「いびつな絆」
❤たわやすく絆、絆という人の絆に我はなりかねており 松井多絵子
土曜の朝刊は本の広告が目立つ。その片隅のスリムな広告「いびつな絆」、16万部突破、超話題作が待望の文庫化。「著者の工藤明男サマ、ごめんなさい。私はこの本のことを知りませんでした。でも3・11の後から「絆」という言葉は乱用されてますね。友人の美文字老女A子から先日こんな話を聞きました。美文字のおかげで玉の輿に乗り豪邸に暮らしている老女のA子は。
以前通っていた着付け教室の仲間のD子から電話。「あなたの好きな白蓮の苗木が手に入ったの。早く植えたいから、これからお宅に行くわ」。間もなく車を運転したD子がシャベル持参で現れ、庭に植えた。着付け教室で同じクラス、同じ区内に住んでいる、とはいえ親しくしていたわけではない。A子が着ていたキモノを素敵だとほめてくれたことがあった。そのときA子は「白蓮はわたしの好きな花」と言ったのを憶えていたとのこと。A子は感謝して居間で彼女に珈琲とケーキを、帰りにベルギーのチョコレートまでさし上げた。その後D子は度々A子の家にやってきて
白蓮の木に肥料をやる。或るとき「あなたのお隣の家はボロボロだわね。建て替えた方がいい。これを渡してね」。大きな封筒の中には某住宅会社のハウスプランの資料がどっさり。
A子は着付け教室の仲間のK子に電話をした。「わたしはマンション暮らしなので、珈琲の木の鉢植えを持って来たわ。枯れそうになったと言ったら、時々D子が木のケアーにやって来るのよ。ついでに高級化粧品の押し売り」
美文字老女A子の庭の白蓮の木は順調に育っているらしい。いずれ花が咲くだろう。汚れた白い白蓮の花が。 1月25日 松井多絵子