[映画紹介]
1972年10月13日にウルグアイ空軍の旅客機が
アンデス山脈に墜落した。
乗員乗客45人のうち29人が死亡したが、
16人は72日間に及ぶサバイバル生活の末に生還した。
奇跡的な出来事として注目を浴びるが、
生存者が死者の肉を食べて飢えを凌いだことをめぐり、
物議を醸すこととなった。
ウルグアイの大学のラグビーチームの選手団と
その家族や知人を合わせた一行40人が、
空軍の飛行機をチャーターして、
チリのサンティアゴでの試合に向かった。
天候不良で、
アルゼンチンのメンドーサで一泊した後、
天候が回復したため、飛行機は出発したが、
山脈を越えるのに失敗し、
高度4200メートルの地点で峰と衝突、
機体は分解、
前半部分が険しい崖を滑落して
雪に埋まって停止した。
その時点で28人が生存していたが、
防寒着もないまま、
雪の中で生きるには、絶望的な状況だった。
ウルグアイ、チリ、アルゼンチンの3か国からなる捜索隊が
捜索を開始したが、飛行機の外装が白かったので、
積雪に混じり合い、空からの発見は困難で、
捜索は開始から8日後に中止された。
生存者は、機内にあった荷物から食べ物をかき集め、
少量ずつ配給したが、
すぐに底をつき、
寒さに加え、飢えが青年たちを襲った。
植物も動物も雪山には存在しなかった。
機体内で議論が行われ、
仲間の遺体を食べて生存するという提案に激論が闘わされた。
人肉食する相手のほとんどが
彼らの親友・級友・家族であったので
軽い決断ではなかった。
乗客は全員カトリック教徒だったが、
人肉を食べる行為は聖餐(せいさん)と
同一視されるという主張もあった。
聖餐・・・
キリスト教の儀式の一つ。
最後の晩餐で、イエスがパンを取って、
「これは私の体である」
杯を取って、
「これは私の血である」と言って、
弟子たちに与えた。
この出来事にちなみ、
礼拝の場で、パンと葡萄液を口にし、
キリストの体と血を受けたとされる。
ローマ時代、
キリスト教徒は人肉を食べる、と誤解され、
迫害の理由の一つになった。
やがて、仲間の遺体が解体され、
食料に供された。
解体は見えない場所で行い、
誰の肉か分からないようにして提供された。
食べることを拒否して、餓死した人もいた。
雪崩が起こり、
雪がすさまじい勢いで機体の中に流れ込み、
全員を埋め尽くした。
この時、8人が死亡した。
嵐が去ると、
生存者たちは機内の材料で雪を掻き出す道具を作り、
それを使って機内から雪を取り除き、
遺体を掘り出した。
体力のある者で遠征隊が作られ、
機体の他の部分を捜索。
荷物の中から
わずかな食料が見つかった。
バッテリーを発見し、
無線機を作ろうとしたが、失敗した。
(後で分かったことだが、
無線機はバッテリーで駆動していたのではなく、
機体のエンジンが発生させる電力で動作していたのだ。)
機体中から断熱材の布を発見し、
それをキルト状に縫うことで、
遠征に耐えられるだけの断熱性のある寝袋を作った。
その間も傷や飢えが原因で何人かが亡くなった。
寝袋の完成後、
3人がチリへ向かって、
最終的な遠征に出発した。
夜、岩の横で仲間たちが縫い上げた寝袋で眠った。
厳寒であったが、寝袋によって数夜を生き延びることができた。
しかし、眼前には、
山々が重なり、
行く手を阻んでいた。
途中一人が自分の食料を2人に預けて墜落地点へ戻った。
2人は遠征に出発してからわずかな休息以外は、
7日以上歩き続けた。
やがて、雪道は終わり、植物が生い茂る場所に到達し、
牛の群れと出会い、
川の向こう岸に、馬に乗った男性に遭遇、
助けを求めた。
紙と鉛筆を結びつけた石が投げられ、
2人は、「私は山へ墜落した飛行機から来たウルグアイ人です」
などと書いて投げ返した。
残った生存者たちは、2人の遠征隊が発見され
無事に救出されたというニュースを
ラジオで聞いた。
ヘリコプターが派遣され、
残った14人が救出されて
病院に収容、
高山病、脱水症状、凍傷、骨折、壊血病、栄養失調の治療を受けた。
そして、家族と再会を果たした。
5人の乗員と24人の乗客が山中で死亡。
生還した16人の平均年齢は22歳。
という経過を、
実に丁寧に描く。
10月で、冬に向かい、どうするのか、と心配したが、
それは勘違い。
南半球の出来事で、夏に向かっていたのがさいわいした。
雪山での撮影は困難を極めただろうに、
破綻なく進行する。
遠征隊の前に立ちはだかる山々の描写が息を飲む。
生存者たちは、昼間は太陽を浴びて暖を取り、
そのため、凄まじい日焼けにさらされる。
かさかさに乾いた唇など、
メイクも見事。
捜索が中断されたニュースを聞いての落胆、
チリに派遣されたメンバーが到達した知らせを
ラジオで聞いて歓喜する場面、
救助ヘリコプターに乗り込むシーン、
死にゆく人が
「何より大きな愛は、友のために命を捨てること」(聖書の言葉)
と書いたメモを残す場面など、
胸が熱くなる。
人肉食の是非を巡る論争は描写されない。
それまでの経過で、結論は明らかだからだ。
淡々と事実のみを描写するドキュメンタリータッチが効果を挙げる。
2時間24分の上映時間は、長いのではと危惧したが、
全く長さは感じられなかった。
この題材に対し、
これ以上のものは出ないだろうと思わせる出来映えだ。
この事件に対しては、
書籍・映画が沢山出されている。
「アンデスの聖餐」(1973年)、「生存者」(1974年)、
「アンデスの奇蹟」(2006年)が書かれ、
ドキュメンタリー映画「アンデスの聖餐」(1975年)
「 Alive: 20 Years Later」(1993年)
「アライブ 生還者」(2007年)がつづられ、
劇映画「アンデス地獄の彷徨」(1976年)、
「生きてこそ」(1993年)が作られた。
今回の「雪山の絆」は2023年のスペイン映画。
監督はJ・A・バヨナ。
パブロ・ヴィエルチの著作『スノー・ソサエティ(原題) 』を原作とする。
1月4日にNetflixで配信開始、
その前に12月22日より一部劇場にて公開。
ゴールデン・グローブ賞の
非英語映画賞にノミネートされたが、
受賞には至らなかった。
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