[映画紹介]
ユスラ・マルディニという
オリンピックの水泳選手をご存じだろうか。
ほとんどの人が知ることのない、この選手は、
シリア難民で、シリア代表として出場することができずに、
リオと東京の2大会に、
「難民選手団」として出場した。
この映画は、
このユスラ・マルディニという選手の苦難を描く作品である。
ユスラ・マルディニは1998年にシリアで生まれ、
ダマスカス郊外で育った。
2012年には、14歳で
世界水泳選手権にシリア代表として出場するほどの選手だった。
次の目標はオリンピック。
そう考えていた矢先、シリア内戦が起こり、
570万人以上が国外に逃れた。
ユスラも、17歳で、同じ水泳選手の姉と共にドイツに移動、
そこで難民として申請し、
シリアに残った家族を呼び寄せることを意図する。
しかし、その路程がすさまじい。
シリアからトルコに逃れ、
そこから海路、ギリシャに上陸する。
しかし、2000ドルを取る
劣悪な仲介業者の手によるそれは過酷なものだった。
6人程度しか乗れないゴムボートに
20人が押し込められ、
エーゲ海の真ん中でエンジンが故障し立往生、
浸水して船が沈みかける。
重量を減らすために荷物を捨て、
ユスラと姉は「泳げるから」と
ボートから降りて泳ぎ、
少しでも重量を軽くしようとする。
何とかギリシャに着いてからも苦難が続く。
トラックに押し込められ、
地名も分からない土地で降ろされ、
鉄条網の国境を乗り越え、
警備兵の目を盗んで、ドイツを目指す。
強姦されそうにもなる。
何とかベルリンに着いてからも、
水泳の練習する場所がない。
親切なドイツ人コーチによって、
プールが与えられるが、
体がなまってしまい、元に戻るのに苦労する。
更に、国籍の問題で、
シリア難民がシリア代表としてオリンピックに出場することはかなわない。
2016年3月、国際オリンピック委員会は、
難民のアスリートたちにオリンピックの出場資格を与えるための
専用のチームを創設。
それが「難民選手団」だ。
難民選手団が最初に出場したのが2016年のリオデジャネイロオリンピック。
そして東京オリンピックでも引き続き出場し、
29名の選手が参加した。
国を失ったばかりでなく、
オリンピックの出場資格まで失ったアスリートの苦悩を描いて、
並のスポーツ映画とは一線を画する。
船を待つ難民たちの国籍が多様で驚く。
アフガニスタン、ソマリア、スーダン、エリトリア・・・
海の上での描写が緊迫感を持って描かれる。
上陸地点に不要となった救命胴衣が延々と捨てられている場面は、
難民の深刻さを如実に描く。
道路を徒歩で行く難民の行列。
線路を歩く難民たちの姿も胸が痛くなる。
リオ五輪の場面は、
本当に現場で撮ったのではないかと思わせる臨場感。
監督はエジプト出身のサリー・エル・ホサイニ。
脚本はジャック・ソーン。
主人公の姉妹を演じるナタリー・イッサとマナル・イッサは、
実の姉妹。
だから顔が似ていて、リアル感がある。
ドイツの水泳コーチをマティアス・シュヴァイクホファーが演ずる。
世界には、3000万人の難民がいて、
その半数が18歳未満だという。
難民は、祖国を捨てた人々。
国に戻りたいだろうに、
国の事情がそれを許さない。
内戦は、自分の国土を荒廃させる行為。
愚かしいことだが、
世界から無くならない。
どの国に生まれたかで人生が変わってしまう理不尽さ。
「世界は不公平」という言葉が重い。
なお、マルディニ一家は、
2016年に海を渡り、
今はベルリンに住んでいるという。
姉は船で来る難民を助ける仕事に従事している。
Netflix で独占配信中。
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