美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

ふたたび、大前研一は経済音痴である (イザ!ブログ 2013・8・3 掲載)

2013年12月19日 06時18分35秒 | 経済
ふたたび、大前研一は経済音痴である




以前に私は、大前研一のデフレ論のいい加減さとその詐術を弄した論の展開ぶりを論じたことがあります。

(「大前研一のトンデモ「デフレ」理論」 http://blog.goo.ne.jp/mdsdc568/e/96339fccea3ef725f88ff523054466d9

彼は、一部のサラリーマンの間で神様のような扱いを受けている著名な経済人です。それくらいの人だから、そのデフレ論にも何かしらの取り柄があるだろうと思って、彼の文章に当たってみたところ、その経済音痴ぶりに唖然としてしまったのでした。彼は、マクロ経済のなんたるかをまったく分からずに、日本経済がどうのこうのとホラを吹いているだけの「裸の王様」であることが、私の拙文によってさえも明らかになってしまったのです。おそらく、「経済のことは、そんじょそこらの学者よりオレさまのほうがよく分かっている」という会社経営者としての自負心が徒(あだ)になっているのでしょう。「ミクロ経済には外部性があるのに対して、マクロ経済には外部性がない。それをふまえなければまともな経済政策の考案は不可能である」と言っても、彼は、おそらく何のことだか分からないはずです。分かっていれば、馬鹿げたデフレ論を恥ずかしげもなく自信たっぷりに開陳するはずがありませんから。

昨日(8月3日)の夕刊フジに掲載されていた「大前研一のニュース時評 消費増税『慎重論』は危険だ」においても、その経済音痴ぶりと詐術を弄した論の展開ぶりとは、相変わらず「健在」でした。それをあえて取り上げるのは、最近の消費増税原理主義者たちの跋扈ぶりに、腹を据えかねているので、影響力の大きい大前氏を取り上げることで、わずかながらでも、そういう動きに対して一矢を報いたいと思ったからです。

昨年8月に成立した消費税増税法案では、現行の税率5%を来年4月に8%、2015年10月に10%へと引き上げることが決まっている。

「決まっている」という断言の仕方がやや気にかかりますが、とりあえずそれは見過ごすことにしてその先を読んでみましょう。

だが、安倍首相はデフレ脱却と経済再生を最優先させる考えを示し、増税実施の是非に加え、上げ幅に関しても慎重に検討するという。

これは、極めて穏当な姿勢であるというよりほかはありません。安倍政権がデフレ脱却をその経済政策の最大の眼目にしていること、この段階での消費増税の決定がデフレからの脱却を不可能にしてしまう危険性があること、そう展開するとGDPの伸びが鈍化しかえって税収が減ってしまう可能性が生じること。それらの観点を踏まえるならば、安倍首相は当然の姿勢を示しただけであるといえるでしょう。ところが、大前氏の手にかかると、180°評価が変わります。

これはかなり危険な考えだと思う。消費増税は民主党政権のときに自民党も合意して決めたことだ。

こういう言い方に、私は大前氏の詐術を感じます。大手メディアの大々的な消費税増税キャンペーンが「功を奏した」結果ではないかと思われるのですが、一般国民の間では、「消費増税は既定路線」という雰囲気が定着しています(私事に渡りますが、先日年来の友人と酒を酌み交わしていたとき、彼は「消費税は、上がることになってるんでしょ?」と私に食ってかかりました。私は、「そういう考え方が、消費増税を決定的なものにするのだ」と切りかえしました)。ところが、消費税増税法案には、次に掲げる、いわゆる「附則第18条」というトリガー条項が規定されているのです(これは、民主党政権時代の中間派の功績です)。大手メディアは、「消費税増税は国際公約」などとうそぶいて、あくまでもそれを無視しようとします。大前氏は、その尻馬に乗ろうとしているのですね。とんでもないことです。

○消費税率の引上げに当たっての措置(附則第18条)

・消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。

・この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条及び第3条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定(それぞれ、5%から8%への、8%から10%への税率アップのこと――引用者注)のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。


上の引用をきちんと読んでいただくと、安倍首相の慎重な姿勢が、あくまでもこの附則第18条に則ったものであることを納得していただけるのではないでしょうか。それを知っていながら消費増税は「決まっている」とか「決めたことだ」などと断言するのは、百害あって一利なしの悪質極まる詐術以外の何物でもありません。また、その附則の存在を知らないで消費増税について論じているのであれば、論外です。

