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映画『西部戦線異状なし』

2022年11月06日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

原作は、エーリヒ・マリア・レマルク作の長編戦争小説。
1928年11月から12月にかけて
ベルリンのフォシッシェ・ツァイトゥング紙で連載され、
翌1929年1月に出版された、
第一次世界大戦(1914年7月28日~1918年11月11日)における
戦場の悲惨さを描写する反戦文学。

1930年にアメリカで映画化され、
アカデミー賞で作品賞と監督賞(ルイス・マイルストン)を受賞した。


1979年にもアメリカでテレビ映画としてリメイクされた。
ドイツ兵は全員英語を話す。
へんな話だが、
映画ではイエス・キリストさえ英語を話すので、驚くには当たらない。

本作は、製作がアメリカではなくドイツ。
原作の本国による初の映像化となる。
従って、ドイツ兵はちゃんとドイツ語を話し、
敵であるフランス兵はフランス語を話す。
(当たり前だ)

祖国ドイツのために戦うことを志して、
学校の仲間たちと西部戦線へ赴いた17歳のパウル。
(西部戦線・・・ベルギー南部からフランス北東部にかけて戦線が構築された。)


親の反対を押し切り、書類を偽造してまで、
戦場に行くことを志願したパウルは、
若者たちが国のために戦っているのに、
自分だけがじっとしていることに耐えられず、
意気揚々と戦場へ赴くことを選択する。


しかし、その高揚感と志は、
最前線の凄惨な現実を前に打ち砕かれる。
戦場の情け容赦ない現実により、
若い兵士たちの理想は破壊され、
パウルは無惨に横たわる仲間の死体を前に恐怖する。
それでもこの果てしなく続く戦地に足を踏み入れてしまったら、
もう簡単には故郷には帰れない・・・。

当時の戦場は塹壕戦
掘った塹壕の中で敵と対峙し、
上官の命令で出撃する。
敵の塹壕に向かって突撃する兵士たちは、
雨あられと注がれる銃弾の中を縫って進撃する。
前にいる兵士、隣にいる兵士が次々と弾に当たって倒れる中、
運良く到達した敵の塹壕の中で、
銃剣を使った殺し合いが始まる・・・
そこには理想も正義も秩序も理性も微塵も無い。
戦争とは、殺し合いそのものだった。

本作は、志願した若者たちの行く末を描く。
特に主人公のパウル・ボイメルが
戦場での死と不安、恐怖、理不尽、怒り、虚しさを味わい、
やがて戦死するまでを。
戦場後方での休息、新兵訓練、野戦病院、行軍、
砲爆撃、塹壕戦、突撃、女性との逢瀬、負傷、
戦友の死、物資調達、帰郷、斥候任務と
様々なエピソードが描かれる。
特に、落ちた穴の中で、フランス兵を殺し、
服の中に、彼の妻と子供の写真を発見するパウルの痛みが胸を打つ。
また、先輩兵士で無学な靴職人のカット(カチンスキー)との交流が悲しい。

並行して、軍上層部の停戦交渉も描かれる。
面子のために戦争を継続しようとする者、
若者の犠牲に耐えられず、停戦にプライドを捨てる者。
ようやく停戦が成り立ち、
その時刻を待つ中、
英雄的としての帰還を煽動する上官によって、
最後の15分間に襲撃に駆り立てられ、
停戦数分前にパウルは死を迎える。

(1918年11月11日午前5時、
ドイツと連合国の休戦協定が締結され、
同日午前11時に発効。
しかし、締結から発効までの6時間、
指揮官ができるだけ広い領土を占領しようとしたため、
多くの地域で戦闘が継続した。) 

題名は、主人公パウル・ボイメルが戦死した日の司令部報告に
「西部戦線異状なし、報告すべき件なし」
と記載された事に由来している。

1930年作品も観ているが、
そのラストでは、パウルが塹壕の中から
飛んでいる蝶々に手をのばしたことで、
敵兵に撃たれて死亡する。
それでこその「西部戦線異状なし」なのだが、
本作のラストは変更されている。
だから、題名の中に潜む、
一兵士の死など記録に残らず大した問題にならないという、
戦争の持つ非人間性はにじみ出てこない。
また、一時帰郷したパウルが
故郷で英雄として迎えられ、
戦場の現実とのあまりの乖離に悩む場面もなくなっている。

だが、戦場の迫力、臨場感は圧巻で、
当時の塹壕戦、白兵戦の悲惨さが、
圧倒的迫力で迫ってくる。
戦争映画として一級品の出来だ。
監督は、エドワード・ベルガー

終戦まで膠着状態だった
わずか数百メートルの陣地を得るために
命を落とした兵士は300万人にのぼるという。
第一次大戦の犠牲者は1700万人以上

第1次世界大戦の教訓で設立された国際連盟の理想は脆くも崩れ、
21年後に起こった第2次世界大戦では
もっと多くの若者たちが命を奪われた。
もう戦争はこりごりだと設立された国際連合も、
あろうことか常任理事国のロシアがウクライナに侵略して、
その役割を果たされていない。
狂った指導者によって、
また若い命が戦場の露と消えるのだ。

そうした状況の中で、再映画化された本作の意義は大きい。
米アカデミー賞の国際映画賞の
ドイツ代表映画に選ばれた。

日本では劇場公開されず、
10月28日から、Netflix での独占配信となった。

 



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