美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その28)

2019年10月05日 17時16分24秒 | 経済


*かつての大統領候補ゴアとモスラ―との興味深いやり取りが展開されます。

アル・ゴア
2000年の年頭時、ボカ・ラトンFLで、私は、かつての大統領候補のアル・ゴアと経済について語り合う募金ディナーで隣席したことがあります。

*ボカ・ラトンFLは、アメリカ合衆国フロリダ州パームビーチ郡の都市です。フロリダ半島の大西洋岸にあります。

彼が最初に尋ねたのは、「次期大統領は今後10年間に見込まれる財政黒字5.6兆ドルを支出すべきである」という意見を私がどう考えるか、でした。私は、以下のように説明しました。「5.6兆ドルの財政黒字はありえない。なぜならそれは、民間部門の金融資産としての貯蓄が5.6兆ドル減ることを意味するから。それは、馬鹿げたことだ」と。当時、民間部門には政府によって課税されもぎ取られる額に達しないほどの貯蓄しかなかったし、直近の数千億ドルの財政黒字は十分な個人貯蓄を奪い去り、その結果、クリントン・ブームが終わりを告げようとしていたのだった。

私は、大統領候補ゴアに対して、わがアメリカの過去200年間以上の歴史において、財政黒字の時期は6度あり、その後は例外なく不況を迎えていることを指摘しました。次に私は、このように述べました。すなわち、「来るべき経済的破局は、政府が極端な財政黒字を許容し、私たち民間の貯蓄を飲み干したから起こったのです。その結果の不況は、財政赤字が、私たちの失われた所得を取り戻し、生産と雇用を回復するのに必要な総需要量をもたらすほどに十分な額に達するまで終息しないことでしょう」と。「たぶん、次の10年間に見込まれる5.6兆ドルの財政黒字は何かの間違いで、5.6兆ドルの財政赤字になるでしょう。望ましい正常な貯蓄額は、たぶん、GDPの平均5%くらいでしょう」とも。

その予想は、けっこう当たりました。経済は崩壊しました。それで、ブッシュ大統領は、2003年に大量の財政赤字によって一時的にその崩壊を逆向きに動かしました。しかしその後、そうして、クリントン大統領の財政黒字の数年間で失われた金融資産(財政黒字は、その額と同じだけの民間部門の貯蓄を奪います)を取り戻しうるほど十分に財政赤字を拡大する前に、私たちは、緊縮財政に直面することになったのです。そうして、サブ・プライム負債がもたらしたバブル崩壊の後、状況からすればあまりにも少なすぎる財政赤字のせいで、私たちは再び破局を迎えることになりました。

*「再び迎えた破局」とは、むろん、2008年9月15日のリーマン・ショック以降の大不況のことを言っています。

*「サブプライム負債」について。まず、サブプライムローンとは、クレジットカードで延滞を繰り返すなど信用力の低い個人や低所得者層を対象にした高金利の住宅ローンのことです。優遇金利の「プライム」より信用力が落ちるという意味で「サブ」プライムと呼ばれました。米国で住宅ブームを背景に2004年ごろから住宅ローン専門会社などが貸し付けを増やしました。融資残高は1兆3000億ドル(推定)で住宅ローン全体の1割を占めました。低所得者層でも借りやすいよう、当初の2〜3年間は低い固定金利が適用され、その後は金利が大幅に上がる仕組みが主流でした。住宅価格が上昇している間は担保価値は高まり、ローンの借り換えなどが可能になるため、貸し倒れなどは少なかったのですが、住宅価格の上昇が止まり、金利が上昇したことから、返済不能に陥るケースが相次ぎ、多額のサブプライム負債が発生することになったのです。


最近の財政支出の水準については、課税額が過多であり、税引き後の所得が十分ではないので、「経済」という名のあの大きなデパートで売り物を存分に買うことがかなわない状況にある、といえましょう。

とにもかくにも、アルは、優秀な生徒でした。細部にわたる十分な議論を展開し、有意義な時間を持てたことに同意し、私の予想が当たっているかもしれないとまで言いました。しかしながら、彼は「そこまでは行けないんだ」と言いました。私は、彼の政治家としての立場を理解すると言明しました。彼は、結局、来るべき財政黒字をどう支出するかについて語る立場に立ったのです。
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その27)

