしも見えざりつる空の)
【現代語訳】
▶雪が空を暗しく(て)降るので、
②≪わたしは亡くなった恋人との思い出の地を訪ねてみたが、≫
またかきくらさるるさまぞ、いふかたなき。(『建礼門院右京大夫集』)
【現代語訳】
▶また自然と悲しみにくれる様子は、言いようがない。
※「るる」は自発の助動詞「る」の連体形。

【見出し語の関連語】
・つゆけし(露けし) [形容詞]
①露が多い ②涙がちだ

(武田博幸/鞆森祥悟『読んで見て覚える 重要古文単語315[三訂版]』桐原書店、2014年[2004年初版]、151頁)



一方、山村単語帳には、「第1章 とにかく丸暗記で攻略【涙ワード】」に、次のようにある。
No.27 かきくらす 動(サ四)
①(雨や雲などが)あたりを暗くする。
②心を暗くする。(涙や悲しみが)目の前を暗くする。

No.28 しほたる(潮垂る) 動(ラ下二)
①雨や海水などで濡れる。
②涙で袖が濡れる。泣く。

【解説】
・泣き濡れてしおたれる(「しほたる」)
自然現象を表す語を、心の様子にも適用したもの。自然描写の場面なのか、心情描写の場面なのかをチェックして意味を特定します。「しほたる」は、海水がポタポタ垂れる状態を表す意から、涙がポタポタ落ちる意にも用いるようになった語。他に、形容詞「つゆけし」も、涙ワードとして覚えておきましょう。

【相関図】
「かきくらす」 「しほたる」 「つゆけし」
自然 雨などで
あたりが真っ暗 雨などで
濡れる しめっぽい

心情 悲しみで
真っ暗 涙で
濡れる 涙がちだ


<例文>
●あやしう恐ろしきに、「こはいかなることぞ」とただかきくらす心地すれば、衣をひき被(かづ)きて臥(ふ)しぬ。(『狭衣物語』
【ポイント】「心地」←心情表現の証拠
【現代語訳】
わけがわからず恐ろしくて、「これはどうしたことだ」とひたすら目の前を暗くする気持ちがするので、衣服を(頭から)かぶって横になった。

●いと悲しうて、人知れずしほれたり。(『源氏物語』)
【ポイント】「悲しうて」←心情表現
【現代語訳】
とても悲しくて、人知れず泣いてしまった。
(山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]、17頁)


「よをそむく(世を背く)」という単語をめぐって


「よをそむく(世を背く)」という単語がある。意味は「出家する」である。
この単語をめぐっても、両単語帳は扱いと出典が異なる。
まず、武田単語帳では、次のようにある。
見出し語では「よをそむく」は含まれず、315語には入っていないが、「出家するの言い換え表現」と題して解説している。
【解説】
古文の世界では、俗世に絶望したり、現世での寿命が尽きることを意識したりしたときには、出家をすることがよくあり、その表現もたくさんあります。来世での幸福(=極楽往生=極楽に生まれ変わること)を願って、仏道修行に専念するために出家をしたのです。(58頁)


そして、「出家する」ことをいう表現は次の三つに大きく分けられるとする。
①衣服などを変える(やつす、かたちを変ふ)
②髪を切ったり、剃ったりする(御髪おろす、頭[かしら]おろす、もとどりきる)
③世(=俗世)を離れる(世を背く、世を遁るなど)
<例文>
・世を背きぬべき身なめり。(『源氏物語』・帚木)
▶(わたしは)きっと出家しなければならない身であるようだ。

(武田博幸/鞆森祥悟『読んで見て覚える 重要古文単語315[三訂版]』桐原書店、2014年[2004年初版]、58頁)



一方、山村単語帳には、「第1章 とにかく丸暗記で攻略【仏教ワード】」に、次のようにある。
No.31 かしらをおろす(頭をおろす)
①出家する。
No.32 よをそむく(世を背く)
①出家する。隠遁する。

