まさおレポート

記憶の断片 長屋の美少女

昭和30年代初頭、10才になるかならないかのころ、近所に長屋風のアパートがあった。友達がそこに住んでいたので何回か遊びにいったことがある。6畳ひと間ほどしかない部屋が薄い壁でしきられて、ずらりと並んでいる。そこに、友達は親子4人で住んでいる。今から思うと気の毒な狭さだが、当時はこんな長屋が近所に珍しくもなかった。

便所と炊事場は共同で、炊事場といっても住人は井戸水をくみ上げ、地面でしゃがんで食器を洗っていた。ある日その長屋の炊事場で10才くらいの一人の少女を見かけた。その子は黙々と食べたあとの食器を洗っていた。寒い季節だったので手があかぎれができていたように記憶している。そのころでも10才の女の子が食後の洗い物を手伝うのはそう普通にあることではなかった。おそらく何かの事情で母親がいなかったのだろう、そして勤め人の父の食事の世話などをしていたのではなかったかと。

その子がほんのときおり我が家の家の前を通ってどこかに出かける。そのあたりの田舎町では珍しく、落ち着きのある大人びた美少女で、しかも貧しい長屋ずまいでもくもくと家事を手伝っている。10才のガキはただ何かしら興味を持っもったのみなのだが、現実の世界にポエムとドラマ性の片鱗を感じ取っていたのかもしれない。

その後ほどなくその女の子はどこかへ越していったのか、10才のガキの前から姿を消した。
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