美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

TPPは、世界の「99%」のために阻止されなければならない (イザ!ブログ 2013・7・27 掲載)

2013年12月18日 21時29分26秒 | 経済
TPPは、世界の「99%」のために阻止されなければならない
―――ロリ・ウォラックさんへのインタビュー動画をあらためて取り上げる


まずは、次の二〇分弱の動画を観ていただきたい。この動画は、2012年6月14日にイギリスの報道チャンネルBBCの「デモクラシー・ナウ」で放映されたものです。インタビューに応じているロリ・ウォラックさんは、米国の市民団体「パブリック・シチズン」の代表です。一年以上前に放映された同番組の内容は、いまにおいても衝撃的なものであり続けています。ということは、TPPの本当の危険性が、少なくとも日本ではいまだに周知されていないということです。その点、日本の大手マスコミの怠惰で反国民的な姿勢は、万死に値すると断じざるを得ません。ウォラックさんは、TPPの本質を「表向きには『貿易協定』だが、実質は企業による世界統治である」と喝破します。自分なりの考察の結果、現在の私は、この見識に与する者となっています。TPP交渉がなにゆえ秘密裡に行われなければならないのか。その理由は、この本質からまっすぐに導き出すことができるでしょう。

アメリカ市民団体がTPPについて報道した驚異の内容とは


いかがでしょうか。はじめてご覧になられた方は、少なからず衝撃を受けられたのではないでしょうか。私はむしろ、この内容が日本の一般国民に周知されていないことに静かで深い衝撃を受け(続け)ています。この番組の内容には、今後の日本やさらには世界を占ううえで、極めて重大なものが含まれているのではないでしょうか。インターネットに、同動画の文字の起しが掲載されていましたので、それを以下に引用します。あらためてご覧いただければ幸いです。
http://tppmasahiko.hatenablog.com/entry/2013/05/23/184847

*****

【動画文字起こし】

『アナウンサー』

密室で進む米国と環太平洋諸国の貿易協定草案がリークされました。環太平洋経済連携協定(TPP)です。リーク草案によると米国で営業する外国企業は、重要な規制について国際法廷に持ち込むことが出来ます。この裁定は国内法にも優先され、違反には罰則を課すこともできます

交渉担当はオバマ大統領が任命した米国通称代表のカーク氏です。しかしリークされた草案はオバマ氏の選挙公約に反しています。2008年の選挙公約は、「環境や食の安全や国民の健康が守られ守られなかったり、外国の投資家を優先する貿易交渉はしない」

リークされたTPP草案には著作権の保護を強化したり、医薬品コストを押し上げる規定もあります。通称代表部は出演を断り、声明を送ってきました。

「TPPの投資関連の提案には、交易保護のための正当で非差別的な政府規制を妨げるものはない」

市民団体パブリック・シチズンのロリ・ウォラックさんです。リーク文書は同団体のウェブサイトで公開されました。リーク草案でわかったTPPの正体とは? 

ウォラック 「表向きには『貿易協定』ですが、実質は企業による世界統治です。加盟国には例外なくすべての規定が適用され、国内の法も規制も行政手続きもTPPに合わせなければなりません。全26章のうち貿易関連は2章のみ、他はみな企業に多大な特権を与え各国政府の特権を奪うものです。私たちのサイトに掲載したTPP投資条項によれば、外国の投資家がTPP条約を盾に米国政府に民事訴訟を起こし、国内規制が原因で生じた損害の賠償を請求できるのです。米国の企業はみな同じ規制を守っているのに、これでは国庫の略奪です」

極秘に進行するTPP交渉には議会も不満を申し立てています。約600人の企業顧問はTPP情報にアクセスできるのに、米国の議員はできないのですね?

