美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

貨幣と租税(中野剛志氏講演のレジュメ・その2) 美津島明

2017年05月23日 18時58分58秒 | 経済

「政治の無策によって、高齢者による社会保障費の増大も加わり、日本は1000兆円超という途方も無い借金を抱えています」などという言い方がまことしやかに流通していますが、それは本当なのでしょうか。中野氏は、貨幣の本質から説き起こし「それは誤った言説である」と言い切ります。(編集者 記)

***

量的緩和とは、銀行が日銀に開設した「日銀当座預金」を増加させる政策である。

・しかし銀行は、日銀当座預金を原資として貸出しを行うわけではない。銀行預金(通貨)は借り手がいなければ創造されない

・借り手が増えれば銀行預金は増える(通貨供給量が増える)ので、銀行は日銀当座預金を増やさなければならない。しかしデフレで借り手がいなければ日銀当座預金は増えない。

・つまり、インフレが日銀当座預金を増やすのであって、日銀当座預金を増やせばデフレから脱却しインフレになるのではない

・それゆえ量的緩和ではデフレから脱却できない

国債の発行制約(1)
・日本政府のいわゆる財政危機なるものについて、次のような意見をよく耳にする。すなわち「日本が巨額の政府債務を抱えているのにもかかわらず破綻しないのは、巨額の民間金融資産があるから。しかし今後、少子高齢化により家計の貯蓄率が低下するので政府債務は持続可能ではない」。

・この意見はもっともらしいが、実は誤りである。銀行の国債購入は政府預金を増やす。国債増発によって得た資金(政府預金)を政府が支出すれば、民間金融資産はその分増加するのである。

・その事態を、L.ランダル.レイは『現代貨幣理論』で次のように言っている。
政府の赤字がそれと同額の民間部門の貯蓄を創造するのであるから、政府が貯蓄の供給不足に直面することなどありえない

財政政策は金融政策
・国債発行(すなわち財政赤字)が通貨(すなわち預金)供給量を増やす。このことは、財政政策は同時に金融政策であることを意味する。
*この一事からだけでも、「日銀が政府の財政赤字をファイナンスすることはまかりならぬ。禁じ手である」などという真面目ぶった議論が愚論にほかならないことを雄弁に物語っています。

・銀行が国債を購入するには、銀行が日銀に保有する当座預金残高を利用する。その具体的な過程は次のようになる。
①銀行が国債を購入すると、銀行保有の日銀当座預金は政府の日銀当座預金勘定に振り替えられる。
 ↓
②政府は公共事業の発注にあたり企業に小切手支払う。
 ↓
③企業は取引銀行に小切手を持ち込み代金の取り立てを依頼する。
 ↓
④銀行は小切手相当額を企業の口座に記帳する(ここで新たな預金が創造される。すなわち、貨幣が新たに供給される。*「万年筆マネー」ですね)。銀行は同時に日銀に代金の取り立てを依頼する。
 ↓
⑤政府保有の日銀当座預金が、銀行の日銀当座預金に振り替えられる。これは銀行からすれば日銀当座預金が戻ってくることを意味する。これで振り出しに戻ったことになる。それゆえ、原理的には、①→⑤の過程は無限に繰り返すことができる。すなわち国債発行に資金的な制約はない

国債の発行制約(2)
・貸出しの制約は、貸し手の資金量ではなく、借り手の返済能力である。したがって、政府債務の制約は、民間金融資産の総額ではなく、借り手である政府の返済能力である

・しかし、政府は個人や企業とは異なり通貨を創造する権限を有する(*すなわちいわゆる通貨主権を有する)。したがって、政府債務が自国通貨建てである限り、借り手である政府の返済能力に制限はない。自国通貨建て国債は(政治的な意志によって返済を拒否しない限り)デフォルトしえず、また歴史上そういう事例は皆無である。デフォルトした例は、自国通貨以外の国債(いわゆる外債)だけである。

国債の発行制約(3)
・Q 自国通貨建て国債がデフォルトしないのならば、財政赤字は無限に拡大できるのか。

・A 財政赤字の拡大により通貨供給量が増大すると通貨の価値が下がりインフレになる。
財政赤字(通貨供給)が過剰に拡大すると過剰なインフレ(悪性インフレ)を起こすので無限には拡大できない。
国債の真の発行制約は、物価上昇率である

・よって、デフレである限り財政赤字の拡大の制約はない。その意味で、日本は1997年以来の長期にわたるデフレなので、財政赤字は多すぎるというのでなくて少なすぎるというべきである。(つづく)

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