『成果主義』。輸入されたこの制度は、言葉だけはカッコいい。
しかし皆さんご存知の通り、成果主義の失敗例はあまりにも多い。
この本は、早くから、そんな成果主義を真っ向から批判し、
日本型の年功制の利点を論じている。
しかも著者の
高橋伸夫氏の専門は
「経営組織論」。
企業の意思決定原理や組織活性化を研究課題とする専門家だ。
高橋氏がこれまで一貫して述べているのは、
「日本型年功制がいかに洗練されていてすばらしいものであるか」
ということである。
詳しくは、
高橋信夫さん:「成果主義」を終焉させるときが来た「日本の人事部」 をご参照いただきたいが、
高橋氏はこう語っている。
「成果主義」を導入して給料に1万円とか10万円の差をつけたら、今いる社員がもっと働くのではないか、などと短絡的に考えること自体、頭が退化してしまっているように思います。
発想自体が萎縮していますよ。
(中略)
「仕事の成果をお金ではなく、仕事で報いる」
かつて日本の企業でやっていたことが、なぜ忘れられてしまったのだろうと私は思うのです。
■このまま「成果主義」を続けたらどうなるか?
どんどん余裕がなくなるでしょうね。
なにしろパイがどんどん小さくなっていくわけですから。
(中略)
これ以上、内向きに「成果主義」でネチネチと社員ばかりをいじめることはやめて、経営者の決断と責任で、新しい事業や既存事業の拡大をやってみる。
失敗もあるかもしれないけれど、生き残る事業もあるかもしれない。
それを、10年後、20年後の企業の柱となるように育てていく。
その大事な事業を担う人材を今から育てないといけません。
とにかく人材も事業も育てるのには時間がかかるのですよ。
今の日本企業の経営者が、経営者になって最初にやろうとするのは何かというと、人事です。組織図を書き換えて、社員を動かそうとする。
「成果主義」が流行り出してからは、さらに人事制度もいじる。
人を動かしたり、人事制度をいじったり、そんな経営者に共通するのは、
「内向き」
だということですね。
社内に閉じている仕事ばかりに手をつけているのですから、実行不可能なわけでも、失敗するわけでもない。
人を動かすだけでなく、人を削れば、目先の利益だって確保できる。
だけど、それって萎縮する経営なんですよ。
経営者が内向きの発想で、自分の失敗につながることから逃げてしまっている。
そこが、そもそもおかしい。
外へ向かって経営の舵取りをすれば、当然、リスクも伴います。
私に言わせれば、それができないような経営者は交代すべきです。
社員だって、もっとおもしろい仕事にチャレンジしたいとか、お金のことはいいから仕事にのめり込みたいと望んでいるかもしれません、しかしお金よりも仕事を優先して、生活が破綻してしまっては困るから、普通に暮らしていけるだけの賃金は欲しいとみんな思っているでしょう。
それさえ保障されていれば、高い給料じゃなくてもチャレンジしますよね。
本来、日本の企業の活力の原点はそこにあったはずなんです。
たとえば「生活費には困らないようにする」とか「社員の生活は会社が守ります」とかいうことを経営者が社員に向かって宣言したら、社員の側の安心感とかやる気が全然変わってくると思うんですね。
今は経営が苦しいから一律に賃金カットをやるけれども、誰にも辞めろなんて言わないから、何とかみんなで凌いでいこうとか、そんな言葉のある経営者が求められていると私は思う。
今でもT社の人事部では、「年1回、社長に『社員の生活は会社が守る』と言わせる」ことが重要な仕事の一つになっているそうです。凄いなと思ったのは「これは人事の仕事だ」と人事部員たちがきちんと認識していることですね。
しかも社長にその一言を言わせるだけの力を人事部が持っている。これは、昔は当たり前だったのかもしれませんが、やはり凄いことです。
優れた企業というのは社員のことを、仕事から生活までトータルに、長い目で見ている。そして企業をそのようにしていく力を、人事部は持っているものなんです。
成果主義評価に疲れた、ある部長がこう言ったそうですよ。
「もう評価はいいや。人事部にはずいぶんと付き合ってやっただろう? そろそろ仕事をさせてくれないかな。私は自分の仕事がしたいんだよ」
とね。
だいたい点数なんかつけなくても、人事はできていたわけですから。
現場にとっては、いい迷惑なんです。
こんなことをさせている人事部は、存在価値がなくなるかもしれません。
人事部の仕事というのはもっと大きいものであるはずです。たとえば、新規事業を始めたとき「いい人材を回してくれ」と求められて、即座に期待以上の人材を配置する、というようなことです。かつての人事部はそれができましたね。
社内に埋もれていた優秀な人材や異能の人材もそれなりにマネジメントして、拡張期・成長期には業績向上に大きな役割を果たしていた。
「やっぱり人事部は凄いな」と社内の尊敬を集めたものです。
結局、経営者も社員も、そして人事部も「成果主義」に振り回されているような気がします。
経営者も社員も人事部も、自分の本来の仕事に戻りましょう。
そう私は言いたいだけなのです。
*****長くなってすみません(くまより)*****
このHPを読むだけでも、高橋氏の主張はかなりの部分わかるが、著書には更に詳しく書かれている。
文句なしの名著。
書かれてからかなりの時間が経っており、世の中が高橋氏の指摘通りになっている事実を2007年に生きる私たちが知っているだけに、リアルだ。
(以下アマゾンより)
出版社/著者からの内容紹介
揺れるトップ、悩める人事、落ち込む一般社員におくる、学問的立場からの初の「成果主義」粉砕の書。
著者は、経営学・経営組織論を専門とする気鋭の東大経済学研究科教授の高橋伸夫氏。精力的な企業フィールドワーク、実態調査に基づく実証的な研究、鋭利な理論構築で知られる。その高橋教授が、学問としての経営組織論の最新の定説を踏まえながら、様々な企業現場でのエピソードもまじえつつ、軽妙な語り口で「成果主義」の無惨で愚かしい正体を解き明かす。
草木もなびくその流行、普及を目の当りにしながも、長く「成果主義」への疑念が頭を離れなかったサラリーマンが本書を読み出せば、平明で説得的な内容に魅せられて一気に読了し、必ずや仕事への勇気が与えられるはずである。