「篠山紀信展 写真力」  東京オペラシティーアートギャラリー

2012年11月03日 | 美術
 10月初旬に「篠山紀信展 写真力」へ行ってきた。

 入ってすぐに、その大きさに圧倒されるが、大きさもさることながら、
最初のGODの場に掲げられた人々のオーラに押し返されそうになる。

 特に三島由紀夫は誰よりも印象深かった。聖セバスチャンが乗り移りそうな
その哀しげな視線と、繊細な表情に相反するようなその肉体に、なんとも
複雑な感情がこみ上げてくる。衝撃的な最後を遂げる作家の美学の結晶なのか?
 当時の彼を知る写真家であればこそ撮れた姿が、本当の彼を垣間見せている。

 また、写真であればこそ本当の姿や虚像のハザマの微妙な感覚を伝えられる。
たくさん撮った中の一枚の選択と、今回の配置の仕方、見せ方が篠山紀信の
見る人への挑戦なのだろうか?
 それが良くわかるのが、現在も注目される人々のブース。中央付近に展示された
森光子の肖像だ。大江健三郎や小沢一郎がたぶん20年以上前のものに対し、
森光子や松田聖子は現在の姿。どうしても間に流れる時間を考えさせる。

 篠山紀信が女性をどのように捕らえているのか、その時々の美があるけれど、あれは
残酷なほどの現実。
 現実といえば、市川海老蔵の表情。こちらの見方も反映されるけれど、彼もそう
とらえているなら恐ろしいのはレンズの向こうの人間だ。

 写真の奥深さをまざまざと見せてくれるし、見た後は人間のオーラや業に完全に
ノックアウトされてる恐ろしい展覧会だった。

 

「院展」   東京都美術館

2012年09月19日 | 美術
 都美術館が改装以来はじめての院展に行ってきた。

 都美術館に向かう中高年が多いなぁと思っていたら、着いた途端に又長蛇の列が。同じ会場で開催中の「マウリッツハイス美術館展」のフェルメールめあての行列だった。
 確かにめったに見られないのはわかるが、あんな人混みの中で何がどう見えるのか?、フェルメールなら隣の西洋美術館の「ベルリン国立美術館展」にも集まりそうなのにそちらはさほどではないのはなぜ?、「真珠の首飾りの少女」だけ?・・・ハテナマークが頭に渦巻く。
 院展会場へ入れば、フェルメールから流れてきたらしきおばさま達の「虎かわいい~私こんなのが好きよ~」と嬌声が響き、げんなり・・。

 気を取り直して、時間をおいてゆっくり見ることにする。

 今年も同人の作品はひときわ力強く、描きたいものを真正面からとらえ、繊細かつ大胆に描いていてその技法と筆力に圧倒される。
 宮廻正明「放下便是」の花の色が周囲の空気さえも染めてしまうような桜しかり、清水達三「波嵐」の海の緑、清水由朗「煙波」の細やかな泡、そしていつもと違う色合いで高貴な人の穏やかな死を描いた宮北千織「悠久の眠り」。

 今回は川瀬伊人の作品を見られず残念だったが、中堅では、狩俣公介「螺生」、武部雅子「無双の花」、思わず‘うまいっ‘といってしまった松村公太「島人」などが良かった。特に、平林貴宏「表象と消費」はこの作家特有の筆使いで、幼さと妖艶さを併せ持つ女性の妖しさを見事に描いていて印象深かった。
  
 また新たに、古谷照美「静々と」、岸本浩希「夜想曲」、村上里沙「心奥」(初入選)、金川妙美「たたずむ」、新谷有紀「誘い」(初入選)などすばらしい作家を見つけることができて、楽しみが広がった。