ウォラック 「こんなひどい内容を、それもリークで知るとは驚きです。内容がひどいだけでなく、これは『1%』が私たちの生存権を奪うツールです。交渉は極秘で行われました。暴露されるまで2年半も水面下で交渉していた。600人の企業顧問には草案へのアクセス権を与えながら、上院貿易委員会のワイデン委員長はカヤの外です。TPPを監督する立場なのに草案にアクセスできない。たまりまねた委員長が監督責任のある協定の内容を知る権利があるとする法案を提出したありさまです。ワイデン氏は情報委員会ですよ、核関連の機密も知る立場なのに貿易協定という名の『企業の権利章典』は見られない。じつに見事な『トロイの木馬』です。

通りのいい看板の裏側に、表に出せない内容を仕込む。製薬大手の特許権を拡大する条項も入手しました。医薬品価格を急騰させます。TPP情報の分析や行動の誘いが私たちのサイトにあります。TPPはいわばドラキュラです。陽に当てれば退治できる。米国やすべての交渉国で市民の反対運動が起きます。企業の権利の世界的強制なんて私たちは許さない。民主主義と説明責任に反します

『アナ』 米国通商代表部から届いたコメントを読みます。

「TPPの交渉経過には高い透明性を確保してきた。議員たちと協力し関係者を毎回の交渉に招き、説明会や個別交渉によって透明性と市民参加を高めてきた」

これについては?

ウォラック 「透明性といっても『市民には映らない』鏡です。説明会で意見を言うことはできる、でも公益団体の意見はなにも草案には反映されていない。環境から消費者・労働者まで公益は何ひとつ反映されていない。国民をまったく無視した過激なまでの強硬策です。金融制度の安定のため各国が施行する金融規制にすら米国は反対しています。そこには米国民の意見がない。でも間に合います。歴史的な観点で見てみましょう。1990年代のFTAA(米州自由貿易協定)は、2年かけて34ヶ国が協議し全草案が各国で公開されました。TPP交渉は3年目ですが1行たりとも公開しない。おまけに締結後4年間は非公開という密約もあった。秘密をさらに隠すのです

カーク通商代表に聞きました、なぜ公開しないのか? お世辞にも透明とはいえない、WTOさえ草案を公開したのに。彼の答えは『FTAA交渉は公開したら暗礁に乗り上げた』それってどういう意味ですか? 密室でこそこそやる理由は、国民や議会に知られるだけで危うくなるような内容だから? しっかり押さえてください。TPPの狙いは貿易ではなくセメントのような作用です。一度固まったらおしまい、全員が同意しないと変更できない。リーク草案が示唆するのは司法の二重構造です。国民は国内法や司法を使って権利を護り要求を推し進めますが、企業は別建ての司法制度を持ち、利益相反お構いなしのお抱え弁護士たちがインチキ国際法廷に加盟国の政府を引きずり出し、勝手に集めた3人の弁護士が政府に無制限の賠償を命じるのです。規制のおかげで生じた費用を弁済しろとか、不当な扱いを受けたとかいって、国内の企業には同じ規制が一律に適用されているというのに、NAFTAにも似た制度があり有害物質規制や都市区画法の補償として3億5千万ドルが企業に支払われた。こういう悪だくみは明るみに出せば阻止できます」

『アナ』 交渉に関わっている8か国の国名は? 交渉方法の問題や参加国が急増する可能性は?

ウォラック 「リークが重要な意味を持つのは、これが最後の交渉になる恐れがあるからです。NAFTA以来、大企業は貿易協定を姑息に使って規制を抑え込み、底辺への競争を煽りました。交渉のたびに規制が緩和され、企業の権限は拡大した。今回がとどめです。いったん固まれば門戸を開き広く参加国を募ります。企業の特権化を保障する世界的な協定になりかねません。為替と貿易手段が強制手段です。

TPPは強制力のある世界統治体制に発展する恐れがあります世界的なオキュパイ運動に対する企業側の反撃です。旧来の悪弊が一層ひどくなる。さらに交渉のゆくえによっては既存の国内法が改変され、進歩的な良法がなくなるばかりか新法の制定さえもできなくなる。交渉国は、米国・豪州・ブルネイ・シンガポール・ニュージーランド・チリ・ペルー・ベトナムで、マレーシアも加わります。

