美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その31)

2019年10月10日 21時27分33秒 | 経済


*今回の分を訳しているうちに、気づいたことがあります。昨今の日本政府は、大手マスコミを通じて、年金制度や社会保障全般がいかに危機的な状況にあるのかを触れ回っています。その究極の狙いは、社会保障の全面的な民営化の実現にあるのではないか、と。金融資本からすれば、巨額のレント・シーキングが実現できるし、政府は国民の福利厚生の向上の実現という公的重責から解放されるのですから、お互い利害が一致します。どうやら、正統派経済学が間違った貨幣観に基づく間違った経済政策を流布し、一国の経済活動に害毒を流し続ける現状を放置すれば、私たちには、暗澹たる未来が待ち受けているようですね。なんとかしなければなりません。

ひどい無知に基づく嘘っぱち #4:
社会保障は破綻している
事実*
連邦政府の小切手が不渡りになることはない

もし連邦議会の全議員が一致して信じていることがあるとすれば、それは、《社会保障は破綻している》ということです。オバマ大統領は、「社会保障にもはや資金はない」と言いました。ブッシュ大統領は、一日に4回「倒産」という言葉を使いました。また、マケイン上院議員は、社会保障は破綻しているとしばしば主張しています。

彼らは全員間違っています。

すでに議論したとおり、政府は、自分自身の(現物の)お金をまったく持っていません。支出するときは、私たち民間人の口座の数字を変えるだけです。そこに、社会保障も含まれます。政府の、すべての社会保障の支出を適時になす能力に、操作上の制約はまったくありません。社会保障信託基金口座の数字がどれほどであるかはさして重要ではありません。なぜなら、その信託基金は、FRBのすべての口座がそうであるように、履歴にすぎないからです

社会保障の支払いをすべきときがやってきたら、あらゆる政府がなすべきことは、ただ、受益者の口座の数字を増やし、信託基金の口座の数字を減らすだけです。それらは、政府がしたことの履歴を残すためになされるのです。もし、信託基金の数字がマイナスであるならば、それはそれでよい。

*「それはそれでよい」は、「so it be」の訳です。いかにも米語らしい言い回しだな、と思いました。

それは単に、受益者になされた支払いとしての数字の変更を反映しているだけのことだから。

ワシントンでなされている主な議論のひとつは、社会保障の民営化の是非です。賢明な読者ならもはやお分かりでしょうが、これらの議論はまったくの無意味です。で、それから始めて、その後どんどん進みましょう。

社会保障の民営化とはいったい何なのでしょうか。そうして、社会保障の民営化は、経済全般やあなたがた個人にどのような影響や効果を及ぼすのでしょうか。

社会保障の民営化のアイデアは、以下のとおりです。

1. 社会保障税とその便益を減らす。
2. 当税の減った分は、特定の株を買うのに使われる。
3. 政府の税収はかなり減るので、財政赤字は増える。だから政府は、財政支出のためにもっと多額の財務省証券を売らなければならない(と言われています)。

分かったかな?ざっくりと言い換えましょうね。

*「分かったかな」は、「Got it ?」の訳です。これも、いかにも米語的慣用句ですね。

〇あなたは、毎週もらう給料からの社会保障関連の控除が減る。
〇あなたは、政府が取り去らなかった分を株の購入に充てる。
〇あなたが退職するときに受け取る社会保障が少し減らされる。
〇あなたは、あなたがあきらめた社会保障の受取額よりも所有する株価が上がってほしいと思う。

個人的な観点からすれば、これは、興味深いトレード・オフのように見えます。

*トレードオフとは、何かを達成するために別の何かを犠牲にしなければならない関係のこと。平たく言えば、「あちら立てれば、こちらが立たぬ」です。 卑近な例を上げれば、ダイエットはしたい、でも、美味しいものを腹いっぱい食べたい、というケースです。日常生活やTheビジネスにそんな例はいくらでもころがっていますね。

あなたが買った株は、あなたがかなりの先まで見通すために、その値が控えめにほんの少しだけ上がり続けるだけでよいのです。

*上記の記述が、どうしてトレード・オフの例なのか、はっきりしません。おそらく、私の訳がちょっとズレているのでしょう。下に英文を掲げておくので、適切な訳があればご教示ください。
「The stocks you buy only have to go up modestly over time for you to be quite a bit ahead.」


