[映画紹介]
テレビの連続ドラマの劇場版というのは、
テレビ局がらみの興収狙いで、
新たな創作の志を喪失したもの、
という“偏見”があるため、
この映画も食指は動かなかったが、
あまり評判がいいので、観てみた。
TOKYO MERとは、
TOKYO Mobile Emergency Room
の略で、
「移動緊急救命室」と訳される。
最新の医療機器と手術室を搭載した緊急車両で、
重大事故・災害・事件の現場に駆けつけ、
負傷者にいち早く救命処置を施する。
東京都知事直轄の救命医療チームが従事する。
冒頭、飛行機の滑走路不時着事故の現場にかけつけ、
重傷の怪我人に緊急手術を行う様が描かれる。
飛行機が爆発する可能性がある現場での作業で、
危険極まりないが、
時間の余裕のない患者に対して、
移動しながら手術を行う。
その姿が実にプロフェッショナルで、
確かな技術に裏打ちされたテキパキとした指示と作業に胸打たれる。
それぞれがそれぞれの持ち場で最善の仕事をするプロのわざは、
見ていて気持ちがいい。
上司は避難を指示するが、
彼らの考えは「待っていては、救えない命がある」というもので、
死者ゼロが彼らの目標だ。
ただ、危険を省みない行動は、
後で、上司からの叱責の対象にもなる。
空港での事故の後、物語は本題に入る。
横浜みなとみらいのランドマークタワーで
テロリストが事務所階に放火する。
火は空調ダクトを通じて他の階に延焼し、
各階に仕掛けられた爆発物の爆発を誘発する。
高さ273m の69階の展望フロアには、193名の観光客が閉じ込められ、
救出を待つが、
その現場にTOKYO MERもかけつける。
しかし、その前に立ちはだかったのは、
YOKOHAMA MERで、
厚生労働大臣の肝入りで設置され、
やがてはTOKYO MERも吸収して
全国組織にするという目論見が背景にある。
YOKOHAMA MERのチーフドクターは、
アメリカ帰りの敏腕医師・鴨居友で、
TOKYO MERのチーフドクター喜多見幸太と対立する。
TOKYO MERのモットーである「待っているだけじゃ、救えない命がある」と、
YOKOHAMA MERの主張「危険を冒しては、救えない命がある」
との対立、確執。
というわけで、二つのMERが政治家の目論見を越えて、
最後は協力しあう姿を描く。
展望台には、たまたま来ていた喜多見の妻・千晶がおり、
臨月の腹をかかえ、医師として救出作業に従事するが、
最後は、閉じ込められ、死の間際までいく。
喜多見は、医師の立場と夫の立場で葛藤する。
それと、元TOKYO MERのメンバーで、
今は大臣の下でMERの統括官として指揮を取る音羽尚が、
昔、鴨居の恋人だった話もからむ。
つまり、ランドマークタワーの火災現場での救出作業の中で、
いろいろな葛藤が錯綜するわけで、
脚本家がいろいろ知恵を出し合って、
無理やり作った状況が展開する。
だが、その作られた状況が
火災現場を描くリアルな描写に裏打ちされるので、
とにかく観ている間は惹きつけられる。
最終的には予定調和に落としどころを迎えるのだが、
まあ、こういう話はそういうものだろう。
「ダイハード」(1988)だって、
現場のビルや飛行機内に主人公の奥さんがいたし。
描いているのは、
プロの矜持と志で、
仕事仲間の絆、理論より実践を善とする姿勢、
医療従事者の誇りや助け合いなど、
胸を打つシーンが多々ある。
喜多見を演ずる鈴木亮平をはじめ、
賀来賢人、中条あやみらドラマ版の俳優陣が生き生きと演ずる。
鈴木亮平がかっこいい。
鴨居友として、杏が参加する。
腹黒い厚生労働大臣として、徳重聡が一人で悪役を引き受ける。
その大臣の部下の局長役の鶴見辰吾が、最後でするある行動が笑いを誘う。
それにしても、ランドマークタワーがよく許可したものだ。
「タワーリング・インフェルノ」(1974)の頃、災害映画が流行したが、
そのDNAを受け継ぎ、
高い志で作られた映画だと感じた。
ドラマは、2021年7月4日から9月12日まで
TBS系「日曜劇場」枠で放送され、
2023年4月16日には、
2週間後の劇場版の公開を記念したスペシャルドラマも放送された。
なお、私はドラマはスペシャルを含めて、観ていない。
今は、ディズニー・プラスで全話観ることができる。
監督は「半沢直樹」などを演出した松木彩、
脚本は黒岩勉。
5段階評価の「4」。
拡大上映中。
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