【解説】
「出家」は、俗世間を捨て、仏門に入ること。それまでの俗世間での地位や家族を捨て、街の中心部から山中に引っ越し、「庵(いほ・いほり)」というコンパクトな家を建てて、そこで仏道修行生活をおくります。ほとんどの貴族は、人生のどこかのタイミングで出家をするので、こうした表現が古文には数多く現れます。

【相関図】
<仏教関連・衣装ワード>
「苔の衣」・「苔の袂(たもと)」…出家者の着る粗末な服
「墨染め衣(すみぞめごろも)」…①出家者の着る服 ②喪服(もふく)

<例文>
●比叡の山にのぼりてかしらおろしてけり。(『古今和歌集』)
【ヒント】「比叡の山」=比叡山延暦寺
【ポイント】「かしらおろして」←「を」がなくてもOK!
【現代語訳】
比叡山に登って出家してしまった。

●はや、この暁、霊山にてよをそむきぬ。(『弁内侍日記』)
【ヒント】「霊山」=神仏をまつった神聖な山
【現代語訳】
すでに、この暁に、霊山で出家してしまった。
(山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]、19頁)

山村単語帳の良い点


一方、山村単語帳には、「第3章 違いに注意して攻略【類似品に注意して攻略Ⅱ】」に、次のようにある。
◎違いをつかめ!「趣」ワード編
No.492 あはれなり 形容動詞(ナリ)
①しみじみと~だ。
No.493 あはれ
①(感)ああ。
②(名)しみじみとした思い。
No.494 をかし 形容詞(シク)
①趣がある。おもしろい。
②すばらしい。
③滑稽だ。おかしい。
No.495 おもしろし 形容詞(シク)
①趣がある。
②興味深い。おもしろい。

【相関図】
「あはれなり」…しっとりしみじみとした趣。
「をかし」………知的でカラッと明るい趣。
「おもしろし」…心が晴れ晴れするような趣。

【解説】
・「あはれなり」「をかし」「おもしろし」は、いずれも趣や風流にかかわる意味を持つ語である。
何となく同じように捉えていた人もいるかもしれない。しかし、次のような違いがあるようだ。
①「あはれなり」
嬉しいにつけ悲しいにつけ、心が揺さぶられ、しみじみとする意。
※「あはれなり」は辞書にはたくさんの訳語が載っている。
 結局「しみじみうれしい」のか「しみじみ悲しい」のかなどは文脈から判断するしかない。
 だから、覚えるのは、「しみじみと~だ」だけで、OKだとする。
 (後は本文から読み取ること)
②「をかし」
 主に普通とは少し変わったことに対する知的な趣。
③「おもしろし」
 気分がパッと明るくなるような趣を表す。

<例文>
●ある人の、「月ばかりおもしろきものはあらじ」と言ひしに、また一人、「露こそなほあはれなれ」と争ひしこそ、をかしけれ。(『伊勢物語』)
【現代語訳】
ある人が、「月ほど趣のあるものはないだろう」と言ったところ、別の一人が、「露こそがやはりしみじみとした趣がある」と言い争ったことが、知的でおもしろい。
(山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]、236頁~237頁)

おもしろいエッセイ「ことばの窓」


和歌には特別な力があり、言葉には不思議なパワーがあるという「言霊(ことだま)」信仰があったことを、おもしろいエッセイ「ことばの窓」で次のように記している。

「力をも入れずして、天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神(おにがみ)をもあはれと思はせ、男女の仲をも和らげ、猛(たけ)き武士(もののふ)をも慰むるは歌なり。」これは、古今和歌集の仮名序(かなじょ、=ひらがなで書かれた序文)の一節です。
 古代、和歌には特別な力があると考えられてしました。人間や鬼神の心を動かすだけではありません。たとえば、いい歌を詠むことで、都からの追放刑ほどの大罪を許されたり、別れた彼氏が戻ってきたり、“実益”を伴う話が古文には多いんです!
 和歌に限らず、そもそも言葉に不思議なパワーがあるという「言霊(ことだま)」信仰をベースにしているともいえますし、それだけ和歌が重視されていたともいえそうですね。
(山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]、214頁)

