[書籍紹介]
織守きょうやの逆転ミステリー。
未来屋小説大賞受賞作。
大学一年生、法学部に通う木瀬芳樹は、
父が検事正、祖父が高裁判事、母は元裁判所書記官で、
法曹界のサラブレッドと言われている。
木瀬は中学の時の隣人で家庭教師の真壁研一に
偶然再会し、旧交を温める。
木瀬が父親の勤務の関係で引っ越して以来、
交流が絶えていたので、6年ぶりだった。
真壁は医科大学を中退し、
今はインテリアの店を営んでおり、
近く結婚の予定だが、
何者かから脅迫されていることを
偶然、木瀬は知ってしまう。
それは、結婚をやめろという手紙だった。
探偵に依頼して、
発信者を突き止めた方がいい、という木瀬の勧めで、
一旦はその気になった真壁だったが、
いざ探偵と面談する時になると、躊躇してしまう。
木瀬が依頼した探偵事務所の担当は
北見理花という女性。
これもたまたまの再会だったが、
中学の時一年先輩の理花に
いじめにあっている兄が解決を依頼し、
見事にいじめをなくした経験があったのだ。
当時、理花は、
叔父が探偵事務所を開いていたので、
見習いとして「探偵みたいなこと」をしていて、
今は本当の探偵になったのだ。
やがて、真壁の躊躇の理由が判明する。
というのは、4年前、
強姦罪で逮捕された前歴があったのだ。
帰宅途中の女性を公園で強姦したのだという。
自宅で学友たちと一緒にいる時、逮捕された。
真壁は事実ではないと主張したが、
勾留中、両親の説得で示談に応じ、
起訴はされなかったものの、
強姦を認めた形になってしまったのだ。
その結果、住んていた町から逃げ出し、
学友も離反し、医大を中退し、
医師でをった父の跡も継げず、
父母と疎遠となり、
別の町で生きてきた。
そして、ようやく得た、愛する女性。
探偵に調査を依頼すると、
そういう過去が表沙汰になってしまうことを恐れていたのだ。
結局、木瀬が依頼主となって調査を継続する理花。
木瀬は理花の助手役をつとめる。
脅迫状の内容は、
その結婚はお互いを不幸にする、
というもので、
中には、4年前の真壁の犯罪をほのめかすものもあった。
手紙は切手が貼ってなくて直接郵便受けに投函したものと、
郵便で届いたものがあり、
文面もなぜか微妙な変化が見られる。
真壁が人の恨みを買うような人柄でないことと
脅迫状の内容から、
4年前の被害者かその家族、関係者が
いやがらせの手紙を出したのではないかと推測するが、
被害者の名前は公表されておらず、不明だ。
当時の被害者の代理人の弁護士の事務所に臨時職員として雇われ、
保管倉庫で一件書類を盗み遊見るという
イレギュラーな方法を取った理花だったが、
関係書類も示談書もやはり黒塗りされていて、
被害者の名前は分からない。
ただ、真壁の母親に会った木瀬は、
母親の記憶で、
弁護士と相談中、廊下に出て話していた弁護士の電話の
声が聞こえてしまい、
「ながの」という名前が出て来たという。
そこで、事件の起こった近所の住人を調べると、
長野という家族が住んでおり、
その後、引っ越していることが分かる。
真壁の家に付けた防犯カメラの映像に、
中年の男性が手紙を投函する瞬間が写っており、
どうやら、被害者女性の父親らしい。
その住いを突き止め、
理花が会いに行くと・・・
その前に、真壁の母親から
示談に応じざるを得なかった当時の事情が明かされる。
それは、被害者女性の衣服に着いた体液の
DNAが真壁のものと一致したという。
真壁は本当に強姦事件を起こしていたのか。
今の誠実そうな顔は仮面なのか。
そして、本当に父親が脅迫状を出していたのか。
終盤、最後から58ページの部分で、
話が急展開する。
その時点で、
木瀬も理花も、
すっかり思い込みをしていたのだと気付く。
というか、読者がミスリードされていたのだと分かる。
物語中、3度驚かされる。
①真壁が負っていた、4年前の事件。
木瀬は真壁がそんなことをするはずがない、
と真壁の主張を信じているが、
理花は真壁をそこまで信用していない。
②示談をせざるをえなかった、DNAの証拠。
やはり真壁の強姦はあったのだという驚き。
それ以上に両親が真壁を信じていなかったのだという衝撃。
③そして、事件全体を貫く、ある真相。
それは、2段階になって押し寄せて来る。
後で振り返れば、
そうか、そうか、そうだったのか、
と分かるが、
真相が分かってみれば、
これは、怖い話だと思える。
真相は依頼者である木瀬には伝えられるが、
その真相を真壁に教えるかどうか。
そこは、読者に委ねる形で終わる。
木瀬と理花のキャラクターの面白さがあるので、
シリーズ化されるか。
あるいは、映画化したら、
どんな描き方になるのか。
興味津々。
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