美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

いまMMTの有効性を主張することは間違っている

2022年04月17日 23時04分31秒 | 経済


かつて当方は、財務省の主導する緊縮財政が日本経済衰退の元凶であると判断しました(いまでもそう考えています)。

その現状を打破する一助になればと考え、拙ブログでMMT(現代貨幣理論)を訳したものを何度もアップいたしました。

しかしいまは、MMT推進を主張する時期ではないと考えています。

なぜなら、アメリカ発の8%をはるかに超える悪性インフレが、ウクライナ戦争の影響とも相まって、世界を席捲しつつあるからです(ついでながら、エネルギーと食糧の自給率をできうる限り上げることも喫緊の国家的課題です)。

デフレ下においてMMTを主張し、その論に基づく施策の実行を求めることは有効であるかもしれません。しかし現状は、長年のデフレに加えて悪性インフレが蔓延するスタグフレーションに突入しつつあるのです。

私見によれば、そのインフレの背景に、基軸通貨ドルの地位低下があります。つまり今回のインフレはいつまでつづくのか分からないのです。

MMTは、平たく言えば「悪性インフレにならない限り、通貨発行に制約はない」という意味のことを主張しています。

その論に従えば、世界が悪性インフレによって席捲されつつある現状において、新たな通貨発行はすべきではないことになります。

ところが三橋貴明氏を筆頭に、これまでMMTを推進してきた論者が、そのことを明言しているのを当方は寡聞にして存じません。

なぜかはよく分かりませんが、それは自身の発言に対する責任を担おうとする言論行為として不健全であると、当方は考えます。

現状においてMMTの推進が不適切であることを言明したからといって、それが財務省の緊縮財政を肯定することにはまったくつながらないのだから、それをためらうには及ばないと、当方は考えます。

というのは、MMTの是非とは関係なく、スタグフレーションという日本経済を覆う新たな暗雲を打破するには、国民経済の中核としての購買力を強化する消費税凍結が絶対条件であるからです。消費税凍結は、財務省の緊縮財政とは鋭く対立する考え方なのです。

現状において反緊縮財政陣営が一致結束するには、MMTの一時棚上げに明確に合意することが必要であると、当方は考えております。

状況の変化に柔軟に対応せず、持論の無謬性を主張し続けることは、論のイデオロギー化をもたらし、その説得力を低下させる愚かなふるまいであると、当方は考えます。
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【若手投資専門家の語る逆イールド】

2022年04月16日 00時29分51秒 | 経済


最近、逆イールドについて触れる機会が多かったような気がします。

のみならず、世間でも逆イールドについていろいろと語られているようです。最近アメリカで起こったことだからでしょう。

そこで、たまたま目にした動画が、逆イールドを分かりやすく説明していたので、アップすることにしました。

言っていることをまとめれば、以下のようになります。

「90年代以降に起こった過去4回の景気後退局面は、すべて逆イールド発生の1年半くらい後である。しかし、両者の関係は必然的なこととは言えない。さらに投資の世界は、予想のつかないランダム・ウォークの世界であり、予想外のことが起こるブラック・スワンの世界でもある。だから、「これが起こったらかならずこうなる」とは断言できない。しかし、逆イールドの原因が米国中央銀行Fedの利上げ政策の断行であることに鑑みれば、いずれ株価が暴落することは、まず間違いない。そのことを踏まえて、これからの投資行動を決めるべきである」

以上です。

よろしかったら、ごらんください。いろいろとお役に立つものと思われます。


【知らなきゃヤバい】逆イールドに惑わされる危険な罠(株式投資)

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現在進行中のインフレは、第一波に過ぎない

2022年04月14日 21時11分46秒 | 経済


今回は、投資サイト「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」4月13日掲載の論考の紹介をします。その内容は、タイトルにあるとおり「現在進行中のインフレは第一波に過ぎない。過去のデータからすれば、第二波・第三波が世界経済に押し寄せ、その程度は後の波ほどはなはだしいものとなる」です。

とても暗いシナリオではありますが、けっこう説得力のある議論が展開されています。

では、ごらんください。

***

3月のアメリカのインフレ率は遂に8.6%に
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/22933
2022年4月13日 GLOBALMACRORESEARCH

