美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その3)

2019年06月20日 17時52分24秒 | 経済

アバ・ラーナー

*テキサス大学オースティン校教授のジェームズ・K・ガルブレイスによる序文の続きです。今日は最後まで訳してしまいます。

自国通貨建ての国債は、いくら負債がふくらんだとしても、決してデフォルトしません。
*ちなみに「デフォルト」は、金融用語としては「債務不履行」の意味で使われます。
国債の支払いは、単に、国債所有者の銀行口座に利子を振りこむだけのことです。政府がデフォルトしうるのは、そうしようと決めた場合だけです。それは、財政上の自殺行為にほかなりませんけれど。もしくは、政府がコントロール不能のお金を借りた場合なら、貸し手の銀行が政府に(あえてそうしようと思えば)デフォルトを強制できるかもしれません。しかし、何が起ころうとも、合衆国の銀行は、自国の政府が発行した小切手を換金するに決まっています。

政府の借金は、将来の重荷ではありません。一体全体どうしてそういう事態がありえましょうか。将来において生産されるものすべては、将来において消費されるのですから。どれだけのものが生産されるのかは、その時点において経済状態がどれほど生産的かに依るのです。このことは、今日の政府の借金とはなんの関係もありません。今日の政府の借金がいかにかさもうとも、それが将来の生産を減らすことはありえません。もしも政府の借金が今日における経済的諸資源の広範な利用を動機づけるとしたら、将来における経済的生産性が増大するかもしれません。
*「政府の借金が今日における経済的諸資源の広範な利用を動機づける」とは、公共事業などの財政出動によって有効需要が作る出されることを指しているものと思われます。
政府の財政赤字は、民間部門における貯蓄の増加をもたらします。それは単なる会計上の事実です。だれかにとっての収入は、別のだれかにとっての支出であり、輸入は収益であり輸出は費用なのです。
*最後の「輸入は収益であり輸出は費用なのです」は、《Imports are a benefit,exports are a cost》の直訳ですが、きちんと理解しているとは申せません。逆じゃないのか、と思うのですね。読み進むうちに腑に落ちたらそう申し上げます。
私たちアメリカ人は、自分たちの消費のために中国から借金するわけではありません。中国から輸入した品物の支払いのための借金は、自国の銀行に口座を持つ自国の消費者によってなされます。社会保障民営化は、株と国債の所有権の移転をもたらします。すなわち、リスキーな資産を年配者に、より安全な資産を富裕層に移動させます。その場合、ほかには何の経済的効果もありません。FRB(連邦準備制度)は、自分が望む通りに利子を設定できます。

これらのすべての議論は、本書において提示された簡潔な諸原理からもたらされます。

本書において、金融業界関係者の教育やアメリカ経済を高い失業率の危機から救うための行動計画についての魅力的な提言がなされています。ウォーレンは、社会保険と雇用保険を抑え、すべてのアメリカ人労働者に税引き後の8%以上の賃金上昇をもたらすことによって、これらのことをなそうとしています。また彼は、中央政府と地方政府の財政危機を改善するために、一人当たりの補助金制度を提唱しています。また、公的な雇用計画を打ち出し、働く意志のある人に適切な賃金での仕事を提供することをもくろんでいます。さらに、失業の危険な慣例を排除し、特に若者たちに有益な仕事を与えようとしています。

私の父のほかの経済学者のなかで、Wynne Godley(ワイン・ゴドレ―)とAbba Lerner(アバ・ラーナー)が、ウォーレンの英雄です。

ゴドレ―は、素晴らしい人物でしたがつい最近亡くなりました。彼は、自身のストック・フロー持続マクロ経済モデル学説によって、事業における最も優れた予想ツールがどのようなものか明らかにしました。

ラーナーは、機能的財政政策の唱道者でした。彼は、経済政策は現実の世界における結果によってその成否を判断されるべきものであると主張しています。すなわち、雇用と生産性と物価の安定によって判断されるべきであって、予算額や負債額によって判断されるべきではない、と。

ウォーレンは、「ラーナーの法則」を呪文で呼び出すのを好みます。それは、たとえほかの人々がラーナーの提示する諸原理を理解するのにどれほど困難を感じたとしても、人は諸原理をめぐって妥協すべきではない、という覚悟です。私もそうありたいものです。

とにもかくにも、本書は、魅力的でとても有用です。むろん、私は大いに推薦します。

ジェームスK.ガルブレイス
テキサス大学オースチン校
2010年6月12日
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その2)

2019年06月19日 17時17分29秒 | 経済


*テキサス大学オースティン校教授のジェームズ・K・ガルブレイスによる序文の続きです。

財政赤字と国債、財政赤字と民間部門の貯蓄、貯蓄と投資、社会保障、貿易赤字といった諸テーマをつなぐ共通の導きの糸それ自体は、実にシンプルです。

それは、「現代貨幣は、spreadsheetすなわち表計算ソフトウェアである」という命題です。

政府が支出を増やしたり市場から借り入れをしたりするとき、政府は、市中銀行の諸口座の数字を増やすだけなのです。課税するときは、同じ口座の数字を減らすだけです。政府が民間から借り入れをするとき、政府は資金を準備金口座と呼ばれる普通預金から有価証券勘定と呼ばれる貯蓄に移しかえるだけなのです。実際的な諸目的のためになすべきことは、ただそれだけなのです。政府の支出に財源などないのです。そのために生じる犠牲などまったくない。