 院展は、その伝統のなかから日本画の新たな可能性を次々と生み出し、溢れる才能をすくいあげていく貴重な機会となっていると思う。

 現代アートが注目を浴びるように、院展のみならず日本画のすばらしさがもっと取り上げられるようになればと思う。
 

「具体」ニッポンの前衛18年の軌跡   国立新美術館

2012年08月20日 | 美術
 
 1958年吉原治良を中心に若い美術家達で結成された前衛美術家集団の「具体」
の活動の軌跡をを振り返る展覧会。
 
 吉原治良の死によりその18年という短い活動を終えてしまったが、その影響は
日本のアバンギャルドやモダンアートに強い影響を与え、単なる抽象の範疇を越え
アートとして今の商業美術を担う先駆にもなった。

 今や日本は中高年の中でもアートは人気になり、地方都市でもモニュメントなどの形で
アートは受け入れられているが、その端緒の一端を担うのが「具体」グループや堂本尚郎
高松次郎、篠原有司男等の前衛美術家達であった。

 彼らの活動は絵画にどどまらずパフォーマンスなどの幅広い領域に広まっていき、今
それらを見ても活力溢れる作品は現代に通じるものがある。

  「具体」は大阪が中心だったため、関東で行う回顧展としては初めてだそうだが、
今回充実した展示内容だったので、ぜひ多くの人に見てもらいたい。

 夏休み中でもあり、もっと子供たちにもこれらの作品に触れてもらえれば、新しい感覚が
また生まれてくるような気がして、隣のサントリー美術館で行われている「おもしろびじゅつ
ワンダーランド」展と連携するのもいいのになぁと思う。

 国立新美術館としては、未だ方向性がさだまらないなか、今回や東京近代美術館の「ジャクソン・ポロック」展のような視点の展覧会を企画開催し、公募展ばかりでなく特徴や視点が20世紀現代美術の拠点のようになれればと思う。
これからも積極的によい展覧会を開催して欲しいと思う。

  追記・その後、森美術館で「アラブ・エクスプレス」展をのぞいたのだが、
     美術やアートはその国の時代と文化を反映していることは、展示内容から
     よくわかる。
     「具体」展のあとでは、一層平和の尊さが感じられるほど、アラブの地の
     その色彩や明るさとは裏腹の重い内容だった。

「福田平八郎と日本画モダン」  山種美術館

2012年06月22日 | 美術
 広尾の山種美術館で開催中の「福田平八郎と日本画モダン」展へ。

 福田平八郎(1892-1974)は今年生誕120年。
 それを記念して、収蔵作品を中心に、ほかの作家の作品も一緒に展示することにより、
日本画が昭和20年代から30年代より西洋美術の要素を取り入れ、現在のアートにつながる
日本画となっていった変遷を垣間見ることができる興味深い展覧会であった。

 代表作《雨》《漣》はひとつの画面を切り取り平板になりがちなところを、細部を丁寧に描く
ことで、屋根瓦の一枚一枚に落ちる雨だれの雫、波に光が当たりさざめく様子などを、
風景画というより、写真(決して写実ではないのに)のように風や匂いや音までまで感じられる
ほどの空気感を表現している。このような作風は初めから取り入れていたものではなかった。

 初期の作品からは、細かい写実の描写から、目で見て観察し描くことにとてもまじめに
取り組んでいたことが感じられる。日本画の従来の技法にも忠実で、その技術も見事であるのに、
昭和11年作の《芥子花》と昭和15年作の《芥子花》とではまったく違う。前者が伝統に基づいた作風であるのに対し、後者は色彩の乗せ方だったり、具象化した線や輪郭だったり、構図のとり方が
デザインともいうべき作風に変化している。

 福田平八郎は、山下裕二明治学院大学教授の名づけた「日本画モダン」という作風を取り入れた
先駆者として、後年多くの日本画家に影響を与えた。この「日本画モダン」という言葉には少し
違和感がある。確かに大正から昭和初期に起こったモダニズムやダダのことはすくなからず
影響してるとしても、福田平八郎にとっては、日本画に忠実にとりくんでいた単なる結果でしか
なかったのだろうし、見たままを再現する過程のひとつでしかなかったのではないかと。