米国時間4月12日にアメリカの最新のCPI(消費者物価指数)統計が発表され、3月のインフレ率は遂に8.6%となった。

物価高騰続く
2月の7.9%から更に伸びてきたが、後述するように2月末から始まったウクライナ情勢によるインフレをまだ反映していない数字であり、更なる上昇が予想される。

まずはいつも通りチャートを見てみよう。いつまでも上に伸び続けているのでもはや毎月変わらないチャートに見える。



だがコロナ前の水準が山のふもとのように見えてきた。もうアメリカにインフレが2%の水準は戻って来ないのだろうか。

しかし今回の問題は前述したように高いインフレ率自体ではない。このインフレ率がウクライナ情勢に起因する物価上昇を含んでいないということである。

何故か。まずウクライナ情勢で価格が上昇したのは例えば金融市場で取引されている小麦先物である。小麦価格のチャートは次のようになっている。



これはロシアとウクライナがともに小麦の輸出国であることに起因する。筆者は年始から小麦に投資していたので、一度上がりすぎた時に一部を利益確定している。

• ウクライナ危機でコモディティ価格高騰、小麦を一部利確してシルバー買い
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/20954

だが先物価格は金融市場における価格である。この先物価格がまず生産者物価(企業が仕入れる時の物価)に影響を与え、その後に消費者向けの商品に転嫁されて消費者物価に影響を与える。

このプロセスには通常少なくとも数ヶ月を要するので、2月末から始まったウクライナ危機による物価上昇は3月の消費者物価指数にはほとんど全く反映されていないはずである。

よって8.6%はまだまだ通過点に過ぎず、アメリカのインフレ率は恐らく10%に向けて更に上昇してゆく可能性が高い。

国債金利は一時上昇を休止
さて、金融市場の反応はどうだっただろうか。少し意外だったのは、今後の利上げ観測を反映して推移する2年物国債の金利が急落したことである。



ここまで急上昇してきたのであまり下がったように見えないが、2年物金利は2.6%台から2.4%台まで落ちているので、ほとんど利上げ1回分下がったことになる。

市場は8.6%という高いインフレ率でも不満だったと見える。あるいは3月から高インフレを目標に金利を上げてきたので、「噂で買って事実で売る」の格言通り、材料出尽くしで下がったのだろう。

一方で債券市場では一時2年物国債の金利が10年物を上回る長短金利逆転が発生していたが、今月に入って10年物国債の金利が上がってきているので、今は解消されている



長短金利逆転は逆イールドとも言われ、景気後退の前に表れることが多い。筆者は逆イールドを去年から予想しており、それは達成されたが、今後の金利の動きはより複雑になってくるだろう。

• 長短金利逆転を予測できた理由と今後の不況と株価暴落について
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22559

何故ならば、逆イールド後の10年物国債の金利上昇は、インフレが2年や5年で終わらず、10年規模のものになってくるのではないかという市場の不安を反映しており、また市場はそろそろ株価下落が金利に及ぼす影響をも考えなければならなくなってきたからである。

*ここで言っていることは多少の説明を要します。まず、2年物国債の金利は今後2年間の政策金利の予想値に左右されるのに対して、10年物国債の金利は、今後の名目経済成長率(実質経済成長率+インフレ率)に左右されることを押さえていただいたい(当論者がそう言っていますので)。通常は、10年物国債の金利は2年物国債のそれよりも高く、なだらかな右肩上がりのいわゆるイールドカーブを描きます。ところが、長期の経済見通しが悪かったりして10年物国債の金利が2年物国債の金利を上回ることがあります。それを「長短金利の逆転」もしくは「逆イールド」と言います。逆イールドは、株価大暴落や長期の経済見通しの悪化などの経済の異変を市場が予想するときに現れる経済現象といえるでしょう。とはいうものの逆イールドはずっと続くわけではありません。上記のとおり、「インフレが2年や5年で終わらず、10年規模のものになってくるのではないかという市場の不安」は10年物国債の金利を上げる要因となりますし、「市場がそろそろ株価下落が金利に及ぼす影響をも考えなければならなくなって」くると、それは2年物国債の金利を下げる要因にもなりえます。とすれば、確かに長短金利差は複雑な動きをすることになります。当方は、上記をそのように読み解きました。〔引用者 注〕

