植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

憧れの豆盧(とうろ)印泥に出会えた💖

2022年07月10日 | 篆刻
ワタシは(自称)印泥研究家であります。
中国から渡って来る印材や印泥の、時代や価格を測る物差しの一つが、その入れ物「印箱・印泥箱」です。この箱からの情報で、時代や品質、はたまた製造に携わった人などを推し量ることが出来るのです。

勿論、中身を入れ替え箱をすり替えたりするという、卑劣で姑息な手段はかなりの確率であると思われますので、あくまで印泥自体と印合・印箱が販売当時のままであるという前提であります。

その印泥には、800年位の歴史があるそうですが、350年ほど前に薬屋さん漳州麗華斎が「八宝印泥 」を発明して販売を始め、最高級品として麗華斎が名声を集め、その後北京一得閣の「八寶印泥」や 「漳州八寶印泥」などがそれぞれ秘中の秘の配合で競って良質の印泥を生み出したのです。更に蘇州姜思序堂 、北京栄豊齋(栄寶斎)なども銘品も生み出されたのですが、その後文化大革命やら、共産党政府による国営化によって印泥庁になり、一辺に品質が落ちたようです。また、良質の材料=辰砂、ジャコウ、珍珠、瑪瑙、珊瑚、麝香、金箔、琥珀、 などが品薄になったり高値になったりして半世紀以上前からだんだん優れた印泥が姿を消したようです。

その後、民間にその製造が移り、研究機関として(杭州) 西冷印社が1913年設立、呉昌碩先生などその後の篆刻界の巨人が輩出されたのです。西冷印社から「上海西冷印社」が分離、更に潜泉印泥が独立し、その潜泉の三代目職人長が、李 耘萍(リーウンピョウ)」さん、後の石泉印泥の創立者となります。
石泉印泥はその後上海西冷印社に吸収される一方、杭州西冷印社トップの一人「高式熊(こうしきう)」さんが 耘萍さんとタイアップするに至って、現在の最高級・最高品質の印泥が「高式熊・耘萍印泥」ということになります。

耘萍さんはある意味フリーとなって、更に北京栄寶斎にも提携してノウハウを提供しているということです。

結論から言うと、まず、古い良質な印泥は北京一得閣の「八寶印泥」や 「漳州八寶印泥」の貢品以上、北京栄豊齋・蘇州姜思序堂などの真正品であります。北京栄豊齋だけは1980年頃以降は自社品を出していない様で、まがい品粗悪品が多数出回っております。

そして、現行で最も高級で信頼できる印泥が「高式熊・式熊・李耘萍」という名前を冠した印泥ということになります。

さて前置きが長くなりましたが。印泥を新たにヤフオクで落札いたしました。これがなかなか珍しい印泥で、だいぶ前から探していたのです。その名を「豆盧印泥」と言います。ネットで「豆蘆 貢品 2両装 石泉印泥」を見つけましたが、定価52,800円で、品切れでした。
篆刻家さんが豆盧印泥にはお世話になった、と書いているのを見かけました。非常に捺し易いと評価されていたのです。


説明書きによる販売時のメーカーは、李 耘萍が率いる石泉印泥の「上海工芸美術公司石泉印泥部」これが2001年までです。その直後李女子は独立して上海耘萍工芸品有限公司を起こし高式熊印泥を発売することになりますから、21年以上前でごく短期間しか発売されていない「幻の印泥」といってもいいのです。韓天衝監制と底部に銘がある印合はなんとピンク色、上蓋には「豆盧印泥」と丸印の紋様があり、これ自体初めて見るものであります。韓天衝さんは上海出身の著名な篆刻家のようです。


箱は濃紺の印箱で、式熊印泥など耘萍女子が好んで使う高級な布箱です。印材にも共通するのですが数十年以上前の高級な布箱はほとんどがこの布箱で上質な絹だったりします。この箱に収まっているのが5両(150g)という大容量!、普通これほどの高級印泥ならば、単価が高くなるので一個半両(15g)くらいでもおかしくないのです。また、印泥は通常、色合いで分類し光明・美麗・箭鏃・上品・・・と安いものから順に等級が定まるのですが、そうした表示がありません。恐らくこの品は、もしかすると試作品レベルで、そうしたバリエーションを作る前の製造ではなかろうかと考えます。

因みに、これに似通った希少な印泥に「缶廬(うろ)印泥」が中国では扱われているようです。ネットでは日本では唯一上品2両で12千円というものが売られていましたが、これは一番安いものでしょう。また、この上のグレードならば高式熊珍品5両で88千円というのも見かけます。

どれも耘萍女子さんが監修するか直接製造に関与しているものです。
ですから少なくてもそうした高級印泥と同等の価値・品質があると考えられます。それで落札価格がなんと、5,858円!!、しかも他に4個の印泥付きでありました。幻の印泥故に、ほとんどのオークションマニアさんもその名前や由来、価値をご存じなかったのだと思います。大変ラッキー!でありました。

他のものはかちかちに固まっていたり、ほとんど残量の無いものもありほとんど価値は無いです。しかしそんなものは大した問題でなく、少し減っているとはいえ5両装の豆盧印泥が入手できたというのはこの上ないシアワセであります。早速、試しに印を使って捺しました。捺し易い高級な印泥の共通点は、印泥に印面を軽く押しあてた時、べたつきが無く、表面に微細な粉をまぶしたように均等に薄くつくことであります。ポンポンと押して、紙にぐっと押し付けると鮮やかで美しく全くムラもありません。高式熊超級珍品と比べても全く遜色がありませんでした。

最近ちょっとツキが無く、イラっとすることが続いたので印泥の神様が、慰めてくれたのでしょう( ´艸`)
こうなると後は、350年前の「麗華斎」印泥が欲しくなります。以前ヤフオクで1度落札されたようです。さすがに無理かなぁ(笑)
コメント (13)
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