その4
船尾に回り、腕の力で上がろうとするのですが体が全く上がりません。長靴を脱ぎ(ちゃんとボートに投げ入れてますが)、帽子をとり、サングラスをとり、何度も何度も試しました。それでも無理でした。
実際には、体をある一定の高さ以上に上げることができません。ライフジャケットが水面より上に少しでも出る途端に動けなくなります。
想像以上に、ライフジャケットが浮力を稼いでいる様子。このままでは・・・。
『とにかく掴むところが欲しい!』そう思い、船中の備品に目をやります。
船尾からクーラーボックスの取っ手をつかんでも、どこにも引っかからず。
スノコも浮いてしまいどうにもなりません。
アンカーを降ろす前、ポイント周辺には左前方50m程度の位置にボートが1艘。投錨してましたが、こちらのアンカーが伸びきっているため、すでに視界に入らない位置関係(水面付近ですから視野も稼げない)。
今回、ライフジャケットのポケットには呼び笛を入れておらず、この距離では声を出しても届かないと判断。その時、頭によぎったのが体温の低下。春とはいえ、水温13度。まして、泳ぐための装備を身につけておらず、岸まではどう見ても300m以上。
長男の笑った顔を思い出し、家で待つ3人の家族の事を考えると、なんとしてもボートに戻らなければ!と気力が湧いてきます。
それでも、久々に漕いだボートの疲労も手伝い、左右の腕は悲鳴を上げてます。
残された時間は僅か、もう一度冷静に海の状況を考えました。
船の構造は横波に弱く、正面から来る波には強くなってます。
船尾を下げて、体を滑りこまそうにも、船尾は全く下がりません。
今の時点では、アンカーが利いており、船尾は風下に向いています。
横波も受けにくい位置関係です。
目に留まったのは、オールを固定する金具。
船の右舷に体を流し(この時点で、握力はほとんどなく船べりを掴む手に力が入らない)手首を金具にかろうじて引っ掛けました。
本当に掴めないのです、ハンドボールのお陰で手首と握力には自信がありましたが、握力は殆どありませんでした。
その5へ続く・・・