[書籍紹介]
2007年から2008年に
『小説新潮』に掲載された4編と書き下ろしの1 編を収録、
2008年に新潮社から刊行され、
2011年に文庫化された
米澤穂信の短編推理小説。
上流階級の人物が主人公であること以外、
各編はそれぞれ独立したストーリーだが、
「バベルの会」と呼ばれる読書サークルの存在が
共通している。
戦前の日本を舞台にし、
文体もその雰囲気を醸す。
「最後の一撃(フィニッシング・ストローク)」
というミステリー用語があるが、
最終盤になって、物語の世界がぐるりと反転する。
「身内に不幸がありまして」
上紅丹(かみくたん)地方を牛耳る名家である
丹山家の使用人・村里夕日の手記で綴られる。
孤児院から丹山家に引き取られた夕日は、
丹山家の娘・吹子の下につき、
共に年月を過ごしていた。
吹子が大学に進学して「バベルの会」に籍を置き、
会の宿泊合宿読書会を二日前に控えた日、
丹山家の不肖の息子・宗太が屋敷を襲撃する事件が発生。
夕日と吹子によって宗太は左手を斬りおとされ行方をくらまし、
死亡したとして処理される。
しかし翌年、翌々年と丹山家の関係者が殺されていく。
いずれも「バベルの会」の宿泊合宿の数日前に起こる。
夕日は、自分が寝ている間に
殺人を犯しているのではと危惧し、
自分を縛って寝るが・・・
真相は、亡くなった夕日に代わって、
吹子の述懐によって明らかになる。
本編に登場する書籍がヒントになっている。
題名の意味が、最後に明らかになる。
「北の館の罪人」
千人原地方に居を構え、
紡績から製薬会社への変遷の中で財を成した六綱家。
前当主・虎一郎の愛人だった亡き母の遺言に従い、
六綱家の屋敷に身を寄せた内名あまりは、
現当主の光次から
屋敷の別館、通称北の館に住む
長男・早太郎の世話及び監視を命じられる。
あまりは早太郎からビネガーや画鋲、糸鋸、卵など
目的の見えない買い物を頼まれる。
その過程で早太郎が隔離された理由を知っていく。
体調を崩し次第に弱っていく早太郎。
そして最後の瞬間、
早太郎が描いた絵に隠された真意が明らかとなる。
「山荘秘聞」
東京・目黒の貿易商、辰野家に仕える屋島守子は
雪山に建てられた別荘・飛鶏館の管理を任される。
飛鶏館に魅了され守子は、努めて管理維持に精を出すが、
辰野の妻が病死し用途が無くなった飛鶏館には
一人も客は寄ってこなかった。
ある時、守子は、崖下に落ちた登山者・越智を救出し、介抱する。
飛鶏館に遭難救助隊が訪れ、飛鶏館を拠点に越智の捜索が行われが、
なぜか守子は、越智を救助したことを告げない。
飛鶏館の下にある別荘の管理人夫妻の娘・歌川ゆき子が
その真相を暴こうとするが・・・
読者をある視点に誤誘導する手腕が見事。
「玉野五十鈴の誉れ」
高台寺に屋敷をそびえ立たせる
小栗家の長女・純香(すみか)は、
小栗家の絶対権力者である祖母から
玉野五十鈴(いすず)という従者を与えられる。
主従関係ながらも純香と五十鈴は心を許しあい、
五十鈴の存在は純香にとってかけがえのないものとなる。
しかし、ある事件により、
五十鈴とも切り離され、
幽閉された純香は、
死の間際までいくが、
後から生れた跡取り息子の死によって解放され、
跡取りの死を巡るある事実に気づく・・・
これこそ、「最後の一撃(フィニッシング・ストローク)」で、
最後の一行で、読者は一様に驚き、かつ笑いだすだろう。
「儚い羊たちの晩餐」
書き下ろし。
一人の女学生が
荒れ果てたサンルームで一冊の日記を手に取る。
そこには日記の手記者である
元「バベルの会」会員・大寺鞠絵(まりえ)による
「バベルの会」消滅とそれに至る鞠絵の物語が綴られていた。
ある時、厨娘(ちゅうじょう)と呼ばれる料理人・夏が
大寺家に雇われることになる。
夏は料理の腕は一流だったが、
材料費が極端に高額だという難点があった。
鞠絵は、夏に調理してほしい材料として「アミルスタン羊」を所望する・・・
優雅な読書サークル
「バベルの会」にリンクして起こる、
邪悪な5つの事件。
どれも狂気に捕らわれた女性たちの物語。
最後の一行に
全て集約される、見事な伏線。
本書はWikipediaに紹介されるほどの作品。
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