 近年、展覧会にいろいろな惹句をつけて、多くの来場者を呼んでいることはいいことだが、実際の
展覧会の内容を見る限り、ギャップがあることが多い気がする。美術関係者の努力により美術に
関心が集まる昨今だが、あまり饒舌すぎるキャッチフレーズには抵抗もあることをご一考いただきたく。 今回の展覧会の内容はすばらしかったので、少し残念に思う次第である。

 追記・手ごろな大きさの図録・解説はとても見やすく、大歓迎。これから増えることを期待したい。


 


「公募団体ベストセレクション 美術2012」 東京都美術館

2012年05月12日 | 美術
 4月にリニューアルした東京都美術館において、国内の主たる美術公募団体の代表作品を171点も展示した、画期的な展覧会。
 以前もこのような展覧会はあったのだろうが、かなり昔のことらしく今展覧会は、近年珍しいことらしい。

 東京都美術館は、毎秋の院展で訪れるくらいしかなかったし、秋といえば上野は各美術展でごった返し、人でいっぱい、レストランも一昔前の感じ、建物も地下展示ということもあり、なんとなく薄暗いイメージであまり良い印象ではなかった。

 今回の改装では、概観はあまり変わっていないが、入ってみると良かったことは

 1、各展示場が、明るくわかりやすくなったこと、
 2、ギャラリーと称するスペースでは西洋美術館に似た、空間を生かした展示が可能になったこと、
 3、カフェ・レストランがおしゃれになったこと、
 4、ライブラリースペースが広く取ってあり、検索や一休みに便利になったこと、
 5、出入り口が以前より公園に出やすく便利。          などがあげられる。

 どうしても公募展が多いので、区切られたスペースが多く統一感がないことは否めないが。

 肝心の展覧会だが、国内の公募団体の代表作とあって、どれも力強く、その会独自の雰囲気もつかめて面白い。ただ、会によって2011年以降の作品のためか、テーマが「命」「絆」が多く少々辟易したけれど、 知らなかった作家を知ることができた点や現代の日本美術の一端をみられて良かったと思う。
 
 今回心に残った団体・作品は、「国画会」、「創画会」久世直幸《窓》、吉川弘《Betwa River》、「水彩連盟」安達智行《道標(天啓)》など。
  
 それにしても、平日とはいえあまりに人がいないのはさびしい気がする。展示が良いだけにもったいなく、もう少し広報が足りないのではと思う。
 隣の東博の「ボストン美術館展」に比べてはいけないが、もっとアピールしてもよいのではないだろうか? まあゆっくりできて、よいけれど・・・
 


春の院展 三越日本橋店

2008年04月17日 | 美術
 おそまきながら行ってきました。
 本当に行っただけで、見る、鑑賞する(高尚な言葉)とは程遠かった。

 いつも思うのだが、三越での院展はあまりにひどすぎる。会場が変則的にまがりくねっている、照明はあかるいだけ、初入選や入選回数の少ない若手の作品は、催し物会場の境にあるし、壁という壁にただ並べているだけ。もともと美術館ではないので仕方ないけど、画家の方々は反発ないのかしら?
 三越でやる意味はいつかこのデパートの名前で売ってやるという傲慢な感じがどうも見え隠れする。いつかこの会場を離れて開催しないと、日本画のファンもおじさんおばさんばかりのあつまりになってしまって、見る側の若手が育たないと思う。

 三越ももっと配慮がほしい。(最近の絵画購買層は、30代も増えたというのに、もっと見せる側もアピールしないと)

