『無法松の一生(度胸千両入り)』カヴァー・ベスト3
『無法松の一生』(作詞・吉野夫二郎、作曲・古賀政男 一九五八年)は、『王将』とともに、村田英雄(2002年死没)のオハコとして名高い。村田英雄の名が大きすぎるせいかどうか定かではないのですが、男性歌手が同曲をカヴァーしている例はほとんどありません(管見の限り、氷川きよしが唯ひとりその例外ですが、you tube にアップされたものの録音・録画状態が悪いせいで印象が薄いのが残念です)。
それに対して、同曲をカヴァーしている女性歌手は、枚挙にいとまがないくらいです。you tube にアップされたものを列挙すると、島倉千代子・神野美伽・坂本冬美・天童よしみ・伍代夏子・中村美律子・長保有紀・石川さゆり・美空ひばり・島津亜矢・長山洋子の11名です。錚錚(そうそう)たる顔ぶれですね。女流演歌界のトップレベルの名で、ここにないのは、ちあきなおみと都はるみくらいではないでしょうか(ちあきなおみは、同曲をカヴァーしているようなのですが、残念ながらyou tube にはアップされていません)。
そのなかから、タイトルにあるように、ベスト3を選んでみました。その基準は、いつも申し上げているように、歌いっぷりが私のハートを揺さぶった度合い、という、私には自明だが余人に対しては決して明らかにしえない性質のものですから、お聞きになる方の感じ方とかけ離れていたらごめんなさいとしかいいようがありません。
第三位 石川さゆり
『天城越え』や『津軽海峡冬景色』で有名な石川さゆりですが、私個人としては、正直にいえば、これまであまり注目してこなかった歌手です。今回、彼女の歌いっぷりに接して、その歌手としての美質を再認識した次第です。それを端的に言えば、“歌詞が耳にすっと入ってくるすがすがしい美声”となります。その意味で彼女は、意外にも、春日八郎の流れを引き継ぐ歌手と言えるのでしょう。彼女には、その美質をもっと自覚していただきたいような気がします。ドラマテックな演出などあまり気にしないほうがいいのではないでしょうか。
無法松の一生(度胸千両入り) 石川さゆり 83 UPL-0056
第二位 天童よしみ
天童よしみといえば、私が小学校高学年のころに流行った『いなかっぺ大将』(原作・作画 川崎のぼる)の主題歌を歌った歌手、というくらいの認識しかなかったのですが、当カヴァー曲を聴いて、石川さゆりと同様に、その実力のほどを再認識しました。彼女は、この難曲を、楽しそうに歌う余裕さえ感じさせるほどの実力を有するすごい歌手なのです。似たような歌い方をする島津亜矢を選ぼうか天童よしみを選ぼうか、ちょっと迷うところもあったのですが、歌詞が聞き手の耳に届くときの明瞭さと軽やかな持ち味の有無という点で、天童よしみに軍配を上げました。
*アップしていた動画が削除されて、再アップしようとしたら島津亜矢との共演しかありませんでした。島津亜矢もなかなかのもですが、天童よしみには及ばないと思いました。(2019・03・20)
島津亜矢×天童よしみ 無法松の一生〜度胸千両入り〜
第一位 美空ひばり
変な言い方になりますが、できうることなら、第一位に選びたくなかった歌手です。「演歌の女王」と称される人を第一位に選ぶなんて、月並みですからね。しかし、卓越していると感じてしまったのですから、仕方がありません。では、その卓越性とは何なのか。それは、他の歌手が、作中の主人公である松五郎になり切って歌うことを表現の核心にしているのに対して、美空ひばりの場合、松五郎になり切るのと同時に、身体を張って生きている松五郎の切ない心を包みこむ優しいまなざしがキープされている点です。そうであるがゆえに、美空ひばりが、歌の最後の「男女波」(みょうとなみ)という歌詞を歌うとき、吉岡未亡人に対する松五郎の報われぬ恋心への哀悼の意がおのずと織り込まれることになるのです。その結果、玄界灘の荒波の鮮やかな像が聞き手の心中に陰影深く結ばれることになります。そういう芸当のできる歌手は、ほかにはいません。彼女がその歌手人生の最期に『川の流れのように』を歌うことは、その意味で、表現者としての彼女の必然的な帰結であった。そのことに、今回やっと得心が行きました。(お聴きになられる場合、もともとの音量があまり高くないので、ボリゥ-ムを上げてください)