それゆえ、政府が財政的に行き詰まるなどということはありえなのです。

お金は、政府の支出かもしくは銀行の貸付(借り手にとっては預金)によって作り出されるものです。税金は、私たちにそのお金を欲しがらせるのに役立ちます。私たちは、税金を支払うためにそのお金を必要とする、ということです。課税は、社会的な全支出を調整するのに役立ちます。私たちが、出回っている価格でのそれ以上の出費を抑制するのに、言い換えれば、物価をつり上げる要因すなわちインフレ要因を調整するのに、課税は役立つのです。

しかし、社会的な支出、つまり、消費と投資を促進すべき局面において、課税は必要ではありません。というより、そうしようと思ってもできないでしょう。というのは、政府が支出するより前に課税のためのお金などまったくないから。

*ガルブレイス先生、短い文章なのに、ずいぶんと中身の濃いそうして本質的なことを述べていらっしゃいますね。当方としては、お腹一杯になりましたので、続きは次回に。
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その1)

2019年06月19日 00時05分37秒 | 経済


藤井聡氏が立ち上げた、ステファニー・ケルトン教授日本招聘プロジェクトへの寄付の額がとんでもないことになっていますね。当初の目標額が700万円だったのに対して、当月14日からわずか四日間で2300万円を突破しました。緊縮財政の跋扈を憂え、財務省のデマに腹を据えかねた方々の危機感と閉塞状況打破への熱い思いがひとかたならぬものであることを物語っています。一口100万円のスペシャルサポーターと一口1万円の個人サポーターの受付は終了していますが、一口3000円の個人サポーターはまだ受付ています。「自分も打倒緊縮財政の具体的な意思表示をしたい」とお思いの方、よろしかったら、以下のURLにどうぞ。
https://in.38news.jp/38KELTON_Project_fn
ちなみに当方は、一万円を振りこみました。ものぐさな性格にしては、めずらしいことです。

それはそれとして、正直なところ、当方はMMTの原書に当たったことが一度もありません。中野剛志氏や三橋貴明氏の紹介・解説を読んだことがあるだけです。むろん、彼らには感謝しています。しかし、英語がまったく読めないわけでもないし、いわゆる正統派経済学が問題だらけの困った代物であることも自分なりにけっこう理解しているつもりではあるので、原典にあたる労を惜しむのは、いわゆる怠慢と言ってもいいかと思われます。

そんなわけで、MMTの原典を読んでみようと思い立ったのです。

で、何にしようかと思案していたところ、ウォーレン・モスラ―(Warren Mosler)の存在が偶然目に留まりました。彼はいわゆる学者さんではなくて、金融市場の実務家です。そこが気に入ったのですね、当方としては。PCであれこれと調べていたら、『SEVEN DEADLY INNOCENT FRAUDS OF ECONOMIC POLICY』という彼の主著がアップされていることが判明しました。それをプリントアウトして、少しつ和訳してみよう、と。ほかにも和訳の試みがあるようですが、それはそれ、自分なりに原書読みにチャレンジして、得るところも少なからずあるでしょう。

ちなみに、どうやら世間ではウォーレン・モズラ―という呼び名が流通しているようですが、私は、「モスラ―」を採ります。「モスラ―」は、「モスラ」に通じます。あの、日本が窮地に陥ったときに、ザ・ピーナッツの祈りによって深い眠りから目覚め、命がけで私たちを救いに来てくれる「モスラ」に。そんな験担ぎをしたくなるくらいには、当方なりに危機感があることは正直に認めましょう。願わくは、当方のささやかな試みが、救国の祈りを捧げるザ・ピーナッツの後塵を拝する類のものでありますように。

和訳の方針は、著者が言わんとしていることをなるべく適切な日本語でズバリ訳す、です。

では、始めます。

***

『経済政策をめぐる、とんでもない無知による7つの嘘っぱち』 (ウォーレン・モスラ―)

〔目次〕
・序文
・プロローグ
・概要
・パートⅠ ひどい無知による、7つの嘘っぱち
 嘘っぱち1
 嘘っぱち2
 嘘っぱち3
 嘘っぱち4
 嘘っぱち5
 嘘っぱち6
 嘘っぱち7
・パートⅡ
・パートⅢ

〔序文〕
*当序文は、テキサス大学オースティン校教授のジェームズ・K・ガルブレイスの推薦文です。ジェームズ・K・ガルブレイスは、あの偉大な経済学者ジョン・K・ガルブレイスのご子息です。ジェームズ自身、著名な経済学者です。血は争えないものですね。
 

ウォーレン・モスラーは、さながら、稀有な鳥のような存在です。彼は、独学の経済学者ではありますが、決して奇人変人の類ではありません。成功した投資家ではありますが、決して大ぼら吹きではありません。教師の資質を備えた実業家であり、公益に対して真の責任感を有する財政家でもあります。

