*当方、いささか、危惧しております。なにをか。以下の議論が、会計学や簿記の基本的な知識・素養のない方に、どこまで通じるのか、ということを、です。杞憂にすぎなければ幸いです。
財政赤字が民間部門の貯蓄を増やすというお話しの実務的な例をかかげます。これはまた、最近流行りだした、このinnocent fraud の馬鹿げた新バージョンを叩きつぶすものでもあります。
「赤字の支出は、政府がだれかから借り、ほかのだれかにそれをあげることを意味する。だから、新しいものはなにもない。それは単にだれかからほかのだれかにお金がシフトすることを意味するだけなのだ」。別言すれば、財政赤字は、私たち民間部門の貯蓄に付け加えるものはなにもなくて、貯蓄間をぐるぐる回っているだけである、というのだ。しかしこれはとんでもない誤りなのです!で、財政赤字がどうやって貯蓄を増やすのか、以下に示しましょう。
1. 政府が10億ドルの財務証券を売りに出したとしましょう(以下のことに気をつけてください。この売りは自発的なものであって、買い手は買いたいからそれを買います。おそらく、それらを買わないことより買うことのほうがいいと信じています。だれも政府証券を買うことを強いられてなどいません。彼らは、オークションで、もっとも低い利回りをよろこんで受け入れる、いちばん高い値をつける入札者に売ることでしょう)
2. これらの政府証券の買い手が支払うとき、FRBに設けられた当座預金口座が支払いのために10億ドル減らされます。別言すれば、FRBの当座預金口座のお金は財務省証券と交換されました。で、財務省証券は、FRBに設けられた普通預金口座なのです。この点において、民間の貯蓄が交換されるわけではないのです。買い手たちは、いまや財務省証券を買う以前に彼らの当座預金口座にあったお金より普通預金口座としての新しい財務省証券を持つことのほうを選んだのです。
3. 10億ドルの財務省証券を売った後、財務省は、政府がお金を出費する普通のモノに10億ドルを出費します。
4. この財務省の支出は、だれかの当座預金口座に10億ドルを付け加えます。
5. 民間部門は当座預金口座に10億ドルを持つことになります。そうして、それは新しく発行された財務省証券の10億ドルなのです。
*ごく普通の読解力があれば、上の4の「この財務省の支出は、だれかの当座預金口座に10億ドルを付け加えます」の文言で、勝負あった、となるのではないでしょうか。これが分からない方は、おそらく、簿記とか会計学とかいった実務的知識をバカにしてきたことのツケが回ってるのだと思われます。当方の言っていることに悔しい思いを抱かれるのであれば、虚心に、簿記2級程度の力を数か月の修練で得られるといいのではないかと思われます。簿記の知識は、一般的に思われている以上にその価値は大きいのですよ。別に自慢するわけではありませんが、当方、日商簿記一級です。福沢諭吉は、日本近代のあけぼのにおいて「帳合の法」という簿記の基本書をきちんと訳しています。彼は、近代の基本をよく分かっているのです。はっきりと申しあげると、簿記の基本知識のない方は、おそらくMMTが言っていることをその基本においては分からないのではないかと当方は考えております。そこの「架け橋」をどうやって築こうかと思案しているところでございます。
*もし、ご不明な点がおありになれば、率直に、ご質問等いただければ幸いに存じます。当方も、わからないことはわからないと率直に申し上げます。知ったかぶりは、お互い不毛ですから。