美空ひばり/無法松の一生
『無法松の一生』(作詞・吉野夫二郎、作曲・古賀政男 一九五八年)は、『王将』とともに、村田英雄(2002年死没)のオハコとして名高い。村田英雄の名が大きすぎるせいかどうか定かではないのですが、男性歌手が同曲をカヴァーしている例はほとんどありません(管見の限り、氷川きよしが唯ひとりその例外ですが、you tube にアップされたものの録音・録画状態が悪いせいで印象が薄いのが残念です)。
それに対して、同曲をカヴァーしている女性歌手は、枚挙にいとまがないくらいです。you tube にアップされたものを列挙すると、島倉千代子・神野美伽・坂本冬美・天童よしみ・伍代夏子・中村美律子・長保有紀・石川さゆり・美空ひばり・島津亜矢・長山洋子の11名です。錚錚(そうそう)たる顔ぶれですね。女流演歌界のトップレベルの名で、ここにないのは、ちあきなおみと都はるみくらいではないでしょうか(ちあきなおみは、同曲をカヴァーしているようなのですが、残念ながらyou tube にはアップされていません)。
そのなかから、タイトルにあるように、ベスト3を選んでみました。その基準は、いつも申し上げているように、歌いっぷりが私のハートを揺さぶった度合い、という、私には自明だが余人に対しては決して明らかにしえない性質のものですから、お聞きになる方の感じ方とかけ離れていたらごめんなさいとしかいいようがありません。
第三位 石川さゆり
『天城越え』や『津軽海峡冬景色』で有名な石川さゆりですが、私個人としては、正直にいえば、これまであまり注目してこなかった歌手です。今回、彼女の歌いっぷりに接して、その歌手としての美質を再認識した次第です。それを端的に言えば、“歌詞が耳にすっと入ってくるすがすがしい美声”となります。その意味で彼女は、意外にも、春日八郎の流れを引き継ぐ歌手と言えるのでしょう。彼女には、その美質をもっと自覚していただきたいような気がします。ドラマテックな演出などあまり気にしないほうがいいのではないでしょうか。
無法松の一生(度胸千両入り) 石川さゆり 83 UPL-0056
第二位 天童よしみ
天童よしみといえば、私が小学校高学年のころに流行った『いなかっぺ大将』(原作・作画 川崎のぼる)の主題歌を歌った歌手、というくらいの認識しかなかったのですが、当カヴァー曲を聴いて、石川さゆりと同様に、その実力のほどを再認識しました。彼女は、この難曲を、楽しそうに歌う余裕さえ感じさせるほどの実力を有するすごい歌手なのです。似たような歌い方をする島津亜矢を選ぼうか天童よしみを選ぼうか、ちょっと迷うところもあったのですが、歌詞が聞き手の耳に届くときの明瞭さと軽やかな持ち味の有無という点で、天童よしみに軍配を上げました。
*アップしていた動画が削除されて、再アップしようとしたら島津亜矢との共演しかありませんでした。島津亜矢もなかなかのもですが、天童よしみには及ばないと思いました。(2019・03・20)
島津亜矢×天童よしみ 無法松の一生〜度胸千両入り〜
第一位 美空ひばり
変な言い方になりますが、できうることなら、第一位に選びたくなかった歌手です。「演歌の女王」と称される人を第一位に選ぶなんて、月並みですからね。しかし、卓越していると感じてしまったのですから、仕方がありません。では、その卓越性とは何なのか。それは、他の歌手が、作中の主人公である松五郎になり切って歌うことを表現の核心にしているのに対して、美空ひばりの場合、松五郎になり切るのと同時に、身体を張って生きている松五郎の切ない心を包みこむ優しいまなざしがキープされている点です。そうであるがゆえに、美空ひばりが、歌の最後の「男女波」(みょうとなみ)という歌詞を歌うとき、吉岡未亡人に対する松五郎の報われぬ恋心への哀悼の意がおのずと織り込まれることになるのです。その結果、玄界灘の荒波の鮮やかな像が聞き手の心中に陰影深く結ばれることになります。そういう芸当のできる歌手は、ほかにはいません。彼女がその歌手人生の最期に『川の流れのように』を歌うことは、その意味で、表現者としての彼女の必然的な帰結であった。そのことに、今回やっと得心が行きました。(お聴きになられる場合、もともとの音量があまり高くないので、ボリゥ-ムを上げてください)
美空ひばり/無法松の一生