 ともかく良くも悪くも、今回の注目は、
   同人から・・松尾敏男、 清水由朗、 宮北千織
   若手から・・川地ふじ子、佐藤美和子、武部雅子、東儀恭子、渡邊妙子

特に、渡邊妙子氏の人物は迫力があった。冬の情感がよく出ていたと思う。今後の活躍を期待したい。


「ロートレック展 パリ、美しき時代を生きて」展

2008年02月26日 | 美術
 2月15日(金) サントリー美術館

 ロートレックと彼の生きたパリの大衆文化を同時に展示した展覧会。

 生まれつき足に障害のあった彼が、絵を学び長じて魅了されたムーランルージュを中心とする華やかな世界。歌と踊りと芸人が生きた様を、鋭い目で切り取っている。
 それは単に、美しさを描くだけではない。ポスターでさえ虚構を描かず、モデルからも嫌われることもいとわない。
 反面、その人々の華やかさの影の苦悩と自分を照らし合わせたような魂のぶつかりあいが、生き生きとした人々を一層浮かび上がらせて、美しい。
 晩年は、酒と病気で自分の身を削りながら、来る暗く長い戦争の足音をちらつかせることなく、鮮やかに、この華やかで美しい時代を切り取り残していったように思う。

 それにしても宣伝TVの影響か、人が多すぎる。せっかくの展示もゆっくり見られず、隅研吾の設計を堪能しようとしても人に負ける・・・


美術検定

2008年02月13日 | 美術
 某新聞社のてこ入れで昨年から美術検定の名の下にはじまったこの検定は、実際のところ何を目的にしているんだろう。
 いまの日本は、美術、アートとしてテレビも雑誌も絵の見方を広げる教養番組、特集が大流行。
 自分の絵を見る目を高めるために、学習することはとても楽しいし、いいことだとは思うが、それを検定としてランク付けして、美術館と一般鑑賞者との橋渡し役のお墨付きを与えることが、博物館や美術館のためになることだというのか?はたまた単に、教養を誇る団塊中年世代の人を大量にふやして、財政難をなんとかするとか?
 自分の知識がどれほどかを知るためにはとても面白い企画だが、それならDSあたりでお茶を濁すくらいが丁度いいと思う。新聞までがそれをとったから、素晴らしいと宣伝するようになっては、何をかいわんや。まして一出版社の出版物を買わなくては勉強にならないなんて、何処か作為を感じてしまう。
 どなたかこの検定について、ご意見はないでしょうか?
 そういう疑問を持ちながら、私が3級受験したのは矛盾してるけど・・・

5月になりました

2007年05月01日 | 美術
しばらく書かない間に5月になりました。
4月の総評などをかいてみます。

1.春の院展 (4月7日)
  久しぶりの春の院展。ことしは小粒な作品が多買ったように思う。同人クラス でいくつか取り上げて言うとすれば、田渕俊夫氏、西田俊英氏、手塚雄二氏、小 山硬氏はさすがに大きなスケールの中に繊細な表現が 春らしく素晴らしい。
  若手の中では武部雅子氏、川瀬伊人氏、大河原典子氏を注目している。特に武 部さんの作品は最近安定したものがあり、いずれ賞をとれば国司華子氏のような 売れっ子になるかも・・・
  初入選にこれから伸びそうな方がいた。平林貴宏氏は伝統的な技法をちりばめ ながら、現代的な表現の仕方が、個性的で、題名のつけ方も面白い。これから注 目していきたいと思う。

2、ジキル&ハイド(4月20日)
  久しぶりのミュージカルで、最初は戸惑ったが、すぐにアンサンブルの素晴ら しさに圧倒された。今回で鹿賀丈史のジキハイはラストなのだが、このミュージカ ルは主演の実力もさることながら、全体のバランスが素晴らしく、作品、オーケ ストラ、キャスト、演出等すべてが一体となって出来上がった珠玉の舞台だと思 う。最初のコーラスから涙が出そうになるほどで、初演から出ている浜畑賢吉氏 の言のとおり、一番の出来ではないかと思う。感動というものとは又違うが音楽 がもつ力を魅せてくれたうれしい舞台だった。日本語キャストで是非CD化され ることを望む。  
     

新樹会

2006年06月30日 | 美術
先日、三越の新樹会見てきました。
力強い作品の多い中、今年の一押しは武部雅子氏、染谷香理氏、川瀬伊人氏、国司華子氏などでした。その年によって作品のよしあしはあるけれど、これからの活躍を期待できる方々のように思います。
芸大の方ばかりなので、他のかたがたはこれからチェックしなくちゃね。
でも久しぶりに、魂の洗濯ができました。