2019年10月04日 12時23分25秒 | 経済


*下記のウォール・ストリート・ジャーナルの矛盾した記事は、ほとんどブラック・ジョークではありますが、これが通説としてまかり通っている現状を考えると、笑ってばかりもいられません。長年にわたってプライマリー・バランスの黒字化に血道を上げ、日本をデフレの泥沼に叩き込み続けている日本政府・財務省は、笑う資格などまったくありません。

要点:財務省証券の発行などの10億ドルの赤字の支出は、民間部門(民間部門とは政府部門以外のすべてを意味します)の貯蓄への新たな財務省証券という形での10億ドルの増加をもたらします。

買い手の、新しい財務省証券という10億ドルの貯蓄は、彼の当座預金口座から財務省証券の保持(すなわち普通預金口座)に移し変えられます。そうして、財務省が財務省証券を売った後に10億ドルを支出したとき、その10億ドルの受取人の貯蓄については、彼の当座預金口座が10億ドル分増加します。

だから、この議論のはじめに申し上げたとおり、財政赤字は、政府の外側に金融資産(すなわち、USドルと財務省証券)をシフトさせることなどありません。それとは逆に、財政赤字は、民間部門に赤字分の額の金融資産の貯蓄を増やします。同様に、財政黒字は、私たち民間部門の貯蓄から同額分を差し引きます。そうして、メディアも政治家もさらには頂点の経済学者たちでさえも、《逆に》受けとめています。

*つまりモスラ―は、通説では「財政赤字は、民間部門の貯蓄によって補てんされ、財政黒字は、民間部門の貯蓄の増加をもたらす」となっているが、実は逆に「財政赤字は民間部門の貯蓄を増やし、財政黒字は民間部門の貯蓄を減らす」、と言っているのです。財政赤字がもしも本当に民間部門の貯蓄によって補てんされるのならば、大幅な財政赤字は民間部門の貯蓄の激減をもたらし、利子率を高騰させ、経済に混乱をもたらすことになります。世に出回っている議論は、おおむねそういったところですね。モスラ―は、それらを「空騒ぎにすぎない」と一蹴しているのです。つまり、杞憂にほかならない、と。

1999年の7月のウォール・ストリート・ジャーナルの一面に、見出しがふたつありました。向かって左には、記録的な財政黒字を達成したクリントンを絶賛し、財政政策がいかにうまく展開されているかという説明がなされていました。向かって右には、アメリカ人は十分に貯蓄をしていないので私たちアメリカ人はもっと貯蓄をするためにもっと一生懸命に働かなければならないと述べた見出しがありました。数ページ先に、財政黒字が上昇していることを示す折れ線と貯蓄額が低下していることを示す折れ線のグラフがありました。それらは、ほとんど同じことなのですが、グラフに表すと反対向きになります。政府の財政黒字は、おおむね民間部門のお金の損失(貯蓄の減少分)に等しいのです。

民間部門の貯蓄が増えて、なおかつ、財政黒字が実現される、なんてことはありえません(この場合、民間部門には、非居住者のUSドル金融資産の貯蓄も含まれます)。そんなことはありえないのに、正統派経済学者たちや政府は、それが正しいと思っているわけです。
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自民党衆議院議員・安藤裕、消費増税を語る 

2019年10月03日 16時21分54秒 | 政治


*自民党衆議院議員・安藤裕氏の後援会である「安裕会」から毎月「ひろしの視点」という会報が送られてきます。当方が、安裕会の会員だからです。

九月の「ひろしの視点」には、10月1日から実施された消費増税にふれた文章がありました。以下に、それを紹介します。保守・リベラルの区別なく、なるべく多くの方に読んでいただきたいと思ったからです。


***

10月1日からいよいよ消費税が増税されます。安倍内閣になってから消費税は倍になることになります。今回は軽減税率の導入、ポイント還元など、様々な景気対策が盛り込まれました。それでも、かなり混乱するでしょうし、特に中小企業にとっては、ただでさえ増税が転嫁できずに粗利が減少するだけではなく、軽減税率導入による事務処理負担、ポイント還元のためのキャッシュレス導入促進による手数料負担増といったこれまでの増税時には存在しなかった費用が発生することになり、非常に厳しい状況に追い込まれるのではないかと危惧しております。

また、理論上は違うとされていますが、事実上、消費税は中小企業にとって「外形標準課税」に等しいものです。利益に人件費、減価償却費を上乗せして税率をかければ、大雑把ですが納税額を算出できます。つまり、人件費課税と同じ効果があるのです。だから人材派遣会社がこれだけ増えてきているのです。人材派遣にすれば、人件費を外注費化できるので消費税が節税できます。