このプランを良しとする人たちは、「一時的に財政赤字が増えるけれど、政府にしてみれば、社会保障の支払いのための蓄えが少なくて済むので、財政赤字の増加を相殺する。そうして、株式市場につぎ込まれる新たなマネーは、経済を成長させ繁栄をもたらす」と言います。

社会保障の民営化に反対する人たちは、「株式市場は、社会保障にとって危険すぎる」と主張し、その例として2008年の株価の大暴落を挙げます。そうして、もしも人々が株式市場で負けたならば、政府は、退職者を貧困化から守るために、社会保障退職金を増やすことを余儀なくされる、と主張します。
それゆえ、もしも私たちが年配者たちが貧困ラインを下回るパーセンテージが高まる危険を避けたいならば、政府がすべてのリスクを取るほかはない、と。

彼らの両方ともに、ひどく間違っています(いったいだれがそう考えるでしょうか!)。この正統派の議論の主な欠点は、いわゆる「合成の誤謬」です。「合成の誤謬」の教科書的な典型例は、アメフト観戦です。もしもあなたが立ち上がったら、試合がもっとよく見えるでしょう。だから、みんな立ち上がったら、みんながもっと良く見えると結論づけます。違います!もしもみんなが立ち上がったら、だれももっとよく見ることができなくなるばかりか、もっと見えなくなります。彼らはみんな、ものごとをミクロレベルで見ているのです。個人的な社会保障への参加者として見ているのであって、参加者総体というマクロレベルで見ているのではないのです。

マクロレベル(大きな絵、見下ろし)で見た場合何が根本的に間違っているのかを理解するために、あなたはまず、社会保障への参加は、機能的に、国債の購入と同じであることを理解しなければなりません。

説明しましょう。最近の社会保障のプログラムでは、あなたは政府にあなたのドルをあげます。そうして、後ほど、政府はあなたにドルを払い戻します。これは、あなたが国債を買ったのと(もしくは、普通預金にお金を預け入れたのと)まったく同じことです。あなたは政府にあなたのドルを与え、後ほど利子付きでドルを取り戻します。そうです。社会保障は、けっこう良い投資であり、あなたに高率の利回りをもたらすものであることが分かりましたね。しかし、利回りを別にすれば、社会保障と普通預金はまったく同じものなのです(ところで、これを知ったからには、あなたは、合衆国議会の先を進んでいることになります)。
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いまの子どもたちにとってほんとうに必要なことはなんだろう(その2)

2019年10月09日 22時14分25秒 | 教育


前回の終末部で、私は次のように述べました。

人手不足が叫ばれる昨今、今後の10年から20年間にAIが全社会的に急速に広がった場合、私たち大人は、AI「東ロボくん」に負けた80%の受験生に社会人としての明るい未来を提供できるのか、と。また、この問題意識は「教科書が読めない子どもたち」という憂慮すべき現実につながる、とも。

オックスフォード大学の研究チームは、2013年9月に「AI化によって10年から20年後に残る仕事、なくなる仕事」というタイトルの予測を公表しました。それによれば、702種に分類した職業の約半数が消滅し、全雇用者の47%が職を失う恐れがあります。
https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf#search=%27The+future+of+Employment+How+Susceptible+are+jobs+Computerisation%27

『AI VS 教科書が読めない子どもたち』の著者・新井紀子氏は、上記の予測に関連して以下のような指摘をしています。

・注目すべきは、ホワイトカラーと呼ばれてきた事務系の仕事が多いこと。例えば、消滅度第2位に不動産登記の審査・調査、4位にコンピューターを使ったデータの収集・加工・分析がランクインしている。
・ブルーカラー、ホワイトカラーの仕事のうち消滅度が上位のものに共通しているのは、決められたルールに従って作業すればよい仕事であること。
・各国の企業の経営者は、利益を上げ、国際競争力をアップさせなければならない点で共通している。つまり、アメリカで起こることは当然日本でも起こる。

ちなみに、残る仕事のベスト5は、第一位:レクリエーション療法士、第2位:整備・設置・修理の第一線監督者、第3位:危機管理責任者、第4位:メンタルヘルス・薬物関連ソーシャルワーカー、第5位:作業療法士です。高いコミュニケーション能力や理解力を要する仕事と介護や工事現場での通行人の交通整理のような柔軟な判断力が求められる肉体労働が残るということです。