• アメリカの長期金利、2018年世界同時株安を引き起こした水準に近づく
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22889

米国株のチャートは次のように推移している。



したがって今後の金利の動きを予想するためには、インフレがどれだけ長引くかということと、そして今後の株価の動向を考慮に入れる必要があり、去年立てた予想よりも複雑な考察が必要となってくるだろう。

結論
特に10年物国債の金利が示唆するインフレの長期化は投資家にとって非常に重要である。

今後のシナリオは以前述べた通りである。株価の下落は実体経済にも一時的なデフレ効果を生むだろうが、中央銀行はそこで金融引き締めをある程度緩め、その時行われる金融緩和が今より更に大きなインフレ第2波を生むだろう。

ここの読者であれば1970年代の物価高騰については十分知っているだろうが、当時の物価高騰がコロナのように何回かの波に分けて来たように、今回の世界的インフレも同じようになるだろう。以前書いた通りである。

• 現在のアメリカの物価高騰はインフレ第1波に過ぎない
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/17958

そして第2波は今よりも酷くなる

ここではインフレも株価下落も事前に書いているので、事前に読んでおいてもらいたい。後からニュースを気にしても遅いのである。
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Harano times 【西側諸国のMSMは、CIAのコントロールによって腐敗している】

2022年04月13日 17時52分07秒 | 世界情勢


ドイツのジャーナリスト・ウド―=ウルフコット氏の2014年のインタヴューをHarano times さんが音読したものです。なぜ、そういう形になるかというと、Harano times さんが海外の動画をアップしようとするとYou tubeから警告を受けたり禁止されたりしてアップできないからです。元動画はロシアのメディアを通じたものなので、ある程度割り引く必要があるとも思われす。しかし、ウルフコット氏自身の経験に基づく内容なので、そのハンディを補ってあまりあるリアリティが十分にあります。

ちなみにウルフコット氏は、ドイツMSM界のフロントランナーとしてのキャリアを有する人物です。

西側MSM圏内に位置する日本人のひとりとして、傾聴に値する内容です。

【動画不可シリーズ】
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世界経済のスタグフレーション突入はほぼ確実である

2022年04月10日 19時34分44秒 | 世界情勢

レイ・ダリオ

わが国の岸田首相は、8日の記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻により、「我が国のみならず、世界各国の人々が、ガソリン価格、電気代、食材価格などの高騰に苦しんでいる」と述べました。それを踏まえて、エネルギー市場の安定化のために1500万バレルの石油備蓄の放出を決めたこと、4月中に「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を取りまとめることを強調し、「国民の生活を守るために最大限の対策を迅速に講じていく」としました。

さらに国民に対して「非道な侵略を終わらせ、平和秩序を守るための正念場だ。国民の皆さんの理解と協力をお願い申し上げる」と呼びかけました。

おそらく、その「緊急対策」とやら、残念ながらあまり効果が期待できないのではないでしょうか。なぜなら日本経済の問題点のとらえ方が間違っているからです。

日本経済は、1997年以来25年間のデフレ不況下にあります。少し景気が持ち直そうとするたびに消費増税を断行して、デフレ脱却の芽を摘み続けるという愚策を繰り返してきたからです。それゆえ四半世紀にわたって、GDPや一般国民の賃金がまったく上昇しないという世界でも珍しい悲惨な現象が起きているのです。日本の経済政策は、世界最低というよりほかはありません。世界に冠たるバカ国家というわけです。

だからほぼ全世界がコロナに対して開放政策に舵を切っているとき、日本だけが相も変わらず国民全員マスク着用を実施し続けることにもなるのでしょう。デフレがあまりにも続きすぎ、心がちじこまっているのでしょうね。

そういう情けない状況下の日本に、世界を席捲しつつあるインフレ(物価高)がこれから本格的に押し寄せます。デフレ不況下のインフレ進行を経済学用語でスタグフレーションと言います。通常は、景気が過熱気味になってインフレが進行するのですが、不況下で物価高が進行するのがスタグフレーションです。最悪の経済状況なのです。

つまり日本経済の問題点は、岸田首相が主張するような単なるインフレではなくて、スタグフレーションなのです。よって、日本経済の今後の課題は〈スタグフレーションからいかに脱却するか〉です。

