まさおレポート

「色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の旅」読書メモ

古今東西でこのような仲間をもつことはほとんど不可能なほど親密で調和が取れた正五角形のような関係がどのように壊れ、壊れた個人がどのように回復していくかを描いた物語だ。

一読しただけでありまだまだ読み取れていないところも多いが第一印象に近い読書メモもそれなりに後になって読み返すと意味があるだろうと思う。

①こんな友人関係ができればどんなにか楽しいだろう。しかし多崎つくるが東京の大学に入ったところで名古屋に残った4人に友人関係を拒否される。この突然の拒否にあって死にたいと思うかどうか、小説の描写ではそれほど説得性はないが、とにかくつくるが苦しむ様子は丁寧に描かれている。しかし小説全体でつくるをそれらしい男に描くことには成功しているかな。

4人のつくるに対する拒否の理由を理解したくて読み進んでいくことになる。その読み進ませること自体がつくるを描くことに成功していることを示す。

②灰田君の父と緑さんの不思議な出会いと「死を移す」はなしはこの小説の重要なエピソードになっている。灰田君が突然姿を消すのは彼の死を思わせる。シロも絞殺される。この二人ともつくるの夢で交接している。つくるの夢の交接は緑さんの言うところの「死を移す」儀式なのだろう。これによってつくるは死から免れ、代わりに一人は死に、多の一人は行方をくらまして恐らく死ぬ。

③沙羅のもう一人の男は謎のままに残るが、その男にたいした意味はなく単に36歳の一般的な(平均的な)独身女性をリアルに描きたかっただけだろう。沙羅はつくるを救う。つくるは沙羅という女性によって救われる。

④フィンランドに住むクロは実はつくるが好きだった。このあたりは最初から予測する読者は多いのではないか。女同士のむすびつきの深さは1Q84の二人の女と同じだと分かる。(青豆はソフトボール部の友人の亭主を撲殺する)

この小説ではつくるを巡る二人の女の嫉妬と友情が事件をひき起こしていく。事件は「死を移す」ことでもある。

⑤いくつかの謎は例によって残る。緑さんの袋には何が入っているのか。

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