私たちは、共著を出版したり、いっしょに時局的な記事を書いたりしてきましたが、彼の貢献度が私の貢献度を上回っていることは、はっきりと断言できます。

多くの経済学者は、複雑な議論が複雑であるがゆえに価値がある、としています。現代経済学のどの専門誌を読んでも、そう思います。実のところ、どうしようもなく理解不能な議論こそが大いに名声をもたらしうるのです!しかしながら問題は、議論が理解不能になったとき、議論の当事者も同様にしばしば理解不能に陥っているということです。私は冗談を言っているのではありません(*この一文は、当方が付け加えたものです)。フィンランドのヘルシンキで、ヨーロッパ中央銀行の重鎮たちや国際的な貨幣論の経済学者たちが出席した会議が催されたとき、あるレポートの1ページが読み終えられた後、私は、スウェーデンのある著名な経済学者に、「一体どれくらいの人たちが、あなたの高等数学の議論についてこられているとお考えですか」と尋ねたところ、彼は言下に「誰もついて来られていません。下手をすると自分さえも」と答えました。

ウォーレンが著した本書は、実に明快です。彼は、物事はできうる限り簡潔に考え抜かれるべき
だと考えています。彼はそのような流儀でたくさんの作品を著してきました(真の意味での簡潔さは、実はとても難しいのですが)。彼は、親しみを覚えるようなたとえや卑近な例を好みます。あなたは、彼が言っていることをほとんどの子どもたちに説明することができるでしょう(少なくとも、私は自分の子どもにそうできます)。同じく、大学生や金融市場で働いている人々にも説明することができるでしょう。ただし、固定観念に縛られた経済学者さんだけは、その限りではありません。もちろん、政治家たちも理解する場合がけっこうあるけれど、彼らが彼ら自身の思いを率直に語ることはまれです。

さて、この小冊子において、ウォーレン・モスラ―は、7つの論点に即して彼の論を展開しています。それは、財政赤字と国債に関わり、財政赤字と民間部門の貯蓄に関わり、貯蓄と投資に関わり、社会保障に関わり、貿易赤字に関わっています。ウォーレンは、それらを「とんでもない無知による7つの嘘っぱち」と呼んでいます。このフレーズは、私の父の最後の著作のタイトルとして使われたものからひっぱってきたものです。父は、このことをあの世で喜んでくれていることでしょう。

*序文だけでも、けっこう長いのですねぇ。その後半は、次回に回します。ご了承ください。
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第4回交観会BUNSO 開催のお知らせ

2019年06月07日 18時39分50秒 | ブログ主人より


当会は、さまざまな資料を使って、世界情勢・国内情勢をめぐる意見交換をする場です。以下のメニューで実施いたします。奮ってご参加ください。

〇実施日時 7月7日(日)AM11:00~PM14:00  
             *AM10:00~PM13:00ではありません。気をつけてください。

〇開催会場 珈琲西武 東京都新宿区新宿3-34-9 メトロ会館 3階 個室DE(定員12名)
 03-3354-1441
*個人名でしか予約ができないので、「交観会BUNSO」ではなくて「根本」と表示された部屋です。
*高田馬場「MIYAMA」ではありません。ご注意ください。

https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13048352/dtlmap/


〇内容 
①美津島明   ・藤井厳喜「ケンブリッジ・フォーキャスト・レ ポート」最新号のご紹介と意見交換
       ・書籍の紹介と意見交換
②さいとうあや ・「こんなことがありました」コーナー
③村田一    ・小堀圭一郎/中西輝政『歴史の書き換えが始まった!―コミンテルンと昭和史の真相』(明成社・税込756円)の紹介・報告と意見交換

    〈本書目次〉
       第一章 大東亜戦争とコミンテルン
      1.インテリジェンス・リテラシーとは何か
      2.張作霖爆殺事件はコミンテルンの策略だったのか
      3.世界はいかなる原理で動いているか

      第二章 戦後史とコミンテルン
      4.戦後日本はコミュニストが作った
      5.ハーバート・ノーマンの正体
      6.「目に見えない力」が今、明らかになりつつある
      7.“初期マルクス”は生きている

☆当集いの名前の由来
辞書に「交観」なる言葉はございません。造語です。参加者それぞれの持ち場で育んだ世界観を取り交し合う、という意味合いです。BUNSOは、英語やフランス語で、「文殊菩薩」を意味します。もちろん「三人寄れば文殊の知恵」の意味を込めました。参加者の、文字通り「文殊の知恵」から誕生した会の名前です。

*費用:場所代1200円×3時間とドリンク代を均等割りします。また、メンバーが他のメンバーに配る資料のコピー代は1枚10円とします。

*『歴史の書き換えが始まった!―コミンテルンと昭和史の真相』は、なるべくお読みになったうえで、ご参加ください。なお、村田さんは、忙しくて読めなかった、という方を考慮した報告をなさると思われます。

*散会後は、ランチといささかのアルコールでの2次会があるものと思われます。ご希望の方はどうぞご参加ください。
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