・・・ 9月に雪が ・・・
残暑が続いていた9月の真昼に 『同じ白さで雪は降りくる』 という歌集が私に届いた。
著者は中畑智江、1昨年第五回中城ふみ子賞を受賞している。 ♠ 新鋭短歌シリーズ15、
白い表紙に赤い帯~中畑智江はこの歌集で歌人としての<私>を背負ったのである。旅は始まった。大塚寅彦~。 著者と共にわたしも十数日の旅をした。中年女性の歌集だが老年のわたしに共感できる作品がとても多い。彼女も試行錯誤しながら詠むのか。上昇志向が強い。常に空を仰いでいる。月の歌がとても多い。(私は月よりも星の歌が多い)
中畑智江さんの月
夏やせの背中を上りゆくファスナー 月色の服がわれを閉じ込む
半円の影ぶら下がる日盛りの帽子売り場に売るひと居らず
空っぽの私の中に入りこむ魔が指すときの魔のような月
見上げれば冬夜空に落ちている三日月ふいに手を伸ばしたり
三日月のさみしき青の沁みわたる夜更けに君はひかりを学ぶ
ほの白き残ん月のかたわらを月より大き鳥のすぎゆく
満月はとろりとあれど半月はぐらりとありて三日月ぐらり
色づきたる半月あおげば片割れの半月われの中にあるらし
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中畑智江の詠む月はほとんど半月や三日月である。最後の歌は半月を見上げながら見えない半分の月をおもう、自分のなかにある月を。完成されたものはときには退屈だ。もし、ミロのビーナスに両腕があったなら注目されなかったであろう。失っている片腕は私たちに様々なことを想わせる。あとがきに子供の頃、寝つきが悪かった作者は気ままな物語のなかを彷徨ったと述べている。この時間が中畑智江の短歌の土台になっているのだろうか。
10月3日 松井多絵子