*「人材派遣にすれば、人件費を外注費化できるので消費税が節税できる」。これを例示しておきましょう。サービス業A社が、自社の従業員に給料を300万円支払っているとします。これには消費税はかかりません。これを人材派遣に切り替えると、300万円×10%=30万円の消費税が新たに発生します。この30万円は、A社が納付すべき消費税からまるまる控除されます。つまりA社は、人材派遣会社に330万円支払うことによって、消費税を30万円節約できるのです。人件費の外注費化には、ほかに社会保障費の負担減や固定費の変動費化というメリットがあるので、それらのことと相まって、今回の消費増税により、正社員の削減の流れが加速化されることが予想されます。パソナの会長さん、ウハウハものです。

私は以前から、消費増税には反対し、できれば減税すべきだと主張してきました。日本経済再生のためにも、個人消費に大きくブレーキをかけてしまう消費税は減税すべきですし、そのほうが経済も活性化し、法人税や所得税などの税収も上がることが予想されます。

さらに、現在は増税するタイミングとしても最悪です。今年に入ってからの実質賃金は、すべての月でマイナスを記録しています。

一月マイナス0.7、二月マイナス1.0、三月マイナス1.9、四月マイナス1.4、五月マイナス1.3、六月マイナス0.5、七月マイナス1.7、とすべての月で前年を下回っています。

消費税増税は、言うまでもなく実質賃金を強制的に下落させますから、購買力は当然下落します。

ただでさえ、実質賃金が下がり続け購買力が低下しているというのに、消費増税でさらに購買力を低下させるわけですから、間違いなく個人消費は落ち込むことが予想されます。仮に、ポイント還元で落ち込みが少なかったとしても、ポイント還元期間が終了すれば増税がもろに効いてくるために、その時点から落ち込むでしょう。ポイント還元等の増税対策は所詮時限装置であり、恒久的措置ではありません。それに対して、増税は恒久措置ですから、消費抑制効果はずっと続くことになります。

この影響がどの段階で明らかになるか。それは分かりませんが、野党は消費増税を大きな失点として攻めてくるでしょう。いくら3党合意で増税は決定したとは言え、2回にわたって増税延期をし、実際に増税を実行したのは現内閣ですから、その批判は受けても仕方ありません。

野党の動きも目が離せません。先の参議院選挙で「消費税廃止」を掲げて選挙を戦った「れいわ新選組」の山本太郎代表は、この九月から全国行脚を始めています。そこで消費増税批判をし、日本の財政危機は嘘であることを暴き、過去の消費増税分は法人税や所得税の減税の財源となっていて、「全額社会保障に使います」と言っていた政府の説明は嘘だったことが広まっていくと、政府の立場は大変苦しいものとなり、国民の支持も離れていくでしょう。そんな中で、消費税減税で野党がまとまることがあれば、自民党内閣はかなり厳しい状態に追い込まれます。

*安倍総理は、バカなことをしでかしてしまいました。今回の消費増税は、結局、一般国民に塗炭の苦しみを味わわせることになり、内閣支持率は著しく低下し、憲法改正など夢のまた夢となることでしょう。「消費増税凍結、消費減税3%」で衆参同時選挙を敢行しておけば、自民党は圧勝し、悲願の憲法改正を実現できたものを。

そうならないために、MMT(現代貨幣理論)をはじめ、使える理論はきちんと使って、消費減税を自民党が言い始める必要があります

また、今政府では「全世代型社会保障制度改革」について議論を始めています。この改革を行うにしても、「実際に日本の財政は破綻するのかしないのか」「国がどの程度負担するのか」という議論をしなくては、今まで通りの「国の財政が厳しいので自己責任、自己負担増」という結論になってしまい、国民の政府に対する信頼が損なわれる結果となります。そのような結果になることは絶対に避けなくてはなりません。

また、日本の全世帯のうち、金融資産ゼロという世帯が30年ほど前は5%程度だったものが、現在では30%を超えています。世帯所得もピーク時に比べて135万円も下落しています。これだけ国民は貧困化しているのです。