日本経済がスタグフレーションから脱却するための基本を申し上げれば、国民の購買力を着実に強化することによってデフレからの脱却を図りながら、輸出品の価格高騰を緩和するために、現在の円安傾向から円高にドル円市場が転化するように輸出依存の脆弱な経済体質を変えることです。

では「国民の購買力を着実に強化する」にはどうしたらよいのでしょうか。それは原理的には簡単です。国民の購買力を奪い続けている消費税を、スタグフレーションからの脱却が十分に実現するまで凍結すればよいのです。消費税凍結の断行が、スタグフレーションからの脱却の絶対条件なのです。

岸田首相の現状把握には、もう一つ致命的なミスがあります。それは、世界の物価高の根底にある原油高の原因をロシアのウクライナ侵攻に求めている点です。原油高は実はロシアのウクライナ侵攻の前からありました。

その原因は、西側先進諸国の脱炭素政策推進による自国内における原油供給量の減少です。それは、バイデン政権下のアメリカで顕著です。アメリカの場合、不正選挙で誕生したバイデン政権の過度の現金給付もインフレの一因となりました。

だから世界的物価高を押さえるには、西側先進諸国が、国民生活に災いをもたらす脱炭素政策を放棄することが必要です。

ところで岸田首相は、ロシアのウクライナ侵攻のせいでインフレが起こったかのような言い方をしていますが、正確には、NATOがすなわちアメリカが過度にロシアを追い詰めたことがロシアのウクライナ侵攻をもたらし、それに対するアメリカの強硬な対露経済戦争が原油を筆頭とするコモディティのさらなるインフレをもたらしたというべきでしょう。一連の事態はすべてアメリカ民主党主導なのです。そのことははっきりしておきたく存じます。

(こう言うと、MSMが垂れ流す西側のプロパガンダを絶対的真実と信じて疑わない方々から「じゃあ、プーチンのしでかしたことを弁護するのか」と反論されてしまいそうです。当方の意図はそこにはありません。プーチンのウクライナ侵略という残念な出来事の歴史的な経緯を最低限押さえておきたいと考えるだけです。むろん、二度と同じ過ちを繰り返さないために)

以上のように、岸田首相の発言は事態の根本に迫ったものではない皮相な見識に基づいたものです。 

さて、前置きが長くなりました。

今回は、「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」の4月9日の論考を紹介します。

タイトルにあるとおり、世界経済のスタグフレーション突入がほぼ確実であることが述べられています。

アメリカは目下デフレ不況ではないから、これからデフレ不況になるのです。日本経済の海外依存体質が続く限り、日本のデフレ不況はさらに泥沼化することが予想されます。

では、紹介いたします。


***

世界最大のヘッジファンド、アメリカ経済がもう手遅れであることを認める
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/22771

2022年4月9日 GLOBALMACRORESEARCH
引き続きYahoo! Financeによる世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者レイ・ダリオ氏のインタビューである。今回はインフレと利上げについて語っている部分を取り上げたい。

利上げと株式市場
アメリカでは物価が高騰しており、Fed(連邦準備制度)は今年かなりの速度での利上げを行おうとしている。

• 3月FOMC会合結果は利上げ開始、政策金利は年内に2%以上となり株価暴落へ
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21514

見通しでは政策金利は今年中に2%以上の水準になるという。だがダリオ氏はこの金利見通しについて次のように述べている。

7回の利上げとは何と多いんだと皆が言っているのを見ると笑ってしまう。金利を2%か何かに上げたとして、それは確かに資本市場を苦しめ、株式の保有者にとって難しいことになり始めるだろう。

債券や預金のリターンが上がり、資金が引き締まり、リスク資産など他のものの魅力を減らしてしまう。ハイテク株などキャッシュフローの想定期間が長いものは特にそうだ。


*キャッシュフローとは、文字通り一定会計期間にどれだけの現金が流入し、どれだけの現金が流出したかという資金の流れのことです。ハイテク株のような高成長企業の予想キャッシュフローは、①足元の水準が『相対的』に低く、②将来に向かって成長が加速、③場合によっては指数関数的な成長を想定しているケースが多いと考えられます。このような特性により通常の企業に比べ、高成長企業のキャッシュフローは遠い将来に生成されると期待される部分のウェイトが相対的に高いことが特徴です。そのことを上記で「キャッシュフローの想定期間が長い」と言っているようです。〔引用者 注〕