恋愛ワード


目次を見てもわかるように、山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』(語学春秋社、2020年[2017年初版])には、「恋愛ワード」という項目がある。
そこには、次のような古文単語が載っている。

No.18 おもふ【思ふ】 動詞(ハ行四段)
①愛しく思う。
②不安に思う。
③思う。

No.19 よばふ【呼ばふ】 動詞(ハ行四段)
①言い寄る。求婚する。

〇「おもふ」の意味は基本的に現代語と同じ。
 ただし、何をどう思うのかがはっきりしない「おもふ」は、たいてい「愛しく思う」か「不安に思う」の意。恋愛ワードになり得るので、恋物語の場合は意識すること。

〇「よばふ」は、“夜這(よば)い”と勘違いする人もいるが、「呼ばふ」と漢字化される。
 もともとは、「(誰か)を呼び続ける」の意であるが、「交際を申し込む・プロポーズする(=言い寄る・求婚する)」の意で多く用いられる。
 訳語の「言い寄る」「求婚する」は、日常会話ではあまり使わないが、選択肢などには現れるそうだ。
〇ちなみに、「垣間見る」「懸想(けさう)す」なども、恋愛初期の場面によく見かける語である。

<恋愛初期・関連ワード>
【相関図】
垣間見る のぞき見る
懸想す 恋愛感情を抱く
懸想文(けさうぶみ) ラブレター

(山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]、11頁)

No.20 みる【見る】 動詞(マ行上一段)
①(男女が)交際する。結婚する。
②見る。

No.21 あふ【会ふ・逢ふ】 動詞(ハ行四段)
①(男女が)交際する。結婚する。
②出会う。対面する。

No.22 かたらふ【語らふ】 動詞(ハ行四段)
①(男女が)親しく言葉を交わす。
②説得して味方に引き入れる。
③語り合う。

※「みる・あふ」は、結婚する前提

No.20~ No.22は、現代語と同じ意でも用いるが、恋愛の語で用いられる場合は、主語などをチェックした上で基本的に恋愛ワードとして意味を考えること。
〇ちなみに、高貴な貴族女性が自分の姿を直接見せる異性は、原則、父・兄弟・夫のみ。
⇒だから、家族以外の男性が女性を「みる」ことが「交際する」「結婚する」の意になる。

・また、入試で出題される「古文」の時代には、現代のような婚姻届がないから、“おつきあい”と“結婚”の区別は今のようにはなく、同じ語で表す。
・当時は、男女が同居せず、夫が妻に会うために妻の邸(やしき)に通う、「通い婚」という結婚スタイルが主流。

「ことばの窓」には、次のようにある。
・古文の時代は、一夫多妻。
 通常、貴族たちの妻はそのまま生家で暮らし、夫がそれぞれの妻のもとを訪ねる「通い婚」なので、妻たちが夫を囲んで集団生活なんかはしない。
(同居カップルもいるが少数派)
〇また、当時の高貴な女性は姿を見られることを極端に嫌ったので、結婚当日に初めて妻の顔を見て、夫がビックリしたなんてこともあった。

<恋愛順調期・関連ワード>
【相関図】
知る 交際する。結婚する。
通ふ (男が女のもとに)通う。通い婚をする。
男(をとこ)す 夫を持つ。夫にする。
見ゆ 妻になる。女が結婚する。
あはす 結婚させる。
後朝(きぬぎぬ)の文 デート直後の手紙

(山村由美子『GROUP30で覚える古文単語600』語学春秋社、2020年[2017年初版]、12頁~13頁)


