美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

「ドル・リンク離れ」は、決定的な流れとはならない (美津島明)

2016年02月10日 00時55分20秒 | 経済
「ドル・リンク離れ」は、決定的な流れとはならない (美津島明)



〈MAG2NEWS 『中国が大量の「米国債」売り…そして加速する世界のドル離れ』(津田慶治)
http://www.mag2.com/p/news/146609
 
以下は、上記記事からの引用である。

もし、ドルリンクを外す国が増えると、基軸通貨制度が崩壊するのであるが、各国は米国債を一斉に市場で売ることになり、ドルの長期金利がUPしてしまい、そのことでドル暴落になる。このため、より多くの国がドルリンクを止めることになる。ドル基軸通貨制度の崩壊である。現在、中国が米国債を大量に売り出しているが、まだ中国だけであるので、なんとか対応できるのである。

日銀はマイナス金利にして、金融機関は金利が大きい米国債を買う方向である。米国も日本に要求した可能性もある


中共は、ほんとうにそんなに大量の米国債売りを展開しているのだろうか。次のグラフを見ていただきたい。


http://www.evojapan.com/branch/joho/blog/201551266000.php より引用

上記グラフによれば、2015年末において、2014年の半ばを基準とした場合、中共の外貨準備は約17%以上減っている。金額にすれば、約6800億ドル=約78兆円減(1ドル=115円換算)である(グラフの目分量計算であることをご容赦いただきたい)。78兆円といえば、日本の1年分のGDPの約15%強であるから、すごい金額である。外貨準備のほとんどは通例米国債であるから、中共による米国債大量売りは事実である、というよりほかはない。

安倍政権は、日銀のマイナス金利政策によって、米国債買いを加速させ、円の海外流出を増やすことで、円安・株高の流れを確実なものにし、七月の選挙に備えようとした。しかし、それよりも中共の米国債売りが優勢で、世界経済の変調を懸念する金融資本は、安全な円買いを強めている。

そのため、日銀や安倍総理の意に反して、円高・株安の流れが強まっている。安倍首相は、株価チャートとにらめっこしながら政局での振る舞い方を思案しているという。そんな安倍首相としては、困った事態になったものだ。このままでは、衆参同時選挙の実現も、自身の手による憲法改正も、夢のまた夢となる可能性が大きくなっていくばかりである。

それよりももっと頭を抱えているのは、大量の米国債売りによって中共からケンカを売られたオバマ大統領だろう。なにせ習近平は、世界のドル離れを促進することでドルから基軸通貨の地位を奪い、さらには、アメリカを覇権国の地位から陥落させようとしているのであるから。1949年以来、中共は、マネーの支配者が世界の支配者であることを知り抜いているし、中共自身が覇権国家となるには、人民元がドルに代わって国際通貨になるよりほかに道はないこともよく分かっている。だから、中共の対米通貨戦争は「マジ」なのである。

しかしこの戦い、習近平の敗北に終わる、と私は思っている。

なぜなら習近平は、アメリカのみならず、ジョージ・ソロスをはじめとする国際金融資本をも敵に回してしまったからだ。国際金融資本は、ドル基軸通貨体制の最大の既得権益者なのである。だから、ドル基軸通貨体制の破壊者=中共は、アメリカのみならず国際金融資本にとっても(むろんウォール街にとっても)、大敵なのである。ジョージ・ソロスは、中共がAIIB(アジアインフラ投資銀行)構想を立ち上げると、アメリカの同盟国であったはずのEU先進諸国が、アメリカの制止を振り切って、中共の下にはせ参じ、AIIBに加盟した様を目の当たりにして、中共がドル基軸通貨体制の破壊者であることを確信したのである。だからこそ、年来の親中派の衣をさらりと脱ぎ捨て、ほとんど一夜にして反中派の急先鋒に豹変したのだった。「君子、豹変す」ではなくて、「グローバリスト、豹変す」なのである。
http://www.mag2.com/p/news/142681 

国際金融資本は、これから、潤沢な資金とマスメディアを使って、全力で中共をつぶしにかかることだろう。これまで決して中共の悪口を言わなかったBBCワールドニュースが、香港における中共の言論弾圧を詳細に報じ中共批判を強めていることは、その兆しのひとつなのではなかろうか。

昨年中共が提唱したAIIB(アジア・インフラ投資銀行)に参加せず、いまはマイナス金利政策によって米国債をさかんに買い支えようとしている日本は、かつての「親中派」だったいまのオバマの目にも、心強い味方と映っているにちがいない。つまり、米中のケンカは、日米のゆるぎない同盟関係を中共に印象づけたい日本にとって、基本的に「吉」なのである。

安倍総理は、株価のチャートに一喜一憂してばかりいないで、その良い流れをしっかりと理解していただきたいものである。

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