まさおレポート

「グレート・ギャツビー」 書き抜きメモ

実のところギャツビーは、僕が「こんなものは絶対に我慢がならない」と考えるすべてを、そのまま具現したような存在だった。P11

ギャツビーは最後の最後に、彼が人としてまっすぐであったことを僕に示してくれた。P12

笑いがあり、おしゃべりがあり、たまに意地の悪いあてつけがあり、即座に忘れられてしまう紹介があり、お互いの名前も知らない女たちが再開を熱烈に喜び合ったりしている。P79

その微笑は一瞬、外に広がる世界の全景とじかに向かい合う。P93

怒りに燃えるダイアモンドのように、定期的に夫のそばに現れ、その耳元に・・・きつい声で囁きかけるのだ。P90

「追い求めるものと、追い求められる人がいるだけだ。休む暇もないものと、飽いたものがいるだけだ」P149

ギャツビーやトムと違って、実体なき顔が、暗いコーニスやまばゆいネオンサインに沿って浮かび上がってくるような女性は僕にはいない。P150

「じゃあ、プールでひと泳ぎと言うのは? この夏、私はまだ一度もプールを使っていないんだよ」P152

雨はまだ降り続いていたが、西の方で暗い帳が割れ、ピンクと黄金色に泡立つ雲雲のうねりが海上に見えた。P174

帰途につく通勤客を乗せたニューヨークからの電車が、雨中を勢いよく突き進んでいた。それは人たるものが底深い変化を遂げる時刻であり、高ぶりが電波となって発せられていた。P177

僕は思うのだが、彼の心を何より強く掴んでいたのはデイジーの声の中にある、ふらふらと揺れる、ほとんど発熱に近い温もりであったに違いない。なぜならその声だけは、どれほどの夢をもってしても凌駕することのできない特別なものであったからだ。その声はまさしく不死の歌だった。P178

両親はうだつのあがらない貧しい農夫で、彼の想像力は断じてその二人を、自分の親としては認めはしなかった。ロング・アイランドのウェスト・エッグ在住のジェイ・ギャツビーは、彼自身のプラトン的純粋観念の中から生まれ出た像なのだ、というのが事の真相である。・・・そして彼は最後の最後まで、その観念に対して忠誠を貫いた。P181

それでも彼の心は常に激しい騒擾の中にあった。きわめてグロテスクで幻想的な様々の奇想が、ベッドの中の彼を夜半に見舞った。・・・言葉にできないほど俗悪なるものの宇宙が、彼の脳裏に際限なく紡ぎだされた。・・・そのような夢想が彼の想像力にあるところまではけ口を提供してくれた。現実というものの非現実について、それは納得のいく示唆を与えてくれた。P182

「こういう人々をできることなら、なんというか、忘却の淵に置かれた人間として目にしたかったからね」P194

「過去を再現できないって!」・・・「できないわけないじゃないか!」・・・「すべてを昔のままにもどしてみせるさ」P202

「過去にあったことは変えられないのよ」P241

夜は冷ややかで、年に二度めぐってくる自然の変貌に伴う謎めいた高ぶりが、あたりに感じられた。家家々のひそやかな明かりが、かすかなうなりを立てて暗闇にこぼれ、夜空の星の間にはめまぐるしい動きが見受けられた。ギャツビーは目の端で、何ブロックもまっすぐに続く歩道が紛れもなく一本の梯子になって、樹木の頭上にある秘密の場所に届いていることをみて取った。もし一人だけそこに上がろうと思えば、上がることができる。そしていったんそこに上がってしまえば、生命の乳首に吸いつき、比類なき神秘の乳を心ゆくまで飲みくだすことができる。P203

捉えがたい韻律、失われた言葉の断片。遥か昔、僕はどこかでそれを耳にしたことがあった。ひとつの台詞が口の中でかたちをとろうとして、僕の唇は聾唖者の唇のようにしばし半開きになっていた。・・・思い出しかけていたものは意味のつてを失い、そのままどこかに消えてしまった。永遠に。P204

彼女の声にはなにか無分別なものがあるね」・・・「彼女の声には金が詰まっている」P218

「・・・恐ろしい何かが、お前の身辺にはある」P244

まるで亡霊のごとく、かりそめの身をはかなくし、我々の憐みの及ばぬところにさっていた。P246

三十歳・・・熱情をこめた書類かばんは次第に薄くなり、髪だってとぼしくなっていくだろう。P247

「いずれにせよ、デイジーはそのままスピードを上げた。・・・その後は私がかわって運転した」P261

彼は自分をさげすんでもいいところだった。というのは彼は疑いの余地なく、自分を別の誰かに見せかけることで、彼女を手に入れたからだ。P268

むろんちょっとの間くらい、あの男を愛したこともあったかもしれない。・・・そこで彼は不思議なセリフを口にした。「ともあれそれはただの私事にすぎない」と彼は言った。P274

そして彼はしみひとつない不朽の夢を胸の奥に秘めつつ、階段のてっぺんに立って・・・別れの挨拶をおくっていた。P278

かつての温もりを持った世界が既に失われてしまったことを、彼は悟っていたに違いない。たった一つの夢を胸に長く生きすぎたおかげで、ずいぶん高い代償を支払わなくてはならなかったと実感していたはずだ。彼は威嚇的な木の葉越しに、見慣れぬ空をみあげたことだろう。そしてバラというものがどれほどグロテスクなものであるかを知り、生えそろっていない芝生にとって太陽の光がどれほど荒々しいものであるかを知って、ひとつ身震いしたことだろう。その新しい世界にあってはすべての中身が空疎であり、哀れな亡霊たちが空気のかわりに夢を呼吸し、たまさかの身としてあたりをさすらっていた・・・P291

デイジーが弔電ひとつ、花ひとつ送ってこなかったという事実くらいだった。P314

「まったく信じられんね!宴会には何百人も押しかけてきたというのに」315

「彼らの目にはおそらく、この島は緑なす乳房として映じたのであろう。・・・人類すべてにとって最後の、そして比類なき夢に向けて、甘い言葉をさやかにささやきかけていたのだ。束の間の恍惚のひととき、人はこの大陸の存在を眼前にして思わず息を呑んだに違いない。審美的な瞑想のなかに引きずりこまれ、みずからの能力の及ぶ限りの驚嘆を持って、その何かと彼らは正面から向かい合ったのだ。二度と巡り来ぬ歴史のひとこまとして。P325

その夢がもう彼の背後に、あの都市の枠外に広がる茫漠たる人知れぬ場所に・・・移ろい去ってしまったことが、」ギャツビーにはわからなかったのだ。P325

ギャツビーは緑の灯火を信じていた。年を追うごとに我々の前からどんどん遠のいていく陶酔に満ちた未来を。それはあのときわれわれの手からすり抜けていった。・・・だからこそ我々は、前へ前へと進み続けるのだ。流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へと押し戻されながら。P326

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