恋愛ワード と古文読解


【テーマ3】場面に応じた意味把握②~恋愛ワード編~
「会ふ」「見る」「知る」などの言葉は、そんなに現代語との違いがないように見える。でも、これらの言葉は、男女がメインの恋愛のお話の中で用いられると、特別な意味になる重要語である。

ワザ41意味の特定法②[パターン的中率80%]
 男女の恋のお話では、「会ふ」「見る」「知る」などは恋愛ワードに変身!
古文単語 意味
会ふ(逢ふ)・見る ①デートする。②おつきあいをする。③結婚する。
見ゆ 女性が結婚する。
知る ①おつきあいをする。②結婚する。
通ふ・住む ①男性が女性のもとに通う。②おつきあいをする。③結婚する。
呼ばふ ①言い寄る。②プロポーズする。
もの言ふ ①言い寄る。②プロポーズする。③デートする。
こころざし 愛情
世(の中) 男女の仲
<プラスアルファ>
〇現代人感覚では、「デート」と「おつきあい」と「結婚」には大きな差を感じるが、入試で出題される古文の世界には現代のような戸籍がなかったので、婚姻届を提出する手続きがなかった。
⇒だから、おつきあいをする時点で、普通は結婚を意味することになる。
〇また、当時の女の子は非常にガードがかたく、迷ったり悩んだりさんざんした上で、決意してデートをした。
⇒だから、基本的に、デート=おつきあい=結婚、となる。
(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、138頁
~139頁)

【練習問題】
〇次の文を読んで、後の問いに答えなさい。

 さて、この男、「女、こと人にもの言ふ」と聞きて、「その人と我と、いづれをか思ふ」と問ひければ、女、
  花すすき君が方にぞなびくめる思はぬ山の風は吹けども
となむ言ひける。
 よばふ男もありけり。「世の中心憂し。なほ男せじ」など言ひけるものなむ、この男をやうやう思ひやつきけむ、この男の返り事などしてやりて……

(注)
ものなむ――ここは「けれども」の意。

問一 傍線部「もの言ふ」、「よばふ」の意味として最も適切なものを、次の選択肢の中から、それぞれ一つずつ選びなさい。
 ア言いつける イ仲良く言葉を交わす ウ噂になる エ言い寄る
問二 傍線部「世の中」の意味として最も適当なものを、次の選択肢の中から一つ選びなさい。
 ア世間 イ俗世 ウ男女の仲 エ現世

<解法>
☆問の言葉はすべて恋愛ワード。ずいぶんモテモテの女の子の話。
〇「女」と「こと人」(他の人、別の人)がデートしている・愛の言葉を交わしているの意味だと理解しよう。
〇「よばふ男」の「よばふ」は、「つきあおうよ!と言い寄る」意味。
〇「世の中心憂し。なほ男せじ」
 この「世の中」は男女の恋のお話なので、恋愛ワードとして処理。「男女の仲」
 「心憂し」は「つらい」という意味の形容詞。
 「男す」は、「男性とつきあう、男性と結婚する」意味のサ変動詞。
 「じ」は打消意志の助動詞。
⇒「『世の中』(男女の仲)がつらいから、もうつきあいたくない」と

【答】
問一 (1)イ (2)エ
問二 ウ

【現代語訳】
さて、この男は、「女が、別の男と仲良く言葉を交わしている」と聞いて、「その人とボクと、どちらを愛しく思うのか」と(女に)尋ねたところ、女は、
  花すすき(=私)はあなたの方になびいているようです。思いもよらない山風(=別の男からのアプローチ)が(私の方に)吹いているけれども。
と言った。
 (さらに他に、この女に)言い寄る男もいた。(女は)「男女の仲というものはつらいものです。やはり男の人とはおつきあいしないでおきましょう」などと言っていたけれども、この(言い寄る)男のことをだんだん心ひかれていったのだろうか、この(言い寄る)男からの手紙に返事などを書いて送って……

(山村由美子『図解古文読解 講義の実況中継』語学春秋社、2013年[2019年版]、138頁
~139頁)


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