今日は田黄石について語ろうと思います。
言わずと知れた印材の最高峰で、数百年前から本場中国でも田黄を挙って有難がり、宝石並みの値段で「目方で」取引されたものです。
中国の印の素材では「中国三宝」と言われる、鶏血石、芙蓉石の中ではとびぬけて価値が高く、印材の皇帝と言って差し支えないでしょう。その美しさや彫り心地の良さ(実際は彫ったことはありませんが)、入手の難しさから価格が高騰し、真正のものは最低でも5万円は出さないとヤフオクでも落札出来ません。まして、最近の円安物価高のあおりか入札価格が徐々に上がっているのです。
ワタシは、田黄石らしきものは10個以上所蔵しておりますが、残念ながら予算の都合もあって、そのほとんどは、数千円からせいぜい1万円程度の落札価格なのであります。ですから、紛れもない田黄石というものが手持ちの印材にあるかどうか確信が持てません。というより本物は無いと思います(´;ω;`)。
専門誌やネット・雑誌などで銘品を目にする機会はあっても、実際手に取って確認しているわけではないので、どんな石が本物なのかわからないのです。「墨スペシャル」という書道専門誌からの転載写真がこれ。
田黄石の特徴は①黄金色・琥珀色・柑橘系の色合いに近い ②純度が高く混じりけが無い透明感のある石 ③自然石の形を残している(切り出しの材ではない) ④自然の形を生かした「薄意(山水人物などを浅く浮き彫りに彫ったもの)」が施されている ⑤温潤な風合いとしっとりすべすべした肌理の細かい独特の触感がある(らしい) ⑥印面に「 蘿蔔紋(らふくもん)ー掘りたて大根の切り口に似ている」や紅筋がある等であります。
紐を入れたり、角の丸みを落とすとその材の重量は減ります。金などの貴金属同様、目方で販売される田黄石は、出来るだけ重量を減らさないようにするのです。つまり自然の形に近いほど本物の可能性が高いという理屈になります。
稀に、惜しげもなく方形に切り揃え、上部に獅子紐などを施し、細密な飾りや詩句を側面に入れたものもありますが、これらは博物館レベルで、ヤフオクでは最低でも50万円以上するものです。
問題は、すでにその産地である寿山の麓の田黄坂の水田や畑の中に埋まっていた狭義の田黄の原石は掘りつくされ、新たな供給は皆無であることから、非常に高値であることと、その為膨大な数のまがい品・人造石・類似品・新田黄石などが出回っているということです。つまり、たいして金を出せないワタシレベルが引っかかる石はほぼ全てがコレであります。
先日も、ヤフオクで田黄という説明の無い印材の出品物が目に留まり、「これはもしかしたらもしかする」と思ったのです。決して古いものでは無いようですが、美しく磨かれ全体に薄意があり、更に183gとボリュームがあって、良石に見えました。落札まで残り15分で、入札は0件、ウオッチも5,6人でありました。最低価格5000円でありました。念のため6,000円で入札して「いただき」だとほくそえんでいたのです。ところが、すぐに上回る入札がありました。??これはもう少し行こう、と17,000円を入れたら、他の人がもっと高値で最低額を入れていたのでした。もうダメです、あかんヤツでありました。
結局落札額は136,000円、そうですか・・済みませんでした。考えが甘かったのです。やはり本物のあるいは本物らしい田黄石はワタシごときの出る幕はありませんでした。
そこで手持ちの田黄石に似たような石を掲載いたします。
いずれも印面が彫られていて、由来などを刻んだ側款もあります。上の石は、自然石を象った印で、丁寧な細工が施されています。ワタシは、これは田黄石ではないが、老坑・旧坑と言われるような鉱脈から出てきた良質な寿山石であろうと思います。下のは篆刻も紐もやや雑であまい感じです。色合いはくすんでいてぼんやりとした模様も流れています。下の二つは人造石かまたはよく似た天然石を探してきて似せて作ったものでしょう。
この二つも、光沢やつやがあり薄意もそれなりに彫られています。右はひび割れていて多分一部接着しているようです。近所の篆刻家さんに見せたところ、もしかしたら質が悪くて割れがあるけれど、一応田黄石かもしれませんねとコメントを頂きました。多分固い地面に落としたはずみにヒビが入り欠け、一部が割れたのを修復したのでしょう。人造石では決して出来ない傷ですし、わざわざ人造石を接着剤で修復するはずもありません。天然石で、田黄石に近いような石ですが、ひびがあって割れているものですから価値は低く、ワタシが落札できたのでしょう。
写真下の右(再掲)は印面に刻字あり、なかなか素敵な印影で「閑雲野鶴」と彫られかなりの腕の方が彫ったものと思います。セーム皮で磨くとピカピカになるので、これもひょっとしたら自然石かもしれないのです。人工石はぐずぐずした彫り心地で、細く削ると山が崩れるます。
左の石は真正の「人造石」でワタシが摸刻したもの、柔らかくて簡単に彫れますが、繊細な細い朱文は出せません。細かな白い擦過傷も出て、磨いても艶が出ないのです。左右の艶の差は歴然としています。右の石はやや透明度が低く、暗い飴色なので、もしかしたら田黄石によく似た自然石で、案外値打ちのあるものかもしれません。
ともあれ、ワタシの田黄石探しの旅、本物の田黄をこの掌に乗せるという夢は続くのであります。