美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

美津島明 落語を見に行く   (イザ!ブログ 2013・3・7 掲載)

2013年12月10日 22時06分39秒 | 文化
一昨日は、年上の友人Iさんに誘われて落語を見に行ってきました。場所は、小田急線成城学園前駅から歩いて数分の成城ホール。出演者とその演目は、次の通り。

柳亭市馬 うどん屋
三游亭兼好 崇徳院
瀧川鯉昇(りしょう)長屋の花見



 兼好                 市馬                   鯉昇

一流の噺家の落語を二時間堪能して、締めて3500円。これは、お得です。一番面白かったのは、兼好師匠の「崇徳院」でした(ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B4%87%E5%BE%B3%E9%99%A2_(%E8%90%BD%E8%AA%9E)。素材の良さと、兼好師匠の滑舌力に富んだテンポの良い話しっぷりとが合致していたのでしょう。

それと、鯉昇師匠の、地べたに吸い付くようなお辞儀の仕方と、本題に入るまでの脱力系のユーモアにあふれた話しっぷりの印象が鮮烈に残りました。市場師匠の、ゆるいテンポの味のある語りも捨てがたい。

もの書きの端くれとして彼らに感心するのは、演目が設定する江戸時代に入るまでの、話の持っていきかたが絶妙であることです。江戸時代にいまの風俗をあえて取り入れることだってあります。いまと当時とを自然につなぎ、聴き手の心理を自由自在に操る才に、落語家たちは恵まれているのですね。これは、一朝一夕で身に付けたものではないでしょう。なんとかしてその呼吸を盗み取りたいものだと、所詮はかなわぬ夢を抱いております。

私が落語を見に行ったのは、これで二回目です。前回は、柳家喜多八師匠を見ました。場所は、銀座の博品館でした。ふたつ演目がありましたが、「黄金の大黒」(senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2005/02/post_9.html)がとても印象に残っています。長屋の住人たちの演じ分けが鮮やかだったのですね。喜多八師匠は、ちょっといい感じの若い女性がひとりで見に来るほどの、粋でダンディなおっさんではありました。彼の「落語は、ガキには分からねぇ」というセリフが、すとんと腑に落ちましたね。


喜多八

落語家の話っぷりに心を寄せていると、笑いながらなぜかしら涙がにじみでてしまう。オレは感覚がおかしいのか、とひそかにいぶかしく思ったのではありますが、ご一緒した友人も同じような感慨を漏らしたので、ああやはりそうなのかと安心した次第です。口はばったい言い方になりますが、落語の味は人生の味に通じるようです。面白うて やがて悲しき 鵜飼かな。

まだ落語を見に行ったことのないあなた。もしくは、テレビで落語を観て「たかだか、あんなもの」とたかをくくっているあなた。騙されたと思って、とにかく一度だけでもいいから、ライヴで見てみてください。認識を新たになさること請け合いです。映画は映画館で、落語はライヴで。恋は語るものではなく、あくまでもすること、にどこかで通じるようで。

落語が終わった後、Iさんと駅界隈の一杯飲み屋に入りました。三〇年間続いている飲み屋、とのこと。ブタのレバー刺がとても美味しかった。店をお休みにする土日は、わざわざ遠くの市場までブタレバーを仕入れに行くそうで。杯を重ねながら友人となんだかとても心地よくお話できたのは、半ば以上、当夜に聴いた上質の落語のおかげだったのでしょう。

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