NAFTAと同じく企業の海外移転を促す特権があり、新たな特権も付与されます。医薬品や種子の独占権が強化され、医薬品価格つり上げのため後発医薬品を阻止する法案まである。オバマ政権が医療制度改革法案に入れた医薬品についても、他国が使用する権利を奪おうと密談がされています。各国の金融規制も緩和させられ、高リスク金融商品も禁止できない。米国政府が金融制度改革で規制強化を進めているときにです。TPPは地方財政にまで干渉します。全国で搾取労働の撤廃や生活賃金を求める運動が広がる中で、TPPは地域産業の優先を禁じます。

地産地消や国産品愛用は許されないのです。環境や人権に配慮する商品も提訴されかねません。TPPは企業に凄まじい権力を与えます。密室だから過激になった。どの国の人々もこんなものは御免です。過激な条項を推進するのは米国政府です。だから陽の目にさらして分析することが重要です。何が起きているか人々に知って欲しい」

『アナ』 ダラスで説明会が行われた際、カーク通商代表が演説しましたが『イエスマン』が市長になりすましニセの授賞式を行いました。

(VTR)

【ご参集ありがとうございます。テキサス企業協会からお知らせです。2012年企業パワーツール賞の受賞者は米国通商代表部です! 通商代表部のたゆまぬ努力に感謝します。とくに力を入れているTPP交渉は、市民の意見はおかまいなく企業利益を最大にするためです】

『アナ』 次回のTPP交渉は7月4日の週末です。いかがですか? オバマ大統領はどう対処するのでしょう? サラ・ジェシカ・パーカー邸で資金集めパーティーをするようですが、金融業界の献金額はロムニー候補に約4千万ドル、オバマ陣営へは480万ドルでウォール街もオバマ離れをしています。金融業界にはロムニー氏以上に良くしているつもりでしょうけど(笑)

ウォラック 「オバマ大統領については2通り考えられます。1つはTPPが密室交渉だったので把握していなかったケース。だからリークが重要でした。国民や議会に警告した。大統領は通商代表部の監督が甘かった。クリントン時代にNAFTAを通過させた連中が好きにやった。もう一つは、結局はお金です。『1%』を喜ばせる協定なのです。『1%』の夢なのです。ありったけの金とロビイング力をつぎ込んで、未来永劫に力を振るうのです」

アナ 『パブリック・シチズン』のウォラックさんでした。


*****

国内大手マスコミは、「TPPが国益にかなうかどうか」だけを報じようとします。そうして、オタクっぽいエコノミストたちが登場し、損か得かソロバンを弾こうとします。それがいかに馬鹿げたことか、もうお分かりでしょう。

私たちは、「国益」という言葉にだまされてはいけません。それは、端的に「国民の利益」という意味なのです。ごく普通に暮らしている一般国民にとってプラスかマイナスか。それだけが問題なのです。その点、TPPは国家主権の侵害を通して、民主主義の実効性を脅かす危険性がとても高い。いいかえれば、民主主義を制度的に保障するのは国家主権の枠組みなのです。それなしに、民主主義は成立しえない。

そう考えれば、TPPは明らかに国益に反する。出自が日本であるのにすぎないグローバル企業にとって損か得かは、この際、どうでもよろしい。つまり、グローバル企業にとってのプラスが、国益の観点からマイナスであることはいくらでもありえる。変動相場制のもとでの国民国家は、そこをきちんと見極めないと、亡国の憂き目にあいかねません。この見地に立つならば、TPPに異を唱えることによって、アメリカの「99%」と手をつなぐ道筋がかすかに見えてきます。そうして、アメリカの「99%」と手をつなぐことは、もちろん、世界の「99%」と手をつなぐことに通じます。反TPP運動のスピリットは、そういうものであらねばならないと思っています。反米感情の捌け口として反TPPを唱えるなんてのは、愚の骨頂と申し上げるよりほかありません。

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