これ(消費増税のこと――引用者注)が繰り延べになると、結局は「財政規律」(財政が秩序正しく運営されていて歳入と歳出のバランスが保たれていること)が忘れられたということで、国債の暴落を招く可能性が非常に高い。

これは、典型的な緊縮財政派のもの言いです。デフレ不況から脱却するために、金融緩和を敢行し積極的な財政出動をするのは当たり前のことです。そうしないと、GDPの成長率が鈍化して税収が減り、歳入と歳出のバランスがさらに悪化する(財政赤字が拡大する)からです。そうなると本当に、日本の国債の信認が低下して暴落してしまいます。デフレ時に消費増税を実施すると、そういう危険性を招きかねないのです。このように、彼らが言っていることはアベコベなのです。経済成長抜きで財政赤字を解消したり、財政破綻を回避したりするのは不可能なのです。そこが、財政緊縮派はどうしても分からない。分かろうとしない。困った石頭連中です。

緊縮財政論者・大前研一は、次のようにも断言します(断言が好きな人なんですね)。

現在の日本が抱える最大の問題は、じつは景気ではない。この20年、景気が低迷しても、飢え死にした人はいなかった。失業率もほぼ4%と低い数字を保っている。若者の失業は増えているが、ポルトガルやスペインのようにひどいことにはなっていない。景気が低迷してもこの国は潰れない。最大の問題は、次の世代に巨大な借金を送ることだ。働く世代が毎年80万人ずつ減少する状況のか、GDP(国内総生産)の2倍もの借金をつくって、何かいいことがあるのか。

消費増税原理主義者にして緊縮財政派のボス的な存在である与謝野馨氏が、泣いて喜びそうな文句が綺羅星のごとくに並んでいます。「国の借金1000兆円」の荒唐無稽さについては、当ブログで何度も取り上げたので、ここではくどくどと申し上げません。ただ一点、指摘しておきたいのは、「国の借金」という名づけ方は不適切であって「政府の借金」とすべきであるということ。ここで、「政府の借金」は、日本国債がすべて円建てで、その9割以上は自国民が所有しているので、ほぼ「国民の資産」となります(誰かの借金=他の誰かの資産)。大前氏のように「GDP(国内総生産)の2倍もの借金をつくって、何かいいことがあるのか」などと目くじらを立てる必要はまったくありません。馬鹿げたことです。手元に国債が一億円くらいあったら、誰だってうれしいでしょうが。それを子どもが相続したら、その子どもは嬉しさのあまり相好を崩すでしょう。そんなの常識でしょう。

それをふまえたうえで申し上げます。「政府の借金」がGDPの2倍にまで膨れ上がったのは、デフレ不況が15年間も続いたせいで名目GDPがほぼ横ばいのままで推移し、税収が減ったからです。だから、「政府の借金」を減らしたいのなら、名目GDPを成長させるしかありません。つまり、景気を良くするしかありません。だから、大前氏の口調を借りるならば「現在の日本が抱える最大の問題は、じつは景気である」となります。で、財政を良好なものにするくらいの好景気を実現するためには、デフレからの脱却を何としても成し遂げなければならないのです。大前氏は、まったくのホラ話をしているというよりほかはありません。彼には、アベノミクスの真価なんてまったく分からないのでしょう。そんな人に、マクロ経済を語る資格はありません。

あらためて、申し上げます。大前研一氏は、救えないほどの経済音痴です。彼の経済談義は、ゆめゆめ真に受けてはいけません。頭が悪くなるだけです。

さて、私見を手短に述べておきましょう。デフレからの脱却はまだその端緒についたばかりです。経済諸指標は心持ち好転してはいるものの、本格的な景気回復基調はまだまだ先のことです。まだまだ達成されていないデフレからの脱却の実現を最優先するならば(それがベストの選択です)、消費税増税は見送るよりほかはない。消費増税を実施した場合、1997年からの橋本デフレを上回る悪影響がもたらされるでしょう。そうなると、日本経済はデフレの泥沼にふたたび引きずり込まれ、景気回復基調で下支えされてきた安倍第二次政権の支持率はガクンと下がり、改憲や戦後レジームからの脱却など夢のまた夢。円高基調がぶりかえし、中国や韓国が息を吹き返し、尖閣諸島はついに中国の手中に収まる。まあ、だいたいこんなシナリオが浮かんできます。そんなの、私はいやだなぁ。黒田日銀総裁は、「消費増税の影響は限定的」などと余計な口出しなどせずに、金融政策に専念し、デフレ脱却のための黒田バズーカをぶっぱなし続けていりゃあいいんですって。

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