とすると、AI「東ロボくん」に負けた80%が社会人としての明るい未来をゲットできるかどうかは、「意味がわからない」という欠点を有するAIが不得手な「高いコミュニケーション能力や理解力や柔軟な判断力を要する仕事」に就くことができるかどうかにかかっている、と言っていいでしょう。

学習分野との関連でいえば、「高いコミュニケーション能力や理解力」の基盤となる十分な「読解力」を備えていることがとても重要なポイントになります。端的にいえば「十分な読解力を身につけることが80%の生きる道」となるでしょう。

新井氏は、2011年に、日本数学会の教育委員長として6000人の大学生を対象に実施した「大学生数学基本調査」を分析した結果、「多くの大学生が、数学基本調査の問題が解けるかどうかということ以前に、単に問題文を理解できていない、つまり、ごく当たり前の意味での読解力が不足しているのではないか」という疑問をいだくことになりました。では、高校生や中学生はどうなのか。本書から引きましょう。

中学校の授業は、国語の難解な小説や評論文は別として、生徒は社会や理科の教科書の記述は読めば理解できることを前提として進められています。そうでなければ授業は成り立ちません。そこを疑っている人は、少なくとも教育行政に携わる文科省の官僚の方々や、高等教育の在り方を審議する有名大学の学長や経済界の重鎮といった人にはいませんでした。けれども、私は、それまで誰も疑問を持っていなかった「誰もが教科書の記述は理解できるはず」という前提に疑問を持ったのです。

このような問題意識を持った新井氏は、基礎的読解力を調査するためのリーディングスキルテスト(RST)を開発しました。そうして、2016年までに小学校6年生から社会人までの累計2万5000人のデータを収集することができたそうです。

*その後、RSTは規模を拡大しているようです。
RSTのHPのURL https://www.s4e.jp/merit

RSTで問われる読解力は、「係り受け解析」「照応解決」「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定(辞書)」「具体例同定(数学)」の7つです。

「係り受け解析」とは、主語述語関係や修飾被修飾関係の理解です。「照応解決」とは、指示語が指す内容の理解です。ここまではAIの得意分野です。

次に「同義文判定」は、2つの違った文章を読み比べて意味が同じかどうかを判定することです。AIは、まだ十分にはこの力を獲得できていないそうです。研究中との由。

「推論」「イメージ同定」「具体例同定(辞書)」「具体例同定(数学)」の4つは、新井氏によれば、意味を理解せず、常識のないAIにはできそうにないものです。

「推論」とは、小学校卒業までに学校や日常生活で身につけると期待される常識と論理を用いて正しい推論をする能力です。RSTの出題例は以下の通りです。

〔推論 例題〕次の文を読みなさい。
「エベレストは世界で最も高い山です。」
上記の文に書かれたことが正しいとき、以下の文に書かれたことは正しいか。「ただしい」、「まちがっている」、これだけからは「判断できない」のうちから答えなさい。
「エルブルス山はエベレスト山より低い」
①正しい  ②まちがっている ③判断できない  (正解 ①正しい )

「イメージ同定」は、文章と図形・グラフ・表を比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力です。出題例は以下の通りです。


*クリックすれば拡大されます。以下、同様です。

正解は、② です。

驚いたのは、当問題の正解率の低さです。中1(145名)が9%、中2(199名)が13%、中3(152名)が15%台、高1(181名)が23%、高2(54名)37%、高3(42名)36% です。4択ですから問題を読まずに回答しても正解率25%のはずのところ、実際には上のとおりの結果なのです。新井氏の分析によれば、能力値5段階のうち4を過ぎるところまでの受検者は、正答の②と誤答の④が拮抗しています。その理由は、④を選ぶ受検者が、「以外の」や「のうち」の文言を読み飛ばすか、用法が分からないか、その両方かのいずれか、ということになります。これは、AIに特徴的な誤読の仕方だそうです。新井氏の分析が正しいのだとすれば、中高生の大半は、AIと同じ読み方をしていることになります。

読解力の項目別の説明に戻りましょう。

「具体例同定(辞書)」「具体的同定(数学)」とは、国語辞典的な定義や数学的な定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力です。出題例は以下の通りです。

〔具体的同定(数学) 例題〕次の文を読みなさい。
「2で割り切れる数を偶数という。そうでない数を奇数という。」
偶数をすべて選びなさい。
①65 ②8 ③0 ④110  (正解 ②③④)

では、調査結果はどうだったのでしょうか。

まずは、問題分野別正答率です。


新井氏が言うとおり、重要なのは、AIにはまだ難しい「同義文判定」とAIが到底できそうにない「推論」「イメージ同定」「具体例同定」の4分野でどれくらいできているか、です。「推論」「イメージ同定」「具体例同定」の順に数字が激減しているのが分かります。AIが苦手なところは中高生も苦手、という印象です。

この印象をさらに鮮やかなものにするのが、新井氏によれば、「ランダム率」です。サイコロを振ったり当て推量で答えたりしても、正答率は4択なら25%、3択なら33%です。そのことをふまえて「ランダム並みよりもましとは言えない受検者」が何割いるかを計算したものが 「ランダム率」です。端的にいえば、「多少できない」や「できない場合がある」ではなくて「まったくできない」と解すべき数値です。結果は以下のとおりです。



同表のなかの中3生についての新井氏のコメントを3つ引きましょう。

恐ろしいのは、AIと差別化しなければならない「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定」のランダム率です。「推論」は4割、「同義文判定」は7割を超えています。つまり教室で座っている生徒の半分が、サイコロ並みだということです。推論や同義文判定ができなければ、大量のドリルと丸暗記以外、勉強する術がありません。

「エルブルス山はエベレストより低い」かどうかわからない生徒は、「富士山はエベレストより低い」「キリマンジャロはエベレストより低い」「クック山はエベレストより低い」・・・と、あらゆる例を覚えなければならないでしょう。つまり、「一を聞いて十を知る」ために必要な最も基盤となる能力が推論なのです。これが、私たちが「中学生の半数は、中学校の教科書が読めていない状況」と判断するに至った理由です。

数学の定義に従って4つの選択肢のどれがそれにあてはまるかを選ぶ「具体例同定(数学)」のランダム率は、なんと約8割です。「偶数とは何か」「比例とは何か」という定義を読んで、偶数や比例を選ぶだけの、計算も公式も必要ない問題において、中学校3年生の8割がサイコロ並みにしか答えられないのです。こんな状況でプログラミング教育を導入できるでしょうか。プログラミングはまさに数学的な定義のみでできているのですから。


当方が現場で小・中・高の子どもたちを教えていて痛感するのは、いまの子どもたちの多くが文章をきちんと理解して問題に取り組むことができていない、ということです。名詞の拾い読みに近いことをしているとしか思えないような間違い方をするのです。つまり「AI読み」をしているということです。もともとそういう感触はありましたが、新井氏の本書を読んでからは、それが確信に近いものになりました。

「AI読み」は、情報過多社会の病理なのではないでしょうか。いまの子供たちは、心静かに文章と向き合う精神状態をキープするのが困難な社会空間に生きています。それは大人だって痛感していますよね。そこへもってきて、やれアクティブラーニングだ、思考力だ判断力だ表現力だ、プログラミング学習だ、英語4技能だ、グローバルだ、なんだかんだと教育に関係する大人たちが妙にレベルの高そうな要求を次から次に突き付けてくるものだから、ますます、落ち着いて文章を精読する注意力がそがれることになってしまう。いわゆる教育改革なるものをめぐってそんな喜悲劇が繰り広げられているのではないでしょうか。

その喜悲劇の顛末が、AIと不得意分野を共にする「AI読み」の子どもたちの大量発生であるならば、「東ロボくん」に負けた80%の受験生に社会人としての明るい未来を提供できるのかという冒頭の問いに対しては、残念ながら否定的な回答をせざるをえません。子どもたちの危機的な現状に立脚しない、絵にかいた餅のような教育改革は、子どもたちに暗い未来をもたらす百害あって一利なしの愚策であると断じざるをえません。

次世代の子どもたちに幸福な未来をもたらすような、エビデンスに基づく実効性のある公教育を、彼らに提供してあげたいものです。

結論。いまの子どもたちにとってほんとうに必要なのは、神経を過剰に刺激するⅠT化社会の喧騒から精神的に距離を取り、文章とじっくり向き合うことを可能にする静謐な場です。逆説的な物言いになりますが、そういう場こそが、IT化社会にきちんと適応することを可能にする創造的な立脚点になる。そう私は考えます。
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その30)

2019年10月08日 17時51分22秒 | 経済

ウェイン・ゴドリー

*今回、ウェイン・ゴドリーやアバ・ラーナーの名が登場します。彼らは、MMTの礎を築いた人たちです。

ウェイン・ゴドリー教授は、ケンブリッジ大学経済学部の学部長を退き、いまは80歳です。数10年間にわたる英国経済の予測・予言の的中率が最も高い人物として名高い方です。彼は、その予測・予言をすべて《部門分析》によって成し遂げました。その《部門分析》は、「政府の財政赤字はそれと関連する民間部門の金融資産の貯蓄に等しいという事実」がその核心です。

*ウェイン・ゴドリーが、いかに傑出した経済学者なのかは、以下のURLをクリックしてごらんいただければ、お分かりになるのではないかと思われます。と、エラそうに言っておりますが、私自身、名前もその業績も今回はじめて知りました。
https://shin-geki.com/2019/08/13/mmtの源流にして基礎、ゴドリーのsfcモデルとは%ef%bc%9f/

そのなかから、核心部分と思われるところを引いておきましょう。引いたなかの「SFCモデル」(ストック・フロー・一貫モデル)を上記の《部門分析》と読みかえても大過はないものと思われます(言葉遣いがおかしいところは、適宜直してあります)。


SFCモデルはとてもシンプルなモデルです。

「ある経済部門(政府部門/民間部門/海外部門)の黒字(赤字)は、その他の部門の赤字(黒字)である」というものです。例えば政府が黒字(赤字)である場合は、民間部門と海外部門の合計が赤字(黒字)になります。

経済部門間のフロー(貸し借り)が経済部門のストック(金融資産/金融負債)を積み上げるため、「ストック・フロー一貫モデル」と呼ばれています。これは簿記会計を知っている人であれば、誰もが頷くかと思われます。

このシンプルなモデルは、シンプルであるが故に想像以上に強力なモデル、すなわち予言ができるモデルです。

クリントン政権時代にアメリカ政府は政府黒字を達成しました。多くの専門家や当局者は喜びの声を上げましたが、ゴドリーやレイ、モズラーらは政府黒字に警告を発しました政府黒字が発生しているということは(海外部門を無視すれば)過剰な民間赤字が発生していることになります。過剰な民間赤字は借り過ぎということですからバブルの発生を意味します

この警告はITバブルの崩壊という形で具現化しました。ゴドリーらの予言が的中したのです。これはMMTの最初の業績でもあります。意外なことに、MMTは経済黒字への警告から出発しているのです。


以下、本文に戻ります。

しかしながら、彼の予想・予言の的中や会計学的事実の鉄壁のサポートや彼の業績の重要性をもってしてもなお(彼の業績の重要性は、今日においても色あせておりません)、彼は、自分の仕事の正当性や妥当性について、正統派経済学者たちをいまだに説得し納得させなければなりません。

で、いまや私たちは次のことを知っています。すなわち、
〇連邦政府の財政赤字は、正統派経済学者たちがそう信じているのとは逆に、なんら“恐るべきこと”ではありません。むろん、財政赤字は問題含みではあります。行き過ぎた財政支出は、インフレを招くからです。しかし、それで連邦政府が財政破綻し“すっからかん”になるわけではありません。
〇連邦政府の財政赤字は、次世代の子どもたちに重荷を背負わせたりしません。
〇連邦政府の財政赤字は、基金を誰かからほかの誰かに移したりしません。
〇連邦政府の財政赤字は、私たち民間部門の貯蓄を増やします。


では、経済政策において、財政赤字の役割とは何なのでしょうか。それはとてもシンプルです。財政支出が私たち民間部門の生産や雇用を持続できなくなるときはいつでも、そうして、私たちが、経済と呼ばれるあの大きなデパートで売られているものをすべて買えるほどの十分な購買力を持っていないとき、政府は、私たち自身の生産物が、減税か財政支出の増加によって売られうるという確信を得るよう行動することができます。

税金の役割は、私たちの購買力や全体としての経済を規制することです。もしも、生産や雇用を維持するのに必要な課税の“正しい”水準が、たまたま財政支出よりはるかに少なかったら、その結果生じる財政赤字は、支払能力や持続可能性の観点から、憂慮すべき点などまったくないと言っていいでしょう。

*上記の「持続可能性」の次に「or doing bad by our children」という英文があるのですが、どうにも納まりが悪いので、訳出は割愛しました。

もし人々が、働いてお金を稼ぎたいと思っているけど、それを使いたくはないと思っているなら、それでよし!政府は、私たちが支出し私たちの生産物を買うことを決心するまで減税し続けるか、もしくは公共事業などの財政出動をするか、いずれかを、あるいは両方ともになしえます。その選択は、政治的なものです。適正な規模の財政赤字とは、私たちに望ましい生産や雇用をもたらすものです。また、財政赤字がいかに多額であろうと、もしくはいかに少額であろうと、それとは関係なく、私たちが望む政府の大きさも、同様に、私たちに望ましい生産や雇用をもたらすものです。

実生活において重要な物は生産と雇用であって、財政赤字の大きさは、単なる会計上の総計に過ぎません。1940年代、アバ・ラーナーという名の経済学者は、これを“機能的財政”と呼びました。そうして、そういうタイトルの本を書きました(それは今日においてなお有意義なものです)。
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第6回 交観会BUNSO 開催のお知らせ

2019年10月07日 15時31分49秒 | ブログ主人より


当会は、さまざまな資料を使って、世界情勢・国内情勢をめぐる意見交換をする場です。以下のメニューで実施いたします。奮ってご参加ください。なお、定員6名のところ4名参加は確定しておりますので、参加のご意向ならば、なるべく行き違いを避けたいので、その旨、当コメント欄にご記入願います。お名前は、本名・ニックネームどちらでもけっこうです。

〇実施日時 11月03日(日)AM11:00~PM14:00  
             
〇開催会場 珈琲西武 東京都新宿区新宿3-34-9 メトロ会館 
      3階 個室D(定員6名)
      03-3354-1441
*個人名でしか予約ができないので、「交観会BUNSO」ではなくて「美津島明」と表示された部屋です。
地図 https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13048352/dtlmap/

〇内容 
① 美津島明 ・藤井厳喜「ケンブリッジ・フォーキャスト・レ
        ポート」最新号の紹介と意見交換
       ・最近読んだ書籍の紹介と意見交換
②さいとうあや ・「こんなことがありました」コーナー
③村田一    ・『あるユダヤ人の懺悔 日本人に謝りたい』(モルデカイ・モーゼ・沢口企画 1000円+税) 
         の紹介と意見交換  

目次
1 戦前の日本に体現されていたユダヤの理想
2 二元論的思考法 典型的なユダヤ的思考パターン
3 日本人が知らない東京裁判の本質
4 戦後病理の背景 日本国憲法はワイマール憲法の丸写し
5 マルクス主義はユダヤ民族解放の虚構仮説
6 極左的戦後改革を強行したユダヤの秘密

☆当集いの名前の由来
辞書に「交観」なる言葉はございません。造語です。参加者それぞれの持ち場で育んだ世界観を取り交し合う、という意味合いです。BUNSOは、英語やフランス語で、「文殊菩薩」を意味します。もちろん「三人寄れば文殊の知恵」の意味を込めました。参加者の、文字通り「文殊の知恵」から誕生した会の名前です。

*費用:場所代800円×3時間とドリンク代を均等割りします。また、メンバーが他のメンバーに配る資料のコピー代は1枚10円とします。

*『あるユダヤ人の懺悔 日本人に謝りたい』は、なるべくお読みになったうえでご参加ください。なお、村田さんは、忙しくて読めなかった、という方を考慮した報告をなさると思われます。

*散会後は、ランチといささかのアルコールでの2次会があるものと思われます。ご希望の方はどうぞご参加ください。
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その29)

2019年10月06日 14時44分20秒 | 経済


*モスラ―とルービンのやり取り、けっこう生々しいですよ。モスラ―によれば、当時のクリントン政権の主要スタッフのなかで、緊縮財政の呪縛から逃れることができている者はひとりもいなかったそうです。

ロバート・ルービン
*以下は、Wikipediaからの引用です。Wikipediaは、ルービンがクリントン政権下で主導した緊縮財政を肯定的に評価しています。「財政赤字は悪いことであり、財政黒字は良いことである」という通説・俗説の立場に立っているわけです。

《ロバート・エドワード・ルービン(Robert Edward Rubin, 1938年8月29日 ニューヨーク)はアメリカ合衆国の銀行家・財政家。 ゴールドマン・サックス共同会長、国家経済会議(NEC)初代委員長、財務長官、シティグループの経営執行委員会会長を歴任した。 クリントン政権では財政均衡を主導し、レーガン・ブッシュ政権以来の負の遺産である財政赤字の削減に努めた。》

***

10年前、経済が破局を迎える直前の2000年前後に、私は、クリントン大統領政権の財務長官だったロバート・ルービンや約20名のシティバンクの顧客たち(client)と個人的な顧客会議に出席しました。

*本文の流れとはちょっと異なりますが、clientとcustomerの相違点について一言。customerは、例えばコンビニで商品を購入する客、ネット通販で商品を購入する客などの、企業などではなく一般の客というニュアンスの「顧客」です。それに対して、clientは、「取引先・得意先」などビジネスで関係のある、おもに会社・企業などの「顧客」です。

ルービン氏は、経済について語り、「低い貯蓄率はやがて問題を惹起するものと思われる」と言いました。数分後、私は低い貯蓄水準が問題であることに賛成であると言い、「ボブ、ワシントンのだれが、財政黒字が民間部門から貯蓄を奪い去ることに気付いているんだろうね」と付け加えました。

*素朴な疑問なのですが、「ロバート・ルービン」が、どうして「ボブ」というニックネームになるのでしょうか。お分かりの方、御教示ください。

*その後、FBで、知人の村田一さんから、次のようなコメントをいただきました。ありがとうございました。

村田 一 ‟「ロバート・ルービン」が「ボブ」というニックネームになる理由”をGoogleで「ボブ 名前 略称」で検索したところ、
<英語圏の人々が日常的に使う名前は、正式名ではなく短縮形であることが多い。 短縮形が本名である人もいる。 例えば、ロブ (Rob)、ボブ (Bob)、ボビー (Bobby)、バート (Bert)、バーティー (Bertie) 等はいずれも短縮形であり、正式名はロバート (Robert) である。>
という情報にヒットしました。ロバート⇒ボブになるというわけです。その出典はWikipediaでした。

〔https://ja.wikipedia.org/.../%E8%8B%B1%E8%AA%9E%E4%BA%BA...


彼は、「そんなことはない。財政黒字は、貯蓄を増やすんだ。政府が黒字になったとき、市場で財務省証券を買うから、貯蓄と投資を増やすんだよ。」と応えました。それに対して私は、「そんなことはないよ。財政黒字が生じると、ぼくら民間部門は、税金を支払うための現金を得るためにFRBに手持ちの財務省証券を売らなくてはならなくなるんだよ(そうやって、FRBの普通預金口座を現金化するのだ)。そんなわけで、私たちの金融資産と貯蓄の純額(金融資産の純額=金融資産残高−金融負債残高 *訳者注)は、財政黒字額と同額のところまで減るんだよ。」とやり返しました。するとルービンは、「そんなことはない。あなたは間違っている。」と決めつけました。私は、それ以上つっこむことをせず、会合は終了しました。私の疑問は、氷塊しました。あのルービンが、財政黒字は貯蓄を減らすことを理解していないならば、クリントン政権のだれも理解していないことになります。経済の破綻は、必定でした。

2009年1月の貯蓄レポートが公表され、貯蓄額が増加し、GDPの5%に達したこと、および、それは1995年以来最高水準であることが報告されたとき、当局は、合わせて、財政赤字もまたGDPの5%を超え、1995年以来の最高水準であることを報告し忘れました。

正統派経済学が、いまだに、財政赤字が貯蓄を増やすことを分かっていないのは明らかです。そうしてもしもアール・ゴアがそのことを分かっているのなら、彼は真実をまったく述べていないわけです。ごらんください、今年、政府の財政赤字が増え、貯蓄も増えていますよ。ふたたび申し上げます、民間部門(アメリカ在住者と非居住者の両方をふくみます)のUSドルの純貯蓄の唯一の源泉は、合衆国政府の財政赤字による支出なのです。

しかし、見ての通り、私たちにもっと貯蓄をさせたがっている人々は、同時に、財政支出の削減か増税によって、私たちの貯蓄を奪い去り、「財政均衡」を実現したがってもいます。彼らは、二枚舌なのです。彼らは、問題を新たに作っているのであって、断じて、問題を解決しているのではありません。で、彼らは、スーパー・エリートときているのだから、困ったものです。 が、ただひとり、例外的な人がいます。
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