そんな中で、負担増や給付減という案を出すわけにはいきません。この問題を解決するためにも、MMT現代貨幣議論をうまく使う必要があるでしょう。

幸い、10月から11月にかけて、京都大学主催で全国会議員向けのMMTの勉強会が国会内で開催されることが決まっています。

7月にステファニー・ケルトン教授が来日しましたが、その一環で10月にはランダル・レイ教授、11月にはビル・ミッチェル教授が来日します。これにより、国家の財政政策の在り方を根本的に変えることができれば、既存の概念にとらわれない新しい解決策を提案することができるようになるでしょう。これが実現できるように、私も尽力していきたいと考えています。

要するに、MMTの考え方を採れば、年金問題など一気に解決します。年金の原資が足りなければ、国が補填すればいいのです。老後の年金に2000万円の不足が生じるのであれば、その不足分を国が全額補填すればいいのです。国にはそれだけの力があり、そういう力を発揮することが国家なるものの存在根拠なのです。これは、私が勝手に極論を展開しているのではなく、安藤議員が別の「ひろしの視点」で展開しているものの要約です。そうして、これはMMTの正当な理解によるものです。
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大瀧詠一、エルヴィスを語る(その3・完結編)

2019年10月02日 16時38分55秒 | 音楽

メンフィス

*エルヴィスをめぐって、大瀧詠一がいかに《ロック》なるものにこだわっているか、以下の文章からよく分かります。80年代の偉大なる「ポップス・シンガー大瀧詠一」のイメージが強烈に残っているせいで、「ロック・シンガー大瀧詠一」がかすんでしまった感があります。しかし——これは誰が言ったのか忘れてしまいましたが——1969年に登場した「はっぴいえんど」のメンバー4人、すなわち、細野晴臣・大瀧詠一・松本隆・鈴木茂のなかで、ロックに対するこだわりが最も強かったのは大瀧詠一だったのです。そんな大瀧が、セールス的には鳴かず飛ばずの70年代を経て、81年に『ロンバケ』をひっさげ「ポップス・シンガー大瀧詠一」として私たちの前にその雄姿を現した経緯については、これから折に触れ述べてゆきたいと思っております。

こう書いて来ますと、60年以降はエルヴィスはロックをうたってないのか?という疑問がわくと思われますが、答えは残念ながらイエスです。スクリーンのエルヴィス、サントラ盤でのエルヴィス、素敵でした。しかし、何かを徐々に失っていきました。それは、熱いもの、初期の頃にこれがロックだ!と伝えてくれた熱気と興奮です。辛うじて『アカプルコの海』での「ボサノバ・ベビー」をうたうシーンで、その片鱗を窺わせたに止め、正直エルヴィス老いたりの感が強かったのです。

しかし、それを一番よく知っていたのは彼本人でした。

《エルビス・オン・ステージ》

で、ロックンローラーとして、キングとして甦りました。60年代は、お付きの作家が持ち帰りで曲を書いているといった感じで、ハッキリ言って駄作が多く、「サッチ・ア・ナイト」や「ラビング・ユー・ベイビー」といった古い録音の再発の方が新鮮に聞こえたものでした。そこで、ステージを再開した彼は、デビュー当時と同じように、他人の歌でも、うたいたい歌を片っ端からうたうという、思い切った初心に帰る方法を取ったのですが、これが見事に成功、初期の熱気と興奮を再現してくれたのです。ここでエルヴィスはロックとは何かを、再び教えてくれました。ステージであろうと、レコーディングであろうと《ライブ》であること、年令(ママ)には関係ないこと、必要なのは成熟ではなく、熟す間の緊張感のようなものだと、そして直接訴えかける姿勢が何よりも大事なロックの根本である、と。

デビューがブルースの「ザッツ・オール・ライト」で、再デビューが「ポーク・サラダ・アニー」と、彼の故郷・メンフィス地方に関係が深いのも何かの因縁だったのでしょう。

Elvis Presley.... Thats Alright (Mama)- First Release - 1954


エルヴィスのロックは、アクションと色気、この二語に尽きるという気がします。もう映画でしか見られませんが『さまよう青春』での「ミーン・ウーマン・ブルース」、『監獄ロック』での有名なシーン、『ラスベガス万歳』での「カモン・エブリ・バディ」、『オン・ステージ』『オン・ツアー』などで見られる彼の姿、あれがロックなんだナァと、しみじみ思う、今日この頃ではあります。

FOREVER ELVIS

(以上、終了です)

Elvis Presley - Mean Woman Blues ( HD)


Elvis Presley / C'mon Everybody (Viva Las Vegas) ラスベガス万才 / エルヴィス・プレスリー


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