金利が高くなれば、上下動の激しい株式を保有するリスクを取らなくとも国債を保有するだけである程度のリターンが得られてしまう。

例えば今後の利上げを織り込んで2年物国債の金利はほとんど2.6%に達している。




国債を2年保有していれば2.6%のリターンが得られるということである。

一方の米国株は金融引き締めでぐらついており、2年で果たして同じリターンを達成できるだろうか。




*上記の二つのグラフの併記によって、Fedの利上げ政策によって、投資対象が株から国債に移らざるを得ないことが、私たち素人にもよく分かります。〔引用者 注〕

これが株式の投資家が直面している問題である。2.6%の2年物国債は既に株価と実体経済に悪影響を及ぼしつつあり、以下の記事で書いたように今後の悪化は債券市場では既に織り込まれている。

• サマーズ氏: 長短金利の逆転は景気後退を引き起こさない
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22666

*米国債の長短金利の逆転はなぜ起こるのか。当論者は「短期金利は今後の利上げ動向を示すので、市場は明らかに中央銀行が今後利上げするということを予想している。他方、その利上げはローンの金利上昇などを通して消費を停滞させる。あるいは低金利に依存してきた株式市場に害を与えるだろう。そうすれば短期的な利上げが長期的な経済成長を阻害し、いつか中央銀行は利下げに方向転換をせざるを得なくなる。そのような投資者の予想をトレースしたものが長期の金利である。だから長期が短期の金利より低くなる」と言っています。上記の「今後の悪化は債券市場では既に織り込まれている」という言葉が、以上述べた事態を指しているものと思われます。 〔引用者 注〕

利上げは十分か
一方でダリオ氏は金利が2%に上がるだけではインフレ抑制には不足だという。彼は次のように続ける。

だがそれでも金利は2%か2%を少し上回る程度で、インフレ率はそれよりもかなり高い7%だ。長期的には5%くらいに収まるだろうか。
そうすると、2%の金利があっても実質的には(債券や預金の保持者は)インフレに対して資産を失ってゆくことになる。

それで人々は債券や預金から離れ、インフレをヘッジするために貴金属や農作物などのコモディティに投資するようになる。ものが買われるのでインフレは止まらない。それが前回の話である。

• 世界最大のヘッジファンド: 人々がどんどんインフレマインドに変わってゆく
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22710

だが中央銀行はインフレ抑制のために十分な利上げを行うことができない。ダリオ氏は次のように続ける。

Fedがインフレに対応するために十分な引き締めを行えば、株価と実体経済が沈んでしまう。
だからこれから1年でFedはかなり難しい立ち位置に置かれることになる。インフレ率はまだまだ高く、それが市場と経済にのしかかっている。


結論
どうすれば良いのか? ダリオ氏はそう聞かれて絶望的な答えを返している。

中央銀行はますます難しい選択に迫られており、この状況はスタグフレーションをもたらすだろう。
インフレを抑制したいが、インフレが抑制できるほど金利が高いと経済が死んでしまう。
中央銀行に何が出来るか? 何も出来ない。彼らは既にその状態に置かれている。
中央銀行はスタグフレーションに対処しなければならない。しかしそれは彼らの処理能力を完全に超えている。


アメリカ人にはよくあることだが、彼らは出来る限り楽観的であろうとする。経済学者ラリー・サマーズ氏との対談の時にはダリオ氏はこの状況に警鐘を鳴らしながらも「だがわたしたちは両方間違っているかもしれない」とスタグフレーション回避に含みを持たせた。

だが今回はここまではっきり言ってしまった。やはりどう考えてもこの状況では物価高騰か株価暴落のどちらかは回避できないからである。

• 2022年の株式市場: パーティは終わっているのにまだ踊っている人がいる
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21985

聞き手は絶望的な顔をしながらダリオ氏に恐る恐るソフトランディングは絵に書いた餅(原文:pie in the sky)かと尋ねる。

ダリオ氏は最後まで楽観的であろうと頑張り、かなりためらいながら次のように言った。

んー、ソフトランディングと言うのは…あー、どうだろう。ええと…んー。…そうだ。絵に書いた餅だ。高確率でわれわれはスタグフレーションに突入するだろう。
(後略)
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