(1954年)山田栄子誕生日
声優デビュー作は『赤毛のアン』のアン・シャーリー。
それもあってか、世界名作劇場では度々キャストを務められた。
他の登場人物同様、今では山田さん演じるアン以外のアンを想像することは、少なくとも僕には出来ないが、当時本人は特別アンに対して思い入れがあった訳でなく、それどころか原作すら読んだことがなかったそうだ。
そんな彼女がオーディションを受けたきっかけは何と二千円(笑)。
>この魅力的なアンに私が出逢えたのは、今は亡き劇団芸協の大先輩、宮内幸平さん(『アルプスの少女ハイジ』おんじ役、他)の一言のおかげでした。
「おい栄子、『赤毛のアン』というアニメのオーディションをやってるそうだ。おまえも行ってみたらどうだ、交通費を出してくれるそうだぞ、二千円!」
「わっ! 二千円!? オーディションに行くだけで!?」
私の耳には二千円だけがひびきわたりました。
そのころの私は、一年の半分を子供向けミュージカルの旅公演をしている女優で、あとはアルバイトの生活でした。
オーディションにちょっと行っただけで、二千円もいただけるなんて、それだけでうれしかったのです。
>後で聞いて驚いたのですが、何百人もの方々が赤毛のアンの役を目指しオーディションを受けたとか。
私のように二千円のために行った人など、きっといないでしょうね。
~竹書房文庫『赤毛のアン』巻末・本人による解説より抜粋
そんな感じで気楽に参加したオーディションが、山田さんのその後の人生を決定づけるとは……。
最初は思うように上手く行かなかったものの、周りのスタッフにも支えられ、徐々に役者魂を発揮、その才能を開花させていった。
選んだ側のエピソードも面白い。
監督を務めた高畑勲がその辺の事情を明かしている。
>アンの声を決めるときに、島本須美さんと山田栄子さんの2人が候補として残ったんです。
それで大半の人は島本さんを推しました。
島本さんが本当にきれいな声だったからです。
原作にもアンはきれいな声だとあるし、当然島本さんですよね。
しかし、僕が山田さんを選んだんです。
(略)この作品にはユーモアが必要。
澄んだ声でエロキューションも一流だと、すんなり身に合った台詞に聞こえてしまうのではないか。
>でもアンはある意味背伸びしてるんだし、子どもにしては言葉を飾りすぎるわけなんだから、それをちゃんと感じさせたい。
そう考えると、山田さんの声のほうがいい。
>彼女には失礼だけど、まだ上手でもない。
でも、その一所懸命さがいい方に働くに決まっている。
一所懸命背伸びした物言いをしたり、子どものくせにあんなことを言ったりして…というようなことが醸し出すユーモアというのは、なかなか言葉の内容だけで伝えるのは無理なんです。
ちょっとひっかかりがあって初めてユーモアが出てくるはずだと思ったんです。
~スタジオジブリ発行『熱風』2010年6号より
名劇的に仮定するなら、セーラ・クルー(『小公女セーラ』)の島本須美さんが、もしもアンを担当していたら……。
グリーン・ゲイブルズにやって来た、人一倍お喋りで空想好きな女の子の段階で、その風変わりさに似合わず妙に落ち着きを感じさせる、ややちぐはぐな印象のアンになっていたかも知れない。
そう考えると高畑監督の洞察、そして